56 / 66
56
しおりを挟む
今まで何度もパキネの悪戯でスマホのアラームを止められて、寝坊する危険があるから、俺の部屋にはアナログのベルが爆音で鳴るタイプの目覚まし時計も設置していた。
初デートだし、絶対遅刻したくなくて、スマホのアラームを五分置きにセットした。
「そんなに厳重にしなくても、意地悪せんよ?」
スマホを見ていた俺のオデコに、正面からパキネはオデコを強く打ち付けてきて不機嫌そうにしていた。
「でも、お前中学の修学旅行の日、勝手に目覚まし止めたよな?」
「あーまー……そんなこともあったね」
「バス出発する寸前だったし、クラスメイトからは笑われるし、滅茶苦茶恥ずかしかったんだからな?」
「でも間に合ったじゃん!」
「母さんが起こしてくれたからな!」
「そんなに私が目覚ましの邪魔すると思うならお母さんに起こしてって頼んでおけば?」
頼みたい気もするけど、そもそも母さんは昔から低血圧で目覚めが悪く、俺より早く起きられるとは殆どない。いつしか俺は、母さんを起こさないように学校に行くようになったくらいだ。それに母さんは楽天家でちょっとデリカシーがないタイプ。初デートに行くなんて言ったらからかわれるのは目に見えている。
「俺の母さんは座敷童ってきいて一緒に家にパキネを連れて帰るような母さんだぞ?」
「だから?」
「能天気なんだよ」
「ひどーい!」
パキネは俺の母さんのことが大好きだ。俺がまだ小学生に上がる前は、よくパキネについて質問してきた。好きな食べ物、この家でお気に入りの場所、どんな見た目で、どんなことを俺と話すのか、いつも興味津々だった。
今はもう、そんな話はしなくなったけど、パキネがこの家で一番好きな俺の部屋のバルコニーをよく掃除してくれている。
けど、座敷童だと思ってたのが、俺の守護霊で疫病神だって知ったら、どういう対応をするんだろうと何回か気にしたこともあった。まぁ、仲良しなら御払いに行く必要はないとか言いそうなタイプなのだけど、まだ家のどこかに座敷童がいて我が家が幸せでいられていると思っている母さんに本当のことなんて俺からは言えなかった。
「なぁ、パキネは疫病神だけど、神だろ?」
「うん」
「座敷童って神?」
「ううん。妖怪」
「その、妖怪と神の違いってどう違うの?」
「うんとねぇ、妖怪は前世がないんよ。あと物が古くなったり壊れたりすると生まれるんだよね。その点、神とか天使は前世があるんよ。元は人間ってこと」
「でも付喪神は神だけど妖怪なんだよな?」
「あー、付喪神は車の免許と二輪の免許両方持ってるみたいな感じ」
わかりやすい例えのような、そうでもないような……。
「死んだらわかるから」
パキネは笑顔でそういうと、俺が並べてやった座布団の上で眠った。
可愛い寝顔だ。安らかで健やかで、神々しいとさえ思う。疫病神だからあながち神々しいも間違いじゃないけど、いつも触れるのが恐れ多くなるほど眠った姿は美しく、禁忌のような気持ちになって、一緒に寝くなってから触れたことは記憶にない。
俺の小指が一本入りそうなくらい小さく口を開けて眠るパキネの唇はいつも艶があって血色もよくて、触れることが許されるのなら、この唇でキスして触れてみたかった。
レナちゃんにもしキスしようなんて今後言われたら、どうしよう。
パキネの目の前でそんなこと出来るか?
