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第三章
災厄と最悪の狭間にて 〜 辰上&麗由side 〜
しおりを挟む一度、噂観測課極地第2課の事務所へ集合した辰上達。
茅野とリャンハン、ゴーマ、燈火にトレード。加えて、神木原兄妹と辰上の計八名のみが集まった。
「これだけですか……はい。しかも、茅野さんとリャンハンさんは怪我してますからね……実質、戦えるのは5人だけですね……はい。おっと、乳デカ星人も片手が使えないんでしたね?はい?」
「チッ!!んだと、テメェ!?」
「まぁまぁ、喧嘩はその辺にしてくれないか?キミ達」
「「「か、課長っ!!??」」」
突如、二人の喧嘩の仲裁に入った声に全員が驚いた。
実 真である。彼はようやく、病院を退院出来たと思えば噂観測課としても、世界的にも大変なことになっている。それを知って、久々の課長席のシートに沈む。
そこへ、麗由が煙立つコーヒーの入ったカップを置く。早速手に取って、口につける実であったが直ぐに天井目掛けて虹を作り、立ち上がって麗由のことを睨みながら口元を拭いた。
「な、なんだこれ?神木原(妹)くんさ?」
「何って、山葵入りグリーン増し増しエスプレッソですが。やはり、実様の舌はリハビリが必要でしたか?」
「あはっ、あはは…………」
キッと辰上を睨む実。麗由は、変わらずの課長への対応であると表情を崩さずに、他のみんなにもカップを手渡していく。どれも、異物のないコーヒーであることを飲んでいる様子からして、読み取った実はとぼとぼと椅子に戻った。
そして、ベルフェゴールに致命傷を負わされ病室で黙って寝ていたわけではないと、モニターを準備して全員に報告すべき情報を開示する。
それは、インフェクターから空美を救出するために戦った日に現れた過激派。そのリーダーを務めているハスターについて、実が独自で調べていた内容であった。
インフェクターにも、目的を持って行動されていることが発覚し、ホウライ率いるインフェクター部隊は怪異と人間のバランスを保つこと。言ってしまえば、噂観測課と性質の似ている組織形態をしている。異なることは、均衡を計るために人類を怪異化させることを厭わないという点があげられる。
対して、ハスター一派は世界の破壊と再生を目論む邪教組織であった。文字どおり、リーダーのハスターはクトゥルフ神話における邪神の名を冠した怪異。邪神復活もおける新訳を調べて分かったこと、それはハスターはつがいとなる存在と一つの存在になることで、世界を塗り替えられるほどの怪異となり得る危険性を孕んでいるというものであった。
「要するにだ。このクトゥグアに相当する怪異、或いはそれそのものとハスターが接触している状況は危険とも言える。加えてだ、過激派に組みしているインフェクター」
「……【美しき残滓】、か…………」
「そう。オレは気がかりで仕方なかったことが1つ。何故、8年もの間───霧谷 来幸の体に拘ったのか。それはすなわち……」
「そうか!?」
辰上の口を挟んだ言葉で、全員が実の辿り着いた仮説を理解する。それは仮説というより、真実であることがこの状況を物語っていた。
霧谷 来幸こそ、そのクトゥグアを宿した人間だったのである。しかし、疑問は尽きない。もしそうであるのなら、スレンダーマンは何故ハスターに協力したのか。狙う対象が一緒であっても、目的が一緒とは思えない。
わざわざ、手に入れた体をみすみすハスターに手渡し、世界の終わりへ導く必要があるのだろうか。辰上の頭の中には、その疑念がどうにも引っかかった。
実から更なる追加情報が飛んでくる。この騒動が、世間一般に明るみになっているということである。ハスターの仕業であることは突き止め済みだが、政府や機関の対応では揉み消すのにも限度があり、世界各所の噂観測課も機能を損なっている。
