異世界シンママ ~未婚のギャル母に堅物眼鏡は翻弄される~【完結】

多摩ゆら

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27.恋バナ

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 有那がウーマーイーツを始めて半月ほどが過ぎた。
 おかげさまで客足は順調で、リピーターや固定客も増えてきた。有那一人で配達できる数には限界があるため、一日の配達数を制限してやりくりしている状態だ。近隣の地図は覚えたので、もう少し効率化できれば注文数も増やせそうだが。

 そんな多忙な日が続く中でも、有那は週に2日は休みを取っていた。ミネルヴァの店の定休日に合わせるのと、海渡と過ごす時間を作るためだ。
 ある日の休日、有那は海渡とそしてもう一人と街に繰り出していた。


「いやほんとレーゲンのお店セレクトマジ最高! これとか超好み~」

「でしょう? あんた好きそうだなって思ったのよ。私みたいなデカいのが一人で入るのは気が引けてね……実は前から入りたかったからちょうど良かったわ」

 今日の同行者はなんとレーゲンだった。服装やインテリアの趣味が合う彼とたまたま休日が重なったので、一緒に買い物へ来たのだ。
 手持ちの服が足りなくなってきたので、レーゲンが古着屋を案内してくれた。そこは有那好みの鮮やかな服が集まる、夢のような店だった。値段も手頃で有那はいくつもの服を手に取る。

「ヤバい、物欲に負けそう。予算決めとかないと」

「これとか似合うんじゃない? ほら、このビーズ刺繍が可愛い」

「うわーマジだー。レーゲン趣味よー。レーゲンも選べばいいじゃん」

「私が入る服がここにあるわけないでしょ。好きなのと似合うのは違うの。見てるだけで楽しいからいいのよ」

 着せ替え人形のようにポイポイと服を渡され、有那はそれを体に当てては悩んだ。
 ……楽しい。はたから見れば大男とのデートのように見えるかもしれないが、気分は女友達とのショッピングだ。

(妊娠してからこーいう機会なかったからなー! てかカレシより先にレーゲンとデートしちゃったし)

 まあユンカースを誘ったところで彼は女の服になど興味ないだろうから、絶対レーゲンと一緒の方が楽しい。ウキウキと服選びに興じる二人の後ろで海渡が静かに服を眺める。

「ごめんカイト、つまんないよね。あとでカイトの服も見に行くから」

「かーちゃん。……これ、かわいい」

 海渡が「ん」と水色の上着を差し出す。空の色のようなそれは羽模様の刺繍が袖に入っていて、なるほどたしかに可愛い。

「いいね! カイト、さすがかーちゃんの好み分かってんじゃん! じゃあ一枚はこれにしよっと」

 我が子が可愛いと言ってくれたものなら何としても着たい。有那が一枚目を決めると、レーゲンがまた別の服を持ってくる。

「これも似合うんじゃない? 丈も短いし、あんたのゆるゆるな着こなしにぴったり」

「あー可愛いー。……けどえっと……」

「……?」

『ちょっと短すぎ、かなー……。あたしは好きだけど、カレシが嫌がるかも……』

「!」

 海渡の耳を塞いで小声で告げると、レーゲンが目を見開いた。長いまつ毛をバサバサ言わせたあと、ニッとその目が弧を描く。

『あら~、あら~。あんた、さっそく恋人ができたの! どんな男?』

『う……。ま、真面目な人……』

『あらー!!』

 海渡の耳を塞いだまま小声で告げると、レーゲンはなぜかガッツポーズを決めた。
 レーゲンがユンカースの想いを知っていることを有那は知らない。ほんのりと赤くなった有那は上目遣いでレーゲンを見上げる。

「だから、あんまり露出が多い服は減らしていこうかなって……。ヘソはあと何年か出していたいんだけど!」

「そこ大事なんだ。……そう、じゃあほどよく肌見せな感じのを選んで――」



 その後も子供服の店を回り、三人は休憩がてら茶屋に寄った。ちなみにここも、レーゲンがリサーチしていた可愛いスイーツを出す店である。
 念願のスイーツを頼んでご機嫌なレーゲンは、海渡がトイレに立った隙に目敏く話しかけてくる。

「ちょっと、いつから付き合ってるのよ」

「え、最近……。ぐいぐい来るじゃん」

「そりゃそうよ! 恋バナなんて誰でも好きでしょ!」

「あ、恋バナは通じるんだ。ウケる」

 完全に女子トークのノリで迫ってきたレーゲンに苦笑すると、有那はもじもじとティーカップを手のひらで包んだ。

「でもカレシとか久しぶりすぎて……まだ本当に始まったばっかだよ」

「いいじゃない。そういうときがいっちばん楽しいんだから! で、どっちから付き合おうって言ったの?」

 ニコニコと問いかけるレーゲンに、有那はぴたっと固まった。顔を上げると、ゆっくりと首を傾げる。

「そういえば……どっちも言ってないな?」

「え? ……もしかして、いきなり結婚しましょうって流れ!? やだ早すぎる! そんなやり手だったの!?」

「いや、それはもっとない」

 手を振って否定した有那はそういえば……と回想する。お互い好きと言い合って、すっかり彼氏認定していたがどちらも「付き合おう」とかそのたぐいの言葉は口にしていなかった。

(そもそもこの世界で『気軽に付き合う』ってありなの? もしかして全部、結婚前提?)

 そうなると話がまたややこしくなってくる。自分たちだけではなく海渡や、もしかしたらユンカースの実家も関わってくるからだ。
 腕を組んで首を傾げた有那は、心配するレーゲンの視線に二ッと笑った。

「ま、いっか。難しいこと今はまだ考えられんし。なるようになるっしょ!」



 海渡と三人でスイーツを堪能すると、だんだん日が傾いてきた。そろそろ帰るかと席を立った有那はレーゲンに呼び止められる。

「ちょっと待って。もう一軒、服屋に行きましょ」

「え。でもあたし、もう予算が――」

「あたしがおごるから! あんたに贈りたい系統の服があるのよ」

 レーゲンが先導し、足が疲れたと訴える海渡をひょいとおんぶする。有那が慌てて追いかけると、マッチョな友人はバチンと美しいウインクをした。

「あたし、あんたたちのこと応援してるからね。いつでも頼ってちょうだい!」


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