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終黎 創愛 side

眼鏡

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「えっと……確か……」
「あのさ──。その確かで、もうかれこれ3時間は迷ってんだよな?」

 創愛は死に切った目で、何度目かのツッコミを入れた。それを聞いて「今度は間違わねぇよ」と、代伊伽たいかは返して地図ではなく、行き先だけを書いたメモと睨めっこして先を進んだ。
 隙間風が吹き抜けるその寒くて狭い道を、同じ迷路の道を進むように歩く二人。とうとう創愛が音を上げて、その場に寝転んだ。

「あ~、マジで無理ッ!!本当にこんなとこにあんのかよ?」
「仕方ねぇだろ?噂零課は1つ1つの拠点が秘匿されてるんだからよ!!っと!?」

 後ろを向きながら、歩いてそう言った代伊伽は何かにぶつかった。そして、反動を感じて後ろを振り返った。そこには小さな背丈の眼鏡をかけた少女が、ぶつかった拍子に両手を着いて倒れてしまったのか、頭を押さえながら起き上がろうとしていた。

「いやいや、すいませんね?ちょっと廃棄物をゴミ箱に出しに来ただけなんですけど……はい」
「あ、あぁ────、あ……」
「はい?どうしたんですか?当たりどころでも悪かったですか?────はい?…………」
『あぁぁ────────ッ!!!!!!』

 お互いに指を差して叫ぶのに反応して、創愛は飛び起きた。すると、代伊伽がいきなり少女の胸ぐらを掴んで、少女の身長を倍にした位置であろう自分の顔の位置まで持ち上げて声を上げた。

「何でてめぇがこんなとこに居んだよぉ?あぁ?」
「そりゃあ、こっちのセリフですね、はいッ!!てか、相変わらずデカパイぶら下げて息してるですか?はい?」
「てめぇこそ、あん時から1ミリも背が伸びてねぇんじゃねぇのか?ええん?」
「何を?この身長で生きてきて得しかしてこなかったと言うのにッ!?おめぇのその一言で全てが水の泡ですよ、はいッ!!」

 このこのと、両手を振り回して代伊伽の頭を叩こうと暴れる少女。
 代伊伽も負けじと、ぶんぶんと縦に少女を振っているところに、創愛が割って入り少女を抱き抱えるようにして、代伊伽から取り上げて質問した。

「おふたりは知り合いで?てか、代伊伽。相手に何マジになってんだよ?」
「子どもだぁ?はんっ!?背が低いだけに、悪魔の子だよそいつはっ!!」
「べ~だ、です……はい」
「おい、君もだぜ嬢ちゃん?なんだってあたしの仲間に、そう喧嘩腰なんだよ?」
「仲間って、貴女この乳壁女と友達なんですか?はい?なら、辞めとけです。この乳壁女、昔私が良くつるんでいた男を奪ってそのまま結婚するかと思ったらですね?その後、婚活サイトで知り合った男と結婚しやがったんですよ?」
「ありゃあな、てめぇとつるんでた奴が半グレだったからシバいてやっただけだろ?そんでもって、結婚の話は……べ、別にいいじゃねぇかよ……///」

 そのむっつりスケベ全開な照れ方に怒って、被っていた帽子を叩き付けて今度は少女の方から、代伊伽に掴みかかった。その時地面に落ちた帽子を手に取った創愛は、帽子に着いていたバッジを見て、少女が噂零課の人間であることに気が付いた。

「だいたい、てめぇの方こそなんだっ!!光学部試験であたいから合格枠奪っといて、自衛隊に入ってよ?こないだ火薬庫に火ぃ付けたらしいじゃねぇか?あたいはてっきり焼身自殺したのかと思ったのに、生きてやがってよ?」
「なによぉ?私だってね?おめぇのこの無駄にデカいおっぱいの横に添え物にされて、小学校の頃からずっと胸がねぇって笑われてたんですよ?お前にこの苦しみが分かりますかってんだい?はいィィ!?」

