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メインストーリーな話
◆完全なる不死兵器◇
しおりを挟む──紛争地帯上空──
『これより、作戦地点に到達するわ。各員は、降下地点に到達後、速やかに武力介入を始めてちょうだい。ボニー、どうか無事に戻ってきて…………』
ヘリの中でスピーカーから、女性の声が聴こえる。アンデッドオーダーの元研究員にして、都越江 久遠のパートナー、ネヴェル・トコシエ。プロフェッサー・ネヴェルとアンリードには呼ばれ、本作戦でアンリードの有用性を計測するため、戦地に赴いていた。
作戦地点上空になり、ゲートが開く。ボニー、プロメテウス、レッドヒール、ルーティンの四人の人型。四体のアンリードが今、地上へと降下する。パラシュートを展開するなか、ルーティンが周辺にドローンを放出して着地に成功する。そして、聴覚器のようなものを着けた耳に手をかけ、ダイヤルを回した。
「作戦行動……通信撹乱、開始」
途端に、紛争地帯全域に展開を終えたドローンからの怪電波が、テロと正規軍。その両方の通信手段を絶った。近くに居た偵察兵が、一斉にルーティンを目掛けて発砲。弾丸の嵐を甘んじて受け、まったく怯む様子を見せずに一歩。また一歩と前に進むルーティン。
「くっ……、通信はまだ回復しないのか?何故、無線まで使えんのだ?」
「無線もダメにする周波数と超音波を出しているからだよ。あと……もう終わりでいい?」
「ひぃっ!?」
圧倒的な数に、圧倒的な弾幕。それらをすべて受け切ったルーティン。その足元には、体を貫通せずに残った弾丸の山。次の瞬間、耳元のダイヤルを回すと、近くを飛んでいたドローンが高速回転し、兵士を全滅させた。
必死に本部へ連絡を試みる兵隊も、拾った銃で脳天を撃ち抜き、死体をどかせてパソコンに触る。両眼がデータを解析しているように複数の色を放つ。そして、「見つけた……」と囁き、ダイヤルを回して他のアンリードに伝える。
『母さんが探している子、見つかったよ。座標的に近いのは、レッドヒールだね。プロメテウスとボニーはそのまま敵を引き付けつつ、各個撃破した方が良さそうだ。ぼくは、本部の場所を突き止めたから正規軍の完全無力化に向かうよ……』
迅速且つ、的確な戦況分析。それこそが、ルーティンに課せられたアンリードとしての能力にして、ロールプレイ。ドローンからの怪電波を絶やすことなく、本部のある方へと向かうのであった。
時を同じくして、プロメテウスは過激派。所謂テロ勢力をあっという間に一網打尽にし、混乱に乗じて正規軍も壊滅状態に追い詰めていた。通信で何かを確認しようとしていた軍隊長が、戦車を差し向けるも巨大なロボットを呼びつけたプロメテウスには、刃が立つことはなかった。
「正規軍どもよ。プロフェッサーから聞かされた噂は本当だったとはな。この紛争を長引かせるために、怪異を保持しているとは────、業腹ですが我の相手にはそれくらいしないと無理もないことであろう」
紛争が延命していた理由。それが、人の。いや、国のエゴによるものであることを事前に聞かされていたプロメテウス。そんなプロメテウスを包囲する正規軍は、戦車や戦闘機による爆撃も厭わない緊迫した状況であった。プロメテウスは、自身が操る巨大な傀儡にして自身の鎧であるロボットを差し向け、機械には機械を相手させる。
しかし、隙だらけとなったプロメテウスは銃撃を四方八方から受ける。通常なら、一瞬で蜂の巣状態にされてしまうだけの弾幕。そんななかで、指をゆっくりと上げる。
「うわっ!?な、何だこの人形は!?」
「じ、銃が……き、効かない!?」
「た、助けてくれぇ!!!!」
「さぁ────、互いに殺し合いなさい。自らの愚かさに……」
突如現れた、人型の傀儡。
兵士達は銃撃を受けても、決して倒れない人形に恐れおののいた。それどころか、プロメテウスの手の動きに合わせて、味方同士で撃ち合いをするものまで現れた。
これは、プロメテウスの力。糸を空間から射出し、捕らえられた人間はプロメテウスの送る指令に従い、外れた糸は触れたものから傀儡を召喚していた。圧倒的だった軍力が、瞬きする間もなく逆転する程にプロメテウスの軍勢は一帯を制していた。
「撃ちたくないッ!?」
