意味が分かったとしても意味のない話

韋虹姫 響華

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第三章 ※現在更新中のメインシナリオ

災厄と最悪の狭間にて 〜 インフェクターside 〜

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「驚きだね。お前さんの方から、自分らに手を貸そうなんて言うのは?」
「別に……、驚くこたぁねぇだろ。で?ここにいるヤツで全員なのか?数が減ってねぇか?」

 瓦礫と化した座椅子に腰掛けるホウライ、その隣で片腕を失い修復待ちのルンペイル、歓迎していない形相のガイヤァル、ガイヤァルを宥めるように手を添えるスケープゴート。
 悪魔系統のメンツが一人もいない状況に、質問したことへの返答。アスモダイオスとベルフェゴールは、麗由達との戦闘で行方知れずとなった。サタナキアも単独行動に出て、それっきり音沙汰なしとなっていた。
 しかし、そのサタナキアの紹介でここへやって来たというと、尚更信用出来ないと鬼の剣幕でトンファーを構え出すガイヤァル。

「まぁいいじゃねぇか。腹の底は見えないが、お前さんも仲間を手にかけてきたんだろう?ディフィートさん?」
「ああ。噂観測課は現状、2課の連中しかまともに動けんだろうさ」
「俺達が貴様を信じることへのメリットは?」
「ねぇな!」

 はっきりとそう返して、足元に置いていた棺を持ち上げる。そのまま踵を返したディフィートに、ルンペイルは質問を投げかける。棺の中身はなんなのかと。
 すると、首だけ向けて気だるそうに答える。この中には、連中を誘き出す餌が入っていると。それを聞いて、ホウライはパイプたばこのフラスコを叩きつけて笑った。

「気に入ったぜ。乗った!自分はお前さんを歓迎しよう」
「なっ!?ホウライッ!貴様、コイツがどれほど危険か分かっての決断か?」
「いいではありませんか、ガイヤァル」

 しかし。そう口答えしようとしたが、すぐに口を噤んだガイヤァル。実際のところ、今の戦力でハスター一派とやり合うには、心許ないと思っているからこそ誰も口出しを出来ない。
 猫の手も借りたい状況なのは、どこも同じだった。そんななか、噂観測課を逃亡してきた最強の怪異使いが、手の内は明かすことなくとも噂観測課の戦力状況を提供してまで、作戦に加わりたいと申し出て来たのだ。だれでも、その誘いを無下には出来ないであろう。
 同時にホウライは、今のディフィートは逃げ場がない。となれば、使えるだけ使ったあとに始末することが出来ないか。その機会を図るためには、近くにいた方がいいと考えていた。

 双方の目論みを明かさないまま、握手を交わす。そして、ルンペイルが小鳥を手に乗せ、ホウライの目の前で飛ばして見せた。途端に、遠隔の映像を映し出す投影術が展開される。
 そこに映っていたのは、森の中で瞬姫ときひめとともいる【美しき残滓スレンダーマン】の姿があった。


 □■□■□■□■□


 水砂刻がおかしくなり始めている。目の前にあった日常が、噂観測課やインフェクターとの出会い以降、少しずつ崩れ去ろうとしている。そう感じた瞬姫は、来幸の誘いに応じて修行を積んでいた。
 自身の中に眠る怪異の力を引き出し、来幸との組み手でも最初はついていけなかったものが、今では簡単に届きお互いに実戦の武装を着けて戦っていた。

「ふぅ……。ありがとう来幸。おかげで、色々と思い出せてこれたわ。あたしが怪異を使える理由も……、このネックレスがなんなのかも……、そして───、どうして水砂刻のこと……ほっとけないって気持ちになっていたのかも……」
「そう。今の瞬姫……強い。もう、インフェクターにも負けない」
「それって、自分がそうだからって言いたいの?ん~、でももう少しだけ。1人で修行してから、水砂刻のところへ行きたいの……。そうじゃないと……ダメな気がして」

 俯いて、ネックレスを見つめる瞬姫。その目は、水砂刻へ打ち明けるべきことを秘めている感じがした。

 来幸がそんな瞬姫に近付いて、肩に触れようとした瞬間に気配を感じて暗闇を睨む。同時に瞬姫を押し飛ばして、距離を取った。二人がいた場所に炎の柱が通過して、大木の一つを灰に変える。
 尻もちを着いて、地面に倒れる瞬姫が視線を来幸の方へ向ける。来幸の真上に人影が急接近していた。声を出す前に、足元が炸裂する。来幸の、いやスレンダーマンの影が触手となって瞬姫の足場を破壊したのだ。そのまま、瞬姫は土砂の中に埋もれて坂道を流されていくこととなった。

