おれの守護霊疫病神。隣の席は巫女だし邪神と戦う準備できた

３３

「つまり俺は肩がぶつかった相手に、舌打ちするイキリ野郎になればいいってこと？」
「まぁ、イキってるヤンキーになったつもりで舌打ちして悪霊が倒せるって思ったら簡単じゃない？」
「簡単っていうか安っぽい戦い方だなぁ」
「レナに教わっておいて失礼だぞ！」
　広い境内にルキのバカでかい声が響いた。
「うぅヴえぇぇぇ！」
　木枠の窓からパキネが呻いた。
「ってかなんでパキネは具合悪くしてんの？」
「船酔いしてるみたいに気持ちぃいいいいぃええ！悪いぃぃい！」
　赤い瞳から涙を零しそうな表情のパキネを見たのは初めてだった。今まで寺や神社には正月に初詣に行ったりしてきた。けど、そういうパワースポットみたいなところに行くと、決まってパキネのテンションが低いくらいにしか思ってなかった。でも、境内に入るとこんなに気分を悪くするのか。
「ふん！パキネ殿は神と言えど疫病神。神聖な境内では気分がすぐれなくても、いたしがたないのだろう」
「しかたないんよ！厄祓いしたりする場所に、疫病神がいたら具合も悪くなるんよ！」
　でも、食べ物をパキネは食べるわけじゃないから吐くものもなくて、さっきから本当に辛そうで、さすがに心配になる。
「あのさぁ、御祓いの練習場所、わざわざココじゃなくてもいいんじゃないの？」
「ダメよ。今、私はブンくんに御祓いの術を伝授してるんだもの。ピアノの練習するならピアノのあるところ、美味しいコーヒーを入れるなら素敵なキッチン、喧嘩の練習なら河川敷とか、練習場所には適材適所ってものがあるんだから、御祓いの仕方を練習したいなら、お寺の境内じゃないとね」
　赤い袴のレナちゃんは、凄く凛としているのに、なんとなく華やかで、結局、美って感じで、長い髪は一つにまとめられてポニーテールになっている。普段見えない首の裏の骨や、顎まわりも見えて、はっきりとしたその輪郭が更に顔の小ささを強調しているみたいだった。
　俺は、こういう誰もが好きになりそうな女の子を目の前にしても、すぐに好きになったり、恋心は芽生えたことはない。
「おうぇヴええぇい！」
　汚い呻き声のビジュアルのいい守護霊の存在の方が大切なのだ。
「あとはやっぱり目を変えないと駄目ね」