「銃を下ろせない!?た、助け────」
糸で操られた軍人の同士討ち。
生存者がほとんどいなくなった地上に、戦闘機だったものの破片が降り注ぐ。軍隊長は、遂に軍用トラックの中に収容していた怪異を解き放った。
「バケモノにはバケモノだ。本部には、後で事情を報告する。まずは、目の前の不明勢力の鎮圧だ!!」
開いた荷台。その暗闇から、電光石火の如くプロメテウスに向かっていく影。肉眼で捉えきれない速さで、プロメテウスの身体は宙に浮き行く先追う前に、地面に叩き伏せられていた。兵力をあれだけ、削ったことで消耗していて呆気なく怪異に倒されたと、生き残った兵は皆歓喜の声を上げる。
すると、飛び出してきた怪異は口を開いた。
「いや、こんな程度でぶっ倒れたりはしてねぇよな?あんた?」
「ほぉ?今ので仕留めきれていないことが分かる。それでいて、人語を理解して用いるというのか、怪異は────」
数メートル先まで吹き飛び、体が有り得ない方向に曲がっているプロメテウスがのそっと起き上がり、バキバキと関節を鳴らして再生していく。その様を目の当たりにした軍隊長は「アンデッドグリード……」と、映画のワンシーンでも観させられているのかという表情をしていた。
見る見るうちに元に戻ったプロメテウスは、怪異の方へ向き直った。指揮者のように両手を上げ、傀儡達を再起動させる。
「不死性のある怪異、ですか」
「ああ。オレは【鋼鉄神馬】。インフェクターへのお誘いを断って、軍の趣味趣向ってやつに付き合ってる変わりもんの怪異さ」
「そうですか。上級怪異が、初の怪異戦となるとは思いませんでしたが、我の敵に能うのか楽しみですよ」
糸を差し向けるより先に、【鋼鉄神馬】の疾走がプロメテウスに届く。持っていたハルバートを突き立てるが、傀儡に防がれる。間合いを取り、傀儡を払ってから再び斬りかかる。しかし、それもまた同じく傀儡に防がれてしまった。
不敵な笑みを両者浮かべての攻防は、長く続いた。吐き出された糸から生まれる傀儡を、片っ端から砕きプロメテウスへ一撃を当てては、無尽蔵に繰り出す糸を避けてのヒットアンドアウェイ。最初こそ、【鋼鉄神馬】が優位になっていた。しかし、次第にバテ始める。その時を待っていた訳でもないプロメテウスは、延々とも呼べる戦いに何の感情も湧くことなく淡々とこなしていただけであった。
やがて、劣勢に立たされた【鋼鉄神馬】。プロメテウスは息一つ乱れることなく、果てることなき駒を進めるのみであった。
「どうしました?足が止まっていますよ?このままでは、我の下僕となり朽ち果てるだけだぞ?」
「チッ……。なら、コイツで────どうだっっ!!!!」
息を乱しながらも、衰えのない神速でプロメテウスの急所を突く。だが、貫通したハルバートを掴み【鋼鉄神馬】の方を見るプロメテウス。その何度ねじ伏せても、何事もなく立ち上がるプロメテウスに恐怖すら感じ始めていた。
そんな上級の怪異すら、恐怖を感じる強さを見せつけたプロメテウスは【鋼鉄神馬】すらも糸で操り、その場に居た正規軍を全滅させた。その後、自害するように操って消滅する様を見届けることもなく、その場を離れていった。
他の怪異を格納している、海軍部隊の待機場にボニーは向かっていた。ものの数分で兵士は壊滅し、怪異が解き放たれていた。複数体の怪異に囲まれるなか、レッドヒールからの通信が入る。
『ボニー、そっち大丈夫そう?』
「平気。こいつら、弱いから……。プロメテウスの方は順調みたい……、ボクも直ぐに合流する」
『了解了解♪ヒールの方は、回収完了したよ♪んでもでも、なぁ~~んかこっちにも怪異が出て来ちゃったみたい♪今から、鬼ごっこするよ♪』
通信が切れる。
ルーティンによって、アンリード達の通信ネットワークは生きている。その様子を見ていた瀕死の兵士が、無線を試すがズザーっとジャキ音が発せられるだけだった。
その様子を見つけたボニーが、銃口を向けると兵士は怯えながら、どうしてこんなことをしたのかと尋ねた。
「お母様の理想の実現のため……」
手向けとして、一発でトドメを刺す。
そして、後ろにいる怪異の方を向き、二丁拳銃をリロードした。怪異達は、目の前にいる異彩を放つボニーに警戒しているのか、直ぐには攻撃を仕掛けて来ない。だからという訳ではないが、ボニーは一体に発砲してメーザー弾を直撃させた。
