【完】意味が分かったとしても意味のない話 外伝〜噂零課の忘却ログ〜

韋虹姫 響華

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終黎 創愛 side

視察列車、囮作戦② ─創愛視点─

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 来幸は、果敢に立ち向かう。
 ダガーの一つ目を投げ付け、片手で防がれながらも懐に飛び込み、もう片方のダガーを逆手に持って喉元狙った。それさえも容易く避けられてしまい、反撃を受け重力に囚われている状態のところへ、魔弾が飛来し近くの崖の麓に、叩きつけられる。

「来幸ッ!?」
「…………ッ。……、振り返っちゃ……ダメ…!!創愛…あなたは、行ってっ!!」
「で、でも……」

 セミラミスの誘惑から目を覚ました創愛を、列車へ向かわせようと奮起する来幸は、既にボロボロになっていた。
 今、加勢に行けば助けられるが、来幸がこの状況になっている今も、総司と麗由に危機が迫っていることに変わりはないと言った。
 その言葉を信じて、創愛は後ろを向き列車側まで後退するべく、全速力で走った。離れていく間も、激しくセミラミスとぶつかる来幸の戦闘音が聴こえていたが、首を横に振って無視して突き進んだ。

「このッ!?」
「ッ……、そこ……」
「チィ!?」

 鎖の束を避けて、腹部に浅いが切り傷を作った来幸は、そのまま霧隠れの術で鎖の追撃を躱しながら、少しづつダメージを負わせていっていた。
 そこまで確認した後、戦闘音が聞こえなくなったところで通信が入った。通信を寄越してきた相手は、左翼で戦っている蘇鉄からだった。

『創愛はん、今来幸はんと一緒かいな?ヤバいで?』
「蘇鉄か?それもそうだけど、総司きゅん達の方に怪異は?」
『それなら、3体も向こうとるッ!で来幸はんの予言通りではある』

 その言葉に、引っ掛かるものを感じた創愛は、何が大変だと連絡して来たのかを聞いた。そして、走る脚がピタリと止まった。

『あの女、何もかもが大嘘やったんや!【霧の湖畔に映る未来】なんて怪異も、人の死の未来が見えるんもワシらの思い過ごしも含めて全部嘘なんや!?』
「何言ってんだよ?でも、現にお前はこうして生きているじゃねぇか?今だって、総司きゅん達が……」
『せやから、それはだけなんやっ!!あの女に他人の死を見るなんて手品は出来へんし、【霧の湖畔に映る未来】はあの女の怪異の真名とちゃう。来幸はんの持つ怪異は【未来を待つ霧幻龍】ミストドラゴンや!』
「未来を待つって、じゃあ未来を見ていたんじゃなくて────」

 そうなって欲しいと、ただ
 蘇鉄の仮説を理解した創愛、それと同時のタイミングに、背後でガスが暴発するような爆音が鳴った。振り返ると、紫色の毒霧が来幸を蝕んでいた。
 口から大量に血を吐いて、立っているのもやっとであろう状態で、セミラミスの追い討ちを受け、地面に倒れ附したところを見た創愛は、踵を返して元来た道を走って戻った。

『来幸はんは、創愛はん。あんさんに────』


━━ブツッ...


 通信機を耳から取って投げ捨てて、大きく息を吸って叫んだ。

「来幸ォォォォ────ッッ!!!!」

 しかし、白い霧を巻き起こして来幸は、立ち膝の体勢で怒るように、そのまま列車に迎えと叫んで、自身の胸にダガーを突き立てていた。
 グサリッと鈍く重い、鋭くもある音が来幸の心臓を貫く音が、離れた場所からでも分かる程に響いた。それでも、創愛の方をグルっと向いた来幸の表情は、さっきも見せてくれた笑顔だった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 涙を流すのを必死に耐えて、を聞き受けて列車の方へと再び走った。道中、強い揺れとともに、聞いたこともない低い叫び声が轟音を轟かせていた。
 それが、来幸の怪異【未来を待つ霧幻龍】ミストドラゴンであることは、不思議と分かった。同時に創愛は、結局自分の気持ちを優先したことに、激しい憤りを感じた。

 それでも、創愛には真っ直ぐ走り抜ける以外に、道はなかった────。


 □■□■□■□■□


━ 視察列車停車場 ━

 外では何が起きているのだと、騒ぎ出す政治関係者を車輌内から出さないようにしている警備隊。そのドアを一つ挟んだ向こう側では、神木原兄妹と【夏の大三角形】トリアン エスティーヴォが、戦闘を繰り広げていた。

