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メインストーリーな話
ナイトストーカー
しおりを挟む怪異。
それは、人知れず実在する人ならざるものとされているが、人が噂や逸話を体現した姿でもある怪物の一種でもある。
「これにて、状況終了にございます。龍生様?このあと、なの……ですが……?」
今日も公に知られる前に、怪異を鎮める組織がある。
噂観測課と呼ばれたその組織の活躍により、世界の噂。その均衡が保たれている。怪異が塵となって消滅したことを確認する、メイド服の女性はピンク色の髪が結ばれていない部分を耳にかける仕草をしながら、近くで見守っていた男性に駆け寄って、モジモジと体を揺らしながら声をかけていた。
神木原 麗由。ひょんなことから、心をとざすためにメイドの真似事をするようになり、他人の心に干渉しないししないでほしいと態度に出していた。しかし、目の前の男性。そう、この辰上 龍生との出会いによって、彼女の運命は変わった。またしてもひょんなことから、今はなんやかんやあってこの辰上と麗由はお付き合いをしているというのだ。
「お疲れ様でした。これ、飲み物です。それと、このあとは……調査報告書の提出は明日にして────」
「おふたりはこのまま、ホテルに直行ってやつですか?はいっ♪」
『ぬわぁぁっっっ!!!???』
何もそこまで怖がることはない。
記者の格好をした、身長の低い少年──、のような見た目の女性。麗由と辰上はせっかく合わせていた手を離して、距離を取るやいきなり辰上はハリセンを振り下ろした。
───バチンッ!!
綺麗な炸裂音を奏でて、被っていた帽子が吹き飛んだ。しかし、手応えを感じなかった辰上は落下した帽子を見る。ハリセンが当たったのは帽子のみで、肝心の驚かせてきた対象が視界にいない。すると、キョロキョロしている辰上の頭頂部に重みを感じて目線を上げて言った。
「どういうつもりだよ、お前?」
「いやぁ~、後輩もまだまだですね~~、はい♪」
「もぉぉ燈火様。いきなり現れないでください」
「あれ?さっき二手に分かれて怪異を追い込んでましたよね?なら、倒したあとは合流しませんかね?普通…………はい?」
辰上の頭上に片手で全体重を支えている体勢から、地面に着地していつの間にか奪い取ったハリセンを膝に当ててへし折って、その辺に捨てて帽子を拾う。
燈火。辰上を噂観測課にスカウトした、辰上の先輩に当たるメンバーの一人である。今回は、街中に出た怪異の聴き込みと題して、パパラッチでもそんな分かりやすい格好はしないであろう服装で行動をともにしていた。
「まったく。私が必死に汗水垂らして、現場100回やってるっていうのに後輩と麗由様と来たら、す~ぅぐイチャイチャすることしか考えてねぇんですから」
「べ、別にわたくしは……龍生様と一緒にご飯をと思っただけでして……」
「そうですか?じゃあ次の日出社した時、2人揃って体を。主に腰を痛そうにしているのが毎回あるのは、どういうことなんですかね?はい?」
振り返ると、眼光が鬼のように鬼気迫る真っ赤な光を放っていた。燈火は流石に、これ以上言うのはやめようと押し黙って車に乗った。
辰上の運転で噂観測課の事務所に戻り、報告書を代わりに書くと言って二人を見送る燈火であった。その後、二人がどのように過ごしたのかは、燈火にも分からないといいたいのだが、記者に変装した際に持参したカメラを起動して調査中に収めた写真を閲覧する。そこには、前半こそ怪異との聴き込み中の写真や、目撃情報のもと見つけた怪異の写真が写されているが、後半にいくと決定的な証拠写真が出てきてしまった。
「任務中にガッツリ、チューしちゃってるですね……これ」
思わず口に出したくなるくらい、はっきりと撮ってしまった二人のイチャつき写真を観てため息混じりに、課長席の机にドスッと爆音を立てて報告書を叩きつけて消灯と施錠を済ませて、帰路に着く燈火であった。
自宅のマンションへ着き、いつもどおり鍵を開けるべく脚立を取りに向かう燈火。彼女は低身長症、小人症ともいえる持病を持っており、身長が非常に低いのであった。それに加えて、子どもっぽい見た目や肌をしているため、未だに酒を買う度に年齢確認をされているが、何も言わなければ子ども料金に勝手にしてくれることもあるため、本人はいいことのほうが多いと喜んではいた。
そんなこんなで脚立を置き、たった一段目に乗るだけで鍵穴には充分届くはずがある程度まで登ってから、鍵穴に鍵を挿した。
「誰がダブルロックにしたですか、まったく……うがっ!?」
そう。よりによって、燈火の住んでいる家はダブルロックだったのだ。下の鍵穴には手が届くが、上の鍵穴には背伸びをしてやっと届く高さであるため、脚立が必要だったのだ。しかし、二つ目の鍵を開けた直後、燈火は突然開いた扉に挟まれて壁に叩きつけられていた。
スルスルと力なく落下していくなか、開いた扉から飛び出してきた影が大声を上げて階段を駆け下りていった。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉああああああ!!!!わたしは絶・賛ッッッ!!スランプだァァァァァァァァァ!!!!!!!」
