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Ⅰ.トーキョー・ファントムシーフ
(26)闇ノ義賊
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――これは虐殺だ。
魔法狂信者のあの憲兵隊長は、ミソギを殺す事を蚊を叩くのと同様に思っている。
このホールの客は百人超。これから先、どれだけの血が流されるか分からない。
トウヤはそう思ったが、今の彼にそれを止める手段はなかった。
たった六発の弾丸では、十人を超える憲兵たちを止める事はできない。下手に手を出せば、ヒカルコを窮地に陥れる事になる。
無力さに唇を噛む。そして無意識に力が入った手をヒカルコが掴んだ。
トウヤの腕の中で、彼女は顔を上げた。
「私が止めに行く」
「それはダメだ」
「なら、無実の人が殺されるのを、黙って見ていろって言うの?」
涙と怒りに震える黒い瞳に、トウヤは訴える。
「公爵の壮大な計画を、ここで無駄にしたくはないんだよ……頼む」
トウヤが頭を下げると、ヒカルコは唇を震わせた。
「でも……」
「その代わり、俺が助けを呼びに行く」
トウヤはじっとヒカルコを見つめる。
「君はここで、目を閉じ、耳を塞いで待っていてくれ」
そう言って、彼はヒカルコの頭を伏せ、手を耳に持っていく。
「必ず戻る。何があっても、絶対にここを動くな」
肩を震わせながらヒカルコは答えた。
「分かったわ――信じてる」
彼女が目を閉じるのを確認してから、トウヤは動いた――拳銃をベルトに挟み、ポケットに隠し持っていた光学迷彩マントを被る。
壁に背を向けホールを見渡す。義眼を暗視モードに切り替えれば、薄暗いホール内も手に取るように観察できる――憲兵の配置は、扉の前に二人、四方に一人ずつ。隊長を含めた残り五人が、床に座る人々のところを回っている。
客の分布は、やはりホールに集中している。バーカウンター、ダーツ場にも客と従業員はいるが、ステージはバンドと歌手のみだ。
「…………」
隊長の横柄極まる態度を睨みながらも、足音を忍ばせて壁沿いを進む。
姿を隠しているとはいえ、気配を察せられたら厄介なため、人混みは避けたい。その上、扉から出る事はできない。
しかし、こういう場所には必ず、もうひとつ出入口がある――舞台袖だ。しかも、ステージは最も人の密度が低い。
ステージ中央に集まるバンドを避けて、トウヤはカーテンの隙間に滑り込んだ。
そこは、大道具や譜面台が置かれた狭い空間。その奥、壁際の操作盤の前で、男が一人硬直したように突っ立っていた。舞台の照明係だろう。
そう見ると、トウヤは彼に近付き、
「悪いな」
と首に腕を回す。頸動脈を軽く締めれば、不運な男は呆気なく気を失い床に転がった。
それからトウヤは装置に向き合う。
金属パネルに多くのスイッチが付いている配電盤のようなもの。それを見て、彼は推察する。
『魔法機関』というのは、二十二世紀の電力に該当するものだ。その主な供給源は二種類ある。
魔法石を核とした小型魔法機関、言わば自家発電装置を利用する場合と、「トーキョー魔法公社」という、発電所に当たる施設から配分される場合。
交通機関や公共施設、アカサカの高級住宅街など、安定した経済力がある場所は自家魔法機関を持っている。
だが、低階層が集まるアサクサのような場所は、公社から魔力を引いている場合が多い。
――つまり、公社を利用しているなら、配電盤に当たる装置を切ってしまえば、建物全体の照明を落とす事ができる。
トウヤはそれを狙ったのだ――この状況を一発逆転させる存在である、怪盗ジュークの登場には闇が必要だから。
操作盤のレバーを全部下ろせば、舞台照明がバチンと消える。ステージのバンド、そしてホールからも悲鳴が上がった。
しかし、ホールの明かりは落ちていない。これはどういう事か?