「何より、オレもこれからそっちの対策に向かわないといけないんだけど。噂観測課とその関係者しか知り得ない。インフェクターの存在とその生態を知りたがっている物好きな組織もいてだね?そいつら、ハスターが明るみにした内容以外のことまで知ってるのなんので……」
「おい、そんな話。あたいら1課にも伝わってねぇぞ?」
「あれ?そうだっけ?オレは1課には連携しておくって聞いたけど?」
「そんなことよりも、一刻も早くハスターを見つけないと。それに、来幸って方の遺体は安置しているって聞いたことはありますけど、何処へ?」
それなら教えられても、第1課の人間にしかロックが解除できないからと、トレードが席を立った。来幸の確保に向かうと言って、その場を去って行くのであった。
やがて、政府からの緊急通信が届いた。内容は、ラットを討って逃亡したとされているディフィートが、ホウライ達インフェクターとの接触を試みているというものであった。
一同は、特定された場所へ向かうべく準備を始める。すると、実は茅野とリャンハンの肩を叩いて呼び止めた。そして、二人にはラウの捜索も含めた別件があると言って連れ出した。
仕方なく辰上と麗由、ゴーマ、燈火の四人は現場へと向かうことにするのであった。
□■□■□■□■□
━ 辰上達と別れたトレード ━
第1課の事務所に立ち寄り、スレンダーマンから切り離した遺体を留置している施設。その留置室へ入るためのカードキーの入った、金庫に暗証番号と指紋認証を経て解錠して中身を取りだした。
「待ち伏せとはな、おめぇらしくねぇの」
「そこに閉まっていたんだな?何も言わずに貸してくれ、それ」
真っ暗な事務所内に聞こえる同志の声が、冷たくトレードに向けられる。トレードは振り返って、正体を確かめる間もなく鎌を振り回して斬りかかった。
壁やフェンスを突き破って、事務所から外れにある並木道に出る二つの影。真っ赤に燃え盛る深紅色の剣身に、闇夜が似合う薄紫色の髪が風になびく。トレードは腕を固定していた包帯と当て木を投げ捨て、果敢に攻撃を続ける。
ひらりと回り避け、バク転で距離を取る相手に喰らいつく追撃。金属同士が火花を散らせど、鍔迫り合いに持ち込むことない打ち合い。遂にトレードが口を開く。
「本当にラットをやったらしいな?その様子じゃ、アブノーマルもおめぇの手中に収まったってとこか?ディフィートッ!!??」
「…………。なぁ、トレード?やっぱり男ってのはさ、譲れないものって……あんのかな?」
「はぁ……?」
意図が掴めない質問。しかし、言葉を投げてきたディフィートの目は、その答えを純粋に知りたがっている。そうして怯んだ隙をディフィートが逃すはずもない。
ハッと我に返ったトレードの胸部に、左右から衝撃が加わる。抵抗して拳を振るうも、するりと避けられ脇腹に一撃。空かさず、背後を取って首筋に一撃。
しかし、いずれも打撃。ディフィートの拳から繰り出された攻撃など、トレードの鍛え抜かれた身体にはかすり傷にもならない。そのはずだったが、振り返ってディフィートを視界にいれた途端にグラついた。地面が揺れ、身体が何十倍にもんあった重力を相手しているかのように重たく、腕に力が入らない。
鎌を手放してその場に倒れ、息が静かになっていることを感じるトレード。それを見下ろすように、ディフィートが近付いてくる。
「ど、どう……いう、つも……り……だ……」
「お前に寝ていて欲しいって…………、どうしてもって執拗くってな……。だから、寝てもらうことにした。安心しな、あと一発で夢の中さ…………」
とても、これまで苦楽を共にしてきた仲間に対して向ける声のトーンではない。それがディフィートの裏切りを裏付けるかのように、トレードの意識が閉ざされていく。
太ももにチクリと、何かが刺さる感触を最後にトレードは意識を完全に手放してしまった。
やがて、連絡が取れなくなった辰上の通報により、事務所の近くで倒れているトレードは回収されたが、その手に来幸の留置室へ向かうことの出来るカードキーはなかった。
□■□■□■□■□
━ 現在 ━
