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第一章 大嫌いな人を守る理由
偶然という必然(3)
しおりを挟む新堂が私の携帯に連絡をしてきたのは、二ヵ月後のクリスマスだった。
あえてクリスマスに会う約束なんて、偶然なのか狙ったのかは全くもって不明だ。
「こんばんは」
「いらっしゃい。時間ぴったりね」
彼は約束の時間きっかりにやって来た。
本当に時間を守る人で、いつも徹底している。通学の送迎をしてもらっていた時も、大抵時間に遅れて現れる私に相当不満そうだった。遅いぞ!と究極に不機嫌な顔で言われた日々が懐かしい。
こんな遅刻魔の私は、この人とは絶対に付き合えない気がする。
新堂は生真面目で几帳面な性格のよう。対する自分は真逆か。同じ血液型のはずなのに、こうも違うのはなぜだろう?
これで血液型占いは当てにならない事が証明された。
「プレゼント・フォー・ユー」
流暢な発音でそう言うと、後ろに隠し持っていた豪勢な花束を差し出す。それも深紅のバラの花束を!
「すっご~い……。どうしたの、これ」私は驚いて、ただただそれを見つめた。
「受け取ってくれないのか?」手を出さない私に彼が言う。
「これ、私に?」
「他にここに、誰かいるか」
「そう、よね……。せっかくだからもらっとく。ありがと」
この人に花をもらうのは、卒業式以来二度目だ。それにしても真っ赤なバラなんて?どういうつもりなのか。
彼を部屋に入れ、リビングのソファーに案内する。
「ねえ、先生。ワインでもいかが?」冷蔵庫を開けて見せる。
中身を占めているのはほぼワイン。大人への第一歩は何と言ってもアルコールだ!
この行為には大した意味はないが、少しでも早く大人になりたいという願望が強すぎて、いつしかこうなった。
新堂が驚いた様子で冷蔵庫を眺めている。
「いただきたいが……、車なんだ」
「今夜はここに泊まれば?ベッド、二つあるし。今日はもうお仕事ないんでしょ」
意味深な誘いだが、私としては全く下心はない。
案の定新堂もそれほど気にしていないらしく、こんな質問をしてくる。
「なぜ二つあるんだ?」
「変に思わないでよね、二つとも私のよ。少し前に、スウェーデン製のとてもいいウォーターベッドを見つけてね。極上の寝心地よ」
そんな高価なシロモノを、思わず衝動買いしてしまった。そんな資金が今では余裕にある。これだから闇の家業はやめられない!
「それは是非試してみたいね」
予想外にも彼が乗って来たので嬉しくなる。「でしょ!」
「どうせなら一緒に寝るか」
この言葉には思考が固まった。本気のはずがないが、こんな冗談を言える人だったか?
その表情からは真偽が全く読み取れない。
「困ったな、冗談、だったんだが……」妙な空気の中、ポツリと呟いた新堂。
……バカ!ドギマギしてしまった自分が恥かしくて、気の利いた返答が浮かばない。
「それじゃワイン、いただこうかな」新堂がいつもよりも陽気な声で続ける。
なかなか返事を返さない私を見て、「どうかしたか?」と不思議そうだ。
「いっ、いいえ。喜んで!」気を取り直して、笑顔でそう答えた。
ワイングラスを二つ出してリビングへ運び、並べてそれぞれへ注ぐ。
「そう言えば……おまえ、いくつだっけ?」
忘れていていいものを探りを入れてくる。私が二十歳を迎えるのは二ヵ月後だ。
「イヤだわ、もう成人よ。もう、すぐ……?」
彼が疑わしげにこちらを見ている。
私はにっこり笑いながら、自分で注いだワインを一気に飲み干して見せた。
それからしばらく主治医の経過観察が始まった訳だが、飲酒後の私に何の変化も見られなかったため、問題なしと判断された模様。
「ま、いいか。美味いじゃないか、このワイン!」ようやく彼が飲み始めた。
「本当?良かった!ラベルの好みだけで選んだんだ」
「おいおい……」
十九歳のユイさんに、ワインの良し悪しなんて分かる訳がないじゃない?
「ところで新堂先生。どうして真っ赤なバラなんて選んだの?」
空き瓶に生けた、今飲んでいるワインのように真っ赤なバラに顔を向けて尋ねる。
普通、こういうのは恋人に贈るものだ。
もしかしてこの人は私の事を……?!
「ちょうどクリスマスだろ。だからな」意味不明の答えが返ってくる。
「は?何それ」この人はクリスマスを何だと思っているのだろう。
それ以上、答えは返って来なかった。
私はバラを見つめながら別の質問をしてみる。
「ねえ先生?深紅のバラの花言葉、知ってる?」
「いいや」
これは想定内の答えだったのだが、次に彼はこんな事を言った。
「私は誰とも恋愛をするつもりはない。この先もずっとな」
「え、何で……?」ちぐはぐすぎる答えに戸惑うばかり。
「女の裏切りはもうたくさんだ。そんなくだらない事には関わりたくない」
「裏切られたの?女に」
面白そうな展開となって身を乗り出すも、あちらは何だか気が立っている様子。
問い返してもそれ以上の答えはない。残念だったが追及を諦めた。
「ああそうですか!何があったか知らないけど、そんな事言われなくてもね、私だって……」あなたなんかと恋愛なんてゴメンよ!と続けたかったのだが……。
「始めに言っておくよ。おかしな期待をされても困るからな」
先を越されてしまった。
真っ赤なバラをプレゼントしておきながら、何という言い草?冗談じゃない。こっちから願い下げだ!何て失礼なオトコ!
「そうやってね、あなたの言動は矛盾しすぎてるの!そもそもよ?その整いすぎてる顔が悪い!」
酒の勢いもあって、溜まっていた鬱憤やら文句を洗いざらいぶちまけたのだった。
いつものように、全く相手にされていなかったけれど……。
そして翌朝。新堂は早くに部屋を出て行った。さすがは超ご多忙の有能外科医、朝から超難関のオペがあるらしい。
昨夜に一体何本ワインを空けたのか。冷蔵庫の残りの本数を見て驚いた。
「これだけ飲んでも翌朝ケロリとしてるあの人って、かなりの酒豪!」
自分の事を棚に上げて、こんな事を呟いた。
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