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別府忠夫
しおりを挟むバルコニーの上から夕闇に包まれた街並みを眺めていると、時がたつのを忘れてしまう。かわたれどき、マジックアワー、色んな呼び方があるが、何にせよ、それまで単調だった時間の流れが、何やら奥ゆかしいものに感じられるものである。
冷たい夜風が入り込んできて、薄着だった別府忠夫は、
「びゃくしょん」
とくしゃみをした。不意の風の訪れに完全に油断していた忠夫だったが、すぐに上着を着て、修正をはかる。季節は、冬に入り始めの頃合いだった。
くしゃみが何回も出て、鼻水が出たので、テーブルの上にあるスコッティというティッシュで拭くと丸めて、部屋の片隅にあるゴミ箱に投げたのであるが、外れてしまった。
「チェッ」
というと、忠夫はティッシュを拾おうとする。すると、
「ピンポーン」
とドアホンが鳴る。
忠夫はティッシュをゴミ箱の中にちゃんと入れると、玄関に行く。この時間に来るとしたら、恋人の夏子かもしれない。
すると、バルコニーの方から再び強い風が吹いて、窓際に置いてある観葉植物のガジュマルの木が倒れてきた。忠夫は慌てて立てかけると、またドアホンが鳴る。
「ちょっと待っててくださいね」
というと忠夫は、窓を閉めることに成功するが、急いだあまりに、足がゴミ箱にぶつかってしまい、ゴミ箱の中身が床の上に散乱した。
「くそっ」
と吐き捨てるように言うと、忠夫は、カジュマルを立てかけて、ゴミクズをゴミ箱に戻そうとするが、そうすると、今度は立てかけられていたと思っていたカジュマルがまた倒れ掛かってきた。
「いやああ」
忠夫はそれを支えるとまたドアホンが鳴った。
「ドアは鍵かかってないから。
入ってきて。
今、それどこじゃないから」
というと、また鼻がムズムズして
「びやくしょん」
とくしゃみをすると、盛大に鼻水が出てきたのであった。忠夫は、木を支えたまま、何とか手を伸ばして、テーブルの上にあるティッシュをとろうとすると、足を延ばしすぎたために、床を滑って、忠夫は鼻から下をビシャビシャになったまま、木の下敷きになってしまった。
「ぎゃあああ」
と叫ぶとまた
「ピンポーン」
とドアホンが鳴った。
忠夫は寝転びながら
「うぎやあああ」
と絶叫した。ドアが開いて、夏子がやってくると、
「助けてくれえ」
と忠夫は叫んだ。
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