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ジェダイト編

9、語らぬ背中

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「もう一週間…っすね……」

 翌日、蒼月楼にて。主要な顔ぶれがそろった酒楼で、青竹が低くつぶやいた。それに呼応するように梅林と飛路も目を伏せ、もう何日も続く陰鬱な空気がさらに重くなる。
 その重さを振り切るように、飛路がぐっと顔を上げた。

「頭領。もういい加減――」

「……松雲。あいつが抜けた任務の穴、どうなってる?」

「え? ああ……もともと雪華は自分で予定組んでたからな。ほとんど影響はない」

 飛路の声をさえぎって、航悠が松雲に話しかける。その返答を聞き、航悠は無表情でのそりと立ち上がった。

「そうか。それじゃそのまま頼むぜ。俺は山の方までちょっと行って――」

「! ちょ…っ、待てよ! 待って下さい、頭領!」

 思わずとっさに強い語調で呼び止めてしまった。言い直した飛路に航悠が視線を向ける。

「なんだよ」

「頼むって……なんで。それだけですか? 頭領は、雪華さん探しに行かないんですか!? おかしいでしょう、一週間も! 何かに巻き込まれたとしか思えない。もっとちゃんと、探さないと――」

「松雲に人をやって調べさせてる。前から入ってた依頼もあるからな、これ以上の人数をくことはできん。そもそも俺と雪華で始めた仕事だ。どっちがいようといなかろうと、もう片方は任務を続ける。最初にそう決めてある」

「そんな……! 依頼とかそんなの、後回しでいいでしょう!? あんた、雪華さんが心配じゃないのかよ…!」

 淡々と、まるで焦りなどないかのように冷静に告げられてカッと感情が爆発した。食ってかかりかねない飛路の肩を青竹が後ろから掴む。

「飛路! 落ち付けって。頭冷やせ。お前が熱くなってどうすんだ」

「放せよ、青竹……! じゃあ、だったら、人が回せないならせめて貼り紙でもすればいいじゃないですか!」

「『李雪華という女を探して下さい』って、似顔絵描いて貼るのか? ……冗談だろ。そんなことしたら、あいつ恥ずかしくて涙目になるぞ」

「それでも、見つからないよりはマシでしょう!?」

「駄目だ。この件は内々に片付ける」

「……っ。…………」

 なけなしの提案も鼻で笑われて却下された。冷酷とすら思える態度に飛路は歯を噛み、そして低く口を開く。
 言いたくない――でも、聞かなければいけない。

「頭領……あんた、雪華さんのこと、大ごとにできないわけでもあるんですか…?」

「……どういう意味だ?」

「あの人のこと、隠したがってるみたいに見える。そうしなきゃいけない理由でもあるんですか?」

「なんだそりゃ。……馬鹿、あんなんでも一応美人だからな。惚れられたりしたら、後々困るんだよ」

「な――。こんな時に冗談…っ」

 飛路の問いかけに航悠は片眉を上げ、ついでふっと小さく噴き出した。その態度に再度飛路が声を荒げかけると、航悠はすっと笑みをかき消して低く告げる。

「冗談じゃなくて。雪華の面が割れる、暁の鷹うちの存在が大っぴらになる、ついでに望まない訪問者が増える。……いいことなんざ一つもねぇだろうが」

「……っ」

「そういうわけだ。とりあえず、お前らは大人しく待ってろ。すぐ戻ってくる」


 有無を言わせぬ迫力に圧されて、何も言い返せないうちに航悠はさっさと扉を開けて外に出ていってしまった。閉じられたそれを眺め、飛路は拳を震わせる。

「大人しく待ってなんて……いられるかよ…! ねぇ松雲さん、オレもあの人のこと探す役目に混ぜて――」

「山の方って……あいつ、何しに行ったと思う?」
 
「は? ……あ、頭領…? さあ……」

 気色ばんで振り返ると、そこにあった松雲の神妙な面持ちに飛路は毒気を抜かれた。松雲は扉を見つめたまま、苦笑いでつぶやく。

「雪華が最後に目撃された、って報告がさっき来た。……馬鹿だな。真っ先に確かめたいなら、そう言えばいいのによ」

「…!」

「変なところばっかり見栄を張るんだよ、あいつは。……分かってやってくれ。見た目ほど、あいつも落ち着いてるわけじゃない」

「……っ」


 声を荒げることも、焦りを顔に出すこともない。それは積み重ねてきた経験と、何より部下たちを不用意に混乱させないため。
 そして、誰に告げることもなく自らの足で手がかりを探しにいくのは、他の誰よりも航悠自身が情報を欲しているから――。

 唇を噛んでうつむいた飛路の肩を、松雲が静かに叩いた。

「さ、じゃあ飛路にも手伝ってもらうかな。……奥に来い。まずは茶でも飲んで落ち着こう」

「…………はい……」


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