ディフィートが目撃された現場へ到着した辰上と麗由。ゴーマは一足先に、現地にてディフィートと接触。そのまま戦闘になったが、政府から派遣された怪異使い共々に倒され、医療班によって手当てを受けていた。
幸い全員が、あの最強の怪異使いと接敵したというのに、気を失っただけで済んでいるということであった。いずれも意識不明ではあるものの、重体となっているわけではない。
「そういえば、総司さんはどうして来てくれなかったんだろう?」
「…………っ。きっと、ディフィート様と戦闘になるかもしれないから、来られなかったのかと……」
「そうなのかな?僕にはどうにも、スレンダーマンを倒すことに意識を集中したい……そんな風な殺気に似たものを感じた。だから、そのスレンダーマンを守っているのがディフィートさんなんだって、信じたくないのかもしれない」
事務所で作戦を決めて、飛び出して来てから現場に辿り着いた。そして、ゴーマ達の回収が終わったここまでに、三日は経っていた。
休む間もなく動き続けていることもそうだが、引っかかることが多すぎて気持ちを落ち着かせられない辰上。麗由も同じで、トレードが病棟に搬送された知らせを聞き、不吉な感覚を拭いきれなくなっていた。
噂観測課極地第1課。その仲間達が次々に消えていく。それも、自分と兄である総司の幼馴染であるディフィートの手によって。そうまでして、かつての親友の姿をしたスレンダーマンに手を貸そうとしているなんて、信じたくもなかった。
「あ~、よしよしですよぉぉ?はいぃぃ~~っ!!」
「お前何やってんだ?」
そこへ燈火がやって来た。その両手には、赤ん坊が抱えられていた。以前の資産家で起きた事件で、身寄りを失くした赤ん坊であった。燈火は保護センターへ送る手続きをしていたら、泣き止まなくて大変だった。
引き取り口が見つかるまでの間、こうして拠点内を回っていたのであった。しかし、一向に泣き止まない赤ん坊を見て麗由は、もしかすると母親のように優しくしてくれたディフィートのことを思って、泣いているのかもしれないと思い抱き上げた。
「大丈夫です。あなたに優しくしてくれたディフィート様は、きっと何か考えがあって行動しているはずですから。わたくし達にお任せください」
「アキャッ♪エヘッ、エヘヘヘヘ……♪」
急に泣き止んで、笑顔を取り戻した赤ん坊を燈火に手渡す麗由。燈火は言葉を失いながら、あやす手の動きを休めることなく暖の取れる場所へと向かうのであった。
やがて、森を抜けた先に旧道トンネルを発見。そこに、霧谷 来幸とディフィートを目撃したと偵察班より入電があった。その後すぐに、襲われている声が聞こえて通信は切れてしまった。
考えている暇はない。辰上と麗由は立ち上がり、顔を見合わせて頷き通信の途切れた場所へと急いで向かった。
「よぉ、オトシゴちゃん。1人で何しに来た?もしかして、スレンダーマンを追ってきた?」
「ディフィートさん…………」
トンネルを越えた先で、貨物車の輸送ルートに使われていた橋。そのど真ん中にディフィートは待っていましたといった様子で、辰上に声をかけてきた。
「ここには、もう居ないぜ。来幸の体もアイツに渡した」
「本当に……ラットさんやみんなを……?」
「ああ。あたしがしたことだよ。ちょっとさ、こっちにも時間がないんだよね……」
「時間?あなたがしたことは、返ってハスターに都合がいい状況を招いただけに過ぎないんですよ?」
「そう熱くなるなよオトシゴちゃん。とにかく、邪魔はさせないからさ……寝てくれ!!」
辰上の全身が強ばる。
一瞬で、数メートル先に立っていたはずのディフィートが、あと数センチで胸がくっつく距離まで詰め寄って来ていた。そして、利き手に握られた愛剣ドゥームズデイ。とても、間に合わない。
だが、辰上は恐れおののいている自分の身体に踏ん張りを効かせ、下を向いて声を上げる。
「麗由さんっっ!!」
「────っ!?」
「はあああああぁぁぁぁ!!!!」
辰上に向けられていた剣を盾に替え、頭上からディフィートを目掛けて襲い来る小刀を払い除けた。砂埃を上げて後退り、口角を上げる。目で敵を捕らえた麗由は、追撃をかける。
