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終黎 創愛 side
意味のない過去と意味のある未来
しおりを挟む創愛は、蘇鉄が見せたノートパソコンに映された映像を観ていた。
「これが、噂零課の正体ってことやね」
「ったく……、結局あたいらは情報統制局の連中と怪異の幹部である、そのインフェクターって奴らのごっこ遊びに付き合わされていたってわけだな」
創愛から聞いた情報も踏まえて、全員がモニターの映像に意識を集中した。
□■□■□■□■□
「…………あ、これは主任。お疲れ様です」
「おう、ご苦労さん。あ~そうそう、自分のケース何処にあるか知らないか?」
「はぁ、それならこちらに」
サングラスをかけた情報統制局の主任と、呼ばれていたその男が局員の一人が、指さしたケースの蓋を開けた。すると、怪異の目撃者から、記憶を消去するために使っていた装置を取り出して、床に叩きつけた。着火して燃え出した装置を何度も踏みつけて、破壊しようとする主任を周囲の局員が止めに入った。
「主任!?何をなさるのですか?」
「何って……返して貰っただけだけど?自分の怪異としての力……そのリザーブボックスだからな────、これは」
「っ!?」
途端に局員全員で主任の周りを囲い、銃を構える。しかし、動じる様子もなく、サングラスに付着した汚れをグリスで拭く主任を見て、局員の一人が発砲して、サングラスを弾き飛ばした。
「……つ、次は当てるぞ?」
「────、へぇー……局長さんの指示もなしに発砲しちゃうわけね?」
「しゅ、主任。あなたは今、お自身を怪異と────あぐ……っ!?」
自身を指さして、質問してきた局員の白衣が真っ赤に染まって、死体へと変わっていった。既に事切れている局員の肩を掴みあげて、冷徹な声のトーンで耳元で囁いた。
「自分、耳の悪いやつと理解力のないやつが嫌いなんで……」
「こ、このバケモノめぇ!!!!」
武装した局員が、マシンガンを発砲する。主任は掴んでいた死体を盾に、被弾を避けた。リロードを必死にしている局員に、蜂の巣になった亡き骸を放り投げて言葉をかける。
「どっちがバケモノなんだって話だねぇ。お前さん方、今平気で同種である人間がいるにもかかわらず自分を撃ったよな?それのどこが、正常な生き方ってやつになるんだ?」
「────っ!?」
主任の質問にたじろいでいると、背後から断末魔が聞こえてきた。
次々と倒れていく局員。その原因となっている高速に動く影に、照準を合わせて最後に一人残された武装兵が、リロードした弾のありったけを影に向けて放射した。
ラアァァァァ────────ッ♬♩♪🎼
黒い影が放った音の波動に、触れた弾丸がその場で動きを止めた。そのあまりにも衝撃的な光景に、腰を抜かしてその場であたふたと手脚をバタつかせている武装兵。
すると、時を停めた空間のようになっているなか、黒い影と主任が会話をはじめた。
「遅かったな……【偽りの歌姫】。これで、ごっこ遊びはお開きってことだな」
「ごめんよ【不死の蜃気楼】くん♪まぁ~、でも。君の蜃気楼と認識させる力を記憶を消去出来ていると勘違いしている人間達の様は、流石にちょっとぼくでも滑稽だなとは思っちゃったかな♪」
ルンペイルがそう言いながら、指先で指揮するように音で停められた弾丸の軌道を、発砲した武装兵の方へ向けてから掌を開き、一斉掃射が再開されてあたふたしていた武装兵に、弾丸の雨を浴びせて絶命させた。
統制局内の人間が、一人残らず死亡したことを確認したホウライは、パイプたばこを取り出して吸い始めた。そして、煙を吹いて懐から新たにサングラスを取り出し、鼻上に引っかけるようにかけて言った。
「これで、怪異の発生を一定にして均衡を保つのも楽になるかねぇ?」
「どうだろうね?ホウライくんのおかげで、インフェクターは2人……新たに加わったんだろう?」
「ああ。それでも、セミラミスは逝っちまったみたいだからなぁ。加えて、今回限りで契約破棄になった奴さんも新しい宿を見つけて姿を消しただろう?自分らも結構なくたびれもうけだぜ……」
これまでの計画の精算と、反省会をしているホウライの隣に踊るように向かって座るルンペイル。その片腕は、今も治らずに失われたままになっていた。
「これだけの手傷を負わせたあの凡浦って人、【全能王下す裁き】の力を持っていてね♪治るのにざっと2年はかかりそうだよ」
「そうかい。結局……今回はそのオーディンが総ナメしていったわけか……。お互い手札が見えきったババ抜きなら、勝てると思ったんだけどね~~。まさか、最後にババを持っていた方が勝ちってルールだったとは恐れ入ったよ」
「もし、彼の思惑どおりに世間が怪異を認めざるを得ない世の中になったら、どうするんだいぼく達は?」
「変わらんさ……。はぐれ者は始末して、怪異としての役割を果たせる奴らは保護する。あ~!?てか、忘れてたわ……」
そう言って、立ち上がったホウライのもとに、着物を着た女性とゴシック衣装の青年が現れた。青年は直ぐに女性に向かって、こうべを垂れて忠誠を示した。
「これはこれは。竹筒さんにズイークさん……よく来てくれましたね」
「白々しい……っ!!」
「おやめなさい【蒼炎の先駆】」