だがトウヤはすぐに理解した。
ホールを照らすシャンデリアには、もうひとつの魔力供給源――魔法石を直接はめ込んだ、言わば無限バッテリーが使われているのだ。
魔法石は高価なものだ。そのため、エネルギー源として使う場合は高級品、もしくは配線が極めて困難なものに限られる。
高いアーチ天井に吊るされたシャンデリアは、その両方に該当する。
ならば、どうやって光量の操作をしていたのか……魔法に決まっている。リモコンの要領で魔法を飛ばして、魔力の出力調整をするのだ。
足元で倒れる男が握る手杖を見て、トウヤは軽く舌打ちした――これでは、シャンデリアの明かりを落とせない。
しかし、ぐずぐずしている暇はなかった。
「誰かそこにいるのか!」
と、憲兵がやって来たからだ。
トウヤは舞台袖の奥、楽屋口へ向かう扉へ走った。彼を追う足音はふたつ。
壁の影に身を潜ませ、やって来た一人に足を掛けて転倒させ、後頭部に肘打ちを食らわせる。
もう一人は、トウヤについてきたリュウが感電させた……通信がなくても思い通りの動きをしてくれるところは、さすが優秀な相棒だ。
伸びた二人を物陰へ隠し、トウヤはホールに向けて声を上げる。
「楽屋口から逃げました! 二人で追います!」
これでしばらくは時間が稼げるだろう。
それからトウヤは楽屋に向かう。壁に張り付く相棒も彼に従う。
「リュウ、頼みがある」
「何でアリマスか?」
「助っ人を呼んできてくれ。誰でもいい」
「誰でもいいでアリマスか?」
「ヒカルコさんに『助けを呼んでくる』と言ってしまったからな。適当な酔っ払いでも引っ張ってきてくれ」
「了解でアリマス」
リュウは小さな体をくねらせて、素早い動きでたちまち楽屋口の隙間から消えた。
その間にも、トウヤは仕込みをする。
このかき入れ時に、舞台裏にいる従業員はいない。この建物の全員が今、ホールにいるという事だ。
これは彼にとって好都合だった。
楽屋を覗き、ステージ用のフロックコートとトップハットを拝借する。少々テカテカしているが、贅沢は言っていられない。
それから室内を見渡す。備品庫も兼ねているようで、ホールで使う消耗品の類が棚に置かれていた。
彼はそこからダーツの矢をポケットに入れ、黒のチーフを顔に巻く。
急ごしらえだが、とりあえず格好は整った――ここからは、『怪盗ジューク』だ。
そうしてそっと楽屋口を出る。裏通りの人影は酔っ払いか、仲睦まじく唇を重ね合うカップルくらいだから、気付かれる心配はなさそうだ。
彼らを背に見上げる、無駄に凝った造りのダンスホールの外壁には、手がかりとなる出っ張りや窪みが豊富にある。それを伝って向かった先は……
エントランスロビーの上。
ホールの天井との高さの差にある飾り窓の前だ。
そこで彼は、ベルトの拳銃を手に取りくるんと回した。
「……さて、怪盗のご登場だぜ」
ジュークは屋根ギリギリまで退がり、助走で勢いをつけて窓に飛び込んだ。
ガラスの破片が散る。
それが床に降り注ぐより早く、窓枠を蹴ったジュークの体は中央のシャンデリアに到達した。
想定外の闖入者に、憲兵たちは反応できない。彼らが散らばるガラス片から身を守る一瞬で、ジュークは次の手を打つ。
ホールにぶら下がるシャンデリアは五つ。中央の大きなもの、その周囲に配置された小さなものが四つ。
ジュークは中央のシャンデリアに飛び乗ると、勢いに任せブランコのようにぐるんと回す。その動きに合わせ、周囲の四つのシャンデリアを次々と撃ち落とした。
義眼に仕込まれた光学スコープで照準を導けば、百発百中は難しくない。拳銃の扱いは二十二世紀でイヤというほど慣れている。
ガシャンという落下音に悲鳴が重なる。真下の何人かが軽い怪我をするだろうが、死人が出るよりはマシだ。