一秒の間である刹那、火花が無数に飛び交う。互いに一歩も引かない打ち込み。こんなこと、怪異使いとして再会を果たすことになる以前から、一度もした事のない本気の試合。いや、殺し合いであった。
「ふんっ、強くなったなヒマワリちゃん。やっぱ、オトシゴちゃんがそうさせたのか?」
「無論です!そして、ディフィート様と戦えない兄様に代わって、わたくしが……いえ、わたくしと龍生様が貴女を止めますっ!!」
「その意気はよしッッ!!!!」
鍔迫り合いのなか、補いきれないものを言葉で交わした二人。そして、ディフィートが地面に拳を叩きつける。
すると、豪速を鳴らして愛棒ラグナロッカーが飛来し、麗由との間を分断した。去り際の長剣を掴み、飛行すると空砲を鳴らして直角に移動して麗由の死角を突く。
しかし、ディフィートの奇襲は弾かれてしまった。同時に薙刀による反撃で、地上に引き戻されるディフィート。風が吹き荒れ、再び姿を現した麗由は黒ドレスに変わっていた。
お互いに橋を駆け抜け、牽制し合うように刺しと突きで応戦する。ブレーキをかけ、回し斬りで麗由の脚を狙った一撃。それをアクセルターンで宙に躍り出ることで回避し、カウンターで小刀を振るう。
ガチンッという音がして、これもまた決定打にならない事を戦闘に参加できない辰上にも分かるように知らせ、両者互角の闘いを見せる。
すると、麗由は何かに気付いたように攻撃の手をピタリと止めてしまう。その一瞬を逃すはずもない。ディフィートは長剣を斬り上げて、薙刀を手放させようと仕掛ける。小刀で辛うじて阻止するも、薙刀だけになってしまったことで首に伸びてきたディフィートの手を防げなかった。
「麗由さんっ!!くっ……」
辰上が大声を上げる。そして、こちらに走って向かってくる。そんななか、ディフィートに麗由は言葉をかけた。
「ディフィート様……、貴女の怪異達からも伝わって来ました……ディフィート様は…………」
「ヒマワリちゃん、悪いな……あたしはまだ────」
ラグナロッカーをブラスターモードに変え、麗由の頬に銃口を向ける。
その一切の容赦がない動作に、辰上も声を上げて走ってくるが間に合うはずもない。すると、麗由が背中にある橋の鉄骨を蹴った。そのまま頭突きを当て、ディフィートの拘束を逃れ、向かってくる辰上を背後に薙刀の刀先を差し向けた。
なんと、麗由はディフィートに首を掴まれた間にチャージを完了させていたのである。その一撃を持って、ディフィートの暴走を止めるべく加減はなしで躊躇わずに放った。
─── 清浄の調べを持つ黒点ッッ!!!!
金色の大鳳が、ディフィートに命中する。仰け反って、ラグナロッカーを構えるのが間に合わなかったディフィートを包む、黄金の火柱の火を絶やすことなく麗由はかざした薙刀に力を込める。
やがて、大爆発を起こして辺りが金色に燃え立つ炎に包まれた。
怪異を浄化させる麗由の一撃。いくら、百戦錬磨のディフィートと言えども隙が出来てしまった状態で喰らっては、ひとたまりもない。それどころか、死んでいたっておかしくはない。麗由の隣に辿り着いた辰上は、息も整いきる前からその心配を口にしていた。
激しく燃え盛る炎で、影すら確認出来ない。一先ずは、回収班に連絡を入れて現場の後処理を依頼するよう麗由に提案され、思わず置き去りにしてきたバッグを取りに元来た道を戻る辰上。
着いて行こうと麗由が、ディフィートが居た火の海を見つめていたところで踵を返した。
「────足りねぇな…………」
「「「「────────ッ!!??」」」」
二人の足がピタリと止まる。再び火の海を見ようと振り返った辰上の身体に、衝撃が走り地面に頭を軽く打ち付ける。
脳震盪が一瞬起きると、辰上の目の前には麗由の黒ドレスから透ける下着が見えていた。しかしそれに気を取られる間もなく、咄嗟の判断で自分を庇ってくれた麗由と一緒に起き上がる。
「もっと本気で殺ろうぜ!テメェもそうなんだろ?」
「────っ!?は、早いッ!?」
