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メインストーリーな話
フロンティア
しおりを挟む融合炉内、核シェルター内部。
核動力を積んでいる訳ではない、久遠の放とうとしている弾道。その衝撃を受けないためにここへ来たわけではない。フロンティアの強大なパワーを存分に解放しても、久遠の計画に支障をきたさないためにトレードをおびき寄せたに過ぎない。
「────っ」
「あん?どうしたんだよ、急に天井なんか見つめやがって……」
「ルーティン……」
「チィ!?増えやがった!?」
フロンティアが仲間の消滅を憂う。同時に、ルーティンの元を離れた二体のフロンティアが、トレードに襲いかかり三対一の攻防に発展した。
目を閉ざし、戦闘に参加しないフロンティアの脳裏に声が響く。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───キミは、ボクらにとっての最後の砦さ...
『分かっています……ルーティン。私は───何者にも負けません』
───ボクらアンリードには、生前の記憶が無力化の鍵へと繋がる。
───でも、キミは違う。キミだけは、自分の意思で記憶を消せる...
『当然です。私はお母様とお父様が認めた最高傑作なのですから』
フロンティアの表皮に現れた、マグマ色の紋様。その全てが、剥がれ落ちたように弾け飛びアンリードとしての弱体化、その呪縛を解き放った。途端にトレードを襲っていた三体の連携がヒートアップし、体勢を崩し立て直しをさせず馬跳びで跳び越え、膝蹴りでトレードを壁際まで追い詰めた。
脳震盪すら起きる衝撃で、得物である鎌を手放してしまったトレード。そこへ両サイドからターンで、急接近するフロンティア達の猛烈な追撃。唾液が膜を張って床に零れる。そんなこともお構いなしに、トレードを追い詰めていくフロンティア。
追い討ちに駆け付けたのは、天井を見ていたフロンティア。すると今後は、槍をバトンのように手渡した別のフロンティアが、地面に手をつけ顔を歪ませる。
「プロメテウス……。私との決着は───よかったのですか?」
︎ ︎ ︎ ︎───気に入らぬ。真に業腹だが、認めるしかなかろう...
『貴方は。いえ、貴公は無限にして絶対の軍勢を操る果てなき司令官。アンリードとして、この上ない理想形とも言われておりました……。ですが、私が生まれたことで、実力比較の試験で───』
───我に勝てるのは貴様だけ。それは同時に...
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───貴様は誰にも負けてはならないことを意味する。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───最後に立つのが貴様だけになろうとも...
『ええ。私はこの計画を成し遂げた後も────、世界を見届けましょう』
ゆっくりと起き上がり、トレードと闘う分裂した自分のもとへと高速移動するフロンティア。その行く先には、トレードが落とし地面に突き刺さっていた鎌。
トレードはフロンティア全員の攻撃から、受けるダメージを最小限に抑え、鎌を取り戻せる位置を狙っていた。そこへ、スライディングで鎌を蹴り上げ奪い取ったフロンティア。
「クッ……」
「負けを……っ、認めなさいっ!!」
自分の愛用する怪異。その武器である鎌が肩を掠めるも、トレードは懐に掴みかかって壁まで突っ込んだ。
その後を着いて行く、二体のフロンティアと一人残り懐から赤いリボンを取り出し、その場に立ち尽くす。リボンが灰となって風に消えていったことで、最後の同胞も消滅したことを知る。
『レッドヒール。貴女の笑顔には、どこか人のようで。それでいて、温かいという言葉が似合うものを感じていました……』
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───大丈夫♪ヒール達が着いてるよ♪
───何があっても、フロンティアなら...
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───勝てるってヒールは信じてるから♪
︎ ︎ ︎───新しい世界になったら、一緒に踊ろう?待ってるから...
