意味が分かったとしても意味のない話

韋虹姫 響華

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第三章 ※現在更新中のメインシナリオ

始祖の覚醒と使徒の本格性〜サタナキア編〜★★★

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 猥臭漂う路地裏。
 建物の中ではなく、屋外で入り乱れる男女。阿鼻叫喚ともとれる、快楽地獄の饗宴が奏でる場所から少し離れた、屋上部の狭いプレハブで机の上に座る悪魔の姿が。
 悪魔の名はサタナキア。上級悪魔怪異の一柱にして、インフェクターと同等の力を持つ。そんな彼女は、不愉快オーラを全開に棒付き飴をボリボリと噛み砕いて、自作の映写機が映している光景を視聴していた。

(はぁ~……っ、やっぱりそうだった……)

『あぁんっ///はぁ……っ、はぁ……っ、またっ……く、くるぅ』
『うぅぅ……っ。く、薫惹くんじゃ……っ、いや、ジャンヌ……っ』
『水砂刻さんっ///ああッ///で、射精てるッッッ///』

 日天文ひてんもん 水砂刻みさとき
 初めて見た時から、鳴堕なた 暁咲あきさもとい【恋路に潜む魔窟】サタナキアは、心の中に引っかかるものがあった。それは、水砂刻と以前に何処かであった事があるという既視感だった。
 前回の接触で、体液を奪い調べたことで確証に変わったサタナキアは、自分が人間と怪異の境界を研究する実験を始めることとなった、きっかけの青年に恋をしていたことに気付いた。
 しかし、その今の自分を作ったきっかけの青年は同居している、温田矢ぬるたや 薫惹くんじゃ。その正体は、インフェクターのルンペイルが生み出した怪異、【神を錯覚する田舎娘】ジャンヌ・ダルク。人間のふりをして、水砂刻に近付いた彼女の化けの皮を剥がそうと、偽装魔術を解いたサタナキアであった。
 その結果、不安定となった薫惹は同じ家に住む同居人の瞬姫ときひめ来幸ここが居ない時間帯で、水砂刻と肌を何度も重ねていた。怪異を宿しながらも、元は人間である水砂刻は怪異使い同様に人としての自我を持っている。しかし、人由来ではなく逸話をベースに産み落とされた薫惹。
 怪異であることを自覚してしまった、ジャンヌとしての理性を鎮めるため。人間であると、今も錯覚し続けるために水砂刻の生気を吸って形を保っていた。

 最初は抑えきれなくなった欲望を薫惹が、眠っている水砂刻の前で慰めて鎮めていた。しかし、糸が切れるのもあっという間。ジャンヌの力を開放していないにも関わらず、女体化した身体の火照り。
 怪異と共存した人間を探し出し、インフェクターに引き込むよう生みの親に施された命令。その葛藤の末、密かに想いを寄せていた水砂刻を前に────。

『好き……///水砂刻、さん……』
『ま、待て……。俺達、男同士……だろ?』
『いいえ♡私はジャンヌ。これから、貴方を聖人たらしめるための溺欲の逆レイプ清光な儀式を執り行う者です……♡』

 状況が飲み込めないまま、同性の友として一緒に居た仲間の膣内ナカで初めてを終える。
 それから、回を増す毎にジャンヌでいる時間が長くなり、水砂刻も戸惑いを隠せないまま体を重ねた。けど、決してそのまま疲れて水砂刻のベッドで寝ることはせず、他の同居人がいる時は我慢していた。その中で、サタナキアによって安定しなくなったことを聞かされ、水砂刻は暁咲を探すようになったのであった。

「────っ、もう……5発目…………っ!!!!」
(そいつは……水砂刻クン。キミを狙っている、悪魔の使いなんです……っ!!)