それから足下の魔法灯を撃ち割れば、ホールは漆黒の闇に包まれた。
――これで、自由に動ける。
義眼を操作し、暗視モードを最大にする。
ホールの客の多くは伏せて頭を抱えている。手杖を構えて周囲を見回しているのが憲兵だ。
こちらが銃を持っていると示せば、たとえ懐中電灯的なものを持っていても、明かりは使えないと考える。的になるだけだからだ。
だが、こちらには義眼があるから関係ない。
ジュークはダーツを取り出し、正確無比な投擲で憲兵を狙う。
目、喉、利き手……魔法が使えなくなる部位を狙い撃ちされれば、彼らには為す術がない。
――だがひとり、部下を盾にダーツを回避した者がいた……隊長だ。
彼は風属性の魔法使い。その特性を生かし、わずかな空気の流れから、ダーツの放たれる先を読んでいた。
「――轟嵐!」
収斂した竜巻がシャンデリアを吊るす鎖を切断する。飾りを撒き散らしながら鉄枠ごと本体が落下すれば、逃げ惑う悲鳴がホールにこだました。
……その様子を、ジュークは舞台上の照明から眺めていた。同じ場所に留まるリスクを考え、直前に飛び移っていたのだ。
「酷い事をしやがる」
彼は呟く。
あの大きな鉄枠の下敷きになれば、軽傷では済まないだろう。
だが、隊長は構わない。
「どこだ! どこにいる! 出て来い!」
と、アーチ天井に喚き散らす。
当然、ジュークに答えてやる義理はない。真っ暗闇の中為す術のない彼らは、このホールから退出する以外に方法がないのだ。
そう導くための作戦だった。
――ところが。
隊長が突然、足元で頭を抱えていた客に杖を向けたのだ。
そして宣った。
「出て来なければ、この女を殺す!」
ジュークの全身に、嫌な冷たさが広がっていく。
吐き気を伴う悪寒を覚えた彼は、無意識に拳銃に手を添えていた。
――残りは、一発。
『人ノ命ヲ奪ウ事、是ヲ禁ズ』
師匠に最も厳しく言い付けられていた禁を破らなければ、彼女を救えないのだろうか。
魔法狂信者のあの憲兵隊長は、ミソギを殺す事を蚊を叩くのと同様に思っている。
このホールの客は百人超。これから先、どれだけの血が流されるか分からない。
トウヤはそう思ったが、今の彼にそれを止める手段はなかった。
たった六発の弾丸では、十人を超える憲兵たちを止める事はできない。下手に手を出せば、ヒカルコを窮地に陥れる事になる。
無力さに唇を噛む。そして無意識に力が入った手をヒカルコが掴んだ。
トウヤの腕の中で、彼女は顔を上げた。
「私が止めに行く」
「それはダメだ」
「なら、無実の人が殺されるのを、黙って見ていろって言うの?」
涙と怒りに震える黒い瞳に、トウヤは訴える。
「公爵の壮大な計画を、ここで無駄にしたくはないんだよ……頼む」
トウヤが頭を下げると、ヒカルコは唇を震わせた。
「でも……」
「その代わり、俺が助けを呼びに行く」
トウヤはじっとヒカルコを見つめる。
「君はここで、目を閉じ、耳を塞いで待っていてくれ」
そう言って、彼はヒカルコの頭を伏せ、手を耳に持っていく。
「必ず戻る。何があっても、絶対にここを動くな」
肩を震わせながらヒカルコは答えた。
「分かったわ――信じてる」
彼女が目を閉じるのを確認してから、トウヤは動いた――拳銃をベルトに挟み、ポケットに隠し持っていた光学迷彩マントを被る。
壁に背を向けホールを見渡す。義眼を暗視モードに切り替えれば、薄暗いホール内も手に取るように観察できる――憲兵の配置は、扉の前に二人、四方に一人ずつ。隊長を含めた残り五人が、床に座る人々のところを回っている。
客の分布は、やはりホールに集中している。バーカウンター、ダーツ場にも客と従業員はいるが、ステージはバンドと歌手のみだ。
「…………」
隊長の横柄極まる態度を睨みながらも、足音を忍ばせて壁沿いを進む。
