41 / 44
41話 「魔法都市」
しおりを挟む「編み進める時は、なるべく編目が均等になるよう心掛けると、仕上がりが綺麗になりますわ。ゆっくり進めていきましょう」
「こ、こうかしら?」
「そうそう、お上手ですわ」
イリーナは、覚束無い手つきで編み針を動かしていく。すると、レースの花びらがの形が見え始めたのだった。
「すごい、形になってきたわ!! ありがとうございます!!」
「リゼット様、ここはどうすれば?」
「ああ、この部分は……」
途中で行き詰まってしまったようで、ラウラが私に助けを求めてきた。しかし飲み込みが早い人なので、少し手助けをしただけですんなりと進み始めた。
二人とは、軍の家族交流会で偶然知り合った。社交的な彼女達は私と正反対であったが、歳が近いということもあり、交流を重ねて友達になったのである。
以前レースの編み物が趣味だと話したところぜひ挑戦したいと言われたので、今日は二人を家に招いて、編み物講座をしていたのだった。
「少し休憩にしましょうか」
一段落したところで、私達はお茶にすることにした。編み物は頭を使うので、休憩を挟みながらゆっくり進めるのがコツなのである。
温かいローズヒップティーを一口飲んでから、ラウラは私に問いかけてきた。
「リゼット様は、昔から手芸がお好きでしたの?」
「ええ、家にいることが多かったものですから……最近は、義母様から刺繍も教わってますの」
「あら、素敵」
少し前、両親が私を訪ねてきたことがある。
両親は今後私が子供を産み、その子が強い魔力を持っていたならば、一族の家系図にお前の名前を載せてやっても良いと言ってきたのだった。当然、私は丁重にお断りした。
両親が何か言うより先に、その場に同席していたルーデル、義父、義母が激怒した。それから、二度とここに来るなと両親を家から追い出したのだった。
それまで義両親と言葉を交わすことはあまり無かったが、どうやら義母も義父も、私がこの家に慣れて、ルーデルと十分に打ち解けてから距離を縮めていこうと思ってたらしい。
両親が帰った後、嫁いできてから貴女は大切な家族だと、彼らは私に言ってくれたのだった。
それから少しずつだが、義両親とも話するようになってきたのである。
ルーデルと結婚したことで、結果的に家族と絶縁することにはなった。けれども、結婚前よりも私の世界は広がり、豊かなものとなっていると感じていた。鳥籠から放たれた鳥のように、私は日々楽しく過ごしているのだから。
「リゼット様は、予定はいつ頃ですの?」
「今年の秋ぐらいの予定ですわ」
「ふふっ、今から楽しみですわね」
帽子と手袋、それに靴下にスタイに……と、産まれてくるまでに作っておきたいものは山のようにあった。今は、帽子に取り掛かっているところだ。折角なので、可愛らしい耳付きにしようと思う。
「旦那様もとっても楽しみにしてらっしゃるんでしょう? 主人から聞きましたわ」
「ええ。でもまだ産まれてないのに、彼ったら過保護すぎて。身体を冷やすなとか重いものを持つなとか無理をするなとか、困ったものですわ」
「ふふっ、うちの主人もそうでしたから。どこのご家庭も似たようなものですわ」
会話の最中にそっと自分のお腹に触れると、胎動が感じられた。それは、魔力を持つ持たないに限らず、かけがえのない存在であった。
沢山準備して、楽しみに待ってるからね。
お腹越しにまだ見ぬ我が子を優しく撫で摩りながら、私は心の中で呟いた。
「こ、こうかしら?」
「そうそう、お上手ですわ」
イリーナは、覚束無い手つきで編み針を動かしていく。すると、レースの花びらがの形が見え始めたのだった。
「すごい、形になってきたわ!! ありがとうございます!!」
「リゼット様、ここはどうすれば?」
「ああ、この部分は……」
途中で行き詰まってしまったようで、ラウラが私に助けを求めてきた。しかし飲み込みが早い人なので、少し手助けをしただけですんなりと進み始めた。
二人とは、軍の家族交流会で偶然知り合った。社交的な彼女達は私と正反対であったが、歳が近いということもあり、交流を重ねて友達になったのである。
以前レースの編み物が趣味だと話したところぜひ挑戦したいと言われたので、今日は二人を家に招いて、編み物講座をしていたのだった。
「少し休憩にしましょうか」
一段落したところで、私達はお茶にすることにした。編み物は頭を使うので、休憩を挟みながらゆっくり進めるのがコツなのである。
温かいローズヒップティーを一口飲んでから、ラウラは私に問いかけてきた。
「リゼット様は、昔から手芸がお好きでしたの?」
「ええ、家にいることが多かったものですから……最近は、義母様から刺繍も教わってますの」
「あら、素敵」
少し前、両親が私を訪ねてきたことがある。
両親は今後私が子供を産み、その子が強い魔力を持っていたならば、一族の家系図にお前の名前を載せてやっても良いと言ってきたのだった。当然、私は丁重にお断りした。
両親が何か言うより先に、その場に同席していたルーデル、義父、義母が激怒した。それから、二度とここに来るなと両親を家から追い出したのだった。
それまで義両親と言葉を交わすことはあまり無かったが、どうやら義母も義父も、私がこの家に慣れて、ルーデルと十分に打ち解けてから距離を縮めていこうと思ってたらしい。
両親が帰った後、嫁いできてから貴女は大切な家族だと、彼らは私に言ってくれたのだった。
それから少しずつだが、義両親とも話するようになってきたのである。
ルーデルと結婚したことで、結果的に家族と絶縁することにはなった。けれども、結婚前よりも私の世界は広がり、豊かなものとなっていると感じていた。鳥籠から放たれた鳥のように、私は日々楽しく過ごしているのだから。
「リゼット様は、予定はいつ頃ですの?」
「今年の秋ぐらいの予定ですわ」
「ふふっ、今から楽しみですわね」
帽子と手袋、それに靴下にスタイに……と、産まれてくるまでに作っておきたいものは山のようにあった。今は、帽子に取り掛かっているところだ。折角なので、可愛らしい耳付きにしようと思う。
「旦那様もとっても楽しみにしてらっしゃるんでしょう? 主人から聞きましたわ」
「ええ。でもまだ産まれてないのに、彼ったら過保護すぎて。身体を冷やすなとか重いものを持つなとか無理をするなとか、困ったものですわ」
「ふふっ、うちの主人もそうでしたから。どこのご家庭も似たようなものですわ」
会話の最中にそっと自分のお腹に触れると、胎動が感じられた。それは、魔力を持つ持たないに限らず、かけがえのない存在であった。
沢山準備して、楽しみに待ってるからね。
お腹越しにまだ見ぬ我が子を優しく撫で摩りながら、私は心の中で呟いた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

[完結長編連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ・更新報告はTwitter等
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる