上 下
17 / 30
終黎 創愛 side

意味のない過去と意味のある未来

しおりを挟む

 創愛は、蘇鉄が見せたノートパソコンに映された映像を観ていた。

「これが、噂零課の正体ってことやね」
「ったく……、結局あたいらは情報統制局の連中と怪異の幹部である、そのインフェクターって奴らのごっこ遊びに付き合わされていたってわけだな」

 創愛から聞いた情報も踏まえて、全員がモニターの映像に意識を集中した。


 □■□■□■□■□


「…………あ、これは主任。お疲れ様です」
「おう、ご苦労さん。あ~そうそう、自分のケース何処にあるか知らないか?」
「はぁ、それならこちらに」

 サングラスをかけた情報統制局の主任と、呼ばれていたその男が局員の一人が、指さしたケースの蓋を開けた。すると、怪異の目撃者から、記憶を消去するために使っていた装置を取り出して、床に叩きつけた。着火して燃え出した装置を何度も踏みつけて、破壊しようとする主任を周囲の局員が止めに入った。

「主任!?何をなさるのですか?」
「何って……だけだけど?自分の怪異としての力……そのリザーブボックスだからな────、これは」
「っ!?」

 途端に局員全員で主任の周りを囲い、銃を構える。しかし、動じる様子もなく、サングラスに付着した汚れをグリスで拭く主任を見て、局員の一人が発砲して、サングラスを弾き飛ばした。

「……つ、次は当てるぞ?」
「────、へぇー……局長さんの指示もなしに発砲しちゃうわけね?」
「しゅ、主任。あなたは今、お自身を怪異と────あぐ……っ!?」

 自身を指さして、質問してきた局員の白衣が真っ赤に染まって、死体へと変わっていった。既に事切れている局員の肩を掴みあげて、冷徹な声のトーンで耳元で囁いた。

「自分、耳の悪いやつと理解力のないやつが嫌いなんで……」
「こ、このバケモノめぇ!!!!」

 武装した局員が、マシンガンを発砲する。主任は掴んでいた死体を盾に、被弾を避けた。リロードを必死にしている局員に、蜂の巣になった亡き骸を放り投げて言葉をかける。

「どっちがバケモノなんだって話だねぇ。お前さん方、今平気で同種である人間がいるにもかかわらず自分を撃ったよな?それのどこが、正常な生き方ってやつになるんだ?」
「────っ!?」

 主任の質問にたじろいでいると、背後から断末魔が聞こえてきた。
 次々と倒れていく局員。その原因となっている高速に動く影に、照準を合わせて最後に一人残された武装兵が、リロードした弾のありったけを影に向けて放射した。


ラアァァァァ────────ッ♬♩♪🎼


 黒い影が放った音の波動に、触れた弾丸がその場で動きを止めた。そのあまりにも衝撃的な光景に、腰を抜かしてその場であたふたと手脚をバタつかせている武装兵。
 すると、時を停めた空間のようになっているなか、黒い影と主任が会話をはじめた。

「遅かったな……【偽りの歌姫】ルンペイル。これで、ごっこ遊びはお開きってことだな」
「ごめんよ【不死の蜃気楼】ホウライくん♪まぁ~、でも。君の蜃気楼と認識させる力を記憶を消去出来ていると勘違いしている人間達の様は、流石にちょっとぼくでも滑稽だなとは思っちゃったかな♪」

 ルンペイルがそう言いながら、指先で指揮するように音で停められた弾丸の軌道を、発砲した武装兵の方へ向けてから掌を開き、一斉掃射が再開されてあたふたしていた武装兵に、弾丸の雨を浴びせて絶命させた。
 統制局内の人間が、一人残らず死亡したことを確認したホウライは、パイプたばこを取り出して吸い始めた。そして、煙を吹いて懐から新たにサングラスを取り出し、鼻上に引っかけるようにかけて言った。

「これで、怪異の発生を一定にして均衡を保つのも楽になるかねぇ?」
「どうだろうね?ホウライくんのおかげで、インフェクターは2人……新たに加わったんだろう?」
「ああ。それでも、セミラミスは逝っちまったみたいだからなぁ。加えて、今回限りで契約破棄になった奴さんも宿を見つけて姿を消しただろう?自分らも結構なくたびれもうけだぜ……」