「あいてて……。って家小路さん!?ど、どこ行くですかぁ?あ───、相変わらず……声、うるせぇです…………はい」
階層五階の廊下から、一階の共有玄関を飛び出していく家小路を鉄柵越しに見つめる燈火。
奇声は上げていたが、決して不審者ではない。何を隠そう、家小路は燈火の旦那なのだから。家小路はその名で、世間に知られる天才漫画家。しかし、現在連載中の作品を描いていくなかでスランプに陥ってしまっていた。それにより、ストレスの限界に到達して部屋を飛び出してしまったのだ。
「はぁ……、明日休暇だったんですけどね……はい」
脚立に乗って鍵を閉めて、家小路の後を追いかける燈火。しかし、服装が記者の格好のままであったことに気がつき、一旦部屋の中へ入って着替えることにする。いつもと違う格好だったから、一瞬では自分の嫁だと分からなかったのかもしてないと、信憑性の欠ける仮説を立てて着替えを済ませた燈火は、いつも任務で愛用しているキャリーケースを持って部屋を飛び出した。
□■□■□■□■□
叫んだ。心の限り、声の限り。己のスランプを恥じる思いで、魂の叫びを上げて家小路は走る。どれだけ走ったことか、分からなくなるまでひたすらに──。
「すみませぇーーーん」
「どけっ!邪魔だぁぁ!!」
途中、声をかけてくる人が居た。それさえも振り切り突っ走って、神社へと続く石段を駆け上がった。悩みの種と迷いの連鎖を置き去りにしようと、全身から汗が噴き出ることにも気を止めずに、鳥居を潜り抜けた。
息も絶え絶えになるくらいに、乱れた呼吸。そうまでもしても消えぬ、胸にわだかまった劣等感。
「どぅおぉぉぉしたら、いいんだぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!??????」
「取材……」
「お?誰だ!?キサマはっ!?」
「取材……、取……ザイ……。シュ、ザイッ!!シュザイ、サセロォォ!!」
最近、この近辺で目撃情報が多発する怪異。その一体を今日倒した辰上と麗由であったが、あくまでも一体にしか過ぎず燈火が協力して調査していたのは、その数の未知数さから数ある目撃情報を洗って、怪異調査を行なっていた。
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「え?あ……」
一人で勝手に解釈したかと思えば、癇癪を起こしてプンスカプンスカと文句を言いながら、唖然としている記者の横をとおりすぎて石段を降りて行った。
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「いやぁ~危ない危ない。危うく、自分の旦那を殺害しないといけなくなるところでしたよ……はい」
「ナンダ、オマエ?」
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直前まで、家小路が対面していたのはまだ記者の状態であり、その後の変貌した姿を目撃していない以上、怪異と接触した者には含まれない。あとは、この怪異を倒して家に帰れば万事解決になる。だが、その前に燈火にはやるべきことがあった。それは、怪異の特定である。複数の怪異が混在しているかどうかに限らず、発生した怪異がどのようなものであるかを観測することもまた、噂観測課の仕事の一つである。
「さて、それではハンティングの時間と洒落こみましょうかね?…………【殺人事件を追う殺人鬼】さん。……はい」
【殺人事件を追う殺人鬼】。連続殺人事件の殺人鬼を追いかけた記者の、記録映像やそれを題材とした映画が公開されたことでも有名なその名前。しかし、それに似た形式で噂は怪異へと変わることがある。
似たようなケースで、スクープをでっち上げるべく自ら殺人鬼となり、いもしない犯人を追い続けることで注目を浴びようとした事件があった。この記者もまた、それに似た状況。つまりはネタ切れになったのを挽回すべく、スクープを手に入れるために手段を選んではいられないと、怪異化してしまったのだ。
「今回も自然発生のようですが、こちとら明日の休暇がパーになっちまいましたので、ささっと終わらせてもらいますよ?はい?」
「ナゼ、オレノ……ショウタイガ?」
「はぁ?舐めんなですよ?こう見えて私……、御歳35歳の大ベテランだったりするんですから♪────はぁいッ!!」
キャリーケースをぶん回して、ナイトストーカーに立ち向かう燈火。再度、円盤を展開してフラッシュをたいて目眩しする。
「うわぁぁ!?ま、眩しいですぅぅ……」
「へへッ。イマノウチニ────」
「なんちゃって♪はい~~~っ♪」
両眼を押さえている燈火にナイフを向け、肘を曲げて振り上げたナイトストーカーであったが、次の瞬間ナイフを持っていた手首と肘を掴まれて、背負い投げ喰らった。
逆さに映る燈火の顔を見ると、いつの間に着けたのか分からないサングラスを着けてニヤッと笑っていた。そして、バックステップでその場から離れると、少し離れた場所から機械音が聞こえてくる。
━━━ガチャガチャ...チ───ン...プシュウゥゥ...ガチャコンッ!!!!
