この恋、腐れ縁でした。

氷室ユリ

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第一章 幸せのシンボルが呼び寄せたもの

5.誘拐事件(1)

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 新堂さんの大暴露から数日が過ぎた。
 あんな弱気な姿を見せたのだから、少しは変化が現れるのではと思ったが、相変わらずの威圧感で私を屈服(!)させ続けている。


「それじゃ、仕事に行ってくる。なるべく外出は控えるように」
「はぁ~い。行ってらっしゃい」
「ああそれと、リングは当分外しておけ。着けてなくてもお守りの効果はある」
「何で着けちゃダメなの?」

「俺が気に入らないからだ。それでいいか?」
「何よ、その投げやりな言い方!」
 私が少しだけ声を荒げると、彼が打ち明けた。「……実は神崎社長に言われたんだ」
「っ!何を?!」やっぱり話、したんじゃない!もしかしてバレた……?
 ドキドキしながら彼が口を開くのを待つ。

「自分の目で選んで、おまえに似合う品をきちんと贈れと」
「それだけ?……他には?」
「それだけだが。何か他に心当たりでもあるのか?」
「ないけど!」
 この人は前からこんなに鋭かっただろうか?また動悸が始まりそうだ!

「ユイは昔からあまり宝飾品の類を身に着けてなかったろ。だから、ずっと興味がないと思っていたんだ」
「動き回るのに邪魔だから着けてなかっただけよ」
 私にだって興味はある。愛する人から贈られるものならば特にだ。
「ほら、いつもここには何かしら着いてたと思うけど?小振りだから気が付かなかっただけじゃない?」耳たぶを触りながら言ってみる。

 ピアスの穴は高校を出てすぐに開けた。初めは嬉しくてゆらゆら揺れるタイプを着けたりもしていたが、お洒落には縁遠い私。さらにはアクロバットな動きに(!)かなり支障があり、いつしか塞がってしまうのを避けるという理由だけで、小さな物を着けるようになった。

「新堂さんこそ、そういうの……女性へのプレゼントとか、どうなの?」
 考えてみれば、私はこの人から花束以外貰った事がない。
「どうと言われても答えようがない」
「はぐらかさないでよ。あげた事あるのかって聞いてるの!」
 こういう質問への答えは当然……。「俺の過去が、今の話とどう関係するんだ?」とこう来るのは想定内。
「あ~!いい、いい。いいから早くお仕事行って来て!じゃあね!」

 彼の背中を押して玄関から押し出す。わざとらしい笑顔を向けてドアを閉めた。
 扉にもたれてため息をつく。
「んもう……。別に、関係なんてないわよっ」

 神崎さんは秘密を守ってくれたのか?それでもせめて、狙われているリングを私に着けさせないように、新堂さんにあんな説教じみた事を言ったとか。
 今は、そういう事にしておこう。


 その日の午後、珍しく私の携帯電話が鳴った。相手はこれまた久しぶりの相手だった。

「はい、朝霧ですが。貴島さん?」
『朝霧か!良かった、掴まって。今日時間あるか?』
「ええ、大丈夫だけど。久しぶりじゃない。何か慌ててるみたいだけどどうかした?」
 貴島さんの声に落ち着きがなかった。
 それは昔、私が自殺を装って立て籠もった自宅マンションに駆け込んできた時のように。この人は義理人情に厚い男だ。

 出会いのきっかけは新堂さんからの依頼だ。あれはちょっとした謎解きだった。その元凶が貴島総一郎だったという訳。貴島さんは医師免許を持った正規の医者で、養子のまなみという娘が一人いる。この子がまた一筋縄では行かない曲者なのだ!

『なあ。昔言ってたよな、依頼、ただで引き受けてくれるって。あれ、まだ有効か?』

 貴島さんと出会ってすぐの頃、新堂さんが大ケガを負った。あの新堂和矢が、自分と同等の腕だと絶賛した貴島総一郎だ。助けられるのはこの人しかいないと、私はすぐさま依頼。そして新堂さんは無事に生還した。
 その時に私は、お礼にとそんな申し出をしていた。

「もちろんよ。暗殺、誘拐、拉致監禁、何でもどうぞ!って……まさかあなたまで狙われてるとか言わないわよね?」
『まで、って……朝霧、お前!狙われてるのか?』
「ないわよ!私じゃない。今はそれは置いといて。依頼内容を聞かせて」

『あ、ああ……。まなみが学校から消えた!教師共は俺に呼び出されたって言うが、そんなのウソだ、俺は知らない!犯人には心当たりがある。一緒に探してくれないか』
「誘拐って事ね。分かった。これからそっちに行くわ。今家でしょ?」
『ああ。先に心当たり探してみるよ』
「無闇に動かないで!電話で確認程度にして。とにかく私が行くまで待ってて」

