上 下
79 / 106
私小説 4

ラブイズオーバー

しおりを挟む

 スナック吉四六のママは今、私たちの目の前で「ラブイズオーバー」を歌っている。日本の夜の街では、それこそ、星の数ほどラブイズオーバーが歌われていることだろう。私は、しかし、この夜のラブイズオーバーがとっても心に残っている。それこそ、かけがえのない歌である。

 何が私にそう感じさせるのか、それはよくわからないが、あの歌は恋の死というものではなく、死そのものを歌っているのではないか、と思えてくるのだ。もちろん、歌詞では人は死なないのであるが、曲の感じがそうである。どこか、葬送行進曲が裏で鳴っているような、あるいは、星が落ちてゆく感じがするゆったりとした、それでいてやるせない演奏である。

 そこに、酒焼けしたママの不摂生な声が乗っかるのだ。そして、ママのパーマかけた揚げ物みたいな頭や、どぎつい化粧が、まるで、地平線の向こうに落ちてゆく流星のように深く感じられるのである。

「いやあ、良い歌だよなあ」

 と会田はしんみりした顔で言う。

「この歌と、吉幾三の「ドリーム」だけは、一生俺の頭の中で鳴り続けているだろうな」
「あっ、あの、『住み慣れた我が家に~』って歌だろう。わかる」
「そうそう。あれ、何なんだろうな。俺、あれから、吉幾三の他の歌も聞いたけど、他の歌も残るよな」
「そうそう」
「おっと、二番が始まった。その話は後にしよう」

  ママの瞳に涙が浮かんでいる。私は、それを見て何か恋を感じているのだなと思った。そういえば、この前、七十歳くらいのおばあちゃんが私の腿をさすりながら、「あたしは、七十だけどね。エッチはできるよ」ということを教えてくれたことがあったっけ。歌が終わって、私と会田は拍手した。そして、私は叫んだ。

「俺の愛はフォーエバーだから!ママ」

  そう、このやりとり。恐らく、千も越えるだろう、どこのスナックでもやられているこのやりとりこそ、スナックの醍醐味なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

基本中の基本

黒はんぺん
SF
ここは未来のテーマパーク。ギリシャ神話 を模した世界で、冒険やチャンバラを楽し めます。観光客でもある勇者は暴風雨のな か、アンドロメダ姫を救出に向かいます。 もちろんこの暴風雨も機械じかけのトリッ クなんだけど、だからといって楽じゃない ですよ。………………というお話を語るよう要請さ れ、あたしは召喚されました。あたしは違 うお話の作中人物なんですが、なんであた しが指名されたんですかね。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...