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5 求めない幸せ
しおりを挟む「今日はお母さん手伝わないから。その代わり、あんたの好きなもの作っていいわよ」母がこう言った。
雪芽は嬉しかった。毎日魚で飽き飽きしていたから。
今日はサラダを作ろう。それと、どうしようかな。
食卓にはアボカドとトマトとチーズのカプレーゼに、しじみだけどボンゴレパスタ。
そして、コンビニで賞味期限近くで買い取ったブドウジュースをワイングラスにいれてワインみたいにした。
「おいしいよ。雪芽」と柔らかく笑う父。
「ほんと。イタリアンみたいでおいしい」と母。
嬉しさと満腹感でどちらも満たされた。
本当の幸せって、こういうことなのかな。
風呂上がりにドライヤーで、肩まである髪を乾かしていると、髪の毛が焼けるにおいが、ちり、ちり、と伝わってきた。
本当は幸せって、すごく身近にあるのかな。
ただ生きていられるだけで、喜びが満ちてくることだってある。
でも、そんなの妥協だよ。静かに怒りがわいて、でも親元を離れられなかった自分にやるせなさを感じた。
青い鳥は自分の胸の中にいる。なんて、分かっているつもりでも、今は偶然の重なった奇跡としか思えない。やはり自分の人生の舵は自分でとりたい。
どうやって島を出るか妄想していたらドライヤーを動かすのを忘れていた。
「熱ッ!」
しかし、今日は充実感からくる疲れで眠れる気がしていた。普段はモヤモヤしたものから逃げるかのように床に就いていたのだが。
それでも、やはり、充実感なんていうのは長くは続かないよと布団の中で密かに毒づいた。やはり眠れないかな。
雪芽はひと月遅れの旅行雑誌を寝る前に眺めていた。
もう文字が読めなくて疎んでくる人はいない、と思う。ただ、なにかがもどかしい。
紐を引っ張って豆電球を消して、布団で全身をくるんだ。
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