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一ミリの地球
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人が「一メートル」という単位を作ったときに、赤道から北極までの長さを一千万分の一して一メートルとしたわけだから、地球一周の長さは四千万メートルというわけになる。それを円周率三・一四で割れば地球の直径が出てくるわけで、いま電卓で計算したところ、だいたい一二七〇万メートルと出た。
ということは、地球の一千万分の一の立体模型を作ろうとしたら、その直径はだいたい一・二七メートルになるわけだ。きちんと丁寧に作れば、両手を広げたくらいの大きさの地球の模型ができ上がる。
このとき、地球上で最も高い山エベレストはどれくらいの高さになるだろう。エベレストは八八四八メートルだから、だいたい九千メートルとして、それを一千万分の一すると〇・九ミリとなる。
〇・九ミリ。
つまり、直径約一メートル以上の(けっこう大きいと思うのだが)地球模型を作っても、世界で最も高い山は一ミリにも満たないことになる。これくらい誤差の範囲ではないか。ちなみにマリアナ海溝の最深部でも約一万メートル。この地球模型でいうと、これまた約一ミリだ。『星の王子さま』の挿絵にあるような、星の直径に対してあんなにも高い山など地球にはないのだ。
しかしその山に人々は憧れ、畏怖し、信仰し、それゆえに多くのロマンが生まれ、多くの命が失われてきた。人類二十万年の歴史で、初めてその頂点にヒラリー、テンジンが到達したのはたった六十年前のことだ。
たった一ミリの突起に人類は一九万九九四〇年要したのである。
逆に言えば、人類のすべての歴史は、たった一ミリの世界に過ぎず、そこにそのすべてが凝縮されているのだ。たった一ミリの厚さに、人々の悲喜こもごもが漂っており、同時に、人々の悲喜こもごもは、たった一ミリの厚さしかない。
九キロ歩けと言われたら、健康な人であればものの一時間ほどでできるだろうが、九キロの山となると、屈強な男たちでもその登頂に何ヶ月もかかるというのは、当たり前のような不思議な話だ。
先ほどもいったが、人類の歴史を二〇万年として、エベレスト登頂を六十年前としたら、二十万年を一年とすると六十年は……?
などということを、高度一万メートルを飛ぶ飛行機の中で考えていた。人間は可愛いものである。
いや、別にエベレストの話をしたいわけではない。なにを小さなことでくよくよしているんだい、もっとデッカく生きようよ! というわけでもない。
とにかくぼくは今、デリーへと向かう飛行機の中にいるのだ。
そんなことを考えているとき、もう既に旅は始まっている。たった一ミリの世界に住むわれわれは、その中でまだ見ぬ驚きや発見を体感することに、こんなにもわくわくするのだ。たったそれだけの世の中と知りながら、なぜかそれが愛おしく、どうしても譲れない、尊いものに思えるのだ。
旅は、こうして始まった。
ということは、地球の一千万分の一の立体模型を作ろうとしたら、その直径はだいたい一・二七メートルになるわけだ。きちんと丁寧に作れば、両手を広げたくらいの大きさの地球の模型ができ上がる。
このとき、地球上で最も高い山エベレストはどれくらいの高さになるだろう。エベレストは八八四八メートルだから、だいたい九千メートルとして、それを一千万分の一すると〇・九ミリとなる。
〇・九ミリ。
つまり、直径約一メートル以上の(けっこう大きいと思うのだが)地球模型を作っても、世界で最も高い山は一ミリにも満たないことになる。これくらい誤差の範囲ではないか。ちなみにマリアナ海溝の最深部でも約一万メートル。この地球模型でいうと、これまた約一ミリだ。『星の王子さま』の挿絵にあるような、星の直径に対してあんなにも高い山など地球にはないのだ。
しかしその山に人々は憧れ、畏怖し、信仰し、それゆえに多くのロマンが生まれ、多くの命が失われてきた。人類二十万年の歴史で、初めてその頂点にヒラリー、テンジンが到達したのはたった六十年前のことだ。
たった一ミリの突起に人類は一九万九九四〇年要したのである。
逆に言えば、人類のすべての歴史は、たった一ミリの世界に過ぎず、そこにそのすべてが凝縮されているのだ。たった一ミリの厚さに、人々の悲喜こもごもが漂っており、同時に、人々の悲喜こもごもは、たった一ミリの厚さしかない。
九キロ歩けと言われたら、健康な人であればものの一時間ほどでできるだろうが、九キロの山となると、屈強な男たちでもその登頂に何ヶ月もかかるというのは、当たり前のような不思議な話だ。
先ほどもいったが、人類の歴史を二〇万年として、エベレスト登頂を六十年前としたら、二十万年を一年とすると六十年は……?
などということを、高度一万メートルを飛ぶ飛行機の中で考えていた。人間は可愛いものである。
いや、別にエベレストの話をしたいわけではない。なにを小さなことでくよくよしているんだい、もっとデッカく生きようよ! というわけでもない。
とにかくぼくは今、デリーへと向かう飛行機の中にいるのだ。
そんなことを考えているとき、もう既に旅は始まっている。たった一ミリの世界に住むわれわれは、その中でまだ見ぬ驚きや発見を体感することに、こんなにもわくわくするのだ。たったそれだけの世の中と知りながら、なぜかそれが愛おしく、どうしても譲れない、尊いものに思えるのだ。
旅は、こうして始まった。
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