すでに、掌には何も乗っていない。
ただそこにあるのは、仲間の想いであった残り香だけ。フロンティアは、振り返ると壁際からこちらへ飛んでくるトレード。三体の攻撃によって、吹き飛ばされたトレードに回し蹴りを腹部のど真ん中に当てて、そのまま地面に叩き付けた。
白目を剥いて、吐血する。バウンドしたトレードの腰に手を当て、片手で持ち上げてみせるフロンティア。
「チェック・メイトです。さよなら……、噂観測課の死神よ……」
ポンと真上に投げ、三体が合流する。
すれ違いざまに槍を受け取り、それぞれが背を向けて落下するトレードから遠ざかっていく。地面に体が着きそうになった刹那、一斉に踵を返して息のあった同時攻撃をトレードに浴びせた。
地面を転がって、動かなくなったトレードを見向きもせず、騎士の誓いを立てたかの如く背中合わせてとなって、槍を突き立てるフロンティア。よく見れば、一体一体が異なる色のラインが鎧に施されていた。ルーティン、レッドヒール、プロメテウス、そしてフロンティア。
今この場に居るのは、アンリード全員であると言わんばかりに色あざかさを持ち合わせる隊列。
「終わりましたね。ボニーと合流します。それで死神のお連れを排除すれば、お父様の計画を阻む者は皆────、最深部に到達することはないまま、この世界を終えるでしょう……」
フロンティアは分裂を解かずに、シェルターの出口へと向かう。
結局、フルパワーでの大技を出すこともなく終わり、ここへ来た意味はなかったと肩を落としながらゲートに手をかけた。その時、手首をガシッと掴まれたことで、ゲートを開くことが出来なくなった。
視線を手首を掴まれた方向に向けると、フロンティアの身体は地から離れ空高く吹き飛んだ。それを見た残りのフロンティアが、反撃に出ようとするも横薙ぎ一閃の斬撃を前に消し飛んだ。
しかし、地面に落下したフロンティアの近くに瞬く間に再生して、四人揃いの状態に戻った。手を使わず、逆再生のように脚からスッと全身を起き上がらせるフロンティアは、何の感情も籠っていない一言を口にした。
「ほぉ、息がありましたか?あれだけの攻撃を受けて、まともに体が動くとは。最強の怪異使いが認めるだけのことはあるようですね」
「へっ……、ほざいてな……っ。って言いたいとこだが、今の一撃が効いてないあたり……かなりヤバいことに変わりはねぇんだけどよ…………」
トレードの鎌による一撃。
それは、【地獄の沙汰を計る天秤】による、死を付与する一撃であった。しかし、命持たずの存在アンディレフリードにはその死という概念すらも、与えることが出来なかった。トレードの死を強制的に与えて、仕留める攻撃によって消滅こそはしたものの全員健在であった。
ダメ押しにもう一発、斬撃にして飛ばす。フロンティアは、避けることもなく四体同時に攻撃を喰らって見せた。結果は変わらず、元どおりになった。フロンティアは、その一撃によって自分を倒せるとしてトドメを刺せると、ディフィートが確証したのだとしたら拍子抜けだと手の甲を口元にも当てて、せせら笑いをした。
「どうやら、せっかくの切り札も無駄に終わったようですね。良いでしょう……、特別に褒美を取らせます。あの最強の怪異使いにも使うことのなかった、最大出力を持って……貴公を塵芥として差し上げましょう」
掲げた一つの槍に、三つの槍が三角錐を作るように重なる。
黄金のオーラをシェルター全域に撒き散らし、エネルギーの充填が始まった。その間、無防備となるフロンティア。だが、他の三体は武器はなくとも戦闘力がなくなったわけでないため、トレードの進攻を阻止しに立ち向かった。
絶体絶命のなか、トレードの怪異がテレパシーで語りかけてきた。トレードは勝ち目がない以上、時間稼ぎをして久遠の計画を燈火が止めに行くまで、フロンティアを惹き付けるしかないと嘆く。
『イヒャヒャヒャ♪それがそうでもないんだな、ボインちゃんよ♪』
『そうですよ姐御ッ!!とにかく、どれでもいいんでフロンティアの体に思いっきり触れてくださいッ!!』
『あん?本当にやれんのか?そんなんで……。デッドマスター、ヘルズワイト。この状況から逆転出来るってんなら、あたいはそいつに賭けるぜッッ!!!!』
いつの間にか、二体になった怪異の化身。その名前を呼びながら、フロンティアの首に手刀打ちを当てることに成功する。一瞬、目を見開いたが直ぐに戦線復帰したフロンティア。カウンターを受けて、数メートル体を引きずりながら膝をつくトレード。
その手に持っていた薬液の封を切って、一気に飲み干す。そして、そのまま追撃をひたすら防御で耐え忍ぶ。この状況で回復薬を飲んでも、状況は変わらないと罵られ、回復の兆候よりもダメージを受けた結果がはっきりと見える打撲や裂傷を負い、着ていたジャケットが破れ薄着になる。
スポーツトレーナーのように、護るものが最低限な状態になりながらも攻撃を受け続け、頭上高く浮遊しながら臨界点の先へ充填を進めるフロンティアを睨んだ。普段なら邪魔にしかならない胸だが、素手で殴られる上では脂肪の厚さによって、心臓への直接ダメージを軽減出来ていた。
フロンティアはトレードの屈強な身体に、サンドバッグを扱うような強打を代わる代わるに当てていく。鬱血している箇所が痛々しく変色を見せるも、トレードは逃げも隠れもせずに全て受けきる。
「ぐ……っ、ぅぐ……ぁぁぁ…………っ」
「打たれ強いのですね、思っていたよりも……」
「ですが、これでお遊びは終わりです」
「今楽にしてあげます」
三体はトレードのもとを離れ、黄金の光が指す中心地点にいるフロンティアへと集まっていく。
四つの体が一つに重なって、黄金の槍は巨大なスピアへと変わった。無慈悲な視線を這いずるトレードに向けて、四重奏になった声で言葉を浴びせる。
───人が持つ儚き理想と虚しき夢...その誉れを抱いて逝きなさいッ!!闘争の果て、導く勝利の栄光ッッ!!!!