姿を隠しているとはいえ、気配を察せられたら厄介なため、人混みは避けたい。その上、扉から出る事はできない。
しかし、こういう場所には必ず、もうひとつ出入口がある――舞台袖だ。しかも、ステージは最も人の密度が低い。
ステージ中央に集まるバンドを避けて、トウヤはカーテンの隙間に滑り込んだ。
そこは、大道具や譜面台が置かれた狭い空間。その奥、壁際の操作盤の前で、男が一人硬直したように突っ立っていた。舞台の照明係だろう。
そう見ると、トウヤは彼に近付き、
「悪いな」
と首に腕を回す。頸動脈を軽く締めれば、不運な男は呆気なく気を失い床に転がった。
それからトウヤは装置に向き合う。
金属パネルに多くのスイッチが付いている配電盤のようなもの。それを見て、彼は推察する。
『魔法機関』というのは、二十二世紀の電力に該当するものだ。その主な供給源は二種類ある。
魔法石を核とした小型魔法機関、言わば自家発電装置を利用する場合と、「トーキョー魔法公社」という、発電所に当たる施設から配分される場合。
交通機関や公共施設、アカサカの高級住宅街など、安定した経済力がある場所は自家魔法機関を持っている。
だが、低階層が集まるアサクサのような場所は、公社から魔力を引いている場合が多い。
――つまり、公社を利用しているなら、配電盤に当たる装置を切ってしまえば、建物全体の照明を落とす事ができる。
トウヤはそれを狙ったのだ――この状況を一発逆転させる存在である、怪盗ジュークの登場には闇が必要だから。
操作盤のレバーを全部下ろせば、舞台照明がバチンと消える。ステージのバンド、そしてホールからも悲鳴が上がった。
しかし、ホールの明かりは落ちていない。これはどういう事か?
だがトウヤはすぐに理解した。
ホールを照らすシャンデリアには、もうひとつの魔力供給源――魔法石を直接はめ込んだ、言わば無限バッテリーが使われているのだ。
魔法石は高価なものだ。そのため、エネルギー源として使う場合は高級品、もしくは配線が極めて困難なものに限られる。
高いアーチ天井に吊るされたシャンデリアは、その両方に該当する。
ならば、どうやって光量の操作をしていたのか……魔法に決まっている。リモコンの要領で魔法を飛ばして、魔力の出力調整をするのだ。
足元で倒れる男が握る手杖を見て、トウヤは軽く舌打ちした――これでは、シャンデリアの明かりを落とせない。
しかし、ぐずぐずしている暇はなかった。
「誰かそこにいるのか!」
と、憲兵がやって来たからだ。
トウヤは舞台袖の奥、楽屋口へ向かう扉へ走った。彼を追う足音はふたつ。
壁の影に身を潜ませ、やって来た一人に足を掛けて転倒させ、後頭部に肘打ちを食らわせる。
もう一人は、トウヤについてきたリュウが感電させた……通信がなくても思い通りの動きをしてくれるところは、さすが優秀な相棒だ。
伸びた二人を物陰へ隠し、トウヤはホールに向けて声を上げる。
「楽屋口から逃げました! 二人で追います!」
これでしばらくは時間が稼げるだろう。
それからトウヤは楽屋に向かう。壁に張り付く相棒も彼に従う。
「リュウ、頼みがある」
「何でアリマスか?」
「助っ人を呼んできてくれ。誰でもいい」
「誰でもいいでアリマスか?」
「ヒカルコさんに『助けを呼んでくる』と言ってしまったからな。適当な酔っ払いでも引っ張ってきてくれ」
「了解でアリマス」
リュウは小さな体をくねらせて、素早い動きでたちまち楽屋口の隙間から消えた。
その間にも、トウヤは仕込みをする。
このかき入れ時に、舞台裏にいる従業員はいない。この建物の全員が今、ホールにいるという事だ。
これは彼にとって好都合だった。
楽屋を覗き、ステージ用のフロックコートとトップハットを拝借する。少々テカテカしているが、贅沢は言っていられない。