 代伊伽の胸を鷲掴みにして、必死に母親に抱き着く子ども用に引っ付いて、代伊伽が反撃に出来にくいようにペシペシと、蹴りを腹部に入れていく。しかし、代伊伽の鍛え抜かれた腹筋には、大したダメージにもならずに弾力に弾かれている様子。
 このままでは、よく分からない因縁のふっ掛け合いで日が暮れてしまうと、帽子のバッジと自分のコートの胸に着けているバッジを合わせて、二人に見せながらお互いが、噂零課の人間なんだということを伝えた。だが、火に油注ぐとはこのことであったと、二人は喧嘩をヒートアップさせてしまった。

燈火ともしびは~~んっ?ゴミ出しだけにどんだけ時間かかってんだって隊長さん怒っとるでぇ?お?」
「あ、蘇鉄そてつ!?蘇鉄じゃねぇか?久しぶり♪」
「創愛はん!って!?燈火はんに代伊伽はんっ!?道端でなんちゅうキャットファイト繰り広げてるんや?」

 突然の光景に目が点の蘇鉄は、これまでの経緯を聞いて一安心した。
 そもそも、創愛と代伊伽は今回蘇鉄の所属する情報部隊で、怪異の目撃情報を聞いてくるようにと言われてやって来ていた。それならと、場所を案内する蘇鉄であったが、ドアを開いて地下へと続く下り階段が実は狭い道入って、直ぐのところにあったことを知った創愛はキィっと代伊伽を睨み付けた。

 情報部隊の拠点に到着してひと息着くと、直ぐに全員一列に並んで、隊長の入室に備えて姿勢を正した。ドアが開くとそこに情報部隊の隊長と、噂零課の局長を務めるアリスが入室してきた。
 創愛と代伊伽はアリスを冷ややかな目で、見つめながら敬礼をする。席に着いて今回の怪異について、情報と今後控えている大型作戦の情報を共有しはじめた。
 何でも、怪異を産み出している上級怪異の存在を確認したアリスと政府は、これを撃滅する為の作戦を発令した。

視察列車、囮作戦デコイ・バトレール。これで、敵の大将を引きずり出して討滅する。連中には、勿論……本当の情報を与えている」
『────ッ!?』

 その場にいた一同は隊長も含めて、驚愕した。
 アリスは、今回の作戦は本物の視察来た政府関係者を囮にして、怪異を根絶やしにするべく、本当の情報を売ったと言うのだ。その情報のやり取りをした者の名前は、《Mrs.POISON》と名乗る自称怪異の代表だそうだ。ざわつく空気の中、情報局員の人間を全員履けさせて、創愛と代伊伽、蘇鉄の三人だけ残るように指示を出して作戦会議を終了させた。

「あの……、それで私は休暇貰っていいんですかね?はい?」
「好きして。その眼、眼鏡無しでも見えるようにしたいのでしょう?」
「はい。視力がゴミだと、怪異の力も満足に使えないので……有難く休ませていただきます。────はい~~~♪」

 上機嫌に語尾を伸ばした燈火は、長期休暇申請書を叩き付けて、埃を立たせる勢いで拠点を飛び出して行った。長期休暇理由には、『ICL手術に行ってきます、はい』と書かれていた。

「さて────」

 気を取り直してアリスは、創愛達に伝えておかねばならない事を伝えるべく、ドアを閉めて口を開いた。

 その事実に創愛達は、複雑な心境を抱かずにはいられなかった。


 □■□■□■□■□


 うちの部長は、いつも厳しい。

「おい、眼鏡ッ!!お前は何年やってんだこの仕事?」
「は、はい。すみません、直ぐに書類作り直します」
「作り直しますじゃないんだよ!!いいか眼鏡?お前の代わりはいくらでも居るんだからな?お前の人生も書類もやり直しが効かないものだと思って作れ。いいな?」

 また怒られている。彼、ここに入ってもう二年になるのに、所内で一番下だから部長の毒舌に振り合わされて生きていた。彼が来るまでは、俺があの位置にいたんだと思い出すと、ゾッとする。
 そしてタチが悪いのは、部長は仕事が出来る。そうじゃなきゃ部長じゃないって話なんだけど、その仕事ぶりはとても真似できたものではない。うちの支社は、部長が居なくなれば明日にでも畳む事になるだろうと言えるほどには、うちを支えてくれている。

「よっしゃ、高城。商談行くぞ」
「はい。…………そんな落ち込ま────」

 呼ばれたので返事をして、立ち尽くしている彼に声をかけて上げると、ブツブツと何か言っていた。よく聞こえなかったが、商談に遅れる訳にも行かないので、部長とともに車へ乗った。

