妖星学園

金星クラブ

銀太郎の家

　
　結局その日はもう学校どころではないので、家に引き返すことにします。家には、両親が仕事にも行かないでパジャマを着てダラダラしていました。わざとこの日を休日にしていたのです。銀太郎の父、章太郎は、リリィの身体をジロジロ見てから、普通の少女であることに驚きます。

　もちろん、服装はおかしなものでありましたが、少し派手目な変わった服装をしているという範囲内でした。若者が町でたまに変なファッションをするがそういうものです。ちなみに、銀太郎はファッションというものには一切無頓着でした。

「おお、あなたが金星のプリンセスですか。よろしく」

　というと章太郎は握手してもらいます。

「いや。そんな大層なものではないのですが、どうやらお話によると、私の父と母は生きていたみたいですね」
「そうだよ。でも、あなたの脱出ポッドがどこに不時着したのかわからないので、1700年後に文明が成熟するまで、あなたは冬眠していたことになるね」
「コールドスリープですよね。また、どうしてそんな風にしたんだろう」
「いや、それは多分、あなたがまたロケットを作って金星に帰ってもらうためなんじゃないのかなあ」
「でも、多分、あそこにはもう人はいないと思います。みんな、色んなところに逃げていってしまったんです」
「それはまたどうしてだね」
「暑いからじゃないですかね。というか、金星は昼と夜の温度が変わりすぎて、そもそもが酸素もないし、人が住めないんですよ。まあ、私たちはいつも地下室、というか広い地下ドームに住んでいたので平気でしたが、こういう風に素で人が住める世界があるなら、そっちにゆくでしょうしね」
「ところで、私は神話というものを「異星人の移民史」と捉えているんだが、まさにご両親が神話をお作りにられておる。我々の祖先は、ご両親に仕えていたんだよ」
「ちなみに、お父さんと母さんは、子供を作ったんですか？」
「いや。彼らの子孫はないみたいなんだ。私たちに必要最低限な生活の知恵を授けて亡くなったのだろう」
「それはそうでしょうねえ。でも、1700年も前のことなんて……自分の中では、つい昨日くらいのことなのに。にしても、私、これからどうしたら良いんだろう」
「この家で暮らしたまえ。人一人養うくらいの余裕はあるから」
「ありがとうございます。私は、この世界で宇宙船を建造して、他の金星人でも探そうかな」
「でも、別に金星人に拘ることないんじゃない。見た目、人間のままだし」

   と銀太郎はつぶやきました。

「そうね。この文明の発達した地球で、幸せに暮らす。でも良いんでしょうね。多分、父さん母さんも、そういう風になるように、冬眠装置をセットしたんだと思う」
「実は、1000年くらい前に、私たちの先祖があなたのカプセルを見つけて、何かあったらすぐに手助けできるように、私たちはそれ以来ずっとここに住んでいるんですよ」
「じゃあ、とりあえず、みんな、素麺でも食べましょう」

  と母の英理子が昼食をテーブルに並べていました。