(早すぎるッ!?これでは、龍生様を庇いながらの戦闘は────)
疾走するディフィート。
なんと、あれだけの攻撃を零距離で受けたはずのディフィートは、無傷であった。それどころか、さっきまでの戦闘がウォーミングアップだといわんばかり、走り込みに麗由は対処出来ないことを確信していた。
激しい爆風が生じて、辰上は地面を転がりながらその場から吹き飛ばされる。あっという間に、バッグを置いていた場所まで飛ばされてしまった。それでも、意識を失うことなく痛めた部分を手で押さえながら、何が起きたのかを確認する。
「あら?深層意識のさらに奥───。そこで、気を完全に消していましたのに……?お気付きとは、凄い勘の持ち主ですね」
「ヘッ♪どうせ、追われてる身だ……、とことん殺り合おうぜ♪テメェだってウズウズしていたんだろう?えぇん?始祖の怪異さんよぉぉぉ!!!!!!」
麗由の身体にディフィートの剣は、届いてはいなかった。
金布のような、美麗な金髪に碧眼となった"麗由"。メイドカチューシャを川へと投げ捨て、黄金の炎が全身を駆け巡る一瞬でエジプト服に身を包む。それがネクベトであると、辰上は直ぐに視認した。
両者の間には、バリアが張られていた。そして、バリア手で払うように持ち上げると、ディフィートを持っていた長剣ごと大空へ吹き飛ばした。バリアと刃が擦れ合い、激しく火花を散らしていくなか、ディフィートは軌道から逸れるようにバリアを跳ね除ける。
瞬間、真下にいるネクベトに背を向けラグナロッカーをリロードする。空砲を強力にして吹かし、急降下して一気に戦線復帰と同時に剣撃をお見舞いする。それもバリアに弾かれ、空間を相手するディフィート。
「────っ」
「ヒマワリちゃんの時とは違って、随分と消極的な闘い方だな、おい」
「ご安心を♪わたし、貴女に勝つことは出来なくとも負けるつもりはありませんので♪」
のほほんとした態度。
ディフィートが特に癪に障ると、嫌っているそのノリに舌打ちを漏らす。その脇からバリアがディフィートをどついた。再び飛ばされる身体。しかし、橋の柱部分を踏み台にネクベトの方へ再度斬りかかる。その際に、愛剣を吸い寄せてネクベトのバリアにぶつけるも容易く弾かれる。
ラグナロッカーの刀身を突き刺した。バリアを一枚、二枚と貫通させる。しかし、それでもまだあと三枚もバリアを多重に張っているネクベトは、いつの間に取り出したドーナツを頬張ってエネルギーを貯えていた。
「無駄です無駄です♪そんな乱射しちゃ、終焉の針が可哀想です~♪はむっ♡」
「ムカつくな、その余裕。なら、これなら────、どうかなッ!!」
突き刺さった銃口から、魔弾を撃ち放ちバリアを更に砕いていった。そして、チャージショットを放つと同時に、衝撃をすべて身体にダイレクトで受けるディフィート。
これには、ネクベトも驚いた。自らの攻撃で身体を飛ばすこともそうだが、彼女の狙いが透けていたとはいえ、余りにも正攻法とは言えるものではなかったである。
辰上が居る橋の入口まで吹き飛び、指笛で愛剣を呼ぶ。雷切を放って、ディフィートの命令に従うドゥームズデイを踏み台にして、受けた衝撃を電撃に変えて地面に逃がす。着地と同時にドゥームズデイを持って、駆け抜ける。
正に電光石火。いや、稲妻の如き機動力でネクベトのバリアを風圧だけですべて破壊し、遂にネクベトに杖を使わせた。ガラス細工が砕け散ったように、霧散して降り注ぐバリアの破片達。
「なんと、向う見ずな……」
「どうした?護りがなきゃ、テメェもその程度かよッ!!」
「くっ……!?」
杖で剣を押し退け、再びバリアを展開する。
しかし、ドゥームズデイとラグナロッカー。二つを手に持つディフィートの剣さばきに、バリアの生成が追いつかない。最早、その戦いは外部には何が起きているのかさえ確認出来ない。
その証拠に辰上の目には、今どちらが優勢で戦いが進んでいるのかが分からない。
激突し合うなか、橋から飛び降りるネクベトとディフィート。遅れて、辰上が下を覗くと目を見張った。なんと、黄金色と翠と紫纏う光が川の水辺。その上を走りながらぶつかり合っていた。
