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──第壱部──
【序】
しおりを挟む「……祟りじゃ……祟りが起きるぞ……」
風のない、蒸すような日だった。どんよりと重い空が、砂利道を灰色に染めている。
そこを、真っ白な頭髪を振り乱し、ボロをまとった老婆が歩いていく。
「あな恐ろしや……この村は終わりじゃ……あな恐ろしや……」
腰を二重に折り、布袋竹の杖に寄り掛かるように、轍の目立つ通りを進む。
人々はそれを奇異の目で見ているが、老婆は構わず呟き続ける。
「天狗の祟りじゃ……双子が、十五になってしまう……あぁ……恐ろしい事じゃ……」
そこへ、一人の若者が立ち塞がった。
「婆さん、何者じゃ?」
すると老婆は、干からびた染みだらけの顔を上げ、白濁した眼を大きく見開いた。
「私ャ、天狗様の使いにごぜェます。……あの娘たちが十五になれば、祟りが起きますだ……なんという事じゃ……あな恐ろしや……」
ひび割れた声は若者の心をざわつかせ、背筋をじわりと冷やした。
「祟り? 何のことじゃ」
若者が引き攣った頬を揺らして嘲笑うと、老婆は鋭い動きで、杖を若者の鼻先に突きつけた。濁った眼が若者を睨み据える。その剣幕に、若者はヒイッと息を飲んだ。
「覚えておらぬか、あの災いを。語り継いでおらぬか、あの悲劇を。……この村は終わりじゃ。……恐ろしや……あな恐ろしや……」
そして杖を道に戻すと、竦み上がる若者の横を通り過ぎ、老婆は尚も通りを進む行く。
「祟りじゃ……祟りが起きるぞオオ……!」
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