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第一局 今日も矢倉さんは守りが固い
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「矢倉さん。そこはそこはだめです」
僕は矢倉さんと顔を向かいに合わせて、真っ赤に顔を紅潮させる。
「ふふ。だめです。それにまだまだこんなものじゃないですよ」
矢倉さんは再び僕の急所を攻め立ててくる。もう、もうだめだ。耐えられない。
矢倉さんの長い黒髪が揺れるたびに、僕は思わず身体を震わせる。矢倉さんの一挙一動に胸がどきどきと揺らす。一つ一つの動きにびくびくと情けなく反応してしまう。
「さあ、これで終わりですね」
矢倉さんの手が僕の急所に伸びる。
ああ、もう。もうだめだ。僕は思わず息を吐き出す。
「……負けました」
矢倉さんの一手は僕の急所を完全に打ち抜いていた。
僕と矢倉さんの間にある盤上で、完全に僕の玉は詰んで動けない。何をしているかって。将棋ですよ。将棋。
「美濃くんもだいぶん強くなりましたけどね。まだまだ私には届かないかな」
矢倉さんは長い黒髪をいちどかきあげて、それから凜とした表情のまま口角を上げる。
背筋がぴんと伸びていて、いつみても格好良いと思う。美人というのは何をしても似合う。
「もう一局指しますか?」
矢倉さんがわくわくを抑えきれない感じで駒を集め始める。
「お願いします」
やられっぱなしの僕は、仕方なく盤外戦術に出る。矢倉さんの弱点はわかっているのだ。
「矢倉さんはいつも綺麗ですよね」
「え……!?」
僕の一言に矢倉さんの目が大きく見開く。突然の言葉に理解が追いついていないようだ。よし、これは効いてる。
「駒の並べ方。大橋流っていうんでしたっけ? ほんと綺麗な形でいいと思うんですよね」
矢倉さんは褒められるのに弱いのだ。なのでとにかく何でも褒める。褒めると照れまくって、少しうっかりミスが増える。
これでだいぶん顔が赤く染まっているはず。そう思って、矢倉さんの方を見上げてみる。
だけど思惑とは別に矢倉さんは大きく頬を膨らせて、僕を睨みつけている。
あ、あれ?
「もう絶対手加減しませんからね!!」
矢倉さんはなぜかはっきりと怒っていて、僕の駒を全部奪ってやるとばかりに追い詰めていく。
あれ、あれ、あれぇ? おかしいな……。
今日も矢倉さんは守りが固い。
僕は矢倉さんと顔を向かいに合わせて、真っ赤に顔を紅潮させる。
「ふふ。だめです。それにまだまだこんなものじゃないですよ」
矢倉さんは再び僕の急所を攻め立ててくる。もう、もうだめだ。耐えられない。
矢倉さんの長い黒髪が揺れるたびに、僕は思わず身体を震わせる。矢倉さんの一挙一動に胸がどきどきと揺らす。一つ一つの動きにびくびくと情けなく反応してしまう。
「さあ、これで終わりですね」
矢倉さんの手が僕の急所に伸びる。
ああ、もう。もうだめだ。僕は思わず息を吐き出す。
「……負けました」
矢倉さんの一手は僕の急所を完全に打ち抜いていた。
僕と矢倉さんの間にある盤上で、完全に僕の玉は詰んで動けない。何をしているかって。将棋ですよ。将棋。
「美濃くんもだいぶん強くなりましたけどね。まだまだ私には届かないかな」
矢倉さんは長い黒髪をいちどかきあげて、それから凜とした表情のまま口角を上げる。
背筋がぴんと伸びていて、いつみても格好良いと思う。美人というのは何をしても似合う。
「もう一局指しますか?」
矢倉さんがわくわくを抑えきれない感じで駒を集め始める。
「お願いします」
やられっぱなしの僕は、仕方なく盤外戦術に出る。矢倉さんの弱点はわかっているのだ。
「矢倉さんはいつも綺麗ですよね」
「え……!?」
僕の一言に矢倉さんの目が大きく見開く。突然の言葉に理解が追いついていないようだ。よし、これは効いてる。
「駒の並べ方。大橋流っていうんでしたっけ? ほんと綺麗な形でいいと思うんですよね」
矢倉さんは褒められるのに弱いのだ。なのでとにかく何でも褒める。褒めると照れまくって、少しうっかりミスが増える。
これでだいぶん顔が赤く染まっているはず。そう思って、矢倉さんの方を見上げてみる。
だけど思惑とは別に矢倉さんは大きく頬を膨らせて、僕を睨みつけている。
あ、あれ?
「もう絶対手加減しませんからね!!」
矢倉さんはなぜかはっきりと怒っていて、僕の駒を全部奪ってやるとばかりに追い詰めていく。
あれ、あれ、あれぇ? おかしいな……。
今日も矢倉さんは守りが固い。
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