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 小説を読んでないレナちゃんは意外過ぎるほど饒舌だった。
「私、クラスで浮いてるでしょ?」
「そう、かな。俺は日本で浮いてるけど」
「突っ込んで来た車の上を歩けるくらいだものね。浮いてると思う」
 会話は途切れることなく、しかもテンポよくチャーミングに進んでいく。
 山盛りのステーキ丼のてっぺんに置かれた卵黄を崩して、レナちゃんはスライスされたステーキを口に運んだ。レナちゃんが咀嚼している間に、今度は俺が会話をふる。
「お寺関係の人ってお肉食べないんだと思ってた」
「よく言われるわ。でも、私は魚より断然、お肉派。お肉党って言ってもいいくらいお肉が好き。両親もお肉食べるし、お寺関係の人は最近は全然平気でお肉食べるわよ?」
「なんか偏見もってってごめん」
「いいのよ」
 俺とレナちゃんは対面で座っていたけど、四人掛けの席を希望した。俺の隣にはパキネが座って、窓の外の景色を見ていた。
 斜め向かいには昨日の夜に多分泣きまくったのだろう、目を腫らし、名残惜しそうに鼻水をすするルキが黙って座っていた。
 ルキは本当にレナちゃんのことが好きなんだなって思った。何度も俺たちが恋人になるのを阻止しようとしていたし、犬猿の仲のパキネに俺とレナちゃんを引き裂くように頼んだり、レナちゃんを本気で俺たちのから遠ざけたいって思っているのはルキだ。
 彼の想いをこんなに無視して申し訳なく思うし、悪霊が見えるように目を変えてくれたのもありがたいって思ってる。けど、俺が邪神と戦うにはレナちゃんの力が必要だから、悪いとは思うけど、レナちゃんと仲良くしていたい。
「私ね、コンプレックスがあるの」
「そうなの?学校じゃ無敵かってくらい美人で人気なのに」
「外見については別にいいの。問題はこの喋り方なの」
「じゃべり方?」
「だって、変だって思わない?いつも、○○かしら?とか○○だわ、とか今の女子高生はこんな上品ぶって喋らないもの。そもそもため口っていうのが私のボキャブラリーには存在しないのよ」
「俺は気にしないけどなぁ。パキネも○○なんよとか、どっかの方言みたいに喋るし、ルキだって、俺のことブン殿とか呼ぶし、付喪神のもっちゃんだってなんかギャルみたいな話し方っていうの?態度デカかったしさ、そんなに気にするようなことでもなくない?」
 レナちゃんは抹茶ほうじ茶ラテをすすって溜息をついた。
「ブンくんがそういう人だから、私、あなたに惹かれたのかもしれないわ」
「そんなことで?」
「あら、本当にコンプレックスなのよ?もう癖でどうにもならないし、初めはみんな品があるとかお嬢様っほいって言うのに、気がつけばキャラづけしすぎって白い目で見られているし、実際同級生とは話したいと思わないもの」
「だから授業以外の休み時間とか小説読んでるの?」
「そうね。本に逃げているのは確かかもしれないわ」
    
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