両手で逆手持ちしたスピアが、大地を炸裂させんとして急降下する。
シェルターの強度であれば、耐えられるものなのか。それすらも怪しいほど強大なパワーで、息も絶え絶えとなっているトレードに終止符を打つ福音を手向ける。
仰向けになんとか向きを変えたトレード、その身にドクンッと心臓の一鼓動が鳴る。中心を捕らえたフロンティアの一撃、それを急速回復からの紙一重で避けて、手を空虚に向け伸ばした。すると、手に持っていなかった鎌が握られ、先端部に伸びた二枚の刃がフロンティアの背面から、中心核を穿った。
黄金の嵐が吹き荒れるなか、トレードの方を振り返るフロンティア。同時に、口からドス黒い液体を噴き出しその場に力無く跪いた。スピアを手放し、口元を押さえるフロンティア。スピアは効力を失い、四本の槍となって地面に転がった。
「馬鹿……なぁ……?私がダメージ……をっ!?そ、それに……これは……っ!?────────ッッッッ!!??」
肺を潰された人間のように、息が続かない。
それどころか視力が機能を失い、何も見えない。耳も自分の放った言葉をまともに聞き入れていない。これではまるで、死の間際にいる人間のよう。傷口の痛みは引かない。それどころか、広がっていくばかりで穿ったはずの場所よりも、強く痛みを感じる箇所があった。
悶え苦しみ、床をのたうち回りながら痛みを分散しようとするフロンティア。その体には、マグマ色の紋様が浮かび上がり高熱を発していた。意思とは関係なく、四体に分裂して川の字で横たわりながら全員で苦しんだ。
「はぁ……っ、はぁ……。……間に合ったぜ…………」
「あ、ぁぁ……っ、ぁぁぁぁ────っ…………」
フロンティアは痛みを忘れたように、涙を流して手を伸ばす。伸ばした先で、倒れて動かない自分が居た。頬に手を当て、顔を近付ける。その間には、目を閉じて動かない二体の小さく蹲るフロンティア。
家族が寄り添って眠りにつくような状況のなか、消滅の兆しを見せながらも動いているフロンティアが咽び泣いている。声にならない喘ぎ声を吐息のように漏らし、分裂体を抱きしめた。
「わた、しの……夢…………。────《家族》…………」
フロンティアは思い出した。
それは、ルーティンから聞かされた内容にはなかった生前の記憶。そう、彼女は無敵のアンリードなどではなかった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
━フロンティア誕生前━
「ねぇ?この子、何でベースとなる人間を2人にしたの?ヒール達は、1人なのに……ズルい」
「我らアンリードに人の数等関係のないこと。これは、2体に分かれて戦闘ができるタイプらしい」
「────。」
ルーティンは静かに、培養槽の中に眠るフロンティアを見つめた。そして、耳のダイヤルを回して紛争地で回収した女兵士と紛争難民の男性、両者のこれまでの状況を検索、閲覧をかけた。
「分離するの……、2体じゃないよ」
「何?」
「うそうそ?もっといっぱい増えるの?ヒール達より、強いかな?」
「どうだろう?」
予言のような、ルーティンの言葉は現実のものとなった。
フロンティアは単騎性能で、ボニー、レッドヒール、ルーティンを圧倒した。これまでの中で最高傑作と久遠に言われていたプロメテウスを相手にした時、彼女ははじめて分裂戦法を使い勝利を収めた。
といっても、プロメテウスが度肝を抜かされたことによる降参という形での決着となった。久遠が、これからもっとフロンティアの戦闘データを取らないといけなくなったと、大喜びするなかでプロメテウスはフロンティアに言った。
「驚きだな。まさか、2人の人間と怪異を混ぜることで、4体に分裂の出来るアンリードが生まれるとは……。これでは、土地や土壌に依存する我の人形を操る力も霞んで見える」
それ以来、フロンティアは最強にして無敵のアンリードとして、久遠の命令を聞き数々の戦場を経験してきた。
そして、久遠の命令でルーティンから、人の生前の記憶を聞くことでアンリードの弱体化、無力化の危険性のあることを事前に把握することとなった。その際、ルーティンからは戦場で戦死した女兵士をベースに、その場に一緒に死んでいた紛争難民がベースにされたこと。女兵士は、戦場に似つかわしくないほどに人間思いで、敵国側である紛争難民を保護するほどのお人好しであったと聞かされる。
「だから、弱っている人間。特に、体のどこかを満足に動かせずに苦しんでいるものを見ると、キミは一時的に生前の記憶とリンクしてしまう」
「そうですか。それとは別なのかもしれませんが、私はいつも貴方達とともに過ごせる時間。その時もアンリードとしての力が損なわれる瞬間がある感じがしているのですが……」
