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【漆】通夜ノ晩
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「……何だ、外が騒がしいな」
気付いたのは、与党幹事長である。
「確認してきます」
すぐさま秘書が様子を見に行く。そして、早足に戻ってきた彼が上司に耳打ちする顔は、血の気を失っていた。その色は、みるみる幹事長へも伝染していく。
幹事長は立ち上がり、来住野十四郎の肩をポンと叩いた。
「私はこれで失礼する。……この件は無かった事にしてくれ」
その意味を理解するまで、十四郎は呆然と彼の背を見送っていたのだが、その姿が広間から消えてしばらくした後、愕然と立ち上がった。その顔は、吹雪の雪原のような色だった。
自主的記者会見を終えた不知火清弥は、洋館の居間で寛いでいた。蓄音機の奏でる軽やかな旋律を楽しみながら、鼻歌混じりに飲むブランデーは、最高に美味だった。
記者たちの食い付きようは想像以上だった。取替えひっかえ食い下がる質問に、証拠を示しながら、ひとつひとつ丁寧に答えてやった。明日の朝刊の一面を飾る事は間違いないだろう――彼の一世一代の大芝居が。
そんな時だった。
ベルもなく足音が入ってきた。それはドタドタと廊下をやって来て、居間のトビラをガチャリと開けた。――羽織袴のその姿は、来住野十四郎だった。
「貴様……」
凄まじい形相でソファに歩み寄ると、清弥の着る、柄物の開襟シャツの襟元を掴んだ。
「……何て事をしてくれたんだ!」
しかし、不知火清弥は怖気付く事なく、平然と十四郎を見上げた。
「何をそうも怒ってらっしゃるんですか、義父殿」
「しらばくれるな! 記者どもに、ある事ない事、よくもベラベラと!」
「ある事ない事? 全部事実ですよ。明日の新聞をよくご覧ください」
ヒヒヒと笑う清弥の頬を、十四郎の拳が殴り付ける。
「やめてください!」
異変に気付いた松子が、居間に駆け込んだ。そして、床に転がった夫を助け起こす。
「竹子の通夜よ! こんな見苦しい事はやめて」
「貴様も同じ穴の狢か! この出来損ないが!」
十四郎の拳が、今度は松子に向く。
「止さないか、十四郎さん!」
水川信一郎が、振り上げた十四郎の腕を掴む。
「落ち着くんだ! とにかく、落ち着くんだ!」
その言葉は、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「離せ! 糞共め!」
「それ以上なさると、青梅署にご同行願う事になりますよ!」
警官を連れて赤松も駆け込んできた。警官が暴れる十四郎を組み伏せる。
――すると、笑い声がした。甲高い笑い声は、はじめどこから聞こえるのか分からなかった。キョロキョロと見回す一同は、やがてその笑い声の主に視線を止めると、一様に凍り付いた。
――それは、来住野梅子だった。
漆黒のドレスで首まで覆い、顔をヴェールで隠し、提灯袖に包まれた肩も揺らさずにゲラゲラと笑っている。その不気味さは、部屋の気温を一気に氷点下にまで下げた。
「残念ねぇ。これまで必死で、秘密の桃源郷を守ってきたのに、全部無駄になったわね。全てを失った絶望は、どんな気分かしら。いい気味だわ」
嘲るような言葉は高飛車で、これまでの梅子からは想像もつかないものだった。――そして、その口調は、赤松と警官以外、その場にいる皆が知っているものだった。
――来住野竹子。
十四郎も、松子も、清弥も、信一郎も、目を見開いたまま、メデューサに睨まれたように固まった。
しかし、その後すぐ、梅子は先程までの無感情な口調に戻した。
「天狗の祟りは恐ろしいものよ。――私は、叛乱者の虜」
そして、くるりと向きを変え、ツカツカと部屋を出て行った。
「……何だったんだよ」
全員引き上げた居間で、不知火清弥は飲み直していた。
蓄音機の音楽は耳を通り抜けていく。――先程の梅子の甲高い笑い声だけが、頭の中を巡っている。
甲高く、人を嘲るような笑い声。来住野竹子は、よくそんな笑い方をした。
清弥の前では従順だった。まだ齢十四の少女らしく、あどけなさの残るはにかんだ笑顔で……。
しかし、閨での彼女は、激しい気性そのものだった。喰らい尽くすような愛撫は、とても少女のものとは思えなかった。娼婦のように、男を虜にする魔性の体……。
それを思い出し、清弥はゾクッと身震いするとグラスを煽った。
……誰が、彼女をあのように仕込んだのか。
そして再び、グラスを満たそうとブランデーボトルを手に取った。……そしてそこで手を止めた。
細長い瓶の口に、何かが結わえてある。――何だこれは?