 自身が悪魔系統の怪異であることを忘れたように、絶頂の声を上げて二人で同時に果てる中継を見て、飴の棒を噛み砕くサタナキア。棒の亀裂部分に口内を切ったまま、飴を吐き捨て血と一緒にべっとりと壁に付着する。
 すると、口の傷を治す前に近くのソファーに縛り付けていた男に跨ると、口移しで自分を血を飲ませた。程なくして、息を乱して勃起したイチモツがグロテスクな血管浮き出るまで、肥大化して男は声にならない悲鳴を上げる。
 しかし、その口をサタナキアは自身のしっぽを押し込んで黙らせる。そして、顎から額まで伸びた長く太いイチモツに、長い長い蛇舌を絡ませて扱きはじめる。二又に分かれた舌先で、根元まで隈なく舐め上げて一気に男の興奮を突き上げていく。
 恐怖が快楽に負けて、男は今まで自分の手しか恋人がいなかったことを口走って果てる。顔全体で白い告白汁を受け止め、ぐったりしている男に馬乗りになって、挿入しピストンを始める。根元にしっぽを回し、圧迫感を与えて更に大きくさせながら、激しく腰を打ち付ける。

「どうだっ?イキたくてイキたくて、しょうがないだろ?ギャハハハハッ♪いいぞ、イケッッ♪このまま、童貞も───、人間も───、卒業させてやるからさぁ♡イヒヒヒッ……、ギャ~~ッ、ハハハハハハハッッ♡♡」

 サタナキアの罵倒が拍車となり、男は童貞喪失から記念すべき初膣内射精フィニッシュを向かえた。

(ああ……っ────、気持っち悪…………っ)

 中継に映る水砂刻の寝顔本命のアクメをオカズに、辛うじて快楽を得たサタナキアであったが、本来男を怪異に堕とすのは得意分野であるはずなのに、これ程にまで不快感を覚えることに驚いていた。
 これも、水砂刻という自分が怪異として存在意義を見出すきっかけとなった青年に、再会してしまったことで芽生えたこの想いのせいであると確信した。

「ア……ッ、ァァ────」
「は───ッ!?ちょっ……おいっ!?」

 賢者タイムになっていると、怪異と化した男がサタナキアの腰を掴んで机に上半身を押し倒して、後ろから犯しはじめた。
 さっきまで童貞だったこともあってか、優しさを一切感じさせない自己満足な抽挿。ただ痛いだけの愛撫に、腹の底から嗚咽の喘ぎ声が出るサタナキア。完全に人だった頃の理性はなく、射精してもお構いなしに乱暴なピストンを続ける怪異。

「てめぇ!?調子乗んじゃねぇぞ?わっちはてめぇの事が好きで筆下ろしセックスしてやったんじゃねぇ~よっ!このっ!勘違い童貞野郎がッッ!!!!」

 ガニ股にさせられた両脚を地面から離し、怪異の腰に回してホールドする。
 そのまま、イチモツを引きちぎる勢いで身体を捻って怪異の頭を床に叩き付ける。ドス黒い血が、秘部から滴るなかガントレットを装備した拳で、怪異に手を出そうとするサタナキア。しかし、その手首を掴まれ声をかけられる。

「よせよサタナキア。せっかく怪異にしてくれたってのに、もう殺すのか?男の相手が嫌ならオレに言ってくれれば、女を任せたのによ」
「はぁ……ッ、はぁ……ッ、……お師匠さん…………っ」

 止めに入ったアスモダイオスを見て、冷静さを取り戻すサタナキア。
 そのまま、身体に浴びた体液を打ち消す闇のオーラを放つと、暁咲の姿へと戻った。
 アスモダイオスが怪異に変貌させた、元人間たちに命令を出して散り散りになった。すると、欠伸をしながらプレハブ内に入ってくるベルフェゴール。二人も、天汝あまな 狩婬かいん上芭生かみばな エルという人間態の姿に変わって話を始めた。

「これで7体。奴らには、ある人物を探し出し攻撃するように言った」
「ねぇねぇ……、わたしぺオルは4人怪異にしたよぉ~~♪一番偉い?」
「エロいの間違いじゃないですか?あと、お師匠さんにエル先輩。わっち、この後は別行動でもいいッスか?」

 さっきまで、人々を怪異化させるために淫らな行為に及んでいたとは思えないほど、三人は落ち着いていた。
 そして、狩婬はこっちが呼びかけた時に合流してくれるのなら、好きにしてもいいと暁咲の単独行動を許可した。狩婬とエルが飛び出して行った怪異達に続いて、路地裏から街路へ抜けていくなか、暁咲は反対方向に歩みを始めた。

(やっぱり……、ルンペイル先輩の考えには賛同出来ないッスね……)

 表情は変えずに、ただ心の中で反骨心を燃やしながら闇の中を駆け出した。


 □■□■□■□■□


 人を喰らう怪異が、夜道を一人歩いている女性を襲った。
 肉塊と成り果てたその臓物を啜る怪異は、人間から怪異へと変わったものではないことはひと目でわかる。聖書に描かれる悪魔、その一言に尽きる風貌で咀嚼音を立てながら、近付いてくる足音を聞きつけ睨みつける。

「罪なき人を喰らいますか、悪しき魔の者よ」

 そこに現れた金髪碧眼の少女、ジャンヌは声高らかに自身の身に鎧を纏っていく。


聖女天臨マリアルフォーゼッ!!


 白銀色の甲冑が怪異の視界に入るや、細剣で喉元をかすり斬る。
 仰け反ったところに、突き攻撃による追撃をかけあっという間に怪異を追い詰めていった。両手に穴を空けられ、悲鳴をあげる為の喉笛も破壊された怪異は、断末魔すら上げることなく宵闇に塵となって消え失せた。
 すると、ジャンヌの背後から拍手がパチパチと響き、最早聞き馴染みすらある不快感のある笑い声が向けられた。

「ギャハハハハッ!いいご身分だなぁ?自分だって、今の怪異と同じ。人の心を食いものにしてしてるってのにさ……っ、エヘ……イヒヒヒ…………ッ」
「サタナキアッ!?見つけましたよ……っ、よくも私をこのような身体にしてくれましたね?貴女には、これを解いていただきます」
「おいおい?まだ正義の味方ごっこかよ?それに、感謝して欲しいなぁ……。誰のおかげで────、彼の童貞喪失人間の悦びと快楽に手を染められたのか……」
「クッ……、彼のことを口にするなぁぁぁぁ!!!!!!」

 それはこっちの台詞だと、鬼の剣幕で足元にあった怪異に襲われた残骸を蹴り飛ばして、立ち向かっていくサタナキア。


悪魔憑着デビライズ・ネーション...


 聖女の力を纏うジャンヌとは対照的に、悪魔の力を身に纏うサタナキア。ガントレットを胸前で拳合わせて鳴らし、大きく振りかぶって殴りかかる。

 ガチンと火花を上げ、狭いトンネル通りから一転して開けた廃倉庫へと戦いの場所が変わるほど、二人の撃ち合いは激しさを帯びていた。初戦で合った時、薫惹はまだ怪異としての自覚をしていなかった。それ故に、サタナキアの悪魔怪異が持つ特有のプレッシャーで、動きを制限することが出来ていた。
 しかし、今は違う。怪異としての側面を呼び起こされ、温田矢 薫惹としてではなく怪異ジャンヌ・ダルクとして戦っている彼女に、悪魔のプレッシャーは通じない。それは戦況に、著しい結果をもたらしていた。

「そこっ!」
「チィ……ッ、舐めるなッ!!」
「あまいっ!これで、どうですッッ!!」

 根本からして、相性が最悪であった。
 聖光を纏うジャンヌを相手に、サタナキアの悪魔態としての力はあまりにも無力。加えて、今着けているアーマー。《ナキアーマー》と自身の名前から文字って作った鎧は、見た目を変更しているだけで戦闘能力が向上している訳ではない。
 無声音で『ネイキッドアームド』と言っているとおり、裸の鎧────、つまりはなんの恩恵もない状態で、ジャンヌ相手に戦っているのだ。押されるサタナキアに容赦なく、攻撃を当て続け細剣を光の旗へと変え棍棒のように使って、追い詰めていく。
 本人のポリシーから、アーマーを装着してもくびれたウエストは隠さずに設計したことが仇となる。素肌が出ている臍部を小突かれ、レジストが着いているとはいえみぞおちを叩かれてしまえば、ダメージはそれなりにある。
 そして、脇腹を連続で強打されると、持ち上げられて木箱の山に投げ飛ばされるサタナキア。乾いた木が支えきれない体重に押しつぶされ、音を立てながら砂埃を散らす。

「これでトドメですッ!!聖女再天臨マリアゲイン───ッ」
「────。────フフッ…………」


───儚き聖女の波動聖光ラ ルーチェ ディ オンダッ!!


