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Ⅱ.クニツクリの涙
■ 怪盗のヒトリゴト──真・「天竜の涙」窃盗未遂計画② ■
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──出て行ったはずの俺が、何も知らない様子で戻ってきた。
その状況の意味するところを想像すれば、みんな顔面蒼白だ。
「……どういう事なの?」
と震え声のヒカルコさんに状況を聞き、俺も顔色を変える。
そして、俺はこれまでの作戦を全て克明に解説する──俺の推理として。
「俺の偽物──つまりは怪盗ジュークが捕まえようとした怪盗ジュークは偽物だったんだ。奴の目的は、この展示ケースを開かせる事……ほら、見てごらん。魔力測定器に細工がされている。本物でも偽物だという結果が出るようになっていたんだよ。本物を偽物だと思わせておいて、偽物にすり替えたんだ」
よくよく考えれば、置き手紙があった時に偽物と交換する事なんて不可能なんだ。展示ケース自体が厳重に施錠してあったんだから。
その事実に思い至った一同は愕然とする。
「でも、悪い事ばかりじゃない──怪盗ジュークは今も、この博物館の中にいる!」
俺の一声で、みんなに闘志が燃え上がる。
「あの野郎、散々コケにしやがって」
「みんな、必ず捕まえるわよ!」
ヒカルコさんの合図で、みんな一斉に博物館内へ散っていく……けれど、同じ轍を踏まないために、警備員を展示室へ残す判断はするだろう。
もう関係ないけどな。
で、ここからが俺の本気の見せどころ。
怪盗ジュークに化けて博物館内をウロつきながら、とある場所に一同を導く。
──一階左翼展示室の奥の、搬入口前のバックグラウンド。
薄暗いそこへ追い詰めた格好で、あとはリュウに任せる。
あらかじめ撮影しておいた映像を、立体プロジェクターで放映するんだ。
「奴は拳銃を持っている! 近付くな!」
そう叫びながら、俺は怪盗ジュークと格闘する。
……もちろん、一人二役の合成だ。
撮影風景はかなり滑稽だったけど、完成してみるとなかなかのものだ。
で、みんなが手に汗握って鑑賞している隙に、俺は変装をする。
そして、後ろから声を掛けるんだ。
「どうしたのだ、そんなところに集まって」
──ノノミヤ公爵のご登場。
彼はここで、大きな活躍を見せる。
本当はエンドー・トウヤがジュークを捕まえるつもりだったけど、魔刀一文字をもらった恩があるからな、公爵に譲ったんだ。
ヒカルコさんから事情を聞いた俺は、フムフムと言いながら手杖を取り出す。
公爵の手杖は何度か見ている。一見で偽物だと分からない程度の精度で再現は可能だった。
……そして、見た目だけじゃなくて、色々と仕込みもしておいた。
魔法を放つモーションだ。
呪文と同時に手元のスイッチを押す。
すると、先端の魔法石が光って、前方に光の渦が放出されるんだ。なかなかこだわったシロモノなんだよ……本編に登場シーンはなかったけど。
俺はそれっぽく前に出て、格闘する二人にその杖を向ける。
「──氷刃!」
この魔法は、一度、密偵のタチバナが使ったところを見ている。
だから魔法が起こす現象を、立体CG映像で再現するのも簡単だった。
俺の呪文に合わせて、リュウが映像を操作する。
すると、怪盗ジュークに氷の槍が当たって、奴は逃げ出すのさ。
「待て!」
と、映像の中の俺もフェードアウト。
……とそこに、天竜の涙が落ちている。
怪盗ジュークになって館内を走り回っている時に置いておき、光学迷彩マントで隠しておいたんだ。
そして、映像に合わせてマントをリュウが回収したってワケ。
公爵に化けた俺は素知らぬ顔で魔法石を拾い上げる。
でも、いきなり喜んだりはしない。
「これは本物なのかね?」
と、ヒカルコさんを見る。
けれどこの場に、使える魔力測定器は存在しない。
だから俺は、
「馬車に置いてあるから取りに行ってくる。これはおまえが持っていなさい」
と言って、天竜の涙をヒカルコさんに渡す。
いつまでも公爵のままでいる訳にはいかないから、一度退場する必要がある。
……本物の公爵がすぐそこまで来てるんだから。
怪盗ジュークが現れた時点で、密偵団が公爵に連絡を入れるのは予測の範囲。
第一報で公爵がアカサカの自宅を出るとして、ここまで馬車で三十分ほど。