先程まで、こんなものはあっただろうか? よく見ると、薄い紙を折り畳んだもののようだ。……ほんのりインクが透けている。中に何か書かれているのか。
清弥はそれを外し、指で押し広げた。和紙の一筆箋に、細いペン字で書かれた手紙だ。
――そこにはこうあった。
今夜零時
百合園奥の古井戸でお会いしましょう
お忘れなきよう
そして、最後の署名を見た瞬間、清弥の体はドクンと脈打った。
――そこには確かに、『竹子』という署名があった。
「…………」
清弥は固まった。そして、酔った頭で思考を巡らした。
このブランデーボトルは、先程、記者会見の後で開けたばかりだ。その時には確かに、手紙は結わえられてはいなかった。という事は、十四郎の乱入騒動の際に、誰かがコッソリ置いていったものに違いない。
あの騒動に関わらずに、部屋を自由に動いていた人物。――そして、あの笑い声……。
「……まさか……」
しかし、そうとしか考えられない。とすると、これは……!
彼には思惑があった。先程の記者会見も、ただの怨恨で行った訳ではない。
……十四郎の威信が失墜すれば、長女の婿である彼に、その地位が巡ってくる可能性は、大いにある。
となると、松子との関係を、今以上に大切にしなくてはならない。……彼女の妹に手を出したなどという醜聞は、絶対に許されないだろう。
――この手紙の意図は、それに対する恫喝か。
どちらにせよ、真相を確かめる必要はある。……あのドレスの少女の正体は、果たして……。
清弥は手紙を開襟シャツの胸ポケットに押し込むと、グラスにブランデーを注ぎ、一気に飲み干した。
露天風呂を出て帳場へ向かう途中、犬神零と椎葉桜子は、喜田刑事に出くわした。
「いやあ、久しぶりに飲んだ」
喜田は顔を赤くして、彼らを広間に引っ張り込んだ。
広間の警官たちは、宴会、とまではいかないまでも、お膳を前にそれぞれ寛いでいる様子だった。
「若女将が太っ腹で、一本付けてくれてよ」
お銚子一本でここまで酔えるとは、お得である。
「このまま何もなければ、葬式が終わるまで待って、引き上げる事になりそうだからな、今日は打ち上げだ。――上司がいたら、絶対にこんな事できないけどな」
ご機嫌な喜田は、ニコニコと漬物の小皿を勧めてきた。
「赤松警部補は怖いんですか」
「怖いのなんのって。……いや、愛のある厳しさだな、あれは」
「じゃあ、百々目警部は?」
「ありゃあ問題外だ。現場を知らねえ。頭はいいかもしれんが、何を考えてるか伝わって来ねえから、命令にどんな意味があるか分からねぇ。現場は混乱するばかりよ。――捜査ってのはな、チームワークが大事なんだよ。スタンドプレーは嫌われるだけだ」
「なるほど……」
沢庵をご相伴に預かりながら、零は声を低めた。
「さっき、赤松警部補が酷く落ち込んでたじゃありませんか」
「あぁ、あれか?」
喜田はあぐらをかいた。
「……ここだけの話だぞ? 赤松警部補、取り調べに失敗したんだ」
「失敗?」
「素人は、取り調べなんて、話を聞くだけだと思うだろ? だけど、取り調べにはコツがあってな。絶対にやっちゃあならん事がある」
「ふむふむ」
「それはだ。――相手に先入観を与える事。誘導尋問とかあるだろ? こちらの都合の良いように、そういう方法を取る事もあるが、今回の場合は、その逆。うっかりこちらの情報を相手に明かしちまって、相手がそれに合わせて証言をしたんだ。口裏合わせの手助けを、赤松警部補はしちまったんだよ。ありゃあひっくり返すのは無理だぞ、……相当な証拠がなきゃな」
「……つまり、まるいやの勝太君が、祭りの夜に、善浄寺の春子さんと、一晩中一緒にいたと証言した、ってのが怪しいと」
「そうなると、十一時頃につづら折れの下で、水川咲哉君を目撃できませんからね」
つづら折れを上りながら、零と桜子は、喜田から聞き出した話を検証していた。……それにしても、酔うと口が軽くなる喜田刑事は、刑事に向いていないと、零は思う。
「それで百々目警部は、水川咲哉君の取り調べを厳しくした、という訳ですね」
「でも、彼、馬鹿じゃないし、赤松警部補の失敗にも気付いてるでしょ。なのに、何で……」
「多分、屋敷の外にも捜査の目を向けていると、知らしめたいんでしょう」
「不運ね、咲哉君」
「はい」
借り物の多摩荘の名入りの提灯をぶら下げ、つづら折れの途中へ来たところで、二人は足を止めた。
「……警察の立入禁止の札ね。なぜこんなところに?」
「恐らく、咲哉君だけが知っている秘密の抜け道の、出口に当たる場所ではないかと」
桜子に提灯を持たせ、零はそこを覗き込んだ。……なるほど、薮の中に、狸が通りそうな小さな穴がある。
「……行くの?」
「いや、止めときます。着替えがありませんので、汚したくありません」
――だがこの時、彼が着物の汚れを気にせず、この抜け道の探検に出かけていれば、この後起こるもうひとつの事件は、防げたのである。
気付いたのは、与党幹事長である。
「確認してきます」
すぐさま秘書が様子を見に行く。そして、早足に戻ってきた彼が上司に耳打ちする顔は、血の気を失っていた。その色は、みるみる幹事長へも伝染していく。
幹事長は立ち上がり、来住野十四郎の肩をポンと叩いた。
「私はこれで失礼する。……この件は無かった事にしてくれ」
その意味を理解するまで、十四郎は呆然と彼の背を見送っていたのだが、その姿が広間から消えてしばらくした後、愕然と立ち上がった。その顔は、吹雪の雪原のような色だった。
自主的記者会見を終えた不知火清弥は、洋館の居間で寛いでいた。蓄音機の奏でる軽やかな旋律を楽しみながら、鼻歌混じりに飲むブランデーは、最高に美味だった。
記者たちの食い付きようは想像以上だった。取替えひっかえ食い下がる質問に、証拠を示しながら、ひとつひとつ丁寧に答えてやった。明日の朝刊の一面を飾る事は間違いないだろう――彼の一世一代の大芝居が。
そんな時だった。
ベルもなく足音が入ってきた。それはドタドタと廊下をやって来て、居間のトビラをガチャリと開けた。――羽織袴のその姿は、来住野十四郎だった。
「貴様……」
凄まじい形相でソファに歩み寄ると、清弥の着る、柄物の開襟シャツの襟元を掴んだ。
「……何て事をしてくれたんだ!」
しかし、不知火清弥は怖気付く事なく、平然と十四郎を見上げた。
「何をそうも怒ってらっしゃるんですか、義父殿」
「しらばくれるな! 記者どもに、ある事ない事、よくもベラベラと!」
「ある事ない事? 全部事実ですよ。明日の新聞をよくご覧ください」
ヒヒヒと笑う清弥の頬を、十四郎の拳が殴り付ける。
「やめてください!」
異変に気付いた松子が、居間に駆け込んだ。そして、床に転がった夫を助け起こす。
「竹子の通夜よ! こんな見苦しい事はやめて」
「貴様も同じ穴の狢か! この出来損ないが!」
十四郎の拳が、今度は松子に向く。
