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【毒酒の女帝】 side

視察列車、囮作戦② ─セミラミス視点─

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    セミラミスは、腹心が消滅したことを確認しにやって来た。ルンペイルの敗戦よりも先に消えた【蠱毒】の気配が、一番濃い場所に立ち止まり地に手を付ける。

「其方は立派な家臣であったぞ。【蠱毒】よ……、妾の試みに振り回してしまい、すまぬな……」

    そう小さく呟き目を閉じ、ここで起きた戦火を追体験するように、脳裏に映し出した。


□■□■□■□■□


「ここで、消えていただきます」
「そうかい。ほんなら、ワシらも一騎討ちの方がええやろ。あんさん、行くかい?」
「嗚呼……、イクだなんてそんなはしたない……ですが───、逝かせていただきまぁす♪」

    戦況は、一対一の正々堂々の勝負であった。その間、戦わなかった方の怪異ハンターは、律儀にゾンビ達の相手をしていた。雑兵との戦いが邪魔にならないように、対処していく後ろで【蠱毒】は指に挟むナイフに毒液を込めて、投げ放っていた。

「あうっ///はぁぁん///なんですか?この新感覚ゥ♡拙僧、心做しか熱が上がってまいりましたわ……ソワカソワカ」
「それは痛毒と麻痺毒、おまけに発熱性の高い致死毒を盛りました」
「ええ?ということは拙僧、このまま死んでのですか?それは、味わってみたいものですわねぇ♡」

    明らかに、相手が悪かったとしか言いようのない光景だった。【蠱毒】の相手してる怪異ハンターは、体内に二つの怪異を同居させている。それも【八百比丘尼】と【女王の蟻塚】クイーンズフェロモンという、悦に特化した組み合わせと来たものだから、毒に特化した【蠱毒】に勝ち目はなかった。

「どうしたのです?拙僧にもっと火照狂いさせていただける毒を盛ってくださいまし~♡」
「ぐっ……!?」
「出ないのでしたら、無理矢理にでも……拙僧がひり出して差し上げましょうか?」

    己の快楽を満たすためだけに、目の前の怪異すらも玩具としてしか見ないような表情で、毒切れを起こした【蠱毒】から毒液を出させようと、怪異の力を解放していく怪異ハンター。
    やがて、女王のフェロモンに当てられた【蠱毒】は、自由を奪われた身体で毒液を全て出し尽くし、動けなくなったところに満面の笑みで「お疲れ様でした」と、蠱惑的態度を見せて拳を振り降ろしてトドメを刺した。


□■□■□■□■□


「妾が思っていた以上に、連中の覚醒は危険も抱えているのやもしれん……?それに、あの霧隠れの小娘のように存在も現れるやもしれぬ……」

    セミラミスのその予感を持った存在を感じて、もう一つ。見向きもしていなかった右翼で起きていた、怪異と怪異ハンターの戦いを覗き込むことにした。


□■□■□■□■□


    右翼側では、ゾンビを各個撃破する為に前方と後方に分かれて戦っていた。そんななか、ルンペイルが創り出した怪異【胡蝶の夢】と戦う、女怪異ハンターの姿があった。

「良い打ち込みです……。しかし、貴女のその腕を持ってしても越えられない壁がある。そうでしょう?」
「ッ!?っるせぇ!?」
「貴女は嫉妬している。その越えられない壁であるに。私であれば、そんな貴女の心の闇を……飢えを満たしてあげられますよ?」

    狡く嘯いた笑いで、攻撃を捌いていき生じた隙を突いて、腹部に深く拳を突き入れて衝撃を加えた。
    後退り、横っ腹を押さえてロッドを杖代わりにして、肩で息をしながらギリギリのところで、耐え忍んで立っていた。

「……ッ。何で、あたいの動きが分かんだよ?」
「分かりますよ?その心のを叶えたいのなら、私のがお力添えをすると言っているではありませんか?貴女のその怪異はまだ姿ではありません」

    卑劣な手口と言えばそれまで。しかし、セミラミスと同じくコチラ側へ、言葉巧みに誘う【胡蝶の夢】に対し、図星を突かれて反撃に出る手を止めた怪異ハンターは、質問を返していた。

「どうすりゃあ、あたいは創愛あいつを越えられんだよ?」
「怪異に身を委ねれば良い……、ただそれだけですよ。時に思いませんか?今が夢なのか現実なのか。人としての自分が本当の自分か、それとも動物や虫として過ごしていた夢の中の自分が本当の姿なのか……」
「何が言いてぇんだってッ!!」

    回りくどい言い方は嫌いなのか、怪異ハンターはロッドを力一杯振るって、再び殴りかかった。だが、当然のように避ける【胡蝶の夢】は、ひらりと宙を舞って肩に両脚を乗せて、肩車をしているかのように上に乗ったまま、再度話の続きを口にした。

「私は貴女に夢を与えたい。他の連中は揃って、その彼女ばかりに注目して貴女には目もくれないなんて悲劇ではありませんか?どうなんです?」
「────。」


──終黎 創愛あの女のことを見返してやりたくはないですか...?


    【胡蝶の夢】は、妖しく光るオーブを差し出す。虚ろな目になり、生気を喪った眼。渇いた何かを潤すために欲する人のように、びっこ引いて無理矢理前進させながら、手を伸ばす怪異ハンター。
    セミラミスは、そんなふうになっているハンターの心境を覗き込んだ。そこには、創愛に対する───嫉妬、憎悪、劣等感といった数々の負の感情であった。


──あたいは、どうせ2番手...

     
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───創愛あいつは、特別な存在なんだろうさ...


︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───だからって納得いかねぇ...


︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──何であたいは...


︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──なれない...1番に...


︎ ︎──この闘い、終わらせたいのはお前だけじゃない...


︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───1人で英雄気取りになりやがって...


︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──なれるなら、なりたい...


創愛あいつを越えられる存在に...ッッ!!??


「───な……はっ!?」

    直後、耳元の通信機が鳴ったことで意識を取り戻した怪異ハンターは差し出して来ていた【胡蝶の夢】の腕を払い飛ばして後退る。そして、通信に応答した。

「分かった。創愛のヤロウは何やってんだよっ!たく……」
(もう少しでチカラが手に入ったのに...)


    内心のが残念がる声を残して居たが、停車場の防衛状況がよくないと仲間の応援要請を聞き受けて退散するべく地面に向けてロッドを突き刺し地面を盛り上がらせて、【胡蝶の夢】を大地の波で押し退けて列車のある方に向けて走り去って行った。

「もう少しでしたが……、【偽りの歌姫】我が主さんが重傷のようです。追うのはやめておきましょう。それと────」

    揺れの引いた大地を見下ろしていた【胡蝶の夢】は、手に持っていたナイフを空に目掛けて投げ捨てると、小さな飛竜に突き刺さり落下した。
    なんと、セミラミスが覗き見をしていたことに気付いていた【胡蝶の夢】は、事切れる寸前の飛竜を摘み上げて言った。

「盗み見とは、いい趣味ですね?ご安心ください。直ぐに、主さんとともにそちらに向かいますので、お待ちください」

    言葉を聞き終えたのと同時に、遠視術が解けた。


□■□■□■□■□


「ふっ……。ともに大きな傷だけを負ったな……我が毒を受けし子どもたちよ。妾に───、その可能性を見せてくれるな……?」

    小さく空虚に向かってそう告げ、セミラミスは周辺に倒れている怪異と人間の死骸を溶かす、毒沼を自身の足元から押し広げていた。

    やがて、ルンペイル達が合流してきた時には、辺りはと変わらぬ岩と砂しかない空間となっていた。
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