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私小説

私と散歩

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 私と散歩というのはとても深い結びつきがあって、ひょっとすると、私は散歩するために生まれてきたのではないかと思ってしまうことがある。少なくとも、この小説は、私が散歩することを主題として書かれているのだ。

 そういう出鱈目な小説があっても良いではないか、とも思えてくるのであるから、このまま続けるしかないが、この小説は、私は詰んでいる、という内容でありながら、実は散歩小説であるということは、忘れてはならない。

 とにかく、私は強引にどんな状況でも、散歩をし続けるだろう。話がどんなに哲学的、衒学的、深淵、複雑、超越的になろうと、散歩ということを取り逃さなければ、この小説は理解できるものである。だから、安心して欲しい。

 そもそも理解とは何であろうか。私は小説を書いているが、読者に理解させようとしては決して書いてはいけない。凡百のエンターテイメント小説は、読者に理解を強要されているらしいが、ああいうものも、「わかりやすい」という幻想の外皮を纏っているだけであり、この世の中に何一つ、理解できるものなどありはしないのである。

 実は、多くの小説はそれらしく書かれているだけであり、多くの読者は理解しているフリをしているだけである。言葉というのはもっと広い繋がり、というか、媒介をなしている。我々はどんな小説をも幻想で括ろうとする。事実は、幻想から抜け落ちている。だから、私は三文小説でもなんでも基本的に他人の小説を読むのは苦手である。

  というのも、「そうは出来上がっていないこと」をいかにも「そうであるかのように」書いてあるからである。実は、小説というものは基本的に全て脈絡がなく恣意的である。我々は、知性という幻想、文学という幻想に振り回されて、勝手に階層社会を創りなしている。下手をすると、小説はその階層を補強する。それは、小説を読んでいるのではなく、階層社会的幻想を読んでいるのである。

 
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