また新たな悩みを思いついてしまって、部屋の電気を消しても、デート前日の今夜は、上手く眠れなかった。
初デートだし、絶対遅刻したくなくて、スマホのアラームを五分置きにセットした。
「そんなに厳重にしなくても、意地悪せんよ?」
スマホを見ていた俺のオデコに、正面からパキネはオデコを強く打ち付けてきて不機嫌そうにしていた。
「でも、お前中学の修学旅行の日、勝手に目覚まし止めたよな?」
「あーまー……そんなこともあったね」
「バス出発する寸前だったし、クラスメイトからは笑われるし、滅茶苦茶恥ずかしかったんだからな?」
「でも間に合ったじゃん!」
「母さんが起こしてくれたからな!」
「そんなに私が目覚ましの邪魔すると思うならお母さんに起こしてって頼んでおけば?」
頼みたい気もするけど、そもそも母さんは昔から低血圧で目覚めが悪く、俺より早く起きられるとは殆どない。いつしか俺は、母さんを起こさないように学校に行くようになったくらいだ。それに母さんは楽天家でちょっとデリカシーがないタイプ。初デートに行くなんて言ったらからかわれるのは目に見えている。
「俺の母さんは座敷童ってきいて一緒に家にパキネを連れて帰るような母さんだぞ?」
「だから?」
「能天気なんだよ」
「ひどーい!」
パキネは俺の母さんのことが大好きだ。俺がまだ小学生に上がる前は、よくパキネについて質問してきた。好きな食べ物、この家でお気に入りの場所、どんな見た目で、どんなことを俺と話すのか、いつも興味津々だった。
今はもう、そんな話はしなくなったけど、パキネがこの家で一番好きな俺の部屋のバルコニーをよく掃除してくれている。
けど、座敷童だと思ってたのが、俺の守護霊で疫病神だって知ったら、どういう対応をするんだろうと何回か気にしたこともあった。まぁ、仲良しなら御払いに行く必要はないとか言いそうなタイプなのだけど、まだ家のどこかに座敷童がいて我が家が幸せでいられていると思っている母さんに本当のことなんて俺からは言えなかった。
「なぁ、パキネは疫病神だけど、神だろ?」
「うん」
「座敷童って神?」
「ううん。妖怪」
「その、妖怪と神の違いってどう違うの?」
「うんとねぇ、妖怪は前世がないんよ。あと物が古くなったり壊れたりすると生まれるんだよね。その点、神とか天使は前世があるんよ。元は人間ってこと」
「でも付喪神は神だけど妖怪なんだよな?」
「あー、付喪神は車の免許と二輪の免許両方持ってるみたいな感じ」
わかりやすい例えのような、そうでもないような……。
「死んだらわかるから」
パキネは笑顔でそういうと、俺が並べてやった座布団の上で眠った。
可愛い寝顔だ。安らかで健やかで、神々しいとさえ思う。疫病神だからあながち神々しいも間違いじゃないけど、いつも触れるのが恐れ多くなるほど眠った姿は美しく、禁忌のような気持ちになって、一緒に寝くなってから触れたことは記憶にない。
俺の小指が一本入りそうなくらい小さく口を開けて眠るパキネの唇はいつも艶があって血色もよくて、触れることが許されるのなら、この唇でキスして触れてみたかった。
レナちゃんにもしキスしようなんて今後言われたら、どうしよう。
パキネの目の前でそんなこと出来るか?
また新たな悩みを思いついてしまって、部屋の電気を消しても、デート前日の今夜は、上手く眠れなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

祓い屋と妖狐(ただし子狐)
朏猫(ミカヅキネコ)
キャラ文芸
僕はどうしてもあれがほしかった。だからお賽銭を貯めて人に化けて、できたばかりの百貨店にやって来た。そうしてお目当てのあれを探していたんだけれど、僕を妖狐だと見破った男に捕まってしまい――。僕を捕まえた人間は祓い屋をしていた。僕はいなり寿司を食べさせてくれる代わりに、双子の狛犬や烏と一緒に使い魔をしている。そうして今日も僕は祓い屋の懐に潜り込んでいなり寿司を買いに……もとい、妖を祓いに行くんだ。


苦労人お嬢様、神様のお使いになる。
いんげん
キャラ文芸
日本屈指の資産家の孫、櫻。
家がお金持ちなのには、理由があった。
代々、神様のお使いをしていたのだ。
幼馴染の家に住み着いた、貧乏神を祓ったり。
死の呪いにかかった青年を助けたり……。
妹に邪魔される人生は終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
公爵家の長女として生まれた私、エリナ・モドゥルスは、二卵性双生児の妹、エイナとは仲良くやってきたつもりだった。
無愛想な私と天使の様に可愛いと言われるエイナ。
周りからは悪魔と天使の様だと言われていたけれど、大して気にもとめていなかった。
私の婚約者である第一王子、クズーズ殿下との結婚を控えたある日、王家主催の夜会の休憩所で、エイナと殿下が愛を語らい、エイナが私にいじめられていると嘘を話しているのを聞いてしまう。
父に報告しようとパーティ会場に戻ろうとしたところ、エイナの専属メイドにより、私は階段から落とされる。
意識を失う寸前に視界に入ったのは、妹のエイナが、ほくそ笑む姿だった。
運良く助かった私は、記憶喪失のふりをして、身の安全を確保しつつエイナの本性を暴くと決めた。
婚約者は婚約者で、見舞いに来たくせに、エイナの話ばかり。
そんな婚約者なんていらない。
それなら妹がいらないと言っている冴えない第二王子殿下と婚約するわ!
※2024年1月下旬に書籍化が決まりました。
※現在はifバージョンを更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる