上 下
16 / 55
Ⅰ章 ストランド村編

(16)略奪者エリンヘリアル

しおりを挟む
 それだけではない。
 窓や壁が叩き壊され、部屋にあった様々な雑貨が小屋の周囲に散らばっている。

 ――何が起こったのか。
 呆然とする俺の横で、アニの呼吸が早くなる。
 そしてその場に荷物を置くと、矢筒と弓だけを持って、足音を忍ばせて小屋に近付いた。
 俺も荷物を下ろし、後に続く。

 矢をつがえて、アニは小屋に踏み込む。
 そして状況を把握すると、震える腕を下ろした。

「…………」

 俺もその光景を見て絶句した。
 元々乱雑ではあったが、生活できる程度に整えられていた部屋は、無茶苦茶に荒らされていた。
 一昨日、一緒に食事をしたテーブルは倒され、スニフのためにたくさん作っておいたアニのスープが、鍋ごと床に転がっている。
 食器棚は叩き割られて、皿やカップが粉々になっていた。

 ――略奪者による襲撃を受けたのだ。

 だが……と、俺は目を泳がせた。
 スニフの亡骸なきがらが見当たらないのだ。

 すると、アニが呟いた。
「転生者は、死ぬと死体も残らない」
「…………」
「この世界に転生する時に、体を借りる。体が使えなくなれば、世界に回収されて、魂は消える」

 俺は愕然がくぜんとした。
 この世界に転生した理由すら思い出せないまま、あの爺さんは……。

 アニは床に散らばる雑多なものを蹴り飛ばしながら奥へと進み、部屋を見渡した。
「やっぱりない」
「……何、が?」
「杖だよ!」

 この世界の盗賊の目的は、武器。
 麦の瓶は、ついでに物色され持ち出されたが、手を滑らせて落としたのだろう。

 爺さんの杖一本を奪うのにこの有様とは、略奪者は相当なならず者だ。
 俺は思わず拳を握る。

 ところが。
 俺を振り返ったアニの顔が蒼白だったから、俺は戸惑った。
「どうしたんだ?」
 彼女は震え声を上げた。

「――ストランド村がヤバい」

   ____________
    【        ||
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ファルコンは、名残り惜しそうに半壊した小屋に残った。
 多分、スニフ爺さんがこの世界に留まっていられたのは、ファルコンの世話という「生きる目的」があったからだろう。

 俺とアニは、行きは丸一日かけた道のりを、半日足らずで駆け下りた。
「盗賊はかなりの数がいる。あの散らかし方を見れば分かる、あたいも盗賊だったから。そんな奴らが、スニフ爺さんの杖一本で満足するはずがない」
 ……という、アニの予想が外れる事を祈りながら。

 泥まみれになりながら、ほとんど滑るように山を下った俺たちは、だが祈り虚しく、絶望的な光景を目にする事となった。

 夕空へと空の色が変わる頃。
 鐘楼の鐘が、カーンカーンと鳴り響いていた。

 村を囲む塀に、屈強な男たちが集まっている。
 二、三十人はいるだろう。その全員が武器を持ち、戦闘装備をしていた。

 アニはそれを見ると、
「来い!」
 と俺の腕を引いた。

 ストランド村は、三方を高い木塀、一方を小川で囲まれた作りになっている。
 小川とはいえ、飛び越えられるような幅ではない。だから盗賊たちは、塀に沿って門に向かったのだろう。

 アニはその小川の、水車小屋の対岸にやって来た。
 そして、どこからか長い棒を持ってくる。
「門まで回るのが面倒な時は、こうやって川を渡ってる」
 そう言うと、棒を両手で持って斜面から助走を付ける。その勢いで川底に棒を突き立てて、小川を飛び越えた。棒幅跳びだ。

「おまえも来い!」
 アニはそう叫んで、畑を抜けて村に走っていった。

「……マジか……!」
 棒幅跳びなんてやった事がない。でも、ここで躊躇ちゅうちょしている場合ではない。
「うわあああ!!」
 イメージだけでアニをならう。
 何とかなるもので、俺は棒にしがみ付いて対岸に渡った……着地に失敗して、地面に叩き付けられたが。

 腰をさすりながら畦道を走る。
 そしてバルサの薪割り場まで来て、俺は咄嗟とっさに小屋の影に身を隠した。

 ――既に門は抜かれ、内部に侵入を受けている。

 これが、噂に聞く『エインヘリアル』だろうか?
 壁を背に、俺の心臓はバクバクと跳ねだした。

 中庭から声がする。
「あーら、アタシと遊んでくれるの? フフッ――すぐに壊れないでね!」
 エドだ。俺は小屋の隙間からコッソリと覗いた。
 門内の賊の前に立ち塞がった、エドのシザーハンドが牙を剥く。

 研ぎ澄まされたハサミが、盗賊の首筋を切り裂く。
 飛び散る血飛沫が、次なる犠牲者の断末魔を彩る。

 ……つ、強い……!
 俺は目を見張った。

 エドのハサミを逃れた賊は、屋根からのアニの矢が射止める。
 何とか賊を食い止められてはいるようだ。
 ……だが壁の外には、この何倍かの賊がいる。
 その中に、バルサに聞いた「全知全能の神アルファズ」がいたとしたら……。

 そう考えていると、門の辺りでざわめきが起こった。
 慌てて目を向け、俺は息を呑む。

 ――エドの前に槍兵が並び、彼に切っ先を突き付けているのだ。

 いくらエドが強いと言っても、ハサミは近距離武器だ。槍の間合いに対してはどうしようもない。
「ごめんなさいね。アタシもここまでのようだわ」
 降参するように、エドが両手を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

多彩な異世界

色月はじめ
ファンタジー
色の力を使うことができる異世界に転移した蒼井悠気。 王国騎士であるヨシノに命を助けてもらったことから人を守る強さに憧れを抱く。 「俺、誰かを守る強さが欲しいです」 「強くなることを止めはしない」 守る強さを求め、悠気の異世界冒険がいま、はじまる。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界ゲームクリエイター、異世界で神になる

やまかぶれ
ファンタジー
玲(れい)は、現実世界で孤独なゲーム開発者。中学生の頃からゲームの世界に魅了され、自らの理想郷を創り上げるため、長い時間をかけて異世界ゲームを作り上げた。だが、現実ではその努力が報われず、彼のゲームは評価されずに終わる。失意の中、彼が意識を失い目覚めた場所は、自分が創造したはずの異世界だった。 その世界は、玲が思い描いた通りの場所。だが、彼が「創造主」だという事実を知る者はいない。異世界で新たな運命を歩み始める玲は、いつしかこの世界で「神」としての役割を求められるようになる。 彼が異世界で手にする力とは何か?そして、現実世界とのつながりを持つスマホが示す驚きの秘密とは?創造者としての玲の挑戦と、神としての壮大な物語がいま始まる。 「創造者が創造物に試される時、世界はどう変わるのか――」

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はランカ。 女の子と言われてしまう程可愛い少年。 アルステードオンラインというVRゲームにはまってラストダンジョンをクリア。 仲間たちはみんな現実世界に帰るけれど、僕は嫌いな現実には帰りたくなかった。 そんな時、アルステードオンラインの神、アルステードが僕の前に現れた 願っても叶わない異世界転移をすることになるとは思わなかったな~

処理中です...