それから室内を見渡す。備品庫も兼ねているようで、ホールで使う消耗品の類が棚に置かれていた。
彼はそこからダーツの矢をポケットに入れ、黒のチーフを顔に巻く。
急ごしらえだが、とりあえず格好は整った――ここからは、『怪盗ジューク』だ。
そうしてそっと楽屋口を出る。裏通りの人影は酔っ払いか、仲睦まじく唇を重ね合うカップルくらいだから、気付かれる心配はなさそうだ。
彼らを背に見上げる、無駄に凝った造りのダンスホールの外壁には、手がかりとなる出っ張りや窪みが豊富にある。それを伝って向かった先は……
エントランスロビーの上。
ホールの天井との高さの差にある飾り窓の前だ。
そこで彼は、ベルトの拳銃を手に取りくるんと回した。
「……さて、怪盗のご登場だぜ」
ジュークは屋根ギリギリまで退がり、助走で勢いをつけて窓に飛び込んだ。
ガラスの破片が散る。
それが床に降り注ぐより早く、窓枠を蹴ったジュークの体は中央のシャンデリアに到達した。
想定外の闖入者に、憲兵たちは反応できない。彼らが散らばるガラス片から身を守る一瞬で、ジュークは次の手を打つ。
ホールにぶら下がるシャンデリアは五つ。中央の大きなもの、その周囲に配置された小さなものが四つ。
ジュークは中央のシャンデリアに飛び乗ると、勢いに任せブランコのようにぐるんと回す。その動きに合わせ、周囲の四つのシャンデリアを次々と撃ち落とした。
義眼に仕込まれた光学スコープで照準を導けば、百発百中は難しくない。拳銃の扱いは二十二世紀でイヤというほど慣れている。
ガシャンという落下音に悲鳴が重なる。真下の何人かが軽い怪我をするだろうが、死人が出るよりはマシだ。
それから足下の魔法灯を撃ち割れば、ホールは漆黒の闇に包まれた。
――これで、自由に動ける。
義眼を操作し、暗視モードを最大にする。
ホールの客の多くは伏せて頭を抱えている。手杖を構えて周囲を見回しているのが憲兵だ。
こちらが銃を持っていると示せば、たとえ懐中電灯的なものを持っていても、明かりは使えないと考える。的になるだけだからだ。
だが、こちらには義眼があるから関係ない。
ジュークはダーツを取り出し、正確無比な投擲で憲兵を狙う。
目、喉、利き手……魔法が使えなくなる部位を狙い撃ちされれば、彼らには為す術がない。
――だがひとり、部下を盾にダーツを回避した者がいた……隊長だ。
彼は風属性の魔法使い。その特性を生かし、わずかな空気の流れから、ダーツの放たれる先を読んでいた。
「――轟嵐!」
収斂した竜巻がシャンデリアを吊るす鎖を切断する。飾りを撒き散らしながら鉄枠ごと本体が落下すれば、逃げ惑う悲鳴がホールにこだました。
……その様子を、ジュークは舞台上の照明から眺めていた。同じ場所に留まるリスクを考え、直前に飛び移っていたのだ。
「酷い事をしやがる」
彼は呟く。
あの大きな鉄枠の下敷きになれば、軽傷では済まないだろう。
だが、隊長は構わない。
「どこだ! どこにいる! 出て来い!」
と、アーチ天井に喚き散らす。
当然、ジュークに答えてやる義理はない。真っ暗闇の中為す術のない彼らは、このホールから退出する以外に方法がないのだ。
そう導くための作戦だった。
――ところが。
隊長が突然、足元で頭を抱えていた客に杖を向けたのだ。
そして宣った。
「出て来なければ、この女を殺す!」
ジュークの全身に、嫌な冷たさが広がっていく。
吐き気を伴う悪寒を覚えた彼は、無意識に拳銃に手を添えていた。
――残りは、一発。
『人ノ命ヲ奪ウ事、是ヲ禁ズ』
師匠に最も厳しく言い付けられていた禁を破らなければ、彼女を救えないのだろうか。
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