「へぇ?てめぇにも、人情ってのがあんだな?スレンダーマン」
「■■、インフェクターと組んだの……」
「ああ。てめぇを見つけるためになぁ!!」

 ディフィートの叫びを咆哮に、愛剣の雷切が大地に亀裂を走らせる。その力任せな一撃に気圧される来幸。
 すると、ディフィートの頭上からまた一つ。ガイヤァルが追い討ちをかけて来た。それをダガーを袖から取り出して、鍔迫り合いに持ち込みディフィートにナイフを投げて牽制する。
 スライディングで容易くナイフの弾幕をすり抜け、すぐにガイヤァルと合流するディフィート。二人の間に切り込みを入れて、ガイヤァルのトンファー連撃を通しやすくする。読みどおりに、来幸の両肩、両腕から首にとコンボを決めていくガイヤァル。

「ぐっ……」
「ここまでだな、スレンダーマン。貴様を倒し、邪神復活を阻止する。あとは、ハスターとそれに組みした天使崩れを始末するだけだ」
「────。」

 前方と後方。それぞれに立ち構える、ディフィートとガイヤァル。その両者が、武器に怪異の力を込めて来幸へトドメを刺そうと走り出す。
 そこへ遅れて、ホウライが到着する。これはもう自分の出番はなしと、木の上で手を着いて様子を見ることにするホウライ。その隣にはスケープゴートも来ていた。
 体勢を立て直そうと、よろよろ起き上がる来幸。苦し紛れでしかないが、【美しき残滓スレンダーマン】の力を解放して対抗しようと試みる。だが、それよりもさっきに結果は訪れた。

「────。」
「…………ガッ、ゴフ……ォォ!!??」
「「「────何ッ!?」」」

 ガイヤァルの繰り出した、トンファーの先が来幸の肩に触れる前で地面に垂れ下がる。ディフィートの愛剣は、来幸の耳スレスレを通過して、ガイヤァルの中心を穿いていた。

「ぎ、……さま…………」
「悪いな。こいつ……まだ死なれたら困るんだわ…………」

 剣圧を込めて、ガイヤァルを切っ先から吹き飛ばしたディフィート。
 ホウライとスケープゴートが、裏切りと見て木から飛び出した。ディフィートは、愛剣を置き去りにしていた棺の方へ投げつける。同時に離れた場所から、爆発音が大地を抉ってスケープゴートを襲う。
 木に串刺しにされるスケープゴート。刺さった長剣はすぐに抜かれて、主の元へ吸い寄せられる。ホウライの飛び込み斬りを受け止める役割を果たす。

「やっぱ、こうなるんだな。自分は、お前さんがハスターの差し金だとは思っていたがね……」
「残念ながら、不正解だ。あたしは、来幸こいつを渡しに来ただぜ?」
「────ッ!?まさか、あの棺はっっ??」

 ホウライが慌てて、棺の方へ視線を向ける。すでに、手遅れ。ドス黒く、これまでのインフェクターのどの瘴気にも当てはまらない衝撃波を発し、ソレは完全体へと変わった。

霧谷きりがや 来幸ここ……、ホンモノだ。まさか、君が私に返してくれるなんて……ね」
「御託は後だッ!!逃げるぞ!!」
「チッ!させねぇ!?」

 ホウライの【不死の蜃気楼】。その爆炎が、ディフィートとスレンダーマンを逃さない。手に持つ竹槍を紅蓮の槍に変え、ディフィートに襲いかかる。
 金属同士が弾け合う如く、灼熱の火の粉を振り撒き怒涛の連撃でディフィートを追い詰める。これまでにない熱量は、当然ホウライの身体にも負担は甚大。それでも、止めたかった。何としても。