 ジャンヌの旗から放たれる浄化の光。
 よろよろと立ち上がり、無防備なまままともに光を浴びるサタナキア。激しい轟音と強風を巻き起こし、寝静まった真夜中でも近隣の人間が目を覚ましそうなほど、強大な衝撃を放っていた。
 シュゥゥゥーッと光熱が冷めていく音だけが、廃倉庫内に響き渡る。ジャンヌの眼前は黒焦げになった、木箱が散乱する。それ以外に、動く影もないことを確認して、旗を振り風に煽られぬよう丸める。踵を返して、その場から立ち去ろうとしたその時────、

「そうやって、善行を気取って……水砂刻クンとヤったんだよなぁ……?」
「っ!?まだ────ッ」
「わっち……、本当は泣きたいくらい悔しかった…………。はじめて、水砂刻の裸を見た時……いや、その前から────おまえに犯されているとこ、見ちゃってたんで…………」
「なっ!?ま、まさか水砂刻さんから感じた魔性は貴女が……っ」

 サタナキアの中で、何かが怒れ狂おうとしている。
 それは、薫惹が。ジャンヌが───。自分が恋をしてしまった水砂刻と体の関係を持ったこと、童貞を奪ったことを恨んでいたのではない。もうすっかり、恋人を気取っている。それもが。そう吠えると、ジャンヌはサタナキアこそインフェクターの仲間で、根っからの怪異ではないかと問い質す。
 すると、サタナキアは変身を解き鳴堕 暁咲の姿へとなり、逆開きさせているパーカーを掴み、半裸の体を見せつけながら驚くべき真実を口にした。

「わっちはおまえなんかとは違うッ!!わっちはね……っ、人間から怪異になったんだ。水砂刻クンと同じ。人を怪異に変える力なんて、メカニズムを理解すれば簡単だっただけッ!!このカラダは人間だった頃から、男どもの慰みものとして使われ女としての尊厳も破壊されたんだよッ!!」

 魔女狩りがなんだ。異端審問にて、火刑に処させれた。その英雄の武勇を借りて生まれた怪異だから、なんだって言うんだ。
 サタナキアは、怪異となって機能こそは再生したが人間であったことがあり、非人道的な性的拷問を受けた過去を明かした。その内容を聞いているうちに、吐き気すら催していたジャンヌ。しかし、それこそが暁咲の神経を逆撫でしていた。

「それだよっ、それっ!!人間から怪異になった訳でもねぇてめぇが、いっちょまえに教えを説こうと言わんばかりに同情して見せようとしやがってッ!!」
「そ、そんな────っ」
「てめぇの方こそ、悪魔なんだよッ!!そうやって、水砂刻クンを誑かして犯して、さぞ愉しかったろうさッ!!わっちは、が居て怪異と人の境界を研究して────、それが水砂刻クンで……」
「なっ……!?」
「ウアァァァァァァアアァァァァァ────────ッッッ!!!!!!!」

 再びサタナキアへと豹変し、腰部のバーニアにあるスロットの装填口に、二本のボトル状のカプセルを入れた。
 《バフォメット》、《ベルゼビュート》と音声が再生され、サタナキアのナキアーマーが赤く変色していく。ガントレットは右側だけ、異常に巨大で剛腕なアームへと変形した。
 さながら、破壊の象徴とも言えるその腕を掲げて、床を叩くと重力場を生じさせる。ジャンヌはその場に膝をつき、細剣を杖代わりにしていないと立っていられないほど、重圧を加えられる。


憑魂降代デビライズアップッッ!!!!ナキアーマー...デストロイマッドネス...。


 無声音が再生終わりの直後、ジャンヌは数十メートル先まで吹き飛んだ。壁はハリボテのように容易く突き破り、人であれば体がバラバラになっていてもおかしくない衝撃。
 痛みに倒れているジャンヌの頭を鷲掴み、背中を巨腕で殴るサタナキア。本の数回で、白く透き通った素肌が剥き出しになる。それでも殴り続けて、ドス黒い血が溢れ出した打撲を引き起こす。間髪入れずに、地面に叩きつけて弾んだジャンヌに渾身のコークスクリューを直撃させる。
 これには堪らず、地面を転げながら変身解除されてしまうジャンヌ。聖女の力を使い果たしたからか、薫惹の男としての姿に戻っていた。