片方は古の魔術によって飛行し、片方は長剣をサーフボードにして滑空しながらの打ち合い。そんななかで、ディフィートの眼の色が紫色から、稲妻の如く光唸る翡翠色へと変わる。
「まさか、そこまで同化していて理性を保っていられるなんて!?」
「あ?知るかよ、んなこと。あたしはずっと、ドゥームズデイともラグナロッカーとも、同調率は100%さ」
「有り得ませんっ!!人の身で怪異と完全な同化等ッ!?」
「はんっ♪だったら、テメェとヒマワリちゃんはどうだって言うんだ?それだって、同化ってやつなんじゃねぇのかぁ?」
衝撃の事実を互いに、口にしながらの戦闘。
怪異との同化。ディフィートが他の怪異使いと、群を抜いて強さに差があったのはこの同化があってのもの。
本来なら、人間の身での同化は怪異の力を《一部》あるいは《ある程度》引き出す程度のもの。その中で理性や人間である時の意識が、残ったまま操れる者を怪異使いと呼んでいる。
そして、それを極めたものは怪異と同化が始める。ネクベトが驚いているのは、同化が起きて正気を保っていられるのは、あくまでも一体が限度とされているからである。
それを二体同時に同化しているなんて、奇跡以外の何物でもない。だからこそ、ネクベトは彼女を危険視することにして奇術を発動させる。
ネクベトの周りに四体の化身が現れ、ディフィートを襲う。
下半身が霊体のまま、一体目がディフィートの身体を攫う。川岸に叩きつけられたディフィートは、剣を振り回してまとわりつく霊体を払う。そして、眼を発光させ雷切を放ち飛び膝蹴りで霊体を蹴散らす。
「ネイトさんッ!!うぅ……ッ!!」
ネクベトの叫びを首切りに、残りの三体は一斉にディフィートを目掛けて襲い来る。川から水を立たせて、大顎を開く霊体。跳び箱のように飛び越え、背中に乗り剣を突き刺そうとするディフィート。しかし、無数の蛇が巻きついて地面に引きずり落とす。
苦しみ悶えるも、それは一瞬。咆哮をあげると全身が光り輝き、雷霆を巻き起こした。その雷霆は、まとわりつく蛇をすべて黒焦げにする。そして、蛇を操っていた女型の化身を粉砕する。
切り抜けたのも束の間、大顎に飲み込まれるディフィート。勝利の雄叫びをあげる化身は、さながら巨大な鰐であった。
「ウアジェトも振り切るとは恐れ多い存在でしたね。でも、これで…………ッ!?そんなっっ!!??」
「これで全部か?」
「セベクも───、アペプまでも倒したというのですか?」
「ヒトの心配してる場合か?あぁ?」
神といえども、太陽神は光の神。そう、光が稲妻に速さでは勝てない。全知全能の神は、いずれも雷霆や稲妻を操ってきたとされるのは、雷が発生する速度に光の速さでは追いつけないからである。
ネクベトはディフィートの速さに対処出来ずに、もろに一撃を受けてしまう。
身体を打ち付けながらも、さらに化身を召喚してディフィートを牽制する。しかし、先程は小手調べを兼ねての所作。今度は違う。
そんなことは知らず、ただ剣を振るディフィート。ラグナロッカーで蹂躙しては、ドゥームズデイで消し炭に変えていく。三位一体の攻防に、それぞれが光を放ち心臓のように脈打ち鼓動する。呼応しているという方が相応しい。
ネクベトはこれまでに見てきた、人と怪異の歴史の中でもここまでお互いに寄り添っている同化は、一度も見たことがなかった。口惜しいのは、これを切り離しディフィートの暴走を止めなくてはならないこと。
心の中で叫ぶ、麗由の声を聞きネクベトはディフィートを完全に止めるには、全力の浄化で昇天させるほかないと魔術や奇術を越えた魔導力を注ぎ込み、究極の一撃を準備する。
「いきますよ神木原 麗由。貴女の幼馴染を今───、怪異から切り離します。切除するための一撃をっっ!!ここにっ!!!!」
「────────ッ!!??邪魔だッッ!!」
ようやく、ネクベトの狙いに気が付くディフィート。しかし、もう遅い。
