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終黎 創愛 side

トライヴィアラティア

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 落ち着いた一同は、車内でセミラミスとの決戦前に確認を取り合った。
 まず、どうしてセミラミスの居場所が分かったのかについてであったが、これは蘇鉄が以前、チーニとの戦闘で発信機を付けたことで、向かう先にセミラミスが居る事が予想出来ていた。
 それに加えて、須羽呂すばろからの待機命令時に発電所に向かって、怪異が集結している情報が耳に入ったことで、確信へと変わったのだった。

「んなことよりもだ。命令違反したから、あたいらは勝っても負けても居場所がねぇって事になる」
「ああ、それなら心配あらへんよ?須羽呂局長代理に着いてる怪異ハンターは、少なくともあの視察列車、囮作戦デコイ・バトレールに参加したやつの中には居らへんよ?と言っても、八尾谷はんは捕まってもうてるみたいやけどねぇ」

 ガムを噛み始める蘇鉄に、細目をして睨む代伊伽であった。されど、こっちの方が細目だと見せつけるように、片目だけ見えるくらい振り返ってニヤリと笑って、ガムを差し出した。

「要らねぇよ……」
「あ!あたしはもぉらいっと」

 お菓子を与えておけば、喜んで静かになるタイプの子どものようにガムを奪い取って、三粒口に入れて返す創愛に「ガメツイんやな、創愛はん……」と文句を言ってポケットに戻した。そして、話を戻す。
 リアルタイムで、確認出来る情報を増やすべくラジオをつけると、現在大規模停電が発生している地区について報じていた。すると、代伊伽が慌てたように内容に聞き耳を立てた。避難所の名前を聞くと、発電所に行く道中に立ち寄る場所だったため、蘇鉄にそこで車を停めてもらうように持ちかけた。

「はぁ?何言ってんだよ代伊伽?あたしらは急いで────、ん?蘇鉄……?」
「ええで。せやけど、4分や。それ以上は待たれへんよ?」
「ああ。ありがとよ……」

 創愛は、その二人の会話を全く理解出来ずに「何で?何で?」と、二人に聞いて回るが二人は静かになって、その問いに答えなかった。創愛が一人モヤモヤしていると、避難所前に車を停車させる。すると、代伊伽は飛び出していった。
 息を切らしながら、必死に何かを探す代伊伽。人混みの中へ入り、を一人一人顔を確認しては、走ってを繰り返していた。

「何やってんだ?あいつ……?」
「あのなぁ、創愛はん?何か普通に忘れてもうてるみたいやけど……」
「何で銀髪の男の顔ばっか見てんだ?」
「チィ!?せやからっ!!探しとるに決まっとるやろっ!!!!」

 車内で耳元ゼロ距離で叫ぶ蘇鉄に、耳を押さえて睨み返す。
 創愛はすっかり忘れていた。代伊伽には、小学生になる娘と旦那が居たことを聞いていたのにも関わらず。そして、ふと思った。
 代伊伽が力を。一番に固執していたのは、誰よりも怪異を使いこなせるようになりたくて、目の前の目標が欲しかったのではないかと。だから、創愛に勝ちたい一心で今日まで心に闇を募らせながらも、隣で戦い続けてきたのかと思うと、同じくという考えでいたことに、心がキュッと締め付けられた。

「はぁ、はぁ、はぁ、駄目だ……居ない。はぁ、はぁ、はぁ……」

 代伊伽は探し回っても、避難所には家族は居ないと、息を切らしながら思っていた。
 そして、最悪な考えを持ち始めていた。怪異が発電所から外に出て、無作為に人間を襲い始めていて、それに巻き込まれてしまったのではないか。せめて、自分がもうものだと聞かされていたとしても、家族の安全だけは確認したかったが、もう時間がないと諦めて車へ戻ろうとした。
 しかしその時、去り行こうとした代伊伽の腕に熱が当たる。それは、間違いなく代伊伽の腕を掴んでいた。代伊伽は咄嗟に振り返ると、同時のタイミングで聴きたかった声が聴こえてきた。

「代伊伽……、なのか?やっぱり…生きていたんだね……」
憐都れんと寄凪よりな。避難しててくれたんだな……?」
「?……ママ?パパ、ママが帰って来たよ♪おまわりさん大嘘つきだったね♪」
「そうだね寄凪。……よかった」

 久しぶりに再会出来た家族に、涙を流して抱き着く代伊伽は、大号泣して二人の頭を撫でた。何度も「ごめん」と、小さく言い続けて堅く抱きしめあった。
 しばらくして、我に返ったように引き離して、赤面し始める代伊伽は胸前で両手をこれでもかというほどの速さで横に振って、キョドりながら言った。

「べ、べべべ、別によぉ?あたいは心配なんかしてなかったからよぉ?そ、そそ…それより何だぁ?面倒事に巻き込まれちまってだな?」
「うん…」

 代伊伽の慌てぶりに、親子で口に手を当てて笑いながら、憐都は静かに頷き代伊伽の背中にある車の方を見てお辞儀をしながら続けた。

「代伊伽は…大事な仕事……、あるんだろう?……こんな停電のなかでも……」
「あ、……ああ。この停電の調査に行かないといけねぇんだ。ママ、行ってくるから避難所でいい子にしてパパと待ってるんだぞ?」
「うん!ママ?」
「ん?」
「今度いつ、お家に帰ってくるの?」
「あ……、それは……」

