10 / 14
インドで見る夢は
しおりを挟む 海外旅行をしていて不思議に思うことがある。それは率直にいって、なぜそこで見る夢もその国が舞台になっていないのだということだ。要は、なぜインドで見る夢にインドが出てこないのだということだ。
そんなの当たり前だろうと言われるかもしれない。そう言いたい気持ちもわかる。うん、当たり前だ。ぼくの頭の中の記憶はほぼすべて日本での記憶だし、それを材料として作られる(とされる)夢は日本の夢がほとんどだろう。登場人物もぼくの知っている人ばかりだ。テレビで見た知らない国や人が出てくることもあるだろうが、それはあくまで嘘の記憶だ。
理屈はわかるのだが、それがぼくには不満なのだ。せっかくインドを旅しているのに、そこでいったん寝てしまえば、ぼくは日本にいるのとなんら変わりはないのである。こんな夢なら日本でも見られるじゃないかと、起きてから思う毎日だった。
例えばこんな夢だ。
ぼくは日頃から都々逸を作るという趣味を持っている(現実世界ではそんな趣味はない。今まで二つほど作ったことはあるが)。そんな粋な趣味を発表しようという欲が出てきたぼくは、あるコンテストに応募することにした。受賞作品はそれを石に彫られて、町中のあらゆる場所に石碑として建つのだというではないか。その町は都々逸で町おこしをしているのだ(そんな町、本当にあるのだろうか?)。自信作を応募したぼくは、見事ある賞を受賞した(受賞作品もそのときは覚えていたが、目が覚めたら忘れていた)。ぼくは自転車に乗って、自分の作品が彫られた石碑を探すことにした。街で配られていた都々逸マップを片手に小一時間巡った末、ぼくはある駅のホームに辿りついた。さて、自分の作品がどのように仕上がっているだろうと見上げると、そこに彫られていたのはぼくの作品と似ているけれど少し違う、別の作品になっているではないか! しかも作者は全然知らない人の名だ。「盗作だ!」という声とともに目が覚めた。
なぜインドに来てまで都々逸の、しかもそれを盗作されるという気分の悪い夢を見なければならないのか。日本風情丸出しではないか。ぼくはせっかくインドに来たのだから、インド映画に出演するとか、サイババに会うとか、ガンジス川に流されるとか、そういうインドっぽい夢を見たかった。日本食だって別に恋しくないし、夢でそれを補おうという気もない。食べ物も住まいも着るものも夢も、みんなインドで染めてほしかったのに。
まあ、そんなにうまくはいかないだろう。それはわかっているから、今日もまたカレーを食べるのだった。
そんなの当たり前だろうと言われるかもしれない。そう言いたい気持ちもわかる。うん、当たり前だ。ぼくの頭の中の記憶はほぼすべて日本での記憶だし、それを材料として作られる(とされる)夢は日本の夢がほとんどだろう。登場人物もぼくの知っている人ばかりだ。テレビで見た知らない国や人が出てくることもあるだろうが、それはあくまで嘘の記憶だ。
理屈はわかるのだが、それがぼくには不満なのだ。せっかくインドを旅しているのに、そこでいったん寝てしまえば、ぼくは日本にいるのとなんら変わりはないのである。こんな夢なら日本でも見られるじゃないかと、起きてから思う毎日だった。
例えばこんな夢だ。
ぼくは日頃から都々逸を作るという趣味を持っている(現実世界ではそんな趣味はない。今まで二つほど作ったことはあるが)。そんな粋な趣味を発表しようという欲が出てきたぼくは、あるコンテストに応募することにした。受賞作品はそれを石に彫られて、町中のあらゆる場所に石碑として建つのだというではないか。その町は都々逸で町おこしをしているのだ(そんな町、本当にあるのだろうか?)。自信作を応募したぼくは、見事ある賞を受賞した(受賞作品もそのときは覚えていたが、目が覚めたら忘れていた)。ぼくは自転車に乗って、自分の作品が彫られた石碑を探すことにした。街で配られていた都々逸マップを片手に小一時間巡った末、ぼくはある駅のホームに辿りついた。さて、自分の作品がどのように仕上がっているだろうと見上げると、そこに彫られていたのはぼくの作品と似ているけれど少し違う、別の作品になっているではないか! しかも作者は全然知らない人の名だ。「盗作だ!」という声とともに目が覚めた。
なぜインドに来てまで都々逸の、しかもそれを盗作されるという気分の悪い夢を見なければならないのか。日本風情丸出しではないか。ぼくはせっかくインドに来たのだから、インド映画に出演するとか、サイババに会うとか、ガンジス川に流されるとか、そういうインドっぽい夢を見たかった。日本食だって別に恋しくないし、夢でそれを補おうという気もない。食べ物も住まいも着るものも夢も、みんなインドで染めてほしかったのに。
まあ、そんなにうまくはいかないだろう。それはわかっているから、今日もまたカレーを食べるのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる