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私小説 4
ラブイズオーバー
しおりを挟むスナック吉四六のママは今、私たちの目の前で「ラブイズオーバー」を歌っている。日本の夜の街では、それこそ、星の数ほどラブイズオーバーが歌われていることだろう。私は、しかし、この夜のラブイズオーバーがとっても心に残っている。それこそ、かけがえのない歌である。
何が私にそう感じさせるのか、それはよくわからないが、あの歌は恋の死というものではなく、死そのものを歌っているのではないか、と思えてくるのだ。もちろん、歌詞では人は死なないのであるが、曲の感じがそうである。どこか、葬送行進曲が裏で鳴っているような、あるいは、星が落ちてゆく感じがするゆったりとした、それでいてやるせない演奏である。
そこに、酒焼けしたママの不摂生な声が乗っかるのだ。そして、ママのパーマかけた揚げ物みたいな頭や、どぎつい化粧が、まるで、地平線の向こうに落ちてゆく流星のように深く感じられるのである。
「いやあ、良い歌だよなあ」
と会田はしんみりした顔で言う。
「この歌と、吉幾三の「ドリーム」だけは、一生俺の頭の中で鳴り続けているだろうな」
「あっ、あの、『住み慣れた我が家に~』って歌だろう。わかる」
「そうそう。あれ、何なんだろうな。俺、あれから、吉幾三の他の歌も聞いたけど、他の歌も残るよな」
「そうそう」
「おっと、二番が始まった。その話は後にしよう」
ママの瞳に涙が浮かんでいる。私は、それを見て何か恋を感じているのだなと思った。そういえば、この前、七十歳くらいのおばあちゃんが私の腿をさすりながら、「あたしは、七十だけどね。エッチはできるよ」ということを教えてくれたことがあったっけ。歌が終わって、私と会田は拍手した。そして、私は叫んだ。
「俺の愛はフォーエバーだから!ママ」
そう、このやりとり。恐らく、千も越えるだろう、どこのスナックでもやられているこのやりとりこそ、スナックの醍醐味なのだ。
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