 連れ去るなら登下校時を狙うはず。わざわざ嘘の呼び出しをしてまで学校から連れ去るなど、何か裏がありそうだ。
 貴島さんに指示を出して電話を切り、急いで家を飛び出した。

「ああ……しまった、足がない!」
 外に出て気づく。この家に車は一台しかない。その一台はもちろん新堂さんが乗って行った。
「行先は千葉。こうなったら最短ルートで行くか」


 私はある目的のため、すぐさま朝霧邸に向かう事にした。実家が同じ県内にあって良かった。大通りに出て急いでタクシーを拾い乗り込む。

「フジタさん、元気かな。まだ現役だよね……」
 タクシーの車窓から流れる街並みを眺めながら、懐かしい顔を思い浮かべる。父義男の友人であり狩猟仲間であり、そして朝霧家のヘリパイロット。父が亡くなった後に一度ヘリを借りに行った時も、昔の陽気な人柄は健在だった。

 最速で貴島さんの所に行くなら、ヘリコプターが一番だ。何を隠そうこの私、かなりの操縦技術を持っている。免許を取得していないため、おおっぴらにはできないが。


 家に着いてみると、いつも表に出ているヘリがない。シャッターは閉じられフジタさんの姿は見当たらなかった。

「おい、誰だお前?敷地に勝手に入るな」
「あなたこそ誰よ?私の事知らないなんて!」
 ヘリの格納庫の前で立ち竦んでいた時、後ろから声をかけて来たこの男には、私も覚えがない。家を出て久しい亡き先代の娘の顔など、知らなくても不思議はないか。
 ちなみに我が実家は、俗にヤクザと呼ばれる類の仕事をしている。

 コワモテ男に臆する事なく問いかける。「フジタさんはどこ?」
「フジタ?そんな奴はここにはいないが。それよりお前は誰だと聞いてるんだ!」
「はぁ~……。もういいや、あなたに聞いても埒が明かない!」

 携帯電話を取り出し、神崎さんに電話をかけると幸いすぐに掴まった。
「もしもし、ユイです」
『おおユイか。どうした?』
「突然ごめんなさい、今ヘリを借りたくて実家にいるんだけど。パイロットのフジタさん知ってるでしょ?」
『ああ、彼なら辞めたよ』

「ええっ!いつ?何で!まさか神崎さんが追い出したんじゃないよね?」
『追い出す訳ないだろ、貴重なパイロットを!もう年だからって、自分から辞めたんだ。二年くらい前だったか』
「残念……会いたかったのに。で、今は誰が管理してるの?」
『実は代わりのパイロットが見つからなくてな。宝の持ち腐れ状態さ』
「そんな!燃料も……入ってないの?」

 予想外の展開だ。他に借りられる所は……そう考え始めたが、私は運がいい!

『震災の影響で車のガソリンも手に入りにくい状況だ。いざとなったらそいつで移動しようと、燃料はストックしてある。メンテも欠かしてないよ』
「さっすが神崎さん!それでこそ私の兄だわ!早速だけど貸してくれない?」
『それは構わんが、今言ったようにパイロットがいないんだ』
「問題ない。私が飛ばすから。その事、ここの人に伝えてくれない?私が誰か分かってなくて」

 状況を伝えると、神崎さんは私との電話を切ってすぐに連絡を入れてくれたらしく、目の前の男の携帯が鳴り出した。
「っ!申し訳ありませんでしたっ!はい、今すぐに、ボス!」
「どうやら、ようやくご理解いただけたみたいね」

 こうして無事にヘリを拝借して、目的地へと向かった。
 体が不自由になってから初めての飛行だったが、別段問題はなく安心した。もっともこういう事は、乗る前に主治医の意見を聞いておくべきなのだが?
 間違いなく即却下(!)が分かっているだけに、言い出す訳には行かない。


 轟音と砂煙を立てて貴島邸の庭にヘリを着陸させると、驚いた様子で貴島さんが姿を現した。

「朝霧?!ヘリコプターとは……驚いたぜ」確か前にもこんな事あったな、と続ける。
 それは新堂さんが事故に遭ってここに運んだ時だ。いつだって緊急事態に活躍するこのヘリ。是非とも自宅に一機常備したいところ?
「ごめん、ちょっと手間取って遅れた」
「それでも断然、思ってたより早いから安心しろ」
「そう?なら良かった」

 改めてヘリを見やり、腰に手を当てて貴島さんが大きなため息をついた。
「こう度肝抜かれちゃ敵わんね……!お陰で、少し気分が落ち着いたよ」
「え?私まだ何もしてないけど」
 貴島さんは疲労感を漂わせつつも、少しだけ笑みを見せた。別にこうなる事を狙ってヘリで来た訳ではないのだが、結果オーライか。

