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終黎 創愛 side
視察列車、囮作戦① ─創愛視点─
しおりを挟む━ 作戦開始直前 ━
陣形を組み、作戦参加する創愛達はアリスの演説を聞く。
「諸君!これより我々は視察列車、囮作戦を決行する。この作戦には敵も総出とは言わずとも、大将の一角を引き連れてやって来るはずだ。我々の討滅目標はその敵対象のみだ。討滅を確認次第、停車させた列車を速やかに発車させてこの山地を離脱する────」
当然のように言っているが、ここは空気がひんやりとする程には構築物がなく、線路と停車場しかない山々に囲まれた山地であった。
創愛達は停車場から考えて、山越えして攻めてこられても問題がないように、中間地点とも言える場所に作戦拠点を置き、これから各地持ち場で怪異を迎え討つ算段でいた。
「兼ねてより、怪異の出現に対し我々人類は為す術なく人知れず1人また1人と姿を消して行くことを当たり前のように都市伝説等の括りで闇へと屠ってきた。しかし、今その理屈だけで解決させていけるレベルではなくなり始めている。そこに救いの手となったのが我ら怪異ハンターだ。その内に秘めた怪異を克服し、己の戦う術とした我々で怪異達を殲滅するのだ!!いくら鎮めたところで奴らは湧き水の如く湧いて出てくる。その要因こそが────」
アリスの演説はまだ続く。その間も、創愛の視線はアリスの方を向いていなかった。視線の先にいたのは、神木原 総司。創愛がアリスの都合で、勝手に怪異ハンターにさせられたこととは関係なく、戦いに身を投じる理由である幼馴染みの助けとなる。その想いが、無情にも砕かれようとしていた。
来幸の予知能力が正しければ、敵の大将である《Mrs.POISON》を名乗り怪異の力を引き出すために協力してきた女性。怪異のトップであるとされている存在、【毒酒の女帝】その人が総司達のもとに現れ生命を奪う。
(そんな未来────あたしが絶対に変えてみせるッ!!)
創愛の決意を固めるのと同時に、アリスの演説が終了する。
「諸君らの健闘を祈る!!それでは、作戦────、開始ッ!!」
そうして、アリスの号令に各員配置へと散開したその時、一番近くにある山岳。距離にして、5kmは先の位置から人影を確認したと声が上がる。アリスは双眼鏡で、その人影を見る。
すると、人影の手にはメガホンスピーカーが持たれており、息を吸う音を乗せてこちらに向けて宣戦布告して来た。
「自分はインフェクター、名をホウライと言う。わざわざ情報提供ありがとさん♪自分は本体が別件で来れなかったので、分身として挨拶を……。ここに居る選りすぐりの怪異ハンターの皆さん?はじめまして。そしてさようならだ。後は自分の部下の怪異が相手するんで、そんじゃ頼むぜ────【湧き上がるゾンビ集団】……」
そう言って、メガホンスピーカーを持った人影は人体発火現象を起こして、燃え崩れ落ちると、アリス達の周辺を囲むように、大量の怪異が地面を突き破って這い出てきた。
これが、人影の言っていた【湧き上がるゾンビ集団】。一体一体の戦闘力は大したことがないため、全員眼前のゾンビを薙ぎ倒して、陣形を整えることは出来るが、どれだけの数を倒せば全滅するのか分からない未曾有の怪異に、戸惑いを見せていた。
「何処かに、ゾンビを湧かせている何かがあるはず……ドール?草の根掻き分けてでもいぶり出せッ!!他部隊は雑魚の相手より、中級以上の怪異出現に注意しろッ!!」
アリスは両手合わせて、十本の指で同時に十体のドールを動かし、遠隔指示の出せるドール達にゾンビの対処を任せて、ゾンビの発生源を突き止めることに専念するのであった。
ゾンビどもを蹴散らし、一番警戒するべきと配置された最前線へと向かう創愛と来幸。道中掴みかかってくるゾンビの抱きつきを霧となって、すり抜ける来幸は反撃に背中にダガーを突き立て、もう片方のダガーで首を跳ね飛ばした。
