上 下
1 / 15

1 孤独の中

しおりを挟む
夢を見ていた。彼に強く抱きしめられる夢。目が開くと、茶色の天井があった。

 西田雪芽は高校一年の時、脳の疾患で倒れたことがあり、のち、文字が読めない“失読症”になった。

 それは春とも夏ともいえない、葉桜が笑う頃だった。
 家族三人で、生まれて初めて島を出て演劇を観に行った時のことだった。
 
 雪芽は小学生のころから、友達が外の街に連れて行ってもらっているという話を聞いてずっと憧れていた。定番は、大阪の劇場に行くことだった。

 劇場を後にして都市で夕食をとる。そしてホテルに向かう帰路で、彼女の瞳に映る看板の光はぼやけて揺れ動き、気を失ってしまった。

 怖い現実は常に人をゼロポイントに引き戻してしまう。現実化した夢が、一気に「残念だったねえ。」の一言に集約されてしまう。

 それからというものの雪芽は、SNSはできないし、ノートもとれないし、それでも、なんとか高校で三年間を過ごした。卒業もできそうだ。心の支えが三年間あったからである。

 道重芳樹は、毎日のように、雪芽の話し相手になってくれた。
 これだけ生身で向き合ってくれる人はもういなかった。

 いつも身ぎれいにしていて、白いシャツが似合う。背が高い。校外でばったり見かけると、いつもくっきりとした輪郭があって存在感がある。一重に一文字の口。

 雪芽は自分も女子の中で背は高い方なので、それを心の中の言い訳として外では躊躇いなく話しかけた。

 私は、他の人とも話はしたが、浅瀬で泳いで終わり。SNSで深くコミュニティができているらしく、会話のペースに後れを取ってしまったし、相手の複雑な話は聞いてあげられなかった。他愛のない会話も精一杯であった。

 どうしてだろう。今までは何も考えずにしゃべれていた子たちなのに。なにかズレが生じてむかむかしてくる。

「次の京都旅行どうする?」

 なんて話も聞いた。みんな長期休みには普通に瀬戸内から出ていることを、その時知った。

 こんな感じで友達のいなくなった暮らしの中に、彼は色を与えてくれていた。そもそも互いに友達だと思っていた関係など結局彼だけだったのだと、心臓は燻った。

 実は彼とどんな話をしたかあまり記憶に残っていない。ただ、彼の何でも受け入れてくれる寛容な懐の広さに、心地よさを覚えたことは鮮明に覚えている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

視界を染める景色

hamapito
青春
高校初日。いつも通りの朝を迎えながら、千映(ちえ)はしまわれたままの椅子に寂しさを感じてしまう。 二年前、大学進学を機に家を出た兄とはそれ以来会っていない。 兄が家に帰って来ない原因をつくってしまった自分。 過去にも向き合えなければ、中学からの親友である美晴(みはる)の気持ちにも気づかないフリをしている。 眼鏡に映る世界だけを、フレームの中だけの狭い視界を「正しい」と思うことで自分を、自分だけを守ってきたけれど――。    * 眼鏡を新調した。 きゅっと目を凝らさなくても文字が読める。ぼやけていた輪郭が鮮明になる。初めてかけたときの新鮮な気持ちを思い出させてくれる。だけど、それが苦しくもあった。 まるで「あなたの正しい世界はこれですよ」と言われている気がして。眼鏡をかけて見える世界こそが正解で、それ以外は違うのだと。 どうしてこんなことを思うようになってしまったのか。 それはきっと――兄が家を出ていったからだ。    * フォロワー様にいただいたイラストから着想させていただきました。 素敵なイラストありがとうございます。 (イラストの掲載許可はいただいておりますが、ご希望によりお名前は掲載しておりません)

記憶の中で

ヨージー
青春
萩山淳吾の送る中学時代

ガイアセイバーズ spin-off -T大理学部生の波乱-

独楽 悠
青春
優秀な若い頭脳が集う都内の旧帝大へ、新入生として足を踏み入れた川崎 諒。 国内最高峰の大学に入学したものの、目的も展望もあまり描けておらずモチベーションが冷めていたが、入学式で式場中の注目を集める美青年・髙城 蒼矢と鮮烈な出会いをする。 席が隣のよしみで言葉を交わす機会を得たが、それだけに留まらず、同じく意気投合した沖本 啓介をはじめクラスメイトの理学部生たちも巻き込んで、目立ち過ぎる蒼矢にまつわるひと騒動に巻き込まれていく―― およそ1年半前の大学入学当初、蒼矢と川崎&沖本との出会いを、川崎視点で追った話。 ※大学生の日常ものです。ヒーロー要素、ファンタジー要素はありません。 ◆更新日時・間隔…2023/7/28から、20:40に毎日更新(第2話以降は1ページずつ更新) ◆注意事項 ・ナンバリング作品群『ガイアセイバーズ』のスピンオフ作品になります。 時系列はメインストーリーから1年半ほど過去の話になります。 ・作品群『ガイアセイバーズ』のいち作品となりますが、メインテーマであるヒーロー要素,ファンタジー要素はありません。また、他作品との関連性はほぼありません。 他作からの予備知識が無くても今作単体でお楽しみ頂けますが、他ナンバリング作品へお目通し頂けていますとより詳細な背景をご理頂いた上でお読み頂けます。 ・年齢制限指定はありません。他作品はあらかた年齢制限有ですので、お読みの際はご注意下さい。

らじおびより

タツノコ
青春
ある町の進学校、稲荷前女子中学校・高等学校に入学した谷田部野乃。体験入部の日、ふとした事から「無線部」に入部させられてしまい、ドタバタな日々が始まる。

高校デビューした幼馴染がマウントとってくるので、カッとなって告白したら断られました。 隣の席のギャルと仲良くしてたら。幼馴染が邪魔してくる件

ケイティBr
青春
 最近、幼馴染の様子がおかしい………いやおかしいというよりも、単に高校デビューしたんだと思う。 SNSなどで勉強をしてお化粧もし始めているようだ。髪の毛も校則違反でない範囲で染めてて、完全に陽キャのそれになっている。 そして、俺の両親が中学卒業と共に海外赴任して居なくなってからと言う物、いつも口うるさく色々言ってくる。お前は俺のオカンか!  告白を断られて、落ち込んでいた主人公に声を掛けたのは隣の席の女のギャルだった。 数々の誘惑され続けながら出す結論は!? 『もう我慢出来ない。告白してやる!』 から始まる、すれ違いラブストーリー ※同名でカクヨム・小説家になろうに投稿しております。 ※一章は52話完結、二章はカクヨム様にて連載中 【絵】@Chigethi

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

処理中です...