「しかし、【贄と映しの幻影】様ッ!!??」
「ここへは協力を結ぶために来たのよ?」
食ってかかる勢いのガイヤァルを制し、スケープゴートは今回のインフェクター同盟に賛同する意を伝えると、ルンペイルとホウライは、握手を求めた。そこへ、更に二人組みの女性が現れた。
「ふあ……ぁぁぁ───────ふぅ…………まだ、眠たいよ~~~…………」
「悪いな【目覚めずの禁欲】。でも、オレ達は勝負に負けたからな……。協力してやろうぜ」
「むふふふ……♪【残念美形の魔将】のぉ────?全裸土下座…………わたしは、キュンキュン……しちゃったぁ♪」
「むっ!?仕方ねぇだろッ!!このグラサンが巫山戯腐った趣味してたから、ああなったまでだッ!!もう二度とやらねぇよッッ!!」
角を生やした女。アスモダイオスが顔を赤くして、隣でおっとりとした口調のたれ目をした悪魔、ベルフェゴールに静かにしろと睨みを利かせていた。
統制局の一室に集結した六人。いずれも、インフェクターを名乗っていることから、全員余すことなく怪異であることが、映像から確認出来た。そして、情報統制局ならびに噂零課は、すでに壊滅しているに等しいことを口にし、これからのことを話しはじめるホウライであった。
すると、ガイヤァルがホウライの前に立って話を遮った。睨み合いを続けるなか手にナイフを持ったガイヤァルは、次の瞬間、真横に目掛けてそれを投げ飛ばした。その軌道はモニターの方へ、飛んできたところで映像が途切れる。
「みすみす、敵に手口を教えるつもりか?」
「いや。自分は気付かなかった。大した嗅覚してんだな?お前さん……」
映像は音声もともにそれを最後に、何も映さずの状態となり終了した。
□■□■□■□■□
映像に映っていた連中のことよりも、やはり黒幕は須羽呂であったことを確認した創愛は、発電所に向かう際に病室から持ち出した私物の服に着替えた。
タイツを脱ぎ、ショートパンツに替えただけの格好を見て、蘇鉄が頭を抱えていた。その横にいた代伊伽は、自身が着ていたジャケットとレッドポーションを手渡した。
「行くんだろ?だったら、こいつも使いな」
「お、応!サンキュー。……って、このポーション使わなかったのかよ?」
「まぁな……あたい、タフだしよ?」
「あははは……、せやったら、ワシからこいつを選別や」
「何だ?クッキー……?にバイクのキー?」
創愛は、貰ったクッキーを食べようとしたその時、蘇鉄は手を掴んで止めた。
蘇鉄が渡したのは、【異端曲芸師】の錯視によってそう見えている接着式爆弾だった。体に付着させて、ボタンを押すことで時間差で爆発する仕組みであることを説明した。
合わせて渡したバイクのキーは本物で、ノートパソコンのEnterキーを押すと、自動運転でバイクが創愛のもとへとやって来た。
「鍵の意味あるか……これ?」
「ないで♪ただ、キーを挿して乗ると手動に切り替えられた気分になるだけやな。言うて自動運転はこれが限界やけどね♪」
「────。ん?このバイク……」
口からでまかせしか言わない、蘇鉄にジト目を浴びせるも、ふと視界に止まったバイクに手を当てて、物憂げにふける。
なんと、そのバイクは代伊伽と蘇鉄を助けに行った時に、訓練施設から持ち出したバイクであった。当然、創愛の頭の中にはシャッターゲートから出ていく自分を見送ってくれた、来幸の顔が思い浮かんでいた。
「そうか……。あたし、今から────、みんなの想い背負って須羽呂のやつを。【毒酒の女帝】のでっけぇ落とし物、壊しに行ってくるんだな……」
ヘルメットを被り、バイクに乗る。
「あ、そうだ。蘇鉄?」
「ん?なんや?」
「注射器とかって持ってたりしない?」
創愛の質問に代伊伽と蘇鉄は、顔を見合わせ頭に《?》を浮かべていた。何に使うのか分からないけどと、ブツブツ言いながら注射器を渡す蘇鉄。創愛は、「あんがと」と言って受け取ると、バイクのエンジンをかけて二人と別れて、走り出した。
やがて、道なりになった山道を走るようになると、創愛は心の中で一人、円陣を組むように気合いを心の中で入れていた。
創愛と────、代伊伽と────、蘇鉄────、そして...。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎━━来幸の想いも連れて━━
正直、怪異の上位的存在と思われるホウライ達、インフェクターのことも気にはなる。
だが今は、それよりも優先したいものがあった。これまで、怪異という存在を知り、そこで苦しむ幼馴染のことを知って、意志とは関係なく宿ったわけの分からない力を振るって、怪異と戦った。すべては、幼馴染をこの苦しみから解放するため───。
そう思って生きてきたはずが、自分の意思決定もそれを利用していた、組織や怪異の誕生を喜んだセミラミスすらも───。今から始まろうとしている、一人の野望のために予定通りに動いていたに過ぎなかったということが、何より許せなかった。
今度こそ、自分の意思で決めたこの選択肢を信じて────。来幸が託してくれた、自分が生きていく未来に意味を見出すために、須羽呂が待つ研究施設へと、向かうのであった。
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