「遅いぜぇ、お兄さんよぉ?」
「くっ……、麗由背後だっ!」
「はい兄さんっ!」
「チーニ、そちらは任せましたよ。では、幼き怪異ハンターさん?拙者の琴の音色に沈みなさい」
「……、誰が沈むものですか!」

 麗由の鉤爪による攻撃で、琴の弦が切れてしまい、音を奏でることが出来ない。すると、琴を鏡写しのように展開して、ビッグボウガンに変形させ麗由に矢を発射した。周り受け身を取りながら、間一髪のところで避けた。

「ベガ……拙者の2つ目の武装にあります」
「───ッ!?兄さんの方へは行かせません」
「大した兄妹愛だ」

 そう言って、激突するリーラと麗由の横でアサシンダガーを、ジャグリングしながら、反撃のタイミングを読ませないチーニの戦術に、総司が苦戦していた。
 しかし、一瞬の隙を突いて攻撃するのもまた、刀を扱うものには出来て当然の芸当と総司は狙いを澄ましていた。

「オゥラオゥラ!!どうしたァ?武士道ってのは、もっと豪胆なもんだって聞いたけどねぇ?」
「────、────っ、────そこだっ!」
「何ッッ!?」

 投げ回していても両手に持つ瞬間はある。総司は、その持つ時に一番無防備になるタイミングを見計らって、必殺の一撃を繰り出した。見事、アサシンダガーを二本とも手元から弾き、武器持たぬ怪異にさせることに成功した。

「獲ったッ!!」
「へッ♪調子に乗んなよ♪リーラッ!!」

 振り上げた両肘に蹴りを当てて、決め手の軌道を空させて脚を回し、起き上がりしたチーニの手元に牛の角のように尖った部分のある、ナックルが装備されていた。
 アルテエールと名付けたそのナックルで、繰り出した打撃で総司は仰け反った。武装を複数持ち合わせる集団タイプ。その怪異との戦闘は総司達もはじめてのことであった。

「そんじゃ、第2ラウンドといきますかね?」
「いざ尋常に……ッ?」
「ッ!?────麗由ッ!!」

 両者、タッグマッチのように並び立ったところへ、突如鉄の槍が降り注いだ。咄嗟に麗由を庇った総司は、重傷を負ってしまう。戦況は、圧倒的に劣勢に陥ってしまった。

「まさ、か……3体目、だと!?」
「おいアクイラ?シラケることするなよな?今からってとこだったのに……」
「すまない。我にとって、とても非効率的な事をやっているようにしか見えなくてな」
「まぁいいでしょう。拙者達の目的はこの列車内に居る人間のお偉いさん方の始末ですから」

 総司を抱き抱えている麗由を通り過ぎて、列車のドアに手を伸ばすチーニ。しかし、次の瞬間その手の甲にダーツが刺さった。

「は?」
「悪いんやけど、ワシと遊んでからにせぇへんか?」

 腕を掴まれて、ヘラヘラした声に顔を向ける。そこには、蘇鉄がコイントスしながらスマイルを向けていた。
 同時に、リーラとアクイラの元にも立ちはだかる者たちがいた。

「撤退するんだろ?こいつらと、マジにやり合ってていいのか?」
「大きい……胸?」
「るっせぇな!!怪異にまでジロジロみられるこっちの身にもなれってんだよっ!!」

 代伊伽はリーラに怒りを覚えながら、ボウガンの矢をロッドで弾き、組み付いてその場から突進して離れていった。

 その脇では、沈黙が支配している闘いが始まろうとしていた。

「あら?機械が相手では、満足出来ません。拙僧、やはり肉と肉のぶつかり合いにしか快感を憶えませんので……ソワカソワカ」
「計測不能───、この女──、怪異が同居している模様……」

 全身機械仕掛けのアクイラには、興奮しないと萎え気味の女性。
 それは、訓練施設で教官に注意されるまでシャワーを浴び続けていた怪異使い、八百谷やおや 逢蘭あいらであった。全身をくねらせて、人肌恋しい事を堪え切れずに悶絶し始めたかと思えば、目にも留まらぬ速さでアクイラの前に現れ、スカイアッパーを決めた。