「止さないか、十四郎さん!」
水川信一郎が、振り上げた十四郎の腕を掴む。
「落ち着くんだ! とにかく、落ち着くんだ!」
その言葉は、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「離せ! 糞共め!」
「それ以上なさると、青梅署にご同行願う事になりますよ!」
警官を連れて赤松も駆け込んできた。警官が暴れる十四郎を組み伏せる。
――すると、笑い声がした。甲高い笑い声は、はじめどこから聞こえるのか分からなかった。キョロキョロと見回す一同は、やがてその笑い声の主に視線を止めると、一様に凍り付いた。
――それは、来住野梅子だった。
漆黒のドレスで首まで覆い、顔をヴェールで隠し、提灯袖に包まれた肩も揺らさずにゲラゲラと笑っている。その不気味さは、部屋の気温を一気に氷点下にまで下げた。
「残念ねぇ。これまで必死で、秘密の桃源郷を守ってきたのに、全部無駄になったわね。全てを失った絶望は、どんな気分かしら。いい気味だわ」
嘲るような言葉は高飛車で、これまでの梅子からは想像もつかないものだった。――そして、その口調は、赤松と警官以外、その場にいる皆が知っているものだった。
――来住野竹子。
十四郎も、松子も、清弥も、信一郎も、目を見開いたまま、メデューサに睨まれたように固まった。
しかし、その後すぐ、梅子は先程までの無感情な口調に戻した。
「天狗の祟りは恐ろしいものよ。――私は、叛乱者の虜」
そして、くるりと向きを変え、ツカツカと部屋を出て行った。
「……何だったんだよ」
全員引き上げた居間で、不知火清弥は飲み直していた。
蓄音機の音楽は耳を通り抜けていく。――先程の梅子の甲高い笑い声だけが、頭の中を巡っている。
甲高く、人を嘲るような笑い声。来住野竹子は、よくそんな笑い方をした。
清弥の前では従順だった。まだ齢十四の少女らしく、あどけなさの残るはにかんだ笑顔で……。
しかし、閨での彼女は、激しい気性そのものだった。喰らい尽くすような愛撫は、とても少女のものとは思えなかった。娼婦のように、男を虜にする魔性の体……。
それを思い出し、清弥はゾクッと身震いするとグラスを煽った。
……誰が、彼女をあのように仕込んだのか。
そして再び、グラスを満たそうとブランデーボトルを手に取った。……そしてそこで手を止めた。
細長い瓶の口に、何かが結わえてある。――何だこれは?
先程まで、こんなものはあっただろうか? よく見ると、薄い紙を折り畳んだもののようだ。……ほんのりインクが透けている。中に何か書かれているのか。
清弥はそれを外し、指で押し広げた。和紙の一筆箋に、細いペン字で書かれた手紙だ。
――そこにはこうあった。
今夜零時
百合園奥の古井戸でお会いしましょう
お忘れなきよう
そして、最後の署名を見た瞬間、清弥の体はドクンと脈打った。
――そこには確かに、『竹子』という署名があった。
「…………」
清弥は固まった。そして、酔った頭で思考を巡らした。
このブランデーボトルは、先程、記者会見の後で開けたばかりだ。その時には確かに、手紙は結わえられてはいなかった。という事は、十四郎の乱入騒動の際に、誰かがコッソリ置いていったものに違いない。
あの騒動に関わらずに、部屋を自由に動いていた人物。――そして、あの笑い声……。
「……まさか……」
しかし、そうとしか考えられない。とすると、これは……!