 答えられなかった。今から向かう発電所で怪異達を討伐した後、自分達がどうなるかなんて分からなかった。すると、憐都は寄凪を抱き上げて言った。

「それはママにも分からないよ。ママのお仕事は変わったんだ。前のお仕事みたいに自由が利かない。……でしょ?」
「お、おう……///」

 言いづらい事を察した、憐都の言葉に照れながら頷いた。そして、車へと向かい乗り込んで、ドアを閉めて窓を開け手を振り続けた。手を振っている家族にピースを作って、割り込んでくる来る創愛に拳骨を入れながらも、右折して姿が見えなくなるまで手を振った。

「いてて……、何も殴ることねぇだろ?」
「っるせぇ♪かァ────、俄然負ける訳にはいかねぇなッ!!あんがとよ蘇鉄」
「なんも、お易い御用やで♪そんな事よりも、絶対に生きて帰らんとな?」

 当たり前のことを聞いてきた蘇鉄に、意気込みを込めたガッツポーズを取って返答する代伊伽。その隣で、頭から煙が出ている程の痛みを感じ、半泣きしている創愛であった。

 やがて、避難誘導する人以外居ない道を通り、発電所へと到着した三人。気を引き締めて、決戦に向かうべく各々気合いを入れた。蘇鉄が、差し出して来たレッドポーションを躊躇しつつも、受け取り怪異を武器として装備した状態にして、いざ決戦の地へと足を運ぶ。

「ええか?相手は少なくとも3種類の怪異が居る。【夏の大三角形】トリアン エスティーヴォ、【胡蝶の夢】、【毒酒の女帝】セミラミス。創愛はんはセミラミスのところへ最優先に向かってくれ。とは言っても────」

 その蘇鉄の言いかけている間に、影が忍び寄る。創愛はその影にブラスターをお見舞いして、一撃で仕留めた。セミラミスが簡易に召喚した怪異は、塵となって消えたところで、発電所の屋上からその姿を現し創愛達を見下ろしていた。
 それと同時に正門が開き【夏の大三角形】トリアン エスティーヴォが揃い踏みで、立ちはだかった。セミラミスは「噂零課の残党はもっとやって来ると思っていた」と、不敵な笑みを浮かべて言い放った。

「よく来たな、我が毒血を受けしよ。して?其方達だけか?ここへやって来たのは……?」
「ああ。あたしら以外は局長が行方知れずになったお陰で、混乱状態なもんで何奴も此奴も待機命令を守ってるよ」
「ふふっ。そうか、それは残念だ……。時にもう1度聴くが────」


━━ビシュイィ───ン...


 セミラミスの問いの途中で、頬を掠める光。
 創愛が放ったブラスターで頬の薄皮が焼け落ち、黒い血が流れると手でそれを拭い、不敵な笑みを崩さずに踵を返した。去り際に振り向いて、愉快な気分であることを乗せて声を上げた。

「面白い。其方達の挑戦、受けて立とう。まずは我が下僕どもを踏み越えてみせろ」

 高笑いが響くなか、三対三の戦闘が始まった。

 切り込み隊は創愛とチーニ、中堅として続く代伊伽とアクイラ、遠距離戦は蘇鉄とベガという名のボウガンを持つリーラが激突した。
 ソードモードのラグナロッカーを、ナックルのアルテエールで退け、肩の鎧部分で創愛に詰め寄り拳を振るう。創愛は、その拳を刀身で見事に受け流してすれ違い様に、ひと傷負わせて距離を取り、ブラスターモードで今度は創愛の方から急接近して、反撃の隙を取らせず切り込んだ。

「ぐぉ!?やるな……?あの武士の男より強いぜ、あんた」
「総司きゅんのこと、悪く言うなぁ!!」

 総司と比較するチーニの態度に怒りを覚え、打ち込みにさらに力を入れていく創愛。その剣の速さに次第に押され始め、焦りをみせるも創愛の手が止まる訳もなく、回転斬りで後ろに吹き飛ばされて、壁に背中を打ち付けて倒れた。

 一方、力と力のぶつかり合いを繰り広げる、代伊伽とアクイラは両翼をはためかせて勢いをつけて、少しずつ力押しで優勢を取っていく。それでも、負けじと剛腕に力を込めて、押し返そうとしている代伊伽に驚きを隠せない。

「理解不能───、計測…不能。この力は……一体?」
「へぇんっ!知らねぇのか?────ってんだよッ!!」
「───ッ!?」

 大地に脚を着けて、踏ん張っていたアクイラを持ち上げる代伊伽に、さらに驚愕した。そして、力勝負では勝ち目がないと見るや、両翼を分裂して飛ばして投げナイフのように代伊伽を襲わせた。
 組み付いていた腕が、自由になった代伊伽も手にロッドを呼び付けて、翼を弾いていき振り回したロッドに水色のオーラを纏わせて、アクイラに突き攻撃を繰り出した。


━━バキッ...パリィィンッ!!


