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 歯医者で親知らずを抜くか抜かないか訊かれているような感覚だった。歯なんていつでも抜けるけど、今抜いちゃった方がいいとか、今じゃなくていいとか、どっちがいいのかという答えを先延ばしに普段ならするけど、今は即決を求められている。そんな気分だ。
「痛いかどうかは別にして、必要なんだよね?その、悪霊が見えるようになる目って」
「そうよ」
「うむ!」
「ぅおぅぇぇええ!ゴホ。かッ!うぇええ!」
 パキネの頼りない姿を見て、俺は決意するしかなった。
「じゃあ、お願いします」
「元に戻せないけどいいかしら?」
「仕方がないよ。邪神にパキネを吸収されるのも嫌だし、俺もさすがにこんなに早く死にたくないし」
 悪霊が見える体になっても別にいいと思った。けど、その方が便利だなとかは一切思わなかった。だって隣には悪霊より強い疫病神が常に傍にいてくれるんだから、本来パキネが悪霊御祓い続けてくれてここまで成長してきたんだし、邪神と戦う以外で俺が悪霊を見ることが出来るようになったからって、俺が悪霊を祓う必要はないんだ。
「では、早速だが、ブン殿は横になってくれたまえ」
 言われたとおりに横になると、天井には和風の金のシャンデリアがあった。
「レナ、ブン殿のスネあたりにまたがって欲しい」
「その方がいいかもしれないわね」
 すると、レナちゃんは躊躇することなく、俺の両脚にまたがって、ちょっと体重をかけて、俺の両手首をしっかりとレナちゃんは細い手で押さえつけてきた。動くのがなんだか申し訳ない体制になったせいで、暴れるわけにはいけないなと思った。そんなレナちゃんの姿を見れないように、俺の鳩尾に容赦なくルキがまたがった。
「ブン殿、覚悟はいいですかのう?」
「あの、何秒ぐらいで終わる?」
「秒?難しいな……熱々のおでんのはんぺんが常温になるくらいだろうか……」
「だいたい五分よ。でも体感三十分ね。マジで痛いのよ」
 あまり無様な姿は見せたくないけど、耐えるしかない。
「おえぇええ!ご。ごぇええ!ぺっ!ぺっ!」
 パキネも頑張ってる……んだよな?
「じゃあ、よろしく」
「任せるがいい」
 普段だったら触れることのできるルキの指が透けて、両目に人差し指が多分第二関節まで入ってきた。目つぶし状態なのに痛くないじゃないか。そう油断した瞬間だった。
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