「嗚呼♡機械を嬲る……、これはこれで快感かもしれませぬ……ソワカソワカ♡」
「なんという速さ、なんという損傷───」

 顎のパーツが吹き飛ぶほどの威力を叩き出した八百谷は、新しい世界の扉を開きそうになっている自分に、熱を持って火照り出していた。アクイラは、それを好機と見て殴り掛かると、あっさりマウントを取る事に成功した。そのまま、腕にエネルギーを集中させて、連続攻撃に出た。

 コインが、ピンッと弾かれて空を舞う。開いているのか分からない眼で、狙いを定めている蘇鉄の脚を足払いで奪うと、片腕で全体重を受け止めて逆さの状態で頭を押さえた。

「このニット帽、新調したてだっちゅうに……。ほな?行くでぇ?」
「何をだ?ぐおぉ!?」

 そう言って蘇鉄は、全体重の負荷を地上に受け流すかのように、背中を擦り付けて、逆側の腕に反動を流して行きながら身体を振り回し始めた。ブレイクダンス────というよりはカポエラに近い、その独自の武術でチーニの拳の一撃を柔軟に避けながら、脚を手を使って反撃を与えていった。
 退いたチーニであったが、引き離した蘇鉄はニコッと笑って手で銃を作っていた。そこへ、上空に投げ飛ばしたコインが指先ピッタリに落ちてきて、引き金を引くジェスチャーをした。轟音を上げてチーニの胸に直撃したコインは、よく見るとコインではなかった。

「ロケット花火ッ!?!?」
「せやで♪ひとりロマン飛行でも楽しんできなはれや~♪ほななぁ♪」

 蘇鉄の怪異【異端曲芸師】ジャグラーによって、コインだと思われたそれは質量も異なるロケット花火であった。しかも、蘇鉄お手製の特殊花火に付き、綺麗に曲線を描いて遥か彼方へとチーニを連れて行った。

「チーニッ!?ここは拙者達も退くしかありませんね……」
「ああ!?待ちやがれぇ~~ッ!!??」

 琴の弦を全て矢に変えて放ち、代伊伽の追跡を防いで飛び去って行ったチーニに続いて、撤退するリーラであった。
 そして、そんな最中連撃の手を休めないアクイラと、それを一方的に受けている八百橋。連撃を喰らっている矢先から、傷が癒えていた。

「理解不能───、生体エネルギー吸収の気配ナシ──、しかし──回復の兆しあり───」
「はぁぁん♡拙僧、機械でイけないと先程申しましたが、あぁ///これはこれで……嗚呼っ!!心乱れて、ソワカソワカ//////」
「…………何やってんだアイツ……」
「分からへん……」

 唯一、全くと言ってもいいほどに緊張感のない戦闘に、蘇鉄と代伊伽、それどころか、重傷で気を失った総司を抱えている麗由ですら、唖然として見ていた。

 やがて、アクイラも他の二体が姿を消していることに気が付き、腰部から鉄の翼を四方八方に乱射して、砂煙を巻き起こして退散した。

「はぁ、はぁ、はぁ……うあっ!!」

 するとそこへ、息を切らした創愛が転がり込んできた。すぐに、駆け寄る蘇鉄と代伊伽であったが、創愛は目をギョロギョロさせて、小言のように同じ言葉を呟いていた。

「来幸が死んだ、来幸が死んだ、来幸が死んだ……」
「あかん、創愛はん!?救護の担当は何しとんじゃ?総司はんに創愛はん、2名も重傷者が居るねんでぇ?」

 蘇鉄がそう叫ぶと、今更遅れてアリスの全体通信で撤退命令が出された。

『ゾンビ軍団の出現の芽は絶った。こちらの被害状況も確認するべく、これより撤退する。総員、直ちに戦線を離脱せよっ!!!!』

 救護班が現れ、総司と創愛を連れて行くのを不安そうに見つめる麗由と蘇鉄であったが、その横で代伊伽は目を下に向けて、運ばれている方を見ることなく、そっぽを向いていた。

「どうしたんや代伊伽はん?創愛はんが心配やないいうんのかいワレ?」
「あ……、いや……別に……。あたいだって、心配さ……」

 明らかに歯切れの悪い返答ではあったが、そんなことよりも精神が壊れてしまった創愛のことを心配に思い、医務室へと駆け込んでいくのであった。
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