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私小説
成瀬雅春氏の動画を見て……
しおりを挟む「話は関係ないかもしれないが、いや、でも、これはとても重要なことだな。その話に関連してだけど、俺は最近、物凄い動画を見つけたんだ」
私は、何故かわからないが、その時、そのことをとても話したくなっていたのである。
「ほう。そうか。まだ、俺の話は終わってはいないが、ちょっと聞いてみよう」
「それは、成瀬雅春氏の動画で、彼は超有名なヨーガのマスターなんだよ」
「ふむふむ」
「彼の人生論が面白くて、驚くべきことに、彼は死ぬのを楽しみにしている。と言い出したんだ」
「それは凄い考え方だね」
「うん。内田樹(たつる)氏との対談でね。その時、樹氏は
『自分は武道家なので、良いものと悪いものの差がわかり自動的に避けている。悪いことについて考えると、悪いものを寄せてきてしまう。武道というのは、悪いものを回避する技なので、できるだけ、悪いことを考えない』
という引き寄せの法則みたいなことを言っていた。それに対して雅春氏は、
『私は、悪いことが来るのが嬉しいけどね』
という、内田氏の話を台無しにするようなことを語り出したんだ。
彼の説によると、悪いことが起こると後に来るのは良いことしかない。たとえば、息を止める。すると、苦しくなる。長く止めれば止めるほど、苦しみが大きければ大きいほど、呼吸を再開した時の解放感も凄いのだ。だから、悪いことというのはあったらあったほど、幸せを実感できるんだよ。ということらしい」
「なるほど、悪いことを楽しむ。そして、究極には死をも楽しむ。凄いな」
「そして、同時に、『引き寄せの法則』の欠陥も見事についているんだ。これ、ほとんど誰も指摘しないけど、良いこと、というのは悪いことがあるからこそ、良く感じるものであって、たとえば、良いことが連発したら、良いことというのは感じられなくなってしまうんだよ」
「はっ、たしかに」
「だろう?もし、引き寄せの法則があったとして、良いことばかり来たら、どうなると思う?その人は、幸運の連発に舞い上がって、人生に対しての感謝とか、謙虚さとかを失ってしまうんだよ。人生というものは、悪いことがあってこその人生だろう」
「それ、誰も指摘しなかったことだな」
「うん。逆に言えば、引き寄せの法則なんてないことを、ほとんど証明してしまってもいるんだ」
「どうして?」
「良いことというのは、悪いことがあってこそ感じるもの、だとしたら、そんなにいくつも良いことばかり引き寄せることはできないんだよ。もし、引き寄せの法則があるとしたら、良いことと悪いことがセットで引き寄せられないといけないんだよ」
「そんなこと、不可能じゃないか。良いことと悪いことを同時に考えるなんて」
「無理だよ。だから、引き寄せの法則なんて、存在しないんだよ!」
「あぐわっ」
会田鉄夫はダメージを受けたようであったが、しかし、冷静に考えると自分は、引き寄せの法則の信者でもなかったので平気だった。
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