彼には思惑があった。先程の記者会見も、ただの怨恨で行った訳ではない。
……十四郎の威信が失墜すれば、長女の婿である彼に、その地位が巡ってくる可能性は、大いにある。
となると、松子との関係を、今以上に大切にしなくてはならない。……彼女の妹に手を出したなどという醜聞は、絶対に許されないだろう。
――この手紙の意図は、それに対する恫喝か。
どちらにせよ、真相を確かめる必要はある。……あのドレスの少女の正体は、果たして……。
清弥は手紙を開襟シャツの胸ポケットに押し込むと、グラスにブランデーを注ぎ、一気に飲み干した。
露天風呂を出て帳場へ向かう途中、犬神零と椎葉桜子は、喜田刑事に出くわした。
「いやあ、久しぶりに飲んだ」
喜田は顔を赤くして、彼らを広間に引っ張り込んだ。
広間の警官たちは、宴会、とまではいかないまでも、お膳を前にそれぞれ寛いでいる様子だった。
「若女将が太っ腹で、一本付けてくれてよ」
お銚子一本でここまで酔えるとは、お得である。
「このまま何もなければ、葬式が終わるまで待って、引き上げる事になりそうだからな、今日は打ち上げだ。――上司がいたら、絶対にこんな事できないけどな」
ご機嫌な喜田は、ニコニコと漬物の小皿を勧めてきた。
「赤松警部補は怖いんですか」
「怖いのなんのって。……いや、愛のある厳しさだな、あれは」
「じゃあ、百々目警部は?」
「ありゃあ問題外だ。現場を知らねえ。頭はいいかもしれんが、何を考えてるか伝わって来ねえから、命令にどんな意味があるか分からねぇ。現場は混乱するばかりよ。――捜査ってのはな、チームワークが大事なんだよ。スタンドプレーは嫌われるだけだ」
「なるほど……」
沢庵をご相伴に預かりながら、零は声を低めた。
「さっき、赤松警部補が酷く落ち込んでたじゃありませんか」
「あぁ、あれか?」
喜田はあぐらをかいた。
「……ここだけの話だぞ? 赤松警部補、取り調べに失敗したんだ」
「失敗?」
「素人は、取り調べなんて、話を聞くだけだと思うだろ? だけど、取り調べにはコツがあってな。絶対にやっちゃあならん事がある」
「ふむふむ」
「それはだ。――相手に先入観を与える事。誘導尋問とかあるだろ? こちらの都合の良いように、そういう方法を取る事もあるが、今回の場合は、その逆。うっかりこちらの情報を相手に明かしちまって、相手がそれに合わせて証言をしたんだ。口裏合わせの手助けを、赤松警部補はしちまったんだよ。ありゃあひっくり返すのは無理だぞ、……相当な証拠がなきゃな」
「……つまり、まるいやの勝太君が、祭りの夜に、善浄寺の春子さんと、一晩中一緒にいたと証言した、ってのが怪しいと」
「そうなると、十一時頃につづら折れの下で、水川咲哉君を目撃できませんからね」
つづら折れを上りながら、零と桜子は、喜田から聞き出した話を検証していた。……それにしても、酔うと口が軽くなる喜田刑事は、刑事に向いていないと、零は思う。
「それで百々目警部は、水川咲哉君の取り調べを厳しくした、という訳ですね」
「でも、彼、馬鹿じゃないし、赤松警部補の失敗にも気付いてるでしょ。なのに、何で……」
「多分、屋敷の外にも捜査の目を向けていると、知らしめたいんでしょう」
「不運ね、咲哉君」
「はい」
借り物の多摩荘の名入りの提灯をぶら下げ、つづら折れの途中へ来たところで、二人は足を止めた。
「……警察の立入禁止の札ね。なぜこんなところに?」
「恐らく、咲哉君だけが知っている秘密の抜け道の、出口に当たる場所ではないかと」
桜子に提灯を持たせ、零はそこを覗き込んだ。……なるほど、薮の中に、狸が通りそうな小さな穴がある。
「……行くの?」
「いや、止めときます。着替えがありませんので、汚したくありません」
――だがこの時、彼が着物の汚れを気にせず、この抜け道の探検に出かけていれば、この後起こるもうひとつの事件は、防げたのである。
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