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Ⅰ章 ストランド村編

(20)策略

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 これほどの絶望を、バルサは味わった事がなかった。
 何なら、自分が死んだ時――妻子もろとも、通り魔に殺された時よりも深い絶望が体の隅々まで支配して、少し気を抜けば、エクスカリバーを取り落として地面に崩れ落ちそうだった。

 ……メフィストフェレスが、この場にいる敵、全員の魂を支配している。

 この世界での体は、世界ヘルヘイム――つまりは、女神ヘルに与えられた借り物。それが著しく損傷し使えなくなれば、魂は消滅し、体は世界に返される。
 だが、魂が消えないよう、人形師パペッティアが取り上げているから、どんなに傷付こうとも体は消えないのだ。

 バルサたちは、不死者の軍団を相手に、無駄な抵抗をしていたに過ぎない。
 そして意気揚々と、敵を自陣の内に放置していたのだ。

 これが絶望でなければ、何なのだ。

 とはいえ、唯一の救いは、一人だけでも逃げられた、という事だろう。
 そう思わなければ、己の無力さに打ちひしがれてしまう。

「ワタクシのオモチャとしては、あんたたち、まあまあだったわ。でも、ワタクシの可愛いファウストちゃんに傷を付けたのは許せないの」
 赤いシルクハットの下で、メフィストフェレスの目が光った。

「全員、ミンチになってもらうわ」

   ____________
    【        ||
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ――その頃、状況も分からないまま、俺はひたすら、原稿用紙と格闘していた。








「あー! もうどうすりゃいいんだよ!」
 現れては消える赤ペンの文字に、俺は頭を抱えた。

 ただでさえPVが一桁以上いった事がなくて、感想が来たと喜べば『展開に無理がありすぎ、クソつまらん』だった俺に、この状況を打破するを書けって方に無理がある。

 ……でも、俺が何とかしなければ、ファイやバルサだけでなく、全員の命がない。
 唯一の救いは、俺の存在が敵に知られていない事。
 モタモタしていて、みんながやられてしまったら、そのうち俺も見付かるだろう。
 その前に何とかしなければ。早く……!

「クッソ! 焦れば焦るほど何も浮かばねえ!!」

 こんな時はどうする?
 執筆に行き詰まった時、どうすればアイデアが浮かぶ?

 気分転換の散歩? いや、それはまずい。
 諦めてゲーム……やってる暇なんかない。
 何か食う。ポケットの中には……何もねえ!

 クシャクシャと頭を搔きむしり、俺はふと思い出した。

 自分の過去作を読んでると、これ以上面白い話ある? っていう、謎の自信が湧いてくる時がある。
 それで、いいアイデアが浮かぶ事も。

 現状の場合、「過去作」とは、の動きを見直す事ではないか。
 登場人物がどう動いてきたかが分かれば、次の動きが見えてくるかもしれない。

 そう思い、俺は小屋の陰に走った。
 そっと壁から顔を覗かせ、だが俺は絶望した。

 ――全員、なんか知らんけど、敵に捕まってる。

 いや、アニだけは、一応自由の身ではあるようだ。でも仲間たちを人質にされているから、手も足も出ない様子だ。
 それに、さっきエドやチョーさんやバルサが倒したはずの奴らまで、なんか知らんけど生き返ってる。

 ……落ち着け、俺。この状況を動かす物語を考えるんだ。

 それには、敵の数と位置、能力を把握する必要がある。
 例えば、ファンタジーバトルものの定番パターンだとどうなるか。

 まずボスは、あの化け物――の隣にいる、赤い服の痩せた男、あいつだ。
 確か、化け物の名前はファウスト。赤服男がそう呼んでた。
 なら、あの風貌から、赤服男の名はメフィストフェレスとしておこう。
 とすると、メフィストフェレスがファウストを操っている。言わば、人形使いだ。
 ――そう考えれば、死んだはずの兵士たちが生き返っているのにも説明がつく。
 こいつら全員を、メフィストフェレスが操っているんだ。

 ならば簡単。
 メフィストフェレスさえ倒せば、この場面は終わる。
 ……と思わせておいて、多分奴は、何か仕込んでいるに違いない。

 ――ならば、俺がやるべき事は、使

 それには、どんな『物語』を展開させればいいのか?

 俺は村の様子を見渡した。
 それに使えそうな物は……。

 ――ふと思い浮かんだアイデアを、だが……と一旦白紙に戻そうとする。
 あまりに無理がありすぎる。絶対に『ご都合主義』と批判されるやつ。
 だが、可能か不可能かと言えば、不可能ではない気がする……ミステリー漫画のトリック程度には。

「…………」

 何度も脳内をリセットしようとするが、その度に同じアイデアが浮かんでくる。
「あーもう!」
 俺は心を決めた。こうなったら、書いてしまわないと頭から離れないのだ。
 一度原稿用紙に書いて、赤ペンにボツにされれば諦めがつくだろう。

 俺は切り株に戻り、とりあえず浮かんだアイデアを書き綴る。何度か書式間違いや誤字脱字でハネられたが、最後まで書き切ると――文字が光ってスッと消えた。

「…………え?」

 マジか!?
 俺は焦った。
 ――アレを実行するには、俺の役割が重要だからだ。
 そして空を見上げる。

 地平線に消えようとする陽光を受けて、山に湧き出した分厚い雲が不気味に光っていた。
 ――もう、物語は始まっている。やるしかない!

 俺は、ボールペンと原稿用紙をポケットに収め駆け出した。
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