周りを取り囲む化身を蹴散らし、ネクベトに向かっても。回避するために、稲妻の如く走り去っても。次のネクベトの一撃は、ディフィートに当たるまで追い続ける。
黄金の魔力が集約される杖を振り回し、両手で柄を握り締めて臨界点に達した一撃を解き放つ。
『『『恒星集いし始祖なる聖陽ッッッ!!!!!!!!』』』
麗由とネクベトの声が重なる。
それは、魔弾や化身を撃ち出すものではない。それは、ディフィートの足元に浮かび上がり、電子レンジにスイッチがついたように一気に放出された黄金の柱。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁ──────ッッ!!!!」
化身達も光となりて、ディフィートを焼き尽くす。断末魔がやまびこして、辰上の耳にも響いた。持っていたラグナロッカーを手放し、ドゥームズデイを杖代わりにその場で耐え忍ぼうと、堪えるディフィート。なおも、光は強くなっていく。
翡翠色の雷切が消え失せる。ラグナロッカーとの繋がりを絶たれたのだ。そして遂に、身体を仰け反らせて胸を天に突き出すディフィート。白目を剥いて、立ち尽くす彼女から紫色の瘴気と赤黒い雷撃が発せられる。
それは、愛剣ドゥームズデイとの繋がりさえも、断ち切られたことを意味していた。最強の怪異使いを普通の人間へと浄化させる黄金の柱は、徐々にその輝きを失っていった。静かにディフィートがその場に膝をつき、勝敗は決した。
───かに見えた。ラグナロッカーとドゥームズデイを破壊するべく、ネクベトが近付いた瞬間。
「まだ、戦うのですか?もう貴女はただの人間……」
「って訳でもないさ…………」
煙が消えるなか、拳を突き出したディフィート。
その手には、グローブがはめられていた。そして、蒼白いオーラを発してネクベトを突き飛ばした。岩場に背中を打ち付けたネクベトに、再び拳が目の前に現れる。堪らず、バリアを張る。
そして、ディフィートは振り被った拳を容赦なく繰り出した。黄昏色のバリアと拮抗する、これまた金色の光を纏った拳。ようやく、橋を降りて近くへやって来た辰上がその一撃を見て、言葉を漏らした。
「ブリッド オブ フィスト───。空美さんの技、空美さんの怪異だ……」
「おら、次だッ!!」
ヒビは入ったものの、破壊までには至らなかった一撃から身を斥けるディフィート。その両手にあった、グローブとガントレットが消滅する。
それと入れ違いに投げた鎖。ネクベトのバリアをなぞるように通過し、岩場に刺さるとディフィートは腕を引いた。途端に岩場が砕け、棺が出てきた。そして、棺に体の自由を奪われたネクベトが引き寄せられる。
ディフィートの手には、御札がありネクベトの肌の露出した腹部に貼り付けると、いきなり爆散してネクベトは棺を突き破って吹き飛ばされた。それを見ていた辰上は、ディフィートが跳んで追跡した後を走って追いかけた。
二人を追いかけながら、辰上は動揺していた。ディフィートがここまで強いこともそうだが、ネクベトを追い詰めているあの攻撃の数々は───、
(トレードさん、空美さん、アブノーマルさんの怪異がもつ特徴に似ていた。というより、それそのものだ……)
その思考を遮るように、道路に出たところでネクベトが息切れを起こして辰上のいる前に、地面を削りながら後退してきた。
「さぁ、テメェの怪異無力化。あいや、浄化の力だっけか?まぁなんでもいい。人様の怪異までは、掻き消せないらしな」
「はぁ、はぁ……、はぁ……、えぇ。あくまでも今のは、怪異とその持ち主の縁を絶つ魔導……。貴女が他の方の怪異を使って来たのは、驚きでした」
「そうかい。それと、もう1つ……隠してたことがあってな。悪ぃなオトシゴちゃん、あたし……もう行くから」
ディフィートの一言に、眉を歪ませる辰上。すると、ディフィートはまっすぐこちらに走って来た。
ネクベトは、エネルギーを消費し過ぎていた。それでも残された力を使って光弾を放ち、ディフィートの行く手を阻む。それに対してディフィートは、懐からサイコロを投げつけて爆発させる。ラットの力さえも使い、突破を試みるが足元に光弾が一発当たり、宙に身を差し出すことになった。