 早速詳しい話を聞き出しにかかる。

「俺はきっとどうかしてたんだ!」
「何も新堂さんの真似して、危ない依頼ばっかり受けなくてもいいじゃない?」
「別に真似なんてしてないさ。とにかく金が要りようなんだよ、子育ては!」

 まなみへの異様なまでの愛情ゆえに、惜しみなく注がれる資金。
 支出が増える一方で、開業したものの思うように収入に繋がらず、困り果てた末に手を出したのが……。

「暴力団とは言ってもだな、下っ端同士のケンカとかだったんだ。そのケガ人を診たり、まあ時には銃創患者もいたが。お抱えドクターみたいなもんさ」
「何にせよ、そういう連中に関わるとロクな事にならないって分かってるでしょ?」
「ああ!クソッ、急いでまなみを見つけないと……もう手遅れかもしれん……」
 何でもボスの息子が臓器移植しないと助からない病気で、ドナーを必死で探しているとの事。

「子供の臓器提供者はそうそう現れない。娘の話などしなきゃ良かった!」
「まなみちゃん、今小学生だっけ」
「ああ。五年だ。たまたまその息子と同年代なんだ」
「だからってお抱えドクターの娘を狙うっていうのは、あまりに短絡的じゃない?」
 いくら暴力団とはいえ、そこまで血も涙もないものか。

「初めは違ったんだ。闇ルートから探して来いと言われて、断った」
「何でそこで断るのよっ!」新堂さんならば容易に見つけて来そうだが?
「さっき言った事忘れたか?大人ならまだしも、そう簡単に見つからないんだよ!つまり、どこぞの健康な子供を犠牲にしろって意味だぞ。できる訳ないだろうが!」

 なまじ正論なだけに返す言葉がない。それと同時に、この人は裏の世界ではやっていけないと改めて思った。

「手配、すればいいんでしょ?その臓器を。早くその親玉に連絡して!まなみに手を出すなって伝えるのよ」
「聞き入れる訳ない!それに、どうやってドナーを見つけるんだ」
「それは色々と考えてる。もしかしたらまだ、まなみちゃんを手に掛ける気はないかもよ?あなたを試しているのかも」
「俺を、試すだと?」

「学校から連れ去るなんて、大胆よね」わざわざ見せつけるように連れ出す理由は?秘密裏に進めたいならば取らない手段だ。
「追い詰められれば、俺が引き受けると?」
「優秀なドクターをそうそう手放したりしない。特にケガ人が尽きない場所では重宝されるものよ」

 貴島さんが電話を取り、おもむろにどこかへかけ始めた。

「……もしもし。まなみを返してくれ!」
『これは貴島先生。何の事です?それより息子の移植の件、まだ心変わりはしませんか!』
「やっぱり俺を試してたのか」
『試すだなんて恐れ多い!私はただ息子を助けていただきたいだけですよ』
「どこに連れ去ったのか言え!話はそれからだ!」

『本当に知らないんですよ。もう我々の元にはおりません』
「もう、いないだと?どういう事だ!」
『なかなか手の焼ける娘さんですね!……大人しくしていればいいものを』
「おい!何かしたのか!」

 相手は最後に、本当に手を出す気はなかったと断り、話は終わった。

「一体どうなってる?まなみは!……ああ、俺はもう終わりだっ」
「貴島さん!まだ何も終わってない、諦めないで!まなみちゃんは携帯電話持ってないの?」
「持ってるよ。学校は持ち込み禁止なんだが内緒で持たせてる。迷子になったら困るから、GPS機能付きのな」

「それ早く言ってよ!その過保護さが役に立ったじゃない。で?」
「何度もかけた!電波が入らない場所にいるらしく繋がらないんだ、意味ないだろ!」

 電波が入らないという事は、山の中か海上か地下。この辺りならば恐らく山か。

「電波が入る所まで、自力で移動してくれればいいんだけど」
「さっきの言い分からして、奴ら、まなみにケガを負わせたんじゃないか?!」
「居所さえ分かれば、すぐにでも行けるのに」こちらには今ヘリが待機中だ。
「とにかく行こう!じっとなんてしてられない」
 血気盛んに言い放ち、立ち上がる貴島さんを見上げて言う。「行くってどこへよ」

 途端にガックリと肩を落とす貴島さんだが、手元の携帯がバイブし始めた。
「おおっ!まなみだ!」
「ホントに?!」
「もしもし!まなみか!今どこだ、無事か?!」
 必死で問いかけるも、雑音がしてまなみの声が良く聞こえない。

「もしもし!おい、聞こえるか!……ダメだ、電波が弱いみたいだ」
「でもGPSの信号は受信できるんじゃない?」
 携帯の画面を切り替えて地図を表示させる。そこに赤の点滅があった。
「これだ!」
「行くわよ!」

 私達は同時に家を飛び出した。


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