 これまでの計画の精算と、反省会をしているホウライの隣に踊るように向かって座るルンペイル。その片腕は、今も治らずに失われたままになっていた。

「これだけの手傷を負わせたあの凡浦って人、【全能王下す裁き】オーディンの力を持っていてね♪治るのにざっと2年はかかりそうだよ」
「そうかい。結局……今回はそのオーディンが総ナメしていったわけか……。お互い手札が見えきったババ抜きなら、勝てると思ったんだけどね~~。まさか、最後にババを持っていた方が勝ちってルールだったとは恐れ入ったよ」
「もし、彼の思惑どおりに世間が怪異を認めざるを得ない世の中になったら、どうするんだいぼく達は?」
「変わらんさ……。はぐれ者は始末して、怪異としての役割を果たせる奴らは保護する。あ~!?てか、忘れてたわ……」

 そう言って、立ち上がったホウライのもとに、着物を着た女性とゴシック衣装の青年が現れた。青年は直ぐに女性に向かって、こうべを垂れて忠誠を示した。

「これはこれは。竹筒さんにズイークさん……よく来てくれましたね」
「白々しい……っ!!」
「おやめなさい【蒼炎の先駆】ガイヤァル
「しかし、【贄と映しの幻影】スケープゴート様ッ!!??」
「ここへは協力を結ぶために来たのよ?」

 食ってかかる勢いのガイヤァルを制し、スケープゴートは今回のインフェクター同盟に賛同する意を伝えると、ルンペイルとホウライは、握手を求めた。そこへ、更に二人組みの女性が現れた。

「ふあ……ぁぁぁ───────ふぅ…………まだ、眠たいよ~~~…………」
「悪いな【目覚めずの禁欲】ベルフェゴール。でも、オレ達は勝負に負けたからな……。協力してやろうぜ」
「むふふふ……♪【残念美形の魔将】アスモダイオスのぉ────?全裸土下座…………わたしぺオルは、キュンキュン……しちゃったぁ♪」
「むっ!?仕方ねぇだろッ!!このグラサンが巫山戯腐った趣味してたから、ああなったまでだッ!!もう二度とやらねぇよッッ!!」

 角を生やした女。アスモダイオスが顔を赤くして、隣でおっとりとした口調のたれ目をした悪魔、ベルフェゴールに静かにしろと睨みを利かせていた。

 統制局の一室に集結した六人。いずれも、インフェクターを名乗っていることから、全員余すことなく怪異であることが、映像から確認出来た。そして、情報統制局ならびに噂零課は、すでに壊滅しているに等しいことを口にし、これからのことを話しはじめるホウライであった。
 すると、ガイヤァルがホウライの前に立って話を遮った。睨み合いを続けるなか手にナイフを持ったガイヤァルは、次の瞬間、真横に目掛けてそれを投げ飛ばした。その軌道はモニターの方へ、飛んできたところで映像が途切れる。

「みすみす、敵に手口を教えるつもりか?」
「いや。自分は気付かなかった。大した嗅覚してんだな?お前さん……」

 映像は音声もともにそれを最後に、何も映さずの状態となり終了した。


 □■□■□■□■□


 映像に映っていた連中のことよりも、やはり黒幕は須羽呂であったことを確認した創愛は、発電所に向かう際に病室から持ち出した私物の服に着替えた。
 タイツを脱ぎ、ショートパンツに替えただけの格好を見て、蘇鉄が頭を抱えていた。その横にいた代伊伽は、自身が着ていたジャケットとレッドポーションを手渡した。

「行くんだろ?だったら、こいつも使いな」
「お、応!サンキュー。……って、このポーション使わなかったのかよ?」
「まぁな……あたい、タフだしよ?」
「あははは……、せやったら、ワシからこいつを選別や」
「何だ?クッキー……?にバイクのキー?」

 創愛は、貰ったクッキーを食べようとしたその時、蘇鉄は手を掴んで止めた。
 蘇鉄が渡したのは、【異端曲芸師】ジャグラーの錯視によってそう見えている接着式爆弾だった。体に付着させて、ボタンを押すことで時間差で爆発する仕組みであることを説明した。
 合わせて渡したバイクのキーは本物で、ノートパソコンのEnterキーを押すと、自動運転でバイクが創愛のもとへとやって来た。

「鍵の意味あるか……これ?」
「ないで♪ただ、キーを挿して乗ると手動に切り替えられた気分になるだけやな。言うて自動運転はこれが限界やけどね♪」
「────。ん?このバイク……」

 口からでまかせしか言わない、蘇鉄にジト目を浴びせるも、ふと視界に止まったバイクに手を当てて、物憂げにふける。
 なんと、そのバイクは代伊伽と蘇鉄を助けに行った時に、訓練施設から持ち出したバイクであった。当然、創愛の頭の中にはシャッターゲートから出ていく自分を見送ってくれた、来幸の顔が思い浮かんでいた。

