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 今は慣れたけど、真冬だろうとパキネは薄い布の灰色のワンピースみたいな短いスカート丈の着物を着ていて、昔は寒くないのか?って心配してたけど、守護霊は気温に鈍感らしく、寒くないのだという。
 逆にルキもこの暑さで、上下厚手の白の学ランを着ているし、暑苦しい恰好でも別に暑くて耐えられないみたいな思考は持っていのだろう。
 クラスの誰かに気が付かれるかもしれないと思ったけど、俺はパキネの寄り掛かる窓ガラスをカーテンで覆い、二十センチくらい窓を開けた。
 灼熱の風が、少しだけ僕とレナちゃんの髪の毛をなびかせた。
「ありがとう」
「こんなに暑い日なのに室内で凍えるなんて変だから、気にしない方がいいよ」
「うん」
 レナちゃんと俺が恋人同士になってから、パキネは今まで隙あればしていた悪戯のような不幸を僕にしなくなった。その代わりに増えたことがある。
 放課後。いつものように二人で並んで家路を歩いている間、昔のことをよく話すようになった。俺が覚えていることも、俺が忘れてしまったことも、ご機嫌で語るのだ。
ただ、話が終わると名残惜しそうにしているのに、ニカッと笑って「早く邪神倒そう」と取ってつけたみたいに言うのだ。
俺は「そうだな」というけど、世の中に漂っている見た目は可愛い悪霊を退治して、修行を積むしかなかった。
悪霊も人に憑りつけば、人を殺してしまうほどの存在なのだと、電車に飛び込もうとした男性を救った時、死にたいって気持ちを思い知るほど危険なものなのだと無視できなくなった。
初めは悪霊を退治するのに『嫌だったことを思い出す』という感情のコントロールをしていたけど、最近は『これから起こったら嫌だな』ってことを思うだけでも悪霊を退治できるとわかって、俺は『パキネが見えなくなったら嫌だ』とか『パキネと話せなくなったら嫌だ』とかそう思うだけでも悪霊を退治できるようになった。
けど、パキネは俺がまだ『昔あった嫌なこと』だけで悪霊を退治していると思っている。本当は違うって言ってやりたい気持ちもあったけど、レナちゃんの恋人になった俺に、パキネが遠慮して過ごしてくれているのがわかるから、パキネの努力を簡単に無駄にしてもいいのか迷いが出て、言えなかった。
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