「あ、ごめん。そういうのじゃ……なかった?まぁいいっか。どうせ────」
全部、片付けるんだし。
咄嗟に仲間がやられたことに腹を立てた怪異が、反撃に出ようとするも弾丸一発で消滅していった。それもそのはずで、倒しても倒しても海面から次から次へと船上に上がってくる。
雑魚が無限湧きしているだけに過ぎず、本命は海中に潜んでいるタイプの怪異なのであった。それも、複合タイプの怪異で召喚されている雑魚の怪異は、【デビルフィッシュ】と【サハギン】と二種存在していた。
親玉は【クラーケン】の皮を被ったキメラのような怪異、これも怪異で研究していた違法組織が所有していたものなのだろう。しかし、アンリードはその上を往く存在。
「ソーン・バレッド……」
ボニーの放った弾丸が、荊へと姿を変えて銃口から伸びる弦を鞭のように振り回し、周囲の雑魚を蹴散らしていった。そして、今も溢れ続ける【サハギン】達の群れへ突っ込み、蹂躙しながら海へと飛び込んた。海中を蠢く触手がボニーを襲う。
身動きが不十分なボニーは、あっという間に触手に捕らえられてしまうが、踝に着いていたレーザーナイフが遠隔で動き出し、触手を八つ裂きにした。
痛みに悶えているところに、荊が刺さる。間髪入れずに、荊を切り離し二丁拳銃を一つに合体させて、バスターライフルへと変形させエネルギーを収束させた。
──浪漫追い求めた道筋...。
冷たい声が、冷えきった海面を凍てつかせる。そんななか、放たれた光弾は見事に親玉である改造された【クラーケン】を、消滅させるに至った。破壊されたことを知った増援が、船上に舞い戻ってきたボニーを見て絶望する。
「大丈夫……、みんな────、一緒…………」
その言葉どおり、ボニーを目撃した兵士は一人として生還はしていなかった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
目的のものである、遺体の回収を済ませたレッドヒール。追いかけてくる怪異から、鬼ごっこと題して逃げていた。それはもちろん、回収したプロフェッサー達のヘリが、戦域を離脱するまでの間、時間稼ぎも兼ねていた。
やがて、通信が入り宣戦を離脱したと伝達が入ると、ピタリと足を止めるレッドヒール。
「あ~あ、終わっちゃった……。でもまぁ、キミたち足遅かったし?ヒールは踊りが下手な奴とは、怪異だろうが人だろうが踊らないって決めてるから♪もう消えちゃっていいや♪」
クルッとターンを決め、深々と一礼をする。そして、ガバッと頭だけ眼前に向けて、狂気じみた笑みを浮かべながら踊り始めるレッドヒール。怪異達は、煽られていると激昂してレッドヒールを目掛けて突進した。
一体目を馬跳びで飛び越え、二体目を正面から蹴って宙を飛び、三体目にのしかかりをする。グローブも着けず、素肌が露出している華奢な腕で怪異の顔面を殴る。続くように両手で拳を作って、ひたすら動かなくなるまで殴り続けた。
「楽しい♪愉しい♪娯しいわぁ♪ねぇ?助けてもいいんだよそこの人たちぃ?」
「くっ……、バケモノめぇ!!!!」
息の根が止まった怪異は、レッドヒールの股下で消滅するなか、戦域に確認された所属不明機の調査にやって来た偵察兵達が、レッドヒール目掛けて一斉掃射する。これまでの結果同様に、レッドヒールはそんな銃弾の雨を諸共しないで、二体目の怪異を消滅させた。
そして、最後の怪異の土手っ腹にヒールで風穴を空けて、偵察兵の居る方へ放り捨てた。怯む偵察兵の中で、一番偉そうにしていたやつの前に降り立ち、顎を鷲掴んで言った。
「おじさん達の方がバケモノだよね?こんなつまらない、いざこざを長引かせるために、わざわざ怪異なんか隠し持っちゃってさ♪でも喜んで♪おじさん達がして来たわっるいことは全部、他の国の人達に知られることはないから────」
捨て台詞を浴びせて、遠ざかるレッドヒール。このまま逃げるのかと、銃を下ろして行く末を見つめる偵察兵。その首が一斉に、地面に落下する。
なんと、飛び去り際にレッドヒールが空中で両脚を畳むように合わせて生じた、空気圧をカマイタチに変えて全員の首を風圧で切断したのだ。そして、落下する道中の木の枝に掴まり、ぶんぶんと遠心力をつけて一気に空を飛ぶ。
バリ────ィィィンッ!!!!