「そうか……。あたし、今から────、みんなの想い背負って須羽呂のやつを。【毒酒の女帝】セミラミスのでっけぇ落とし物、壊しに行ってくるんだな……」

 ヘルメットを被り、バイクに乗る。

「あ、そうだ。蘇鉄?」
「ん?なんや?」
「注射器とかって持ってたりしない?」

 創愛の質問に代伊伽と蘇鉄は、顔を見合わせ頭に《?》を浮かべていた。何に使うのか分からないけどと、ブツブツ言いながら注射器を渡す蘇鉄。創愛は、「あんがと」と言って受け取ると、バイクのエンジンをかけて二人と別れて、走り出した。

 やがて、道なりになった山道を走るようになると、創愛は心の中で一人、円陣を組むように気合いを心の中で入れていた。


創愛あたしと────、代伊伽と────、蘇鉄────、そして...。


 ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎━━来幸お前の想いも連れて━━


 正直、怪異の上位的存在と思われるホウライ達、インフェクターのことも気にはなる。
 だが今は、それよりも優先したいものがあった。これまで、怪異という存在を知り、そこで苦しむ幼馴染のことを知って、意志とは関係なく宿ったわけの分からない力を振るって、怪異と戦った。すべては、幼馴染をこの苦しみから解放するため───。
 そう思って生きてきたはずが、自分の意思決定もそれを利用していた、組織や怪異の誕生を喜んだセミラミスすらも───。今から始まろうとしている、一人の野望のために予定通りに動いていたに過ぎなかったということが、何より許せなかった。

 今度こそ、自分の意思で決めたこの選択肢を信じて────。来幸が託してくれた、自分が生きていく未来にために、須羽呂が待つ研究施設へと、向かうのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

教師(今日、死)

ワカメガメ
ホラー
中学2年生の時、6月6日にクラスの担任が死んだ。 そしてしばらくして不思議な「ユメ」の体験をした。 その「ユメ」はある工場みたいなところ。そしてクラス全員がそこにいた。その「ユメ」に招待した人物は... 密かに隠れたその恨みが自分に死を植え付けられるなんてこの時は夢にも思わなかった。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

○○日記

月夜
ホラー
謎の空間に閉じ込められ、手がかりは日記のみ……? 日記は毎日何者かが書き込み、それに沿って部屋が変わっていく 私はなぜここに閉じ込められているのだろうか……?

ちょこっと怖い話・短編集(毎話1000文字前後)──オリジナル

山本みんみ
ホラー
少しゾワっとする話、1話1000文字前後の短編集です。

意味が分かったとしても意味のない話

韋虹姫 響華
ホラー
都市伝説──、オカルト話──、神話体系──、怪談話──。 意味が分かると怖い話...分け隔てなく下世話に広まったそれらは実体験の報告が少ないことやあまりにも現実離れしていることから、いつしか人々からそう言われるようになった。 しかし、時としてそれは人間の《人智を広げたい》と欲望によって増大しただけの話であることも現実として側面を持つ。 これは、数多くの奇妙摩訶不思議な出来事に巻き込まれていく人達と───、【情報】を管理するもの達知られざる怪綺談である。 ※話の内容によっては一部、グロシーンやR18描写があります(★で性描写、※グロ注意を記載してます) ※現行、表紙はAIイラストをフリーアプリより編集しており、変更・差し替えの予定はあります

魔の巣食う校舎で私は笑う

弥生菊美
ホラー
東京の都心にある大正時代創立の帝東京医師大学、その大学には実しやかにささやかれている噂があった。20年に一度、人が死ぬ。そして、校舎の地下には遺体が埋まっていると言う噂があった。ポルターガイストの噂が絶えない大学で、刃物の刺さった血まみれの医師が発見された。他殺か自殺か、その事件に連なるように過去に失踪した女医の白骨化遺体が発見される。大学所属研究員の桜井はストレッチャーで運ばれていく血まみれの医師を目撃してしまう……。大学の噂に色めき立つオカルト研の学生に桜井は振り回されながらも事件の真相を知ることになる。今再び、錆びついていた歯車が動き出す。 ※ライトなミステリーホラーです。

閲覧禁止

ホラー
”それ”を送られたら終わり。 呪われたそれにより次々と人間が殺されていく。それは何なのか、何のために――。 村木は知り合いの女子高生である相園が殺されたことから事件に巻き込まれる。彼女はある写真を送られたことで殺されたらしい。その事件を皮切りに、次々と写真を送られた人間が殺されることとなる。二人目の現場で写真を託された村木は、事件を解決することを決意する。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...