それは、距離を取った燈火の方を目掛けて射出されていた。燈火は約束されて放たれた、自身の得物を受け取り弾を込める。そして、同時に射出された灰色の板をナイトストーカーにシュートした。見事に額に命中した板が砕け散り、中からもう一つ拳銃が出てきた。それを飛び込んでキャッチして、近くの木の枝の上に登りリロードを完了する。
「グガァァ!?ナ、ナンダ!?」
「その答えは求めても────、意味はねぇですよ?」
受けた衝撃を耐えて、立ち止まったナイトストーカーの背面に強打が加わり、宙に体が舞う。同時に、周辺を影が行き交いながら発砲音が鳴り響く。放たれた銃弾は、ナイトストーカーを貫いていき闇の瘴気が記者の体から浮き出て来た。すると、あれだけ撃たれたのに無傷のまま落下して気を失っている記者の男。それに憑依していた【ナイトストーカー】本体に分離を始め、漆黒の闇が球体となった姿でその場から逃げ出した。
そんな怪異の逃亡を燈火が許すはずもなく、両手に持っていた二丁拳銃を投げ捨て、またしても聴こえる機械音から飛んできた狙撃銃を手に取り、スコープで球体をロックオンして引き金を引いた。
「全然、縁もゆかりもありませんが───、目標を狙い撃つ!!」
言葉どおりに球体を撃ち抜き、【ナイトストーカー】は塵となり空気に消えた。それが怪異の消滅を意味するため、燈火は戦闘態勢を解いた。狙撃銃を肩に担ぎながら、咥えタバコをして決めポーズのつもりか、そのまましばらく動かずにいた。
(ご安心ください。シュガレットです……はい)
内心呟きながら、ボリボリと音を立てて咥えタバコの真似事に使った、シュガレットを食べていく燈火であった。
やがて、回収班に連絡を取り現場の怪異が居た痕跡を消す工作作業を終え、怪異に憑依されていた記者の男は、スクープをでっち上げるために犯罪を犯したとして、刑務所に入ることとなった。
憑依されていたとはいえ、怪異と接触したことに変わりはないため仕方のないことだと、燈火は理解しているゆえに動じずに自宅へと戻ると家小路は帰ってきていた。
報告書提出のためだけに、近場とはいえ事務所に出社しなくては行けなくなった燈火は、夜ご飯を作り食卓に並べて家小路と一緒に食べる。大好きなエビフライがこんなにも、喉を通らない日はあっただろうかと途方に暮れていると、食卓から離れたソファに置いてあったスマホが着信音を発していた。仕事以外でなるはずもないスマホの画面を見て、通話相手を確認する。
「はい、もしもし。こちら、明日の休暇が潰れてションボリの燈火ですけど?」
>『何が明日休暇だよ!?あたし、今日一日ずっとお前を待ってたんだぞ!?』
怒り心頭の通話相手に対して、「はて?」と首を傾げながらスマホ画面を操作し、スケジュール帳を開いて予定を確認した。すると、もとより明日の休暇がなくなっていたことを今、思い出したのであった。
「いやぁ~、この歳に忘れっぽくてですね……はい」
>『まだそんな歳じゃねぇだろうがよっ!!とにかく、明日でいいからこっち来いッ!!そもそも、お前の案件なのに何で忘れてんだよ?』
「そんなこと言ったら、教えてあげませんよ?例の耳寄り情報。それが知りたくて、調査協力してくれるんじゃなかったですか?」
スケジュールを忘れていたというのに、燈火がその一言をかけた途端に相手は態度を変えて、口調が優しくなった。
通話を切った後、食卓に戻りテーブルを見る。すると、たくさん作って並べたはずのおかずが一つも残っていなかった。家小路の方を見ると、食べたらインスピレーションが復活したことが伝わる伸びをして、作業部屋に走って行った。室内がそんなに広い訳もないため、激突音が聞こえるなかドアが閉まった。
燈火はいつもどおりの家小路を見て微笑むと、片付けてから支度を済ませて就寝準備に入った。待たせてしまった、噂観測課のメンバーと早朝に合流するために目覚まし時計をセットして眠りにつくのであった。
── つ づ く ──
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