ガラスを突き破って建物の中に入る。
そこは、ちょうどルーティンが攻め落とした、正規軍本部の司令室だった。他のアンリードもすでに到着し、息も絶え絶えの司令官がルーティンに胸ぐらを掴まれた状態で、ぶらんと地に足を付けることなく持ち上げられていた。
「あらら、ヒールがビリかな?みんな、早いよぉ~~」
「仕方ない……。ヒール、今回重要」
「そうだね。ぼくの方も、今しがた片付いたってとこだよ」
「我も、残党狩りで少し遅れた」
四体の感想を一言ずつ聞かされるなか、事切れる司令官。
こうして、一つの紛争は突如幕を閉じたのであった。奇しくも、生還することが出来た軍人も居たが、目撃した情報を伝えると搬送先で息を引き取ったのであった。
□■□■□■□■□
プロフェッサー・ネヴェルの元へ帰還した一行。ボニーの姿を見たネヴェルは、真っ先に抱きしめた。
「よく無事で……」
「お母様、ただいま」
その返答に、心が籠っている様子はない。この場にいる人間であるネヴェルを除く、アンリード達からは一切生気を感じない。
命持たずの存在アンリード。その戦闘データも十分に得ることが出来たと、ネヴェルは奥で回収した遺体で、最高のアンリードの誕生を待ち望んでいる久遠に向かって声をかけた。隣に立ち、培養槽の中で目を閉じている新たな仲間を見つめる。
「この子がそうなのですね、あなた」
「ああ。長く険しい道のりだったが、ようやく完成したよネヴェル。私達の追い求めた真理────。遂にこの時が来たんだよ」
「ええ。わたし達の娘も、天国できっと見てくれているわ」
科学者が信じるべきではない、神を崇拝するように。この研究に命を注いできた故に失った、我が子を想うネヴェル。久遠も同じように、額を合わせて涙を流さないよう瞼に力を入れた。
───ボニー。
───プロメテウス。
───レッドヒール。
───ルーティン。
「そして今ここに、究極にして完璧なる不死生命体となるアンディレフリードが誕生した!!このアンリードは、今までのように核を持たない。同時に4体に分裂することの出来る。それも、強さはそのままにだっ!!」
培養槽から薬液がなくなり、蒸気を巻き上げながらケースが開かれる。薬液をポタポタと零しながら、横一列に並んでいるボニー達の方へと向かう。そのままセンターに立ち、主が佇む方へ踵をゆっくりと返した。
───おはよう、フロンティア。
かくして、アンリードはすべて揃った。これで、世の中に蔓延る怪異。その悉くを撲滅し、蹂躙することで怪異使いよりも有用性のあったことを証明出来る。これを証明するために、娘を失ったことを忘れない二人。ネヴェルは、久遠とともに理想を実現出来ることの喜びを分かち合おうと、久遠の方を見た。
「さぁ、始めよう。この狂った世界への清算を────」
しかし、久遠の目はネヴェルが想っていたものを見ていなかった。
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