「損傷、甚大ッ!?!?」
「こいつで……どうだぁぁぁ!!!!」

 宙に浮いているアクイラに、連続で突き攻撃を当ててバウンドした筐体を蹴りつけて、地面に叩き付けた。
 着地した代伊伽の足元に、オーラは霧散して消えロッドを振り回して、決めポーズのように持ち易い位置に構え直した。

「チーニ!?アクイラ!?」
「余所見厳禁やでぇ────ッ!!」
「ハッ!?しまっ……」

 飛び道具の撃ち合いは、集中力を削いだ時が命取りになる。リーラはその一瞬の隙を突かれた。蘇鉄の打ち出したコインが、リーラに当たる直前で拡散し弾丸の雨を振らせて、リーラが咄嗟に致命傷を避けるべく前に構えたベガを、大破させて吹き飛ばした。

 チーニ達は一箇所に集められ包囲されてしまい、創愛達が技を出そうと武器に力を込めていた。すると、悔しがるチーニが地面を叩きリーラは琴を奏で、アクイラは半壊した翼を大きく広げて、共鳴音を鳴らした。


━━ゴォンゴォンゴォンゴォン。
━━ポロロン、ポロロン、ポロロン、プンッ...。
━━バサッ!バサッ!ウィーン。


「な、なんや?様子が……?」
「こいつら、なんか隠し持ってるのか?」
「おいッ!!ここの天井が崩れるぞッ!?創愛、蘇鉄ッ!中へ入るしかない、走れッ!!」

 さっきまでの戦闘と、共鳴音に耐え切れず倒壊してしまった。
 瓦礫の下敷きになった【夏の大三角形】の方を振り返って、代伊伽は自滅したのかと思い前に出て様子を見ようとした。


━━ギュコン...ッ...


「ッ!?おいおい、まさか────」
「そんな事って、ありかよ……?」
「奴さんら……、合体してもうたで?」

 三人は同じリアクションに、思わず言葉を分担して話してしまった。その目の前には、自身らの倍の身長はある怪異へと合体を遂げた、【夏の大三角形】の姿があった。すると、いきなり手に持っていた巨剣を振り降ろして、代伊伽を斬り潰そうとしてきた。
 創愛と代伊伽の二人がかりで巨剣を何とか押し返すが、仰け反る様子もなくただの挨拶だといわんばかりの、余裕な態度を見せた。そして、エンジンでも積んでいるのかという蒸気を吹き出し、良性的で機械的な声で名乗り始めた。

「我ガ名ハ、【星座の因果結ぶ天の川トライヴィアラティア】。トライアングルサマー繋グ、星ノ川ノ化身ナリ。今ノハ挨拶代ワリノ、我ガ宝具《アストロノミア》。サァ、ココカラガ本番ダ」

 先程までの、人間らしい面影はどこにもない巨大マシンは、再び巨剣《アストロノミア》を振りかぶった。そして、段違いの力で地面すらも、叩き斬る一撃を繰り出し斬撃を放った。
 これは受け止められないと、両サイドに別れて斬撃を避けると、斬撃は他の部屋を着ることなく、光の壁にぶつかって消えた。しかし、それは同時に、怪異特有の結界が張られている事を意味していた。よく見ると、空間が歪み辺りを囲んでいた。
 このままでは、【星座の因果結ぶ天の川トライヴィアラティア】を倒さない限り三人とも、結界に閉じ込められることになってしまう。それでも、合体するという想定外のことに、全員で挑まなければ突破は出来ないと構え直す創愛だったが、蘇鉄が前に立った。そして、代伊伽と手を繋がせた。

「な、何のつもりだ?」
「何って……こうするんや」

 ニンマリと笑顔を見せた蘇鉄は、創愛の胸を突然鷲掴みにした。それにビクッと、反応した拍子にラグナロッカーがブラスターの空砲を暴発させて、代伊伽諸共に頭上高く跳び上がった。
 二人が跳び上がった直ぐ下に、ドーム状に広がった結界の天井部が作られたことで、結界の外に創愛と代伊伽は出られた。蘇鉄はすまんと、両手を前に組んで謝ると真剣な顔で言った。

「ここはワシが引き受ける。あんさんらは敵の大将を頼んだで」
「頼んだっておいッ!!お前はどうすんだよ蘇鉄?」

 結界の壁を叩きながら、創愛は叫んだ。
 その問いに返事を返さずに、【星座の因果結ぶ天の川トライヴィアラティア】の方へと向き直って前に歩く。その途中で、半身だけ振り向き口を開いた。

「安心せい。ワシにはの用意はある」

 そう言い残して、一人果敢に【星座の因果結ぶ天の川トライヴィアラティア】へと立ち向かっていった。

 創愛と代伊伽は、その蘇鉄の言葉を信じて先を急ぐべく、奥の部屋まで走り階段を登って、セミラミスのもとへと向かった。
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