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インドで見る夢は

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 海外旅行をしていて不思議に思うことがある。それは率直にいって、なぜそこで見る夢もその国が舞台になっていないのだということだ。要は、なぜインドで見る夢にインドが出てこないのだということだ。
 そんなの当たり前だろうと言われるかもしれない。そう言いたい気持ちもわかる。うん、当たり前だ。ぼくの頭の中の記憶はほぼすべて日本での記憶だし、それを材料として作られる(とされる)夢は日本の夢がほとんどだろう。登場人物もぼくの知っている人ばかりだ。テレビで見た知らない国や人が出てくることもあるだろうが、それはあくまで嘘の記憶だ。
 理屈はわかるのだが、それがぼくには不満なのだ。せっかくインドを旅しているのに、そこでいったん寝てしまえば、ぼくは日本にいるのとなんら変わりはないのである。こんな夢なら日本でも見られるじゃないかと、起きてから思う毎日だった。
 例えばこんな夢だ。
 ぼくは日頃から都々逸を作るという趣味を持っている(現実世界ではそんな趣味はない。今まで二つほど作ったことはあるが)。そんな粋な趣味を発表しようという欲が出てきたぼくは、あるコンテストに応募することにした。受賞作品はそれを石に彫られて、町中のあらゆる場所に石碑として建つのだというではないか。その町は都々逸で町おこしをしているのだ(そんな町、本当にあるのだろうか?)。自信作を応募したぼくは、見事ある賞を受賞した(受賞作品もそのときは覚えていたが、目が覚めたら忘れていた)。ぼくは自転車に乗って、自分の作品が彫られた石碑を探すことにした。街で配られていた都々逸マップを片手に小一時間巡った末、ぼくはある駅のホームに辿りついた。さて、自分の作品がどのように仕上がっているだろうと見上げると、そこに彫られていたのはぼくの作品と似ているけれど少し違う、別の作品になっているではないか! しかも作者は全然知らない人の名だ。「盗作だ!」という声とともに目が覚めた。
 なぜインドに来てまで都々逸の、しかもそれを盗作されるという気分の悪い夢を見なければならないのか。日本風情丸出しではないか。ぼくはせっかくインドに来たのだから、インド映画に出演するとか、サイババに会うとか、ガンジス川に流されるとか、そういうインドっぽい夢を見たかった。日本食だって別に恋しくないし、夢でそれを補おうという気もない。食べ物も住まいも着るものも夢も、みんなインドで染めてほしかったのに。
 まあ、そんなにうまくはいかないだろう。それはわかっているから、今日もまたカレーを食べるのだった。
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