「まったく、あの眼鏡はこの仕事を舐めてるよ!!」
「そう、ですね……」
「お前の事も前は酷く言ったけどさ。こっから先を担って行くなら、こんくらいの事には耐えて欲しいわけよ?それなのに、あの眼鏡はさ……」

 気にかけているからこそなのだろうが、その要求が高過ぎる。そのせいで、周りは続々と辞めていったし、彼もそろそろ限界だろう。さっきの小言もきっと、精神に限界が来ているのかもしれない。
 なんて考えている間に、商談場所に着いた。言われたとおりの住所にやってきたのだが、どうにもうちで商談をするような企業とは思えない。何より、うちで取り扱っている商材は、業務目的で使用する電化製品。それもコピー機ではなく、印刷機といった重機とも言える大型機械製品だ。
 それをこんなで使うとは思えない。

「お邪魔します。どうも、竹筒たけづつさん」
「おや?部長様、いらしたのですか?例の機織り機の事ですわね?少々お待ちください。ズイーク?この方達にお茶をお願い」

 流石は部長。うちで扱っている商品を売るのではなく、うちの商品のラインナップを拡張するための商談を取ってくるとは、やはり俺らでは思い付かない発想を持っている。そのために、本社から予算の傘増しに頭を下げていたのかと考えると、本気でうちのこれからを考えている人なんだろう。
 竹筒と呼ばれていた女性に呼ばれて、奥からお茶をトレイに載せて現れた男性。ゴスロリ服を着て、まるでのように見えるが顔立ちは男として美形だ。

「お召し上がりください……。我が主。んんッ……、竹筒様がお客様の対応を終えるまでお待ちください……」

 そう言って奥へと戻って行った。あれだけ見た目の整った人が居るなら、お客対応をやらせれば、イケメンのいる家具屋として人気が出そうだなとは思うが、今の対応からして無愛想なのが玉に瑕なのだろう。頂いたお茶を音を立てずに啜る脇で、竹筒の方を見た。
 家具を買いに来た感じではなさそうな、がサングラスをだらしなく鼻上で下ろして裸眼を覗かせて、ニヤリと笑って何か言っている。

「なら、自分らと組むかは……今抱えている山の落としどころ次第って訳ね?安心してもらっていいぜ?自分、上手くやってみせるんで♪」

 ナンパか。昼間から、家具屋に来て自分好みの女を見つけたと、ナンパして自分の縄張り来ないかとバックにいるヤクザでも脅しの題材に使っているのだろう。それに動じる様子もなく、「ご健闘を」と笑顔で返している竹筒って人も、なかなか肝が据わってる。そんな事を思っていると、部長が声をかけてきた。

「なんだ?お前、竹筒さんみたいな子がタイプか?」
「ち、違いますよ」
「隠そうとするなよ。竹筒さん、綺麗な人だしお客対応も素敵だもんな?ありゃあきっといいお嫁さんになるよ」

 そういう部長には、もうそろそろ大学に進学するお子さんがいた。そのお子さんの為にも、この商談に命を懸けているのだろうと思いながら、竹筒とガラの悪い男の会話が続いているのを聴くべく、再び振り返った。

「なっ……」
「ん?どした?」
「い、今……ガラの悪い男の人居ませんでした?」
「?竹筒さんが対応していたお客さんか?…………?帰ったんじゃないのか?」

 そうなのだろうが、だとしてもおかしい。
 だって二人が話していたカウンターは店の奥側で、俺らが座っている応接間の方に────。反対側にある店の入り口があるんだ。
 話し声が寸前まで聞こえていたのに、カウンターに竹筒って人しか残ってないのなら、入り口に向かって話していたことになる。
 しかし、聞こえていた声の距離感からして、カウンターから動いているはずはなかった。もうとしか説明がつかない。まさか、ここは幽霊を相手に、商売しているとかないよな。

「幽霊がどうかされましたか?」
「え?あ……」
「竹筒さん、こいつあなたに興味あるみたいで」
「あら?そうなのですか……。ズイークが怖い顔であなたを見ていますよ?」

 店奥からこちらを顔だけ覗かせて、睨み付けるゴスロリ服の男性に手を振ってそうではないとアピールをして、部長に商談に話を移してもらうように咳払いした。

 商談は上手くいき、本格的に来月から印刷機の生産ラインに一つ機織り機にする方向で、竹筒の冗談を得た。さすが、部長の話上手には恐れ入ったと、いつものことながら思った。
 この調子で、彼のことももう少し優しくしてやってほしいとは思うのだが、それとこれとは話が別なのだろう。車へと向かい家具屋の入り口で改めて挨拶を交わして、外へ出た去り際────。

「始末、致しましょうか?」
「いいわ。下がりなさいガイ██ル……」
「かしこまりました、███……ゴート様……」
「どうせ、あの者達はこれまでですから」

 さっきの、ガラの悪い男の話をしているのだろうか。それを俺らを見送りながら話すかね普通。それにあのゴスロリの、ってさっき呼んでいただろうに、ガイヤァルと呼んでいたような────。
 何でなんだと、不思議に感じる。その事が頭から離れず、部長に思わず聞いてしまった。すると、部長は笑って返した。

「あーっはっはっは。それはきっと本名を隠して活動している方なんだろうさ。あのメイドみたいな男、きっと多方面で活躍してる人なんだろ。にしても、ジークにガイヤールねぇ?どっちもを意味した言葉だ。これは機織り機の名前も勝利に因んだもの方がいいかもしれんな」

 この人のこういう時が、一番子どもっぽい瞬間でもある。なんて、思って正面をしっかりと見て運転すると、目の前に人影が仁王立ちしていたので、俺は急ブレーキをかけた。
 なんとか衝突事故にはならず、後続車がなかったお陰で事なきを得たが、部長は車を降りて仁王立ちしていた人影に、怒鳴りに向かった。なんと、そこに居たのは彼だった。部長は仕事をサボってふざけた真似をした彼に、職場にいた時以上に声を荒げて怒鳴りつけていた。

「お前って奴はっ!!そんなに辛いなら言え眼鏡ッ!!」
「…………テン、ソウ、メツ」
「は?何馬鹿なこと言ってんだ?眼鏡、今日はもう帰れ!!」
「テン、ソウ、メツ……。テン、ソウ、メツ……。テン、ソウ、メツ……」

 明らかにおかしい。彼の様子だけでなく言動からして、何を仕出かすか分からない。そう思って、車に戻ってくる部長の背後にいる彼から目を離さずにいると、ゴキっと奇妙な音を上げて鎖骨の辺りからパックリと、割れるように真っ白な腕が生えてきた。
 その異様な光景に唖然としている間に、真っ白いその腕が車のフロントガラスを貫通して横に振られた。車体上部が見事に切れて、崩れ落ちる様子に恐怖を感じつつも、このままでは部長も俺も命の危険があると、手を取って車だった鉄の塊から抜け出して路地の中へとひた走った。

「眼鏡……眼鏡……」
「そんなこと言っている場合ですか?あいつ、どう見たって普通じゃなかったですよ」
「違うよ!眼鏡、眼鏡ッ!!」

 目元を押さえて、彼の呼び名を口ずさんでいる部長。そんなに気にかけていた部下に手を上げられた事が、許せないのかずっと「眼鏡」と言っている。
 だが、ふと思ったことがあった。彼────、去年からずっと眼鏡をかけていないのに眼鏡と呼び続けている部長も変だと────。

「メガネ……メガネ……メガネ……」
「────ッ!?」

 ふと、思い出した。部長が新人だった俺を叱りつけていた時に、よく言っていた言葉を────。


━━お前はがないんだよ。今日からお前は目無しだ。


 その言葉が、フラッシュバックする俺の目の前には、目がくり抜かれたように空白となっていた部長の姿があった。俺は、悲鳴にもならない声をあげるしか出来なかった。

「目だ……目がねぇんだ……、ずっと、ずっーと!!寄越せ、その目」
「ひっ!?」

 終わった。部長も怒られていた彼も、揃い踏みで化け物だったのか悪い夢を観ているのかも分からないまま、ここで"部長"だったもの。目無しの化け物に、殺されるのか。そう思ったその時、化け物の横から蛍光色に輝く何かが、飛んで来た。
 化け物は来た道。つまり白い腕を生やした彼の方へと、吹き飛ばされた。俺は無我夢中で、それぞれ勝手に動き出している手足の足並みを揃えて、その場から起き上がって光が飛んで来た方を見る。

 そこには、紫色の長髪頭の女の子が、銃のようなものを構えて立っていた。


 □■□■□■□■□


「危ねぇからどいてなッ!!もう1発ッ……」

 創愛はブラスターを放った。起き上がった怪異【目がねぇ】は、股を広げて跳び上がって避けると、そのまま壁を伝って路地から逃げ出した。
 直ぐに耳に付けた小型無線を使用して、連絡を取った。

「こちら遊撃班、創愛。1人怪異接触者を発見。周辺の閉鎖は完了してるんだよな?」

『勿論やで♪今そっちに、記憶消去装置なんていう胡散臭い装置持って警備班が向かったで。そこの男はほっといてエリア内の怪異を頼む。代伊伽はんは反対方向で逃げた【白い憑依霊】ハイレタの対処頼むで?』

「了解。代伊伽と合流してでも2体はあたしらが倒すっから安心してなッ!!」

 通信を切って、怪異の追跡へ向かおうとする創愛は足を止めた。そして、生まれたての子鹿のように、両脚を震わせている男が失禁しているのを見て「ぷふっっ」と笑ってしまった。そのまま、男に近寄って同情の念を込めて言った。

「分かるよ……。あたしは好きな人に刀向けられてチビったから……うんっ!」
「は、はぁ!?」
「まぁ良かったじゃん♪あんたはそんな恥ずかしい記憶も忘れられちまうかもしてない希望があんだからよ!そんじゃなっ!!」

 創愛は、重々しいブラスターブレイドを担いで、追跡を始めた。創愛が過ぎ去った場所に、警備班がやって来て男を取り押さえると、遅れてアリスがやってきた。その手には、ボールペンのような細いスティックが握られていた。

「とりあえず、2日間で試す。試行後、1週間の開始をするように……」
「はっ!」
「な、何なんだよ?」


━━バッチュン...


 カメラのフラッシュのように、照らされた男の目は虚ろになり、そのまま口を開かなくなり固まっていた。警護班は男を担架に寝かせて、その場から連れて行った。

 一方、創愛はラグナロッカーでブラストダッシュを使い回り込み、動じた【目がねぇ】にソードモードで斬りつけた。地面に打ち付けて、バウンドするも着地の体勢を直ぐに取って反撃を仕掛けて来た。
 しかし、向かってきた【目がねぇ】に真っ白いものがぶつかり、壁際まで押し飛ばされた。

「ったくよぉ!入れた、入れたうるせぇんだよ、この白い怪異……」
「代伊伽。へへっ、そっちから合流しに来てくれたのは助かったぜ」
「そんな訳あっかよ……行くぜ?合わせろよ?」

 そう言って互いに腕で、タッチを交わした。
 ロッドに水色のオーラを纏わせて、構える代伊伽と切っ先に紫と緑が飛び交う電撃を集中させる創愛が、息を合わせて眼前の敵。【目がねぇ】と【白い憑依霊】ハイレタにトドメを刺しに向かった。



━━これで、終焉ピリオドッ!!
━━情状酌量の余地なしッ!!地獄へ直行フォーリンヘルッ!!


 ロッドの両端に込めた力を二体に突き当てて、その後ろから腰に構えたラグナロッカーでまとめて、一気に斬りつけて駆け抜けた。
 まるで、特撮の悪者が倒された時のように、ド派手な爆発を起こして消滅する怪異。その沈黙を確認した蘇鉄からの通信を聞いて、脱力してその場に座り込む二人。

「はぁ……、にしてもやりきれねぇよな……」
「アリス。アイツの言葉か?あたいも同じこと考えてたよ」

 二人は怪異討伐に疲れたのではなく、ここへ来る前。つまりは、作戦会議の後に呼び止められた時に知らされた事実に思いの外、グロッキーを感じていたからであった。

 自分達の怪異の力に、使われていた薬液の正体。そして、《Mrs.POISON》の正体について聞かされて、心の整理がつかないまま怪異討伐に向かって、複雑な気持ちでいた。

 二人の。いや、遠隔で無線越しに居る蘇鉄も含めた三人の心境を表したかのように、この日の天気は曇りが続いていたのであった。
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