3 / 12
わたしの主人
きょうのお話
しおりを挟む
というのもわたしは年がら年中主人の部屋の中にばかりにいて、表の世界を知らないんです。だから雄猫も知らないし、彼らのわたしへの評価もわかるわけがありません。でもわたしは無理して表など行きたくないし、雄猫を知ろうとも思いません。わたしはここに満足してますの。やさしい主人がわたしのすべてです。建設現場とかいう仕事場で働いている主人はいつも疲れて帰って来ます。身体がきついというのもあるだろうけど、監督さんに叱られるとか同僚にいじめられるとかで、それがつらいんだそうです。でもわたしが尻尾を立てて迎えるといっぺんでそれも癒されるとか。その主人の様子を見るのがこちらはわたしの生甲斐です。どんなことをすれば主人に喜んでもらえるか、どんな仕草をすればいいのか、わたしはもう心得ています。たとえばひっくり返ってお腹を見せてやって、そのお腹をくすぐろうとする主人の手をひっかいたり噛む振りをしますと主人はとっても喜ぶんです。でもそんなことはたぶん他の猫でもするでしょうけど、わたしにしかできないこともあるんです。それは窓から見た今日一日のできごとを主人に語って聞かせること。杖をついたお婆さんがヨタヨタと前を通ったこと、男の子がわたしをからかおうとして窓を叩いたこと、しょげた風の女の子が窓越しにわたしを見ていたこと、などなどを一所懸命に話してあげるんです。でも主人がそれをわかるかどうかは知りません。わたしが口でゴニョゴニョ云う仕草を、ただおもしろがっているだけかも知れない。「おまえは人間の言葉を話す馬のエドみたいだな」と云っては笑い転げますの。「もうわかった」と云って離れようとするのをわたしが癇癪を起こして爪を立てて引き止めようとすると、尚おもしろがるみたい。だってわたしは真剣に話していて、今日一日のことを、出会いを、主人にわかってもらいたいんですもの。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
妊娠したのね・・・子供を身篭った私だけど複雑な気持ちに包まれる理由は愛する夫に女の影が見えるから
白崎アイド
大衆娯楽
急に吐き気に包まれた私。
まさかと思い、薬局で妊娠検査薬を買ってきて、自宅のトイレで検査したところ、妊娠していることがわかった。
でも、どこか心から喜べない私・・・ああ、どうしましょう。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
人生詩集・番外編
多谷昇太
ライト文芸
人生詩集シリーズの番外編です。正悪、世の規範や常識等にとらわれず、もっぱら身の五官と感情によって書いてみた詩群です。こちらもまた一面における間違いのない私の姿と云えましょう。むしろこういった詩風の方が読者には好まれるのかも知れませんが、さても、今や年令を重ねましてあまり無鉄砲なこともできません。とにかく、今後もし詩興などをもよおした際には、とりあえずこの人生詩集・番外編に入れ置こうかと存じますので、覗き見がてら読んでみてください。よろしくどうぞ。
好青年で社内1のイケメン夫と子供を作って幸せな私だったが・・・浮気をしていると電話がかかってきて
白崎アイド
大衆娯楽
社内で1番のイケメン夫の心をつかみ、晴れて結婚した私。
そんな夫が浮気しているとの電話がかかってきた。
浮気相手の女性の名前を聞いた私は、失意のどん底に落とされる。
夫の裏切りの果てに
鍋
恋愛
セイディは、ルーベス王国の第1王女として生まれ、政略結婚で隣国エレット王国に嫁いで来た。
夫となった王太子レオポルドは背が高く涼やかな碧眼をもつ美丈夫。文武両道で人当たりの良い性格から、彼は国民にとても人気が高かった。
王宮の奥で大切に育てられ男性に免疫の無かったセイディは、レオポルドに一目惚れ。二人は仲睦まじい夫婦となった。
結婚してすぐにセイディは女の子を授かり、今は二人目を妊娠中。
お腹の中の赤ちゃんと会えるのを楽しみに待つ日々。
美しい夫は、惜しみない甘い言葉で毎日愛情を伝えてくれる。臣下や国民からも慕われるレオポルドは理想的な夫。
けれど、レオポルドには秘密の愛妾がいるらしくて……?
※ハッピーエンドではありません。どちらかというとバッドエンド??
※浮気男にざまぁ!ってタイプのお話ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる