上 下
12 / 15

11 気持ちは何処に

しおりを挟む





「いらっしゃいー!」

 初老夫婦がにっこりとして迎えた。

 夫婦でやっているバーバー。

 おばさんは雪芽と、後ろから入ってくる芳樹を眺めて、

「雪芽ちゃん髪切るの?芳樹君は昨日来たもんね。二人で来るの久しぶりね!」

 奥さんが言葉をつなぐのを聞いて、雰囲気が和やかになった。そして、自分ももう大人になってきたんだ。と彼女の態度から無理矢理思うようにした。


「芳樹昨日来てたんだ。全然分からなかった」

「はいはい」


  椅子にかけてタオルやカッティングクロスを巻いて、


「このくらいから短くしていく?」

「ああ……もう少し下」と、はさみが入った


  雪芽の首に冷たい空気が入った。

  会話を重ねる雪芽とおばさん・・・


「こんな感じはどう?」


「憧れてる女優さんはいる?」とか、髪型を模索していた。


  結局に、無難に黒のボブカットに落ち着いた。

  
 髪型の話のほかにも他愛のない世間話や、近況報告などを重ねて、切り始めるまでにだいぶ時間がかかってしまった。


  あれ。

「芳樹、寝てる?」


 鏡を向いたまま、後ろに呼び掛けた。

   
 芳樹はソファに座ったまま、頭を垂れていた。


 髪が整ってきた。もう夕暮れだった。


「すみません。こんな遅くまで」

「いいよう。寄り道せんと帰りや」


  これから少しずつ暗くなる。もう帰ったら、ご飯を食べて髪も乾かさずに寝たい。

  おばさんが芳樹を揺り起こす。



「はい。かわいいでしょ!芳樹君みてあげて」


「おーい」


  ハッとして芳樹は雪芽を仰いだ。


「どうよ。芳樹。あんた、途中でいびきかいてたよ。はは」 

 雪芽は髪を切って変に気が大きくなった。


「え。…おお。いつぶりだろ。そんな風なの。大人のお姉さんじゃん」


「うん」


  雪芽は遠くの床の方に目をやり、あらわになった首元を寂しそうにして手櫛した。


「よし。じゃあ帰るか」芳樹は膝に手を付け立ち上がった。


「お会計はもうしてあるよ。はやく帰り」とおばさんが言った。


  雪芽は白い光を目の中に持ち、瞳が鋭かった。そしてここは靴箱。靴を脱いで入る床屋なのだ。

  
 雪芽は芳樹のサンダルを持って先に履いた。


「ちょっと、それ俺の」


「いいじゃん」

 
  少し不満げな態度で雪芽は芳樹にあたった。


「芳樹のサンダルもらってく」


「意味が分からん」


 雪芽の小さな淡い青と赤のラインが施された白いスニーカーを、芳樹がつまんで持った。


「じゃあね。また。」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

桃は食ふとも食らはるるな

虎島沙風
青春
[桃は食っても歳桃という名の桃には食われるな] 〈あらすじ〉  高校一年生の露梨紗夜(つゆなしさや)は、クラスメイトの歳桃宮龍(さいとうくろう)と犬猿の仲だ。お互いのことを殺したいぐらい嫌い合っている。  だが、紗夜が、学年イチの美少女である蒲谷瑞姫(ほたにたまき)に命を狙われていることをきっかけに、二人は瑞姫を倒すまでバディを組むことになる。  二人は傷つけ合いながらも何だかんだで協力し合い、お互いに不本意極まりないことだが心の距離を縮めていく。  ところが、歳桃が瑞姫のことを本気で好きになったと打ち明けて紗夜を裏切る。  紗夜にとって、歳桃の裏切りは予想以上に痛手だった。紗夜は、新生バディの歳桃と瑞姫の手によって、絶体絶命の窮地に陥る。  瀕死の重傷を負った自分を前にしても、眉一つ動かさない歳桃に動揺を隠しきれない紗夜。  今にも自分に止めを刺してこようとする歳桃に対して、紗夜は命乞いをせずに──。 「諦めなよ。僕たちコンビにかなう敵なんてこの世に存在しない。二人が揃った時点で君の負けは確定しているのだから」

高校デビューした幼馴染がマウントとってくるので、カッとなって告白したら断られました。 隣の席のギャルと仲良くしてたら。幼馴染が邪魔してくる件

ケイティBr
青春
 最近、幼馴染の様子がおかしい………いやおかしいというよりも、単に高校デビューしたんだと思う。 SNSなどで勉強をしてお化粧もし始めているようだ。髪の毛も校則違反でない範囲で染めてて、完全に陽キャのそれになっている。 そして、俺の両親が中学卒業と共に海外赴任して居なくなってからと言う物、いつも口うるさく色々言ってくる。お前は俺のオカンか!  告白を断られて、落ち込んでいた主人公に声を掛けたのは隣の席の女のギャルだった。 数々の誘惑され続けながら出す結論は!? 『もう我慢出来ない。告白してやる!』 から始まる、すれ違いラブストーリー ※同名でカクヨム・小説家になろうに投稿しております。 ※一章は52話完結、二章はカクヨム様にて連載中 【絵】@Chigethi

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

adolescent days

wasabi
青春
これは普通の僕が普通では無くなる話 2320年  あらゆる生活にロボット、AIが導入され人間の仕事が急速に置き換わる時代。社会は多様性が重視され、独自性が評価される時代となった。そんな時代に将来に不安を抱える僕(鈴木晴人(すずきはると))は夏休みの課題に『自分にとって特別な何かをする』という課題のレポートが出される。特別ってなんだよ…そんなことを胸に思いながら歩いていると一人の中年男性がの垂れていた…

夏に飲み込まれた君は

湯川
青春
四年前の夏。ひとりの少女は、突如として姿を消した。 それはまるで炭酸の泡のように。 消える運命だったかのように。 なんの知らせもなく消えた。 過疎化の進む小さな港町、 全校生徒60人の高校、 たいして人の来ない夜の夏祭り、 苔の生い茂った神社、 全部全部欠けることなくあるのに 彼女だけがそこには存在しないのだ。 彼女は本当に消えたのか、 それとも殺されたのか。 これは、 変えることのできない運命の中で 彼女の結末を探す 4人の少年少女たちの物語。 《不定期更新》 一気に話を更新する時もあれば 全く更新しなくなる時もあります。 御理解よろしくお願いします。

通学路

南いおり
青春
幼なじみの瀬川一華と野上哲也は中学生の頃から付き合っている。高校3年生になる直前の春休みにある事件が起こる。そのことが2人の歯車を狂わせ始めた。 私が執筆している、「通学路の秘密」の別バージョンです。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

処理中です...