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 横で「ダメだって!頼む!関わらない方がいい!レナのためなんだ!」とルキが大声で言っていたけど、レナちゃんは唇の前に人差し指を立てて「しー!」と言った。
 いつもは美人だなとか、綺麗だなって思ってたけど、初めて可愛いなって思った。
 だけど、すぐに恋人になったことを後悔した。
 パキネと今までどんな顔して、どんな会話をしていたか上手く再現できなくなってしまった。
 学校から家に帰るまで一言もしゃべらなかったし、パキネが吐息を吹いて小さな不幸が起きることもなかった。
 家の玄関前になってやっと俺から話しかけた。
「パキネは俺のこと恋人にしたいって思ったことある?」
「そんな大きな夢見たことないんよ。守護霊やもん」
 パキネにとって俺の恋人になるのは大きな夢と一緒だったんだって知って、俺がレナちゃんを恋人にしても、彼女のことちゃんと好きになることはないんだろうなって、不誠実だけど、なんとなくホッとしている自分がいた。
「一生恋も出来ない人生、ブンには送ってほしくないんよ。いつかこんな日が来るって覚悟してたから、せめてあたしが見えてるときは仲良くしてほしいんよ」
「うん」
 その日から、パキネは風呂場の浴室に入ってこなくなった。ベッドに入ってこなくなった時と一緒で、パキネが自分で俺と距離を作るのが、本当は寂しいなんて、言いたい。けど、言えない。なんだろうな。多分。高校一年生だから、もう素直になれなかったんだ。そう言い訳して、大切な自分の気持ちを隠してしまった。もしかしたらパキネは気が付いてくれているかもしれないなんて、都合のいいこと考えてた。

☆☆☆

 今年は、春が長かった。いや、夏が来るのが遅かったのかもしれない。けど、今日、体育の授業中確信した。
 今日から夏だ。教室に戻って着替えた後、クラーの風が贅沢に感じた。まるでご褒美だった。けど、隣の席のレナちゃんは違った。
 入学した時と変わらず、長袖のワイシャツに体にフィットセーターを着て、寒いのか両手をクロスさせ、二の腕を摩っていた。
「寒いの?」
「そうね。窓もドアも締め切った教室に、一八度設定のエアコンは筋肉量の少ない私には、少し寒く感じるけど、衣替えの日からブレザーは着ちゃいけない校則だし、辛いところがあるわね」
 こういう時、カレシって何をしてあげたらいいんだろう。
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