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1 孤独の中
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夢を見ていた。彼に強く抱きしめられる夢。目が開くと、茶色の天井があった。
西田雪芽は高校一年の時、脳の疾患で倒れたことがあり、のち、文字が読めない“失読症”になった。
それは春とも夏ともいえない、葉桜が笑う頃だった。
家族三人で、生まれて初めて島を出て演劇を観に行った時のことだった。
雪芽は小学生のころから、友達が外の街に連れて行ってもらっているという話を聞いてずっと憧れていた。定番は、大阪の劇場に行くことだった。
劇場を後にして都市で夕食をとる。そしてホテルに向かう帰路で、彼女の瞳に映る看板の光はぼやけて揺れ動き、気を失ってしまった。
怖い現実は常に人をゼロポイントに引き戻してしまう。現実化した夢が、一気に「残念だったねえ。」の一言に集約されてしまう。
それからというものの雪芽は、SNSはできないし、ノートもとれないし、それでも、なんとか高校で三年間を過ごした。卒業もできそうだ。心の支えが三年間あったからである。
道重芳樹は、毎日のように、雪芽の話し相手になってくれた。
これだけ生身で向き合ってくれる人はもういなかった。
いつも身ぎれいにしていて、白いシャツが似合う。背が高い。校外でばったり見かけると、いつもくっきりとした輪郭があって存在感がある。一重に一文字の口。
雪芽は自分も女子の中で背は高い方なので、それを心の中の言い訳として外では躊躇いなく話しかけた。
私は、他の人とも話はしたが、浅瀬で泳いで終わり。SNSで深くコミュニティができているらしく、会話のペースに後れを取ってしまったし、相手の複雑な話は聞いてあげられなかった。他愛のない会話も精一杯であった。
どうしてだろう。今までは何も考えずにしゃべれていた子たちなのに。なにかズレが生じてむかむかしてくる。
「次の京都旅行どうする?」
なんて話も聞いた。みんな長期休みには普通に瀬戸内から出ていることを、その時知った。
こんな感じで友達のいなくなった暮らしの中に、彼は色を与えてくれていた。そもそも互いに友達だと思っていた関係など結局彼だけだったのだと、心臓は燻った。
実は彼とどんな話をしたかあまり記憶に残っていない。ただ、彼の何でも受け入れてくれる寛容な懐の広さに、心地よさを覚えたことは鮮明に覚えている。
西田雪芽は高校一年の時、脳の疾患で倒れたことがあり、のち、文字が読めない“失読症”になった。
それは春とも夏ともいえない、葉桜が笑う頃だった。
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雪芽は小学生のころから、友達が外の街に連れて行ってもらっているという話を聞いてずっと憧れていた。定番は、大阪の劇場に行くことだった。
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怖い現実は常に人をゼロポイントに引き戻してしまう。現実化した夢が、一気に「残念だったねえ。」の一言に集約されてしまう。
それからというものの雪芽は、SNSはできないし、ノートもとれないし、それでも、なんとか高校で三年間を過ごした。卒業もできそうだ。心の支えが三年間あったからである。
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これだけ生身で向き合ってくれる人はもういなかった。
いつも身ぎれいにしていて、白いシャツが似合う。背が高い。校外でばったり見かけると、いつもくっきりとした輪郭があって存在感がある。一重に一文字の口。
雪芽は自分も女子の中で背は高い方なので、それを心の中の言い訳として外では躊躇いなく話しかけた。
私は、他の人とも話はしたが、浅瀬で泳いで終わり。SNSで深くコミュニティができているらしく、会話のペースに後れを取ってしまったし、相手の複雑な話は聞いてあげられなかった。他愛のない会話も精一杯であった。
どうしてだろう。今までは何も考えずにしゃべれていた子たちなのに。なにかズレが生じてむかむかしてくる。
「次の京都旅行どうする?」
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