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7 島を渡る
しおりを挟む向こう岸に着くと、ひたすら海辺を歩いた。
金華は世界一平和な街だ。黄金に輝く太陽と真っ白な海辺は、今のところ、芳樹と歩きたい景色ナンバーワンだ。
昔から金が採れた。それで日本だけでなく世界中と貿易をしていたそうだ。
金華の豪商たちは実に平和主義者で、争いを好むようなものには金を渡さなかった。それで自然とここには平和を好む者が集まった。
さらに、ここには、アニミズムが浸透しており、花には妖精が宿ると考えられている。
細部に美を感じる。とにかく、綺麗なところなのだ。
街へと入っていくと、雨上がりだったようで、まだそのまま傘をさしている人もいた。
あの黒い傘は……。
芳樹が現れるように願って、叶うほど、簡単に物事は通らない。
難しいことが多すぎる。どうやら私は郵便局員になれないようだ。
なんて散漫な思考も滞り、結局海辺まで戻って、白骨のような流木の近くに黙って座っている。
「どうしたんですか。こんな時間に」
大柄な男のようだが、逆光で陰にしか見えない。
「みたことないひと」
ちいさな女の子もいる。
「いや……」
「泊まるところ探してるんじゃない?」
「そうか。うち、民宿だから、よければ来る?」
「本当ですか。とって食ったりしない?」
「あはは。お父さん、熊だと思われてるんじゃない。ふふ!」
無邪気に笑う子供は跳ねた。そして雪芽に近づき
「ティーンエイジャー価格で、ご飯あり、千円で泊まれるよ」
女の子は、誰か大人の文句かなにかを真似するように、そう言った。
「でも、私、泊まるのはちょっと。日帰り旅行のつもりで……」
「うち、れこーどとか、しーでぃーいっぱいあるよ。見にこない?」
そういうと女の子は少し歩いて一本の道を指差した。
「あの赤いかんばんの道をまっすぐ行くと、ミュージシャンっていうところがあるから!」
一方で彼女の熊のような父親が、
「向こうの港から来たの? もうすぐ船が出るよ」
と教えてくれた。
「今度色々回らさせてもらいます。ミュージシャンにも行くね」
そう言って、女の子にも微笑んだ。
「待ってるから!」
「それでは失礼します」
海だけど、蝉時雨の壁が申の刻を終えようとしていた。
二組は裂けるように分かれていき、雪芽はチケットを買って船に乗り込んだ。
島から出るのは簡単なのだが、なにもアテがなかった。しかし一つ収穫ができた。喜びの感情が体中を埋め尽くした。
島におりると、もうすっかり夜。闇夜に目を凝らすと群青にして光る星たちが振動され、混在していた。
幸いに、小雨も降らなかったので問題は一つ、両親との話だ。
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