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Ⅱ章 甲鉄機兵編
(27)仲直り大作戦①
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旅を始めてから、ニーナに元気がない。
……彼女を母と慕う、星野コスモとの悲しい別れがあってから、まだ日が浅いから無理もない。
ただ、それだけじゃなく、どことなくバルサとの間に距離ができてるような気がして、俺はそこが気になった。
「…………」
「…………」
この日の朝食も、二人はエドを間に挟んで座った。
やっぱりコスモのステッキの件が、夫婦の亀裂になってしまったのだろうか。
その日、俺は何気なさを装ってアニと二人、一行から少し離れた。
「……夫婦って、何だろうな」
俺がそう言うと、
「はあああ!?」
とアニが顔を真っ赤にして反応したから驚いた。
「な、何だよ!」
「べ、別に、何でもねえよ……」
それから、ニーナとバルサ夫妻の事を話すと、アニは「なーんだ」と言ってから答えた。
「それは、オレに聞く事じゃねえよ……ここだけの話、エド、結婚と離婚の経験があるらしい。あいつなら、そういう時の対処法を知ってんじゃねえかな」
――昼の休憩時。
泉に水を汲みに行ったエドについて行き、俺はさりげなく聞いてみた。
すると、エドは答えた。
「あるわよ。結婚も離婚も、三回ずつ」
「……三、回……」
「それがどうかした?」
俺は率直に、ニーナとバルサの関係を気にしている事を告げた。
岩に腰を下ろしながら、エドはうなずく。
「正直、アタシも気になってたの」
「なら、何かいい作戦はないか?」
俺はそう言って、原稿用紙を取り出した。
しかし、エドは首を横に振って笑う。
「無理よ。夫婦ってのはね、そんな単純なモノじゃないわ」
エドは一口水を飲んで、俺に悪戯っぽい目を向けた。
「一番やっちゃいけないのはね、周りが仲直りさせようと余計な口を出す事」
俺は絶望した。
スキルで何とかなると考えた己の浅はかさに。
どんよりオーラをまとった俺を見て、エドは苦笑いした。
「でもね、そのままにしておいても好転する可能性は低いわ……そうね、何かきっかけが欲しいわね、あの夫婦がお互いの存在を見直すようなきっかけが」
……きっかけ、かぁ……。
その夜、俺はヤクの毛皮に横になりながら考えた。
夫婦と言わず、カップルが仲良くなるきっかけとして有名なのが「吊り橋効果」ってやつだ。
一緒にスリルを体験をすると、相手が頼もしく見える、らしい……経験はないが。
あと、夫婦といえば、結婚式の披露宴でよくやるよな。
――ケーキ入刀。
「お二人の初めての共同作業でございます」
司会者がそう言うやつ。
なーにが初めての共同作業だ。一回り年上の従兄の結婚式でそう思った。
でも、「お互いの存在を見直すようなきっかけ」としては、悪くない気がする。
吊り橋効果と共同作業。これを組み合わせた物語、かぁ……。
少し考えてから、俺はとりあえず原稿用紙に書いてみようと思った。
ヤクの毛皮の上に広げてみる。
だが、フカフカすぎて書けたものではない。それに、焚き火の火力が弱くて、字を書くには明るさも足りない。
「参ったな……」
俺は原稿用紙の表面を手でピンと伸ばした。
――すると、原稿用紙がまるで板のようにピシッと伸びたのだ。
その上、紙面がボーッと光っている。
ただの紙が、タブレットに変身したみたいだ。
「こんな事ができるのか!」
俺はそれを持ち上げてみる。するとさらに驚く事に、空中に留まる事もできるのだ。
好きな位置、好きな角度で書けるタブレット。
何だこの作家垂涎の便利アイテムは!
「早く言えよ!」
俺が言うと、赤ペンの文字が浮かび上がった。
【聞かれなかったので】
「音声入力もできるのか!」
【……ミスです。本当はできません】
「そう言うなよ、なぁ」
けれど、それ以上赤ペンは何も答えなかった。
「…………」
だが、成果は十分だ。
俺はニヤニヤしながら、先程思い付いたネタを書いてみる。
滑らかな書き心地は、高精度なタッチペンのようだ……ただ、一度書いたら、赤ペンに消されるまでは修正できないが。
しかし、二重線で消したり、{ で加筆するのは、書式的に間違いではないからアリなようだ。
俺は試行錯誤しながらも、一通りエピソードを書き終え、最後に「。」を打つ。
――すると紙面が強く光り、文字の部分が浮き上がる。それは光の粒子となって森の奥へと消えて行った。
「…………」
一応、赤ペンのOKは出たようだ。
……この安堵感と「本当に大丈夫か?」という不安は、作家と担当編集の関係に似てるのかもしれないと、ふと思った。
そうは言っても、赤ペンという編集の判断は絶対である。
ここに書いた物語は、必ず現実になるのだ。
少々の不安はあるが、エピソードのはじまりは、明日の朝。
今夜はしっかり寝ておこう。
原稿用紙を二つに折ると、元の紙に戻った。
それを折り畳んでポケットに収め、俺はヤクの毛皮に横になった。
……彼女を母と慕う、星野コスモとの悲しい別れがあってから、まだ日が浅いから無理もない。
ただ、それだけじゃなく、どことなくバルサとの間に距離ができてるような気がして、俺はそこが気になった。
「…………」
「…………」
この日の朝食も、二人はエドを間に挟んで座った。
やっぱりコスモのステッキの件が、夫婦の亀裂になってしまったのだろうか。
その日、俺は何気なさを装ってアニと二人、一行から少し離れた。
「……夫婦って、何だろうな」
俺がそう言うと、
「はあああ!?」
とアニが顔を真っ赤にして反応したから驚いた。
「な、何だよ!」
「べ、別に、何でもねえよ……」
それから、ニーナとバルサ夫妻の事を話すと、アニは「なーんだ」と言ってから答えた。
「それは、オレに聞く事じゃねえよ……ここだけの話、エド、結婚と離婚の経験があるらしい。あいつなら、そういう時の対処法を知ってんじゃねえかな」
――昼の休憩時。
泉に水を汲みに行ったエドについて行き、俺はさりげなく聞いてみた。
すると、エドは答えた。
「あるわよ。結婚も離婚も、三回ずつ」
「……三、回……」
「それがどうかした?」
俺は率直に、ニーナとバルサの関係を気にしている事を告げた。
岩に腰を下ろしながら、エドはうなずく。
「正直、アタシも気になってたの」
「なら、何かいい作戦はないか?」
俺はそう言って、原稿用紙を取り出した。
しかし、エドは首を横に振って笑う。
「無理よ。夫婦ってのはね、そんな単純なモノじゃないわ」
エドは一口水を飲んで、俺に悪戯っぽい目を向けた。
「一番やっちゃいけないのはね、周りが仲直りさせようと余計な口を出す事」
俺は絶望した。
スキルで何とかなると考えた己の浅はかさに。
どんよりオーラをまとった俺を見て、エドは苦笑いした。
「でもね、そのままにしておいても好転する可能性は低いわ……そうね、何かきっかけが欲しいわね、あの夫婦がお互いの存在を見直すようなきっかけが」
……きっかけ、かぁ……。
その夜、俺はヤクの毛皮に横になりながら考えた。
夫婦と言わず、カップルが仲良くなるきっかけとして有名なのが「吊り橋効果」ってやつだ。
一緒にスリルを体験をすると、相手が頼もしく見える、らしい……経験はないが。
あと、夫婦といえば、結婚式の披露宴でよくやるよな。
――ケーキ入刀。
「お二人の初めての共同作業でございます」
司会者がそう言うやつ。
なーにが初めての共同作業だ。一回り年上の従兄の結婚式でそう思った。
でも、「お互いの存在を見直すようなきっかけ」としては、悪くない気がする。
吊り橋効果と共同作業。これを組み合わせた物語、かぁ……。
少し考えてから、俺はとりあえず原稿用紙に書いてみようと思った。
ヤクの毛皮の上に広げてみる。
だが、フカフカすぎて書けたものではない。それに、焚き火の火力が弱くて、字を書くには明るさも足りない。
「参ったな……」
俺は原稿用紙の表面を手でピンと伸ばした。
――すると、原稿用紙がまるで板のようにピシッと伸びたのだ。
その上、紙面がボーッと光っている。
ただの紙が、タブレットに変身したみたいだ。
「こんな事ができるのか!」
俺はそれを持ち上げてみる。するとさらに驚く事に、空中に留まる事もできるのだ。
好きな位置、好きな角度で書けるタブレット。
何だこの作家垂涎の便利アイテムは!
「早く言えよ!」
俺が言うと、赤ペンの文字が浮かび上がった。
【聞かれなかったので】
「音声入力もできるのか!」
【……ミスです。本当はできません】
「そう言うなよ、なぁ」
けれど、それ以上赤ペンは何も答えなかった。
「…………」
だが、成果は十分だ。
俺はニヤニヤしながら、先程思い付いたネタを書いてみる。
滑らかな書き心地は、高精度なタッチペンのようだ……ただ、一度書いたら、赤ペンに消されるまでは修正できないが。
しかし、二重線で消したり、{ で加筆するのは、書式的に間違いではないからアリなようだ。
俺は試行錯誤しながらも、一通りエピソードを書き終え、最後に「。」を打つ。
――すると紙面が強く光り、文字の部分が浮き上がる。それは光の粒子となって森の奥へと消えて行った。
「…………」
一応、赤ペンのOKは出たようだ。
……この安堵感と「本当に大丈夫か?」という不安は、作家と担当編集の関係に似てるのかもしれないと、ふと思った。
そうは言っても、赤ペンという編集の判断は絶対である。
ここに書いた物語は、必ず現実になるのだ。
少々の不安はあるが、エピソードのはじまりは、明日の朝。
今夜はしっかり寝ておこう。
原稿用紙を二つに折ると、元の紙に戻った。
それを折り畳んでポケットに収め、俺はヤクの毛皮に横になった。
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◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
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