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学園編

第七十七話

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「じゃ、帰ろっか!」

そう言って私を再び持ち上げながら殿下は歩き出した。

「ギル様離してください!私は!」

手足をバタバタと動かし逃走を図るが殿下の力が思ったより強くなかなか抜け出せない。本当にどこからこんな力が出るのだろうか。

「んー、離したら天使様逃げちゃうでしょ?鎖で繋いでいたとしても万が一もあるし」

殿下の腕から抜け出して鎖を引きちぎって…なんて私は絶対できない。ここはタイミングを待って抜け出すしかない…。




「さてと、やっと戻ってこれた。だいぶ遠くまで逃げてたね」

先程の部屋に戻ってきて、殿下は私の足に繋がっている鎖の先端をベッドの横にある何かに繋げた。
これはこれはご丁寧に…鎖を繋げられるように部屋が構成されているとは…

絶対に逃げられないじゃないか。

「僕、これから用事があるからちょっと行ってくるね。多分このままだと暇だろうからテオ置いておくね!あと、寂しくないようにぬいぐるみも…。あ、そうだ…はいこれ!」

テオくんはどうやら部屋に残っていたらしく、殿下が呼ぶとすぐに飛んできた。
ぬいぐるみは元々ベッドの上に沢山置かれ、最後に殿下の瞳の色をした笛を渡された。

「何かあったらこの笛を吹いてね、すぐ飛んでくるから」


「本当はずっとここにいたいのに…」

そう言って、殿下は名残惜しそうにこの部屋を出て行った。

この笛を吹きまくったら城中が混乱して、私1人どうにか逃げられるみたいなことは起きないだろうか…。やめよう、侍従や侍女の方々に恐らく迷惑がかかる。

それに、この鎖をどうやって外せばいいのだろうか…。
私は繋げられている足首に目を向ける。鎖はとても頑丈で全力で引っ張ってもビクとも動かず。

はぁ…と大きなため息をついていると、バサバサと羽が舞う音がした。

「天使様…大丈夫…?」

「テオくん…ッッッッテオくんッ!!!」

ガバッと私は目の前にいる癒しに飛びついた。

「ああ、もうなんで私こんな目に…、私はヒロインでも平凡なのよ?!なんで?!超絶美少女のピンクちゃんでしょ、こういうのは?!私は平凡に生きたいのにッ!」

今までの愚痴も込めて…、いつも王子やお兄様をお茶に誘っていたピンクちゃんが恋しく思い始めたのはもう末期というものではないだろうか…。

「何もできないけど、テオそばにいるからね、テオに出来ることなんでもする」

はぁ、なんていい子なのかしら…。

「じゃあテオくん、私このままギュってしててもいいかしら…?」

「うん!いいよ!ギュってして!」

このままテオくんを抱きしめているだけでいいのならこのままでもいいかもしれない。
そんな風に思ってしまった私だった。





________キリトリ_________
宵丸です。

お待たせ致しました!第七十七話です。
こちらで今年の書き納めかなと思います…。皆様、お身体には気をつけて良いお年をお迎えください。来年もよろしくお願い致します。
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