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牛酪 落花生

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神の言葉を使えば僕は僕じゃなくなる
父の命日に「愛している」母はそう言って消えた、何処に行ったかは僕は分からない
きっと、この先も分からない。
はずだった。
目の前に映る景色を一言で表すと「絶望」
何故なら、人が人を喰っているのだから
それほど、恐ろしい物はないだろう
薄く暗く、四畳半ほどの大きさをしている部屋の隅で其れをただ見ている。
一直線上に人を喰らう彼の顔が見えるからだ
蹲るまま、母の過去の声が脳裏によぎる
「愛している」愛している、何度も何度も脳裏によぎる。嫌だとは思わないが忌んでいる
ふと人喰者が此方を見た。
僕が不意に「愛している」とぽつり呟いたからだ、正直もう死んでも良いとさえ思う
どうでもよく思えてきたんだ。
喰われている人は僕の母だ。
母を喰っているのは死んだ筈の父だ。
馬鹿馬鹿しいよ、阿保阿保しいよ自分から真実を知ろうと動いて絶望してるのだから
母が僕の元から離れたのは僕を守る為だった
最後に放った言葉「愛してる」が全てを物語っている。
僕はその事を酷く悲しく重く受け止めた。
そんな悲劇が既にこの世にあっただろうか?
父は人を喰らう神に嫌われた種族「人喰者」
なら、僕も神に嫌われているのに違い無い
このまま、この四畳半の部屋から逃げ出し外の世界に逃げ込んだとして
この今、目の当たりしている怪物を見る目が自分以外の誰かが自分の姿を怪物に変換させるのではないのか?
喰うも喰われるも僕の品性に合わない。
だから母は自分に嘘を付き僕を一人にさせた
絶遠関係が今、解消されているのなら
僕はこの息子思いの親バカに今、言おう
「愛してる」
僕の品性にあった声の大きさで言ってやった
父は肉塊をちぎり口に入れた
その近くに母の生首が転がってる。
僕の近くにやってきた
「オマエモクウカ?レイトウシテタカラ
スコシツメタイガ、ウマイゾ」
父にとってこの四畳半は食卓であり台所だ
息子である僕を四つある椅子の内の左端にある椅子に座らせ、父はその僕と向かい合わせになるように食卓を囲むんでいるのだ。
「父さん!目を覚まして!父さんが食べてんのは!母さんなんだぞ!!」
父は頭を掻きながら
「ンン、シッテル」
もう、ダメだ救えないのか?父さんは
「コレハ、キョウイクダ、イノチハトウトイカラナ」
矛盾してる、いや矛盾が日常になっているんだ、僕らが動物の肉を喰らうのと一緒で
「人喰者」はコレが日常でコレが当たり前なんだ。
尊い命なのに何故、人は動物の命を犠牲しながらも生活しているのか
其れは、尊い命と言う綺麗で美しい良い訳が
あるから成り立ってる。
人間と動物が逆転した時も知性がある人間は
そんな事を言えるのかどうか。
自然な事なんではないか?
いや、そうではないのだ。
どちらにしろ、人間はズルいんだ。
「父さん!ごめん!」
僕は走った、哲学を考える為に僕は生きてるんじゃない、生きる為に生きている
考えたくない事を考えるのは、もう嫌だ
忌むべき事だ。
父さんが呼び止める声を振り払い
食卓から僕は遠く離れた
絶縁だ、絶遠だ。
僕は生きたいから生きる。
人間に喰われる動物もそんな事を思ってるだろう。
たが、尊い犠牲があっての今の人生だ。
可哀想などとは思ってはダメだ。
感謝をしなければならない。
救えない命の上に僕らは立っている。
コレから、何人もの人間を喰おうとコレは生きる為に必要な尊い犠牲だ。
今、神の言葉を放とう。
「コレはしょうがない事だ」



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