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第二章 いつの間にか育まれていたもの
ワルの遺伝子(2)
しおりを挟むそれから私達は、近所の喫茶店に移って軽い食事を摂った。
店を出たところで探りを入れてみる。
「ねえ新堂さん?もう遅いし……今晩は泊まってってくれるんでしょ?」
いい感じに酔いが回っていたからこそ聞けたのだ。
対する新堂さんは、いつもと変わらない調子で答える。
「ああ。不眠の状況も確認したいしね」
この人だって相当飲んでいるはずなのに、この余裕の態度が気に入らない!いつか酔い潰してみたいものだ。
こんな不満を持ちながらも心は高揚する。今夜は新堂さんといられる!
彼と腕を組んでマンションへと歩く。まるで恋人同士のような雰囲気!と言いたいところだが、私が一方的に絡み付いているだけだ。
拒絶されないのは、私を酔っ払いと思っての事だろう。
「そうそう、不眠の薬!出してくれるでしょ?市販のじゃ全然効かないのよ」浮かれる自分を抑えて本題に入る。
「出すかどうかは、症状を確認してから判断する」
こんな事を言う彼の態度が、またしても気に入らない。
「ヤダ!私が嘘を言ってるとでも思ってる?」
「そうじゃないよ」
「でも今夜は、医者としてじゃなくて……男性として一緒にいてほしいな」私にしては大胆な発言だったか。
彼が驚いて見てくるので、急に恥かしくなった。
「珍しいな、ユイからそんな要望がくるとは!間違いなく飲み過ぎだな」
「あら、誤解しないで?診察はなしって意味よ!」慌てて誤魔化す。
だって今日だけは……大嫌いな医者と過ごすなんて真っ平だ。
部屋に着き、ソファに落ち着いた私達は隣り合って会話を続ける。
「今日はユイの誕生日だしな。診察をなしにはできないが……。よし、では添い寝してやろう。案外眠れるかもな!」
「添い寝って……子供扱いしないでよ!」
こんな彼の言葉はジョークかもしれなかったのに、真面目に反論してしまった。
「……それだけ?」
「眠れなければ、ちゃんと薬も出してやるよ」と彼が付け加える。
沈黙を続ける私に、「不満か?」と平然と言い返してくる。
「あなたはそれだけで、いいの?本当に……」
やっぱり私は恋愛対象外なのか……。少しでも期待した自分が嫌になった。
待て待て。自分は何を期待していたのか?!
一人頭に血が上っているところへ、今度は優しく微笑んで彼が言う。
「ユイが安眠してくれれば、それでいい」
こんな表情を見せてくれるようになったのは、私を受け入れてくれたからに他ならない。何にせよ、前より断然私の事を大事にしてくれていると勝手に思っている。
なぜなら、身も凍えるような出会った頃の新堂和矢ではないから。
それだけで満足だ。そう自分に言い聞かせる。
沈んだ空気に気づいたのか、彼が別の話題を取り上げた。
「知ってるか?眠りには、遺伝子が関わっているんだぞ」
「眠りの、遺伝子?」
「そうだ。生き物には、生活のリズムを作る生物時計というのがあってな。人以外の動物も、同じ遺伝子を使って眠るらしい」
「ふ~ん。じゃあ、その遺伝子に異常が起きて、不眠になったって?」
「そういう事になるな」
「なら先生、その遺伝子を治して!」
「無茶言うな。今の医学では不可能だ。それにその辺の領域はすでに、医学ではなく生物物理学だな」
「何よ。治せる自信があるからそんな話を振ったんじゃないの?」
「残念ながら専門外でね」
「何なのよ!難解な話すぎて疲れてきた……もう寝ようかな」
今は小難しい事を考えたくない。せっかく新堂さんと過ごせる夜なのだから。
「そうそう。寝る前に考え事は良くない」
当然のように言う彼に、「自分から難しい話題を持ち出したくせに?」と反論。
眠りの遺伝子か……。
だとしたらこの遺伝子達が危ない!なぜなら、私の中には手に負えないワルの遺伝子が(!)うじゃうじゃいる。ワルの遺伝子を排除せよ!
ベッドに入って、しばらくこんなおかしな妄想を続ける。その妄想は段々とエスカレートして……。
結局、彼の言った通りとなった。
私はあっという間に、新堂さんの腕の中で寝息を立てていたようだ。何日かぶりに、ぐっすりと眠る事ができたのだった。
こんな具合にこの一年、新堂さんとの距離が順調に近づいてきたと思っていたら、またもや離れ離れになってしまった。
長期に渡って海外に滞在する事になったと連絡が入ったのだ。
こんな日がそのうちやってくる事は覚悟していたものの、予想以上にがっかりした自分に驚いた。
「あの人に会えないからって、それが何?変よ、ユイ!」
慌てて一人声を上げるのだった。
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