「ぐ……っ、はぁ……なんて力、なんだ……」
「水砂刻クンを惑わすもの……、殺してやる……、今ここで消してやる」

 息を荒らげながら、その眼は明確な殺意を帯びていた。同時に、涙を浮かばせていた。
 それは、きっかけをくれた存在の水砂刻を弄んでいた自分に対する怒りと、そんな自分とは対照的に、生みの親からの指令を逃避している薫惹。本来の役割を果たせば、水砂刻を怪異の側に引きずり込み兼ねない。
 サタナキアも同罪であるようにみえるが、結果とそこに結びつく手順が逆になるだけで、研究結果のもと救いたいと思っていた人間を傍におけるのなら、最終的に問題はない。ただ、それがインフェクターの思惑と逸れていること。自分もインフェクターとなるのなら、研究を捨てることになり兼ねないと思うと、無気力感すら込み上げてくる。

 そうなる前に、ルンペイルが送った刺客を消す。そう決心して、薫惹の頭を掴み腹部を一発強打。吐いた血の色が赤いのを見て、あくまでも自分は人間だと言い張っている薫惹に苛立ちを込めて、コークスクリューを再度お見舞いする。


グサリ────ッ......


 突如、サタナキアの視界が斜めになる。
 横から感じた強い衝撃で、身体が地面に弾む。そして、はっきりと《痛い》という感覚が全身を伝う。

「薫惹、しっかりしろっ!!ここは一旦退こう」
「ミサ、トキ……クン」
「寄るなッ!!こんのぉぉぉ!!!!」
「────ッ……?イヒッ…………、イヒヒヒ…………ッ、ニシシシシ────ッ。ギャ~~~~ハハハハハハハッ♪」

 肩を貫かれ、また胸下から心臓を抉る形で体を貫かれたサタナキアは、水砂刻の槍の一撃を一身に受けて壁際に積まれたコンパネのなかへ、吹き飛ばされ埋もれた。
 そして、衝撃で壊れたアイバイザーから覗かせる瞳には、口角を開いて不気味な笑い声を上げているのに似つかわしくない。失恋を思わせるほど、切ない眼差しで涙を溜めていた。
 自分にしか、決して聞こえない咽び泣き。薫惹の肩を持ってその場から立ち去る、想い人の背中を睨むように見つめる。
 やがて、二人が見えなくなったところでサタナキアは独りでに暴れ回った。頭を掻きむしったり、殴ったり、岩場に叩きつけたりしてもどかしい想いを振り切る。力尽きて、空を見上げて大の字に寝そべる。ふと、寒気を感じる損傷部分に手を当て、着いた血の色を眺める。

「わっち……、どうするのがいいんですか……?ただ、水砂刻アナタを人間に戻してあげたいと思ったから、この道を進んできたッス。確信に気付いた時、水砂刻アナタの傍にいる薫惹その女が羨まくて、妬ましくて……。今さら、どう信じてもらえば…………」

 後悔の念と嫉妬と憎悪。
 悪魔が与えることはあれど、抱くことはそうはないこの感情。どうすればいいのか、サタナキアは────、鳴堕 暁咲という人間の身で怪異となった者として苦悩と葛藤に板挟みになっていた。

 しばらくして、暁咲にテレパシーが届く。それは、アスモダイオスからの招集。なんでもターゲットである、ネクベトを見つけて総攻撃をかけているが、悪戦苦闘を強いられているとのこと。
 すぐに加勢に来いと言われ、テレパシーは一方的に切られた。仕方なく、体を起こした暁咲はサタナキアへと変身し、ナキアーマーを装着。そして、飛行能力を持つ形態である《ソニックフロート》へとフォームチェンジし、怪異に変えてくれた師アスモダイオスのもとへ急ぐのであった。
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