かなりギリギリの計画だ。
案の定、本物の公爵がすぐにやって来る。
そして、自宅から持ってきた魔力測定器で、ヒカルコさんの手にある魔法石を確認する。
「──確かに、天竜の涙だ」
公爵にとってはワケが分からない状況だろう。
でも茶目っ気のある彼なら、
「お父様のおかげで天竜の涙を取り返せたわ」
と娘に泣き付かれれば否定はしない。
「そうかそうか、天竜の涙が守れて良かった」
と、笑顔を見せるだろう。
そこに、エンドー・トウヤ──俺が戻る。
「残念ながら、怪盗ジュークは逃がしました」
と、激しい格闘を物語るように、頭をボサボサにして肩を押さえながらね。
でも、天竜の涙が無事だった事で安堵した一同は、そんな事に突っ込んだりはしない。
「トウヤの力がなかったら、天竜の涙は奪われていたわ。本当にありがとう」
と、ヒカルコさんに感謝され、俺の株も上がり、めでたしめでたし……。
◇
……とまあ、俺が考えた『「天竜の涙」窃盗未遂計画』は、ザッとこんな感じ。
でも、今考えると、これを実行しないで済んだのは、ある意味幸運だったんだろうと思う。
──この計画には、致命的な欠陥があったのだから。
長年の貧乏暮らしで、俺はドレスコードというものに疎い。
だから、夜にモーニングを着るのはNGというのを知らなかった。
朝、公爵がしていた格好そのままを、変装用に用意してしまっていたんだ。
もし、怪盗ジュークをやっつけた公爵が偽物だとバレたら、怪盗ジュークと格闘していた俺は何をやっていたんだ? となる。
つまり、俺の正体がバレる危険があった。
ともあれ、大きな計画の変更があったとはいえ、天竜の涙は守れたし、万事がうまくいったワケだ。
──何? 飛行船を墜落させて博物館を爆破して、何がうまくいっただって?
勘違いしては困る。
俺は怪盗さ。ヒーローじゃない。
……とまあ、俺の怪盗としての能力を理解してもらえただろうか。
大した事ねえな、と思った君には、間違いなく怪盗の才能がある。俺が保証するよ。
──そろそろ時間だ。
作者にバレる前に、この辺でズラかるとする。
でも、その前に。
怪盗として、ひとつやっておかなければならない。
それは、この予告状を君に渡す事。
挑戦したいのなら構わない。俺はいつでも受けて立つよ。
じゃあ、また。
次は「地母の要の隠された地」で──
その状況の意味するところを想像すれば、みんな顔面蒼白だ。
「……どういう事なの?」
と震え声のヒカルコさんに状況を聞き、俺も顔色を変える。
そして、俺はこれまでの作戦を全て克明に解説する──俺の推理として。
「俺の偽物──つまりは怪盗ジュークが捕まえようとした怪盗ジュークは偽物だったんだ。奴の目的は、この展示ケースを開かせる事……ほら、見てごらん。魔力測定器に細工がされている。本物でも偽物だという結果が出るようになっていたんだよ。本物を偽物だと思わせておいて、偽物にすり替えたんだ」
よくよく考えれば、置き手紙があった時に偽物と交換する事なんて不可能なんだ。展示ケース自体が厳重に施錠してあったんだから。
その事実に思い至った一同は愕然とする。
「でも、悪い事ばかりじゃない──怪盗ジュークは今も、この博物館の中にいる!」
俺の一声で、みんなに闘志が燃え上がる。
「あの野郎、散々コケにしやがって」
「みんな、必ず捕まえるわよ!」
ヒカルコさんの合図で、みんな一斉に博物館内へ散っていく……けれど、同じ轍を踏まないために、警備員を展示室へ残す判断はするだろう。
もう関係ないけどな。
で、ここからが俺の本気の見せどころ。
怪盗ジュークに化けて博物館内をウロつきながら、とある場所に一同を導く。
──一階左翼展示室の奥の、搬入口前のバックグラウンド。
薄暗いそこへ追い詰めた格好で、あとはリュウに任せる。
あらかじめ撮影しておいた映像を、立体プロジェクターで放映するんだ。
「奴は拳銃を持っている! 近付くな!」
そう叫びながら、俺は怪盗ジュークと格闘する。
……もちろん、一人二役の合成だ。
撮影風景はかなり滑稽だったけど、完成してみるとなかなかのものだ。
で、みんなが手に汗握って鑑賞している隙に、俺は変装をする。
そして、後ろから声を掛けるんだ。
「どうしたのだ、そんなところに集まって」
──ノノミヤ公爵のご登場。
彼はここで、大きな活躍を見せる。
本当はエンドー・トウヤがジュークを捕まえるつもりだったけど、魔刀一文字をもらった恩があるからな、公爵に譲ったんだ。
ヒカルコさんから事情を聞いた俺は、フムフムと言いながら手杖を取り出す。
公爵の手杖は何度か見ている。一見で偽物だと分からない程度の精度で再現は可能だった。
……そして、見た目だけじゃなくて、色々と仕込みもしておいた。
魔法を放つモーションだ。
呪文と同時に手元のスイッチを押す。
すると、先端の魔法石が光って、前方に光の渦が放出されるんだ。なかなかこだわったシロモノなんだよ……本編に登場シーンはなかったけど。
俺はそれっぽく前に出て、格闘する二人にその杖を向ける。
「──氷刃!」
この魔法は、一度、密偵のタチバナが使ったところを見ている。
だから魔法が起こす現象を、立体CG映像で再現するのも簡単だった。
俺の呪文に合わせて、リュウが映像を操作する。
すると、怪盗ジュークに氷の槍が当たって、奴は逃げ出すのさ。
「待て!」
と、映像の中の俺もフェードアウト。
……とそこに、天竜の涙が落ちている。
怪盗ジュークになって館内を走り回っている時に置いておき、光学迷彩マントで隠しておいたんだ。
そして、映像に合わせてマントをリュウが回収したってワケ。
公爵に化けた俺は素知らぬ顔で魔法石を拾い上げる。
でも、いきなり喜んだりはしない。
「これは本物なのかね?」
と、ヒカルコさんを見る。
けれどこの場に、使える魔力測定器は存在しない。
だから俺は、
「馬車に置いてあるから取りに行ってくる。これはおまえが持っていなさい」
と言って、天竜の涙をヒカルコさんに渡す。
いつまでも公爵のままでいる訳にはいかないから、一度退場する必要がある。
……本物の公爵がすぐそこまで来てるんだから。
怪盗ジュークが現れた時点で、密偵団が公爵に連絡を入れるのは予測の範囲。
第一報で公爵がアカサカの自宅を出るとして、ここまで馬車で三十分ほど。
かなりギリギリの計画だ。
案の定、本物の公爵がすぐにやって来る。
そして、自宅から持ってきた魔力測定器で、ヒカルコさんの手にある魔法石を確認する。
「──確かに、天竜の涙だ」
公爵にとってはワケが分からない状況だろう。
でも茶目っ気のある彼なら、
「お父様のおかげで天竜の涙を取り返せたわ」
と娘に泣き付かれれば否定はしない。
「そうかそうか、天竜の涙が守れて良かった」
と、笑顔を見せるだろう。
そこに、エンドー・トウヤ──俺が戻る。
「残念ながら、怪盗ジュークは逃がしました」
と、激しい格闘を物語るように、頭をボサボサにして肩を押さえながらね。
でも、天竜の涙が無事だった事で安堵した一同は、そんな事に突っ込んだりはしない。
「トウヤの力がなかったら、天竜の涙は奪われていたわ。本当にありがとう」
と、ヒカルコさんに感謝され、俺の株も上がり、めでたしめでたし……。
◇
……とまあ、俺が考えた『「天竜の涙」窃盗未遂計画』は、ザッとこんな感じ。
でも、今考えると、これを実行しないで済んだのは、ある意味幸運だったんだろうと思う。
──この計画には、致命的な欠陥があったのだから。
長年の貧乏暮らしで、俺はドレスコードというものに疎い。
だから、夜にモーニングを着るのはNGというのを知らなかった。
朝、公爵がしていた格好そのままを、変装用に用意してしまっていたんだ。
もし、怪盗ジュークをやっつけた公爵が偽物だとバレたら、怪盗ジュークと格闘していた俺は何をやっていたんだ? となる。
つまり、俺の正体がバレる危険があった。
ともあれ、大きな計画の変更があったとはいえ、天竜の涙は守れたし、万事がうまくいったワケだ。
──何? 飛行船を墜落させて博物館を爆破して、何がうまくいっただって?
勘違いしては困る。
俺は怪盗さ。ヒーローじゃない。
……とまあ、俺の怪盗としての能力を理解してもらえただろうか。
大した事ねえな、と思った君には、間違いなく怪盗の才能がある。俺が保証するよ。
──そろそろ時間だ。
作者にバレる前に、この辺でズラかるとする。
でも、その前に。
怪盗として、ひとつやっておかなければならない。
それは、この予告状を君に渡す事。
挑戦したいのなら構わない。俺はいつでも受けて立つよ。
じゃあ、また。
次は「地母の要の隠された地」で──
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