ルーデンス改革

あかさたな

文字の大きさ
18 / 24

18

しおりを挟む
 



「えっと……どうしてですか?」


 わざわざ親が頼んでくるくらいだ。
 もしかして、芸術に没頭し過ぎて友達がいないとか?

 一人で壺作りに勤む王子を想像する。

 自己完結の世界作ってる人って話しかけづらいよね……。

 王は相変わらず、真剣な瞳で訴えかけてくる。


「込み入った事情があって、息子は人から避けられており、私も簡単に会うことが出来ぬ立場。しがらみのないマリーならば、息子の良い友人になってくれるのではと思うたのだ。もちろん無理にとは言わぬ」


 つまり、芸術にのめり込み過ぎた王子は、うんちくばかり垂れるので友達が出来ず、部屋に篭ってばかりいるので王も中々会いづらい、ということか。
 でも、"しがらみのない私ならば"って何?
 ……あれ、もしかして王子と同類だって思われてる?なんでぇ!?

 "しがらみのないマリー"という言葉が、脳内で勝手に"同類のマリー"に変換される。

 困ったな……。興味ないから、芸術には全くもって詳しくないんだけど……。

 私が頭を悩ませていると、王が慌てるように口を開く。


「いきなり友人とはちと早急過ぎたな。気が向いたらでいいのだ……」


 捨てられた子犬のような健気な瞳で懇願されると、断れない気持ちになっていく。
 自然と口からは承諾の意を唱えていた。


「……まあ、会うだけなら」

「良いのか!?感謝する!」

「手土産に自作の壺とか持っていきましょうか?」

「壺……?いや、不要だ。身一つで構わぬ」


 話題作りに良いアイディアだと思ったけど、断られたのでやめておく。


「後で案内を寄越すので、気が向いた時にでも話し相手になってくれたら嬉しく思う。息子の名はアルバート、この国の第二王子だ。どうか名前で呼んでやって欲しい」

「第二王子?王って子供が何人いるんですか?」

「息子二人だ」


 勝手に子供は一人だと思い込んでいた。
 今まで第二王子のことを聞いたことがなかったから。


「今日はこの部屋の資料を読みたいのと、気持ちの整理をしておきたいので、明日に会いに行きますね」

「よろしく頼む。今後のことを含め、関係者には伝えておく。私はもう行くが、何かあれば遠慮なく言ってくれ」


 そう言い残して、王は部屋から出ていった。
 一人になって、改めて部屋の中をぐるりと見渡す。
 本棚に囲まれた部屋は、何処から手を付けて良いのか迷ってしまう。
 悩みながら、目を滑らせていく。

 適当でいいか……。

 目の前にある紙束を取り出して、机に座る。
 パリパリになった古い紙を破らないよう、慎重にめくっていく。
 報告記とタイトル付された紙束は、文字通り、日々の事柄を日付と共に記すだけのものであった。


 ブラッグ地方で重度の犯罪が多発。組織的な関与が疑われる。早急な対応が必要ーー。

 ゴルボン鉱山では、質の良い青い石がよく獲れる。磨けば、光り輝くように見える石はルーデンスの特産物であり、他国から見て希少性が高いーー。

 ルーデンスでは、独自の風習を持つ村が多い。村同士の対立も目立っており、最低限の意識的統一は必須ーー。


 紙の文字をなぞりながら集中して読んでいると、部屋のドアが突飛なく叩かれ、そこへ目を向ける。


「僕だけど、お昼ご飯の時間だから、休憩しない?」


 扉越しに声をかけられ、私は慌てて立ち上がり、その人物の方へ近付いていった。
 扉を開けると、笑顔のクリスさんが目の前に立っている。


「もしかして、ずっと扉の前に居たんですか?」

「それも仕事の内だからね。君、朝から何も食べてないでしょ?時間が過ぎたら、また食べ損ねちゃうから、早く行くよ」


 付き合わせてしまって申し訳ない気持ちになりながら、クリスさんの横を歩く。
 たどり着いた食堂は、大勢の人で溢れかえっていた。
 こんなに人が集まっている場を見たのは初めてかもしれない。
 知らず知らずに圧倒されてしまっている。
 がやがやとうるさくも活気ある場は、楽しげに見えた。


「何ぼんやりしてるのさ。何頼むか決まった?」

「ま、まだです!すぐ決めます……えっと」


 メニューにはよく分からない品書きがずらりと書かれていた。
 正直どんな料理が出てくるのか、よく分からない。
 メニューを凝視して悩んでいるとーー。


「取り敢えず、無難なAセットにしたら?」


 そうクリスさんが提案してくれたので、今日はそれに乗る事にする。


「じゃあ、Aセットにします」

「Aセット二つね」


 クリスさんが、食堂の人に声を掛けると、食堂の人は皿の上に料理を盛り付けていく。


「Aセットお待ち」


 出来上がったAセットを持って、クリスさんの後をついて行くと、大きな大声が彼を呼んだ。


「あっ、ブレアムさ~ん!ここですっ!!」


 元気に手を振る少年は、大勢の人が賑わう中で一際目立っていた。
 少年と食事を取り囲む一員を見てみると、ロバートさんとクライドさんの顔がある。

 もしかして、第四騎士団員の人達?


「相変わらず、元気だなあ……うちの新人騎士は」


 クリスさんの影から顔を出して、まじまじと顔触れを確認していると、呆れたようにクリスさんが声を発した。
 新人騎士と言われた少年の顔つきは何処となく幼く、同い年くらいに見えた。
 少年を凝視していると、少年の視線がクリスさんから私へ向けられた。


「その人は……?」

「あれ?話、伝わってない?この子は僕たちの護衛対象だよ」

「マリーです。これからよろしくお願いします」


 私の話になったので、簡単に挨拶をした。
 じっと私を見つめる複数の視線に、少し狼狽えると、グラスの中の飲み物が跳ね、慌ててお盆の方へ意識を向ける。

 ……危ない。もう少しで溢すところだった。


「ずっと立っているのも何だ。好きに座ってくれ」


 ロバートさんの好意に甘え、隣の席の人に軽く会釈をしてから空いている席へと座る。
 同じく席に座ったクリスさんが無言で食べ始めたので、私もAセットを食べ始めた。

 ……おいしい!流石王宮!ご飯に外れがないわ!


「ーーどう思う?マリー」


 食事に夢中になっていると、いきなり会話を振られ、我に返る。
 どうやら、知らぬ間に会話が弾んでいたらしい。

 食事に夢中で聞いてなかったとか恥ずかしい。
 絶対、食い意地張ってるとか思われた。

 自然と顔に熱が集まってくる。


「もう一度……言ってくれる?」


 人の話はちゃんと聞こう……。
 そう心に刻み込んだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

公爵家の養女

透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア 彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。 見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。 彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。 そんな彼女ももう時期、結婚をする。 数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。 美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。 国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。 リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。 そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。 愛に憎悪、帝国の闇 回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった―― ※第一章、十九話まで毎日朝8時10分頃投稿いたします。 その後、毎週月、水朝の8時、金夜の22時投稿します。 小説家になろう様でも掲載しております。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...