それは紛争難民の置かれていた状況のせいだと、ルーティンは深く説明はしなかった。
フロンティアは、二人の人間の記憶が混在している。だから、アンリードとしての弱体化が他よりも軽微で、自分の意思で克服することが出来ている。この時、ルーティン以外の久遠を含めた全員がそう思っていた。
カウンセリングルームを出ていったフロンティアを確認し、目の前にホログラムモニターを映写するルーティン。そこには、フロンティアのベースとなった女兵士の情報が記されていた。久遠はただ、素体として優秀だとしか目をつけず回収後、直ぐにアンリード生成のための工房に焚べてしまった。
そのため、地球の自然物とも記憶をデータとしてリンクできるルーティンにしか、この真実は探り当てられなかった。女兵士のお腹の中には、新たな生命の芽吹きがあったということを────。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
息を整え終えたトレードは、回復に使った小瓶を手に取った。
遅延性回復薬と書かれたラベルを睨み、効き目が遅過ぎたことに舌打ちして投げ捨てた。そして、泣き続けているフロンティアの前に立つ。
「記憶が定まらない。それもそうだな……、アンリードってのは生前の記憶。その中の《夢》ってやつに結びつくことで、力を失う。おめぇは……家族になる夢を持った女と───、それを知らされることなく死んでいった男。その両極端で不確かな記憶と夢を抱えたまま、アンリードになった」
「ええ。そして……、そのギャップが、アンリードとしての弱点を歪ませた……。分散する意識と記憶が……、他の私が振り切ることで弱点を…………相殺できていた」
これは、言ってしまえば一番不完全だった故に、優勢に見えていた劣勢の存在。
フロンティアは、不安定だったことで最高傑作を上回るアンリードとなっていたに過ぎなかったのであった。彼女はその絶望と、真実を知ったことによりアンリードとしての機能を終了させようとしている。
では何故、トレードはフロンティアに勝つことが出来たのか。フロンティアは唯一つ残った疑問を。その答えをトレードに求めるように目を向けた。すると、トレードは鎌の刃を指さして言った。
「あたいは死神と契約している怪異使いだぜ?お前自身に死を与えられないなら、お前のために死んだその家族を地獄で見つけ出してもらったまでだぜ。ま、正直賭けでしかなかったけどな……」
(ったく、ディフィートのやつもいい加減なハッタリをカますぜ……)
デッドマスターとヘルズワイトは、フロンティアに触れてもらいその一瞬で、フロンティアを生み出すために犠牲になった人間と怪異を見た。それを地獄で検索し、見つけ出すことで生前の未練を聞き出した。そこで、子連れだった魂を見て、フロンティアが実は四人の人間を犠牲にして生まれたことにより、四体分裂攻撃が可能であることも調べ済みであった。
あとは、その未練を持ち出しフロンティアに与える一撃に込めることで、フロンティアのなかで混濁していた記憶を一つに繋ぎ合わせたのであった。女兵士の妄想と、そんなことすら知らずに銃撃に巻き込まれて死んでいった紛争難民が持つ、女兵士と過ごした思い出がそれぞれ分かれ、フロンティアが女兵士の想いとリンクしていたことを自覚させられた。
そして、遂に分裂して生み出した架空の家族が先に姿を消し、一人きりになってしまったフロンティア。上体を起こし、頭を垂れたまま俯き続ける。その首に鎌がかかる。トレードはいつもの裁定の儀は執り行わずに、せめてもの救いも込めた一言を告げ鎌を降ろして首を狩り取った。
「安心しな。てめぇの礎になった奴らは、地獄で仲良くやってることは分かったんだ。まぁ、地獄も現実も変わんねぇとこかもしんねぇけど……、でも───、お前はもういいだろ」
自分の成り立ち、生い立ちから目を背け続けたまま久遠が築く、新しい世界。その世界に生き続けるなんて、そっちの方がよっぽど地獄だ。それを理解し、受け入れたフロンティアは地獄へ落ちた。死という救済を死を持たない存在は、得ることが出来たのであった。
やがて、通信機能が回復したことで他のチームと連絡が取れるようになったトレードは、耳にイヤホンを当てた。すると、大きな声で辰上達が人形兵に追い回され、逃げながら断末魔を上げているのが煩く響いた。
耳を押さえて一度イヤホンを手放し、やれやれと頭を掻きながら地上に一旦戻るトレードなのであった。
───久遠の悲願が飛び立つまで、あと1時間...。
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