しかし、ディフィートはニヤッと笑みを浮かべる。そこへ独りでライトを照らしながら疾走する、ディフィートのバイクが現れる。ドゥームズデイ、ラグナロッカー。そのどちらかによって、遠隔操作されていたとされていたバイク。
それを見て辰上は気付くが、時すでに遅しであった。
「まさか……っ!?」
「こいつが切り札さッ!!巻き起こせ───、【顕現する三厄と騒乱】ァァ!!!!」
主の呼び声に、色と形状を変えていくバイク。漆黒のボディは、バイオレットカラーの鱗を模した紋様を描き、よりスピードに特化した形状へと変わる。マフラーが左右に三連式で搭載された、改造車へと生まれ変わった。
着地地点ピッタリに疾走する、トライディザスターに駆りスロットルを効かせて、ネクベトの気休め程度の多重結界を突き破ってマフラーから噴き出る、三色のエンジンスチームを吹きかけた。
「んじゃあな!勝負は引き分けって事にしといてやる。テメェの方はガス欠みてぇだからな?」
「なっ!?ドゥームズデイもラグナロッカーも健在!?」
「当然だろ♪そいつの怪異を浄化する力は、ヒマワリちゃんとそいつ自身。つまり2つが限界なんだからよ♪」
ヘルメットを着け、バイクを走らせてその場を逃走するディフィート。
辰上は力を使いきり倒れるネクベトを支えるのが精一杯で、ディフィートが逃げるのを見送ることしか出来なった。
「ま、まさか……第三怪異まで隠し持っているとは…………。あれでは、彼女の言うとおりわたしでは浄化出来ません……うっ……」
「お、おいネクベト?大丈夫か?」
「大丈夫でございます、龍生様……」
今度は髪がピンクに変わり、麗由に戻ったことで気が動転する辰上。
抱き起こすと直ぐに麗由は自分の足で立ち、ネクベトが休眠に入ったことを伝える。ディフィートが一枚上手だったことを知り、気を落とす辰上の肩に手を置き気が付いたことがあると、情報共有をしようと声を上げようとした時、
ぐぅぅぅぅ...。
ネクベトのガス欠は、麗由のガス欠でもあった。
あれだけ激しい戦闘を繰り広げても、軽傷で済んだ麗由ではあったがこのあまりの緊張感のない女に見える生理現象に、顔を赤らめてコクリと頭を下げて無口になった。
するとそこへ、赤ん坊をおぶったまま走って燈火が駆け寄ってきた。そして、ディフィートが逃げられたことは知ってるけど、もっとやばいことが起こったと大慌ての様子。
「ハハハ……、ハスターがですね。はい、こここ……これからッ!!」
「お、落ち着けッ!!ハスターがなんだって?」
「大きな怪異になって、進行を始めたんですよ!!目的地は不明なんですけど、何処かを目指して進んでいるみたいですよ!!はいっ!!」
「っ!?急ぎましょう!!────あ、でも……」
「分かってます。おい、麗由さんに食事は取らせてやってくれないか?」
かくして、一度帰還することとなった辰上達。
麗由の全身全霊を持ってしても、ディフィートの行動を止めることが出来なかった。それどころか、ハスターが動き出したことで事態は緊迫していた。
やがて、車に乗りこみ車内で料理を振る舞う燈火。それを勢いよく駆け込む麗由を見て、一安心するなか辰上は一つ確信出来たことがあった。
ディフィートは、ハスターと手を組んでいるわけではないということ。スレンダーマンと合流するために、ネクベトの攻撃をくぐり抜けた。そうだとすれば、彼女の目的はインフェターとも違うものである可能性がある。
だが、この時は知らなかった。この後、最愛の人間同士で死闘を繰り広げることになっていたことに───。そう、ディフィートと総司が剣を交えることになるとは───。
そしてその対決の行方が、この戦いにどんな結果をもたらすのか。辰上の知らないところで、様々な試練は動き出していたのであった。
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