「分かってんのか?ハスターの野郎は、スレンダーマンがそうなる時を待っていたんだぞ?」
「だからなんだ?そんなもん、あたしが全部纏めて────ぶっ潰すッ!!」

 感情に任せた闘い方は、時に相手の型を乱すのに長けている。故に、歴戦の猛者が戦闘経験の浅いものを相手に手こずることも。ただ、その状況にディフィートとホウライは当てはまっていただけ。すなわち、見切ったディフィートの相手にはならない。
 力任せなホウライの薙ぎ払いを敢えて、真っ向から受け吹き飛ばされたディフィート。飛ばされた先の大木に、加えられた全衝撃を受け流す。へし折れる大木を踏み台に、突進してくるホウライの頭上をダイブする。その一瞬で、霞切りで背面を斬りこんだ。
 黒い血飛沫を上げて、その場に膝を着くホウライ。徐々に、周囲の炎が弱まり、二人を閉鎖していた結界が維持出来なくなる。このままでは、トドメを刺されてしまう。そうあってもおかしくない。そのはずが、ディフィートは追撃を仕掛けない。

「まだ……馴染まない……。少し、時間……いる」
「だろうな。棺で持ってきたあたしの身にもなれ、ちっとは休みてぇ。ここは退くぞ。ヤツらが来る」

 手負いのホウライとスケープゴートを見やる。そして、ガイヤァルがいない事に気が付いたディフィートは、声をスレンダーマンにかけようとするが、新手がすでに来てしまった。

 噂観測課。その斥候がやって来たのである。スレンダーマンとガイヤァルが戦闘を開始している。早いこと、この場を切り抜ける。それが、今のディフィートが取るべき最前の手だった。

「困りましたね。特別遊撃隊として、救援に来た現地の怪異使いと戦闘しなくてはならないとは……」
「誰だ、てめぇ?ラ・フランスの仲間か?まぁ誰でもいい。今あたしの邪魔するやつは……みんな敵さッ!!」

 ゴーマを筆頭に現れた怪異使い。その隊員をあっという間に気絶させ、ゴーマと一騎討ちに出るディフィート。
 その神速の戦闘スタイルに、冷や汗を浮かべながらディフィートに喰らいつくゴーマ。それもそのはず、一体ですら相手するのに苦労するインフェクター。それを二体もその場に倒れ伏してしまうほど、実力は上。

「妙な芸当しやがって……。髪の毛の怪異って訳か」

 しかし、ディフィートも相手したことのない怪異を相手に慎重に出ているため、実力は拮抗しているようにも見える。ゴーマはヘッドバンキングすると、地面からドリル状の髪の毛がディフィートを襲う。間髪入れず、髪をなびかせてネット状の攻撃網を展開して、ディフィートの逃げ場を奪っていく。
 いくら最強の怪異使いと言えど、逃げ場を失えば避けられる攻撃も限られる。ゴーマ知略的戦法に、翻弄されるディフィート。ふと、脚を取られ出来た隙に髪の連続攻撃を受ける。鞭打ちにされ、地面にバウンドしては網に囚われ、また鞭打ちに合う。
 確実にディフィートを追い詰めることに成功した。そう確信した時、ゴーマの首に強打の衝撃がゴスッと鈍い音を奏でる。

「はぁ……、はぁ……、おかげで少しは冷静になったぜ……」
「か、はっ…………」

 ゴーマが白目を剥いて、その場に倒れる。
 カランと、倒れた近くに愛剣ドゥームズデイ・リバイヴのケースが転がる。目の前の攻撃網に気を取られていたが、攻撃を受けざるを得ない状況に陥ったことによって、普段出来ていることを使用すれば対処は簡単だった。
 しかも、別にそうしなくてもディフィートは対象を気絶させずに殺してしまうことにシフトしていれば、ここまで苦戦することはなかった。その証拠に手に持つ愛棒ラグナロッカーツヴァイから、スチームを放出すると髪の毛はすべて焼け落ちた。
 勝つこと自体は容易かった種明かしをしつつ、スレンダーマンの加勢に向かうディフィート。あくまで人は殺さない。その心情が、後に此処へ辿り着いた辰上達に不信感と混乱を与えることになろうとは、知らずにガイヤァルを退けスレンダーマンとともに、森を抜け出す。

 やがて、土砂から抜け出せた瞬姫は来幸が何故助けてくれたのかを考えていた。しかし、同時に身体の中に電流が走ったような感覚が襲い、心の中で声を上げた。


『何この……哀しみ、怒り、恨み憎しみがすべて自分に向けられたような感じ……?まさか────、水砂刻ッッ!!??』


 同じ森の中。その近くに居た水砂刻の身に、何かが起きたことを直感した声であった。
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