「相手してる…場合じゃ、ない」
「そうだな!ブラスターモードだラグナロッカーッ!!」
「……?どうする気…?」
「へっ……、こうするんだよッ!!」
次の瞬間、来幸は空高く跳んだ。ブラスターを放出したまま大剣の容量で、【終焉の秒針】を一回転させて、辺り一面を焼き払ったのだ。ふぅと息付く創愛の横に着地した来幸は、少し不満そうな目で見つめた。
しかし、また新たに地面から、ゾンビ達が湧き出てきた。それを見て、「無限湧きかよ」と泣き言を言い始めた創愛と、来幸の間を引き裂くように複数の鎖が飛んで来た。創愛達はそれぞれ遠のく形で、その攻撃を避けた。ゾンビ集団が来幸を取り囲むように、隊列を組み始めた。
「おい、来幸ッ!?」
「人の心配をしておる場合か?」
「───なっ!?うぐ……ぅぅ────ッ!?」
突然、背後から先程の無数の鎖が創愛を襲う。それをソードモードに変えたラグナロッカーで辛うじて捌き切り、襲いかかってきた鎖の方を向いた。
すると、そこには白肌から褐色肌に変色させて、狡く笑みを浮かべる女性型の怪異の姿があった。手には地面に滴る紫色の液体があり、落ちた先の土が煙を上げて溶けだしていくのが見えた。
「どういうことだ?お前は、総司きゅん達のところへ攻め込むんじゃなかったのか────毒酒の……女帝?」
「ほぉ?妾の真名が明らかになっているとはのぉ?大したものじゃ、人の子よ」
「ぬ、───く、……ぎぃ!?」
ひと振り平手打ちを空に向けて放つと、後に続いて鎖が束になって創愛を薙ぎ払った。吹き飛んだ先で受け身を取って、立ち上がり腰下に剣を構えて走り出す。鎖を飛び越えると、【毒酒の女帝】が指を鳴らしたタイミングで分裂して、螺旋状に広がった。
剣で弾き、着地と同時にダブルダッチや二重跳びでもするように、脚を忙しなく動かして一撃一撃を躱し、突き立てた切っ先が届いた。
「もらったァァ!!」
「ふむ……」
━━ザクシュ...
中心に深く刺さった。が、手応えがないと創愛が感じた時背後から、肩下に回ってきた手が腹部に滑り、肩上から胸部に押し当てられた掌を見て、抱きつかれていることに気が付いた。
「貴様、アリスが見込んでいただけのことはあるのぉ?しかし、終わらせることだけが貴様の全てか?」
「グッ!?離せッ!!────うっ!?」
「褒美として、妾の呼び名を教えてやろう。《Mrs.POISON》とは、洒落た名ではあったが……。妾の名はセミラミスと言うのじゃ」
自己紹介をする間も、必死に抵抗する創愛を抱き留める力を緩めないセミラミスは、創愛に先程の質問の答えを再度尋ねる。「そのとおりだ」と頑として、殺気を崩さない眼で睨む創愛を見てほくそ笑みながら、腹部に回した手をスルッとヘソ下に添え、胸部に当てた掌は心臓の位置に、少し強めに押し込めて創愛の内に問いかけるようにその言葉を否定した。
「それはおかしくはないか?貴様、人であり雌であろう?生命を、子を成すこの肉体が……。終わりを齎すためだけに存在してなるものか」
「や、やめ……ろ……」
「現に貴様?今、妾に殺されるかもしれないと此処は必死に子を成す準備に励んでおるのではないか?」
セミラミスの吐息が耳にかかると、甘い吐息を釣られて出してしまった。それだけでなく、心の内を見透かされたように身体が、反応を見せ始めていることを必死に抑えていた。
創愛はセミラミスと自分との実力差が、大きくあることを今の一瞬で思い知ったことで命の危機を感じていた。同時に、自分の意思が女であるが故に矛盾を孕んでいるという指摘に、ぐうの音も出せずにいた。
「あ……、あぁ……」
「どうした?疼いておるのだろう?貴様、何故本心から逃げているのじゃ?女として、性を受け入れることは恥ずかしいことではないのだぞ?ただ、終わらせたいのであれば、それは争いを好む男共にやらせておけばよいのじゃ」
「そ、それは……」
「貴様。いや、其方は妾の可愛い娘も同然じゃ。妾の血毒を大量に打ち込まれておるな?それは同時に、其方はもうヒトではなくなっている証拠じゃ?ならば、ヒトであるうちに惚れた男の種を宿して子を成し……平和に過ごしたくはないか?」
「ふ…ぇ……?」
創愛の頭が真っ白になっていく。セミラミスの誘いがあまりにも魅力的だった。要求はただ一つ。自分が怪異から手を引くこと。それを約束すれば、想い人達も解放することに協力すると申し出てきた。
「どうだ?悪くはあるまい?其方がヒトでなくなり、妾と同じ怪異となってしまってからでは遅いと思うぞ?」
「ま、……って?あた、し……が、怪……異?」
気になることではあったので聞き返すと、セミラミスは爪を立てて胸に当てていた手で、自身の首元の表皮を爪で引っ掻いた。血の色が黒い。まさしく、怪異の血をしていた。後から溢れ出る血の色が、紫色に変わったのを見て、あの時の薬液と同じであることを確認した。
その一瞬下腹部にチクッとした感覚を感じると、セミラミスが笑いながら「ほぉら……」と、もう片方の手に着いた血を見せてきた。
「は……、ぁぁ!?そ、……んな……?」
真っ赤な血が、空気に触れた一瞬で黒く変色し、爪で引っ掻かれた箇所から滴り始めた血液も、ドス黒い色をして地面に向かって降りていっていた。
音もなく何かが、創愛の中で崩れ去って行った。同時に過呼吸になって、抱き止められたまま地上で溺れていると、セミラミスが耳元で囁きを投げかけた。
「さぁ、どうする?怪異となれば、その理性も保っていらぬやもしれんぞ?そうなる前に、欲しくはないか?想い人の愛と生命の種を……」
「その……、ためにっ……」
「まだ抗うのか?そのために妾を含む怪異達を倒して終わらせるためにその生を使い果たすつもりか?其方にとってこの戦いに投じる意味は大切なもの達を救うことなのだろう?何も、怪異を撲滅しなくとも妾と手を組み組織とやらを潰せばよかろう?」
理にかなっていると、納得せざるを得ない。
総司と麗由。創愛が助けたいと思っているのは、その二人だけだった。その二人は、怪異に接触していた訳でもないのに親の不始末から行き場を失い、親の跡継ぎとして怪異を討伐する人生を送る以外に、選択肢がない。そんな二人を自由にしたいから、怪異と戦わなくてはならない現状を終わりにしたいという創愛の考えは、セミラミスの提案が本当に叶うであれば、違う形で終わりを迎えられるのだ。
既に、心の自制心は消え去り、セミラミスの言葉だけで抑えつけていた理性の裏の魔性だけが、脳内を支配していた。
「欲しい……。総司きゅんの……愛が……、子どもが……」
「そうじゃ。其方はその肉体で新しい創造が出来るのじゃぞ?それを謳歌せずに生きて、満足出来るか?」
「出来ないッ!!出来るわけ、ないッッ!!??お願いッ!!あたしをッッ!?」
目を見開いて、必死に懇願するためにセミラミスの方を見ようと、頭を動かしたその時───、セミラミスの首が消し飛んだ。
我に返った創愛にも衝撃が加わる。
「ダメ…。それは……手を取っちゃ……」
「……!?来幸……?」
セミラミスの誘惑から、目を覚まさせてくれたのは来幸だった。
ゾンビの群れを一掃して、助けに駆けつけてくれたのであった。そして来幸は、消し飛んだ首を再生させながら立ち上がるセミラミスへ、一人立ち向かい振り向きざまに創愛に向けて言葉を放った。
「行って…!!仲間達のもとにッ!!あなたの戦う理由……、もうそれは小さなものだけを守ることじゃないッ!!来幸は、それ…昨日知った…。そして、来幸……覚悟…決まった」
そう言った来幸は、はじめて今まで見せたことのない笑顔を創愛向けた。
「貴様ァ!?あと一歩のところで堕とせたものを────ォォ!!!!」
激昂したセミラミスは、空中に無数の布陣を召喚し、鎖を放ちながら向かってくる来幸に牙を向いた。
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