バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第八章 天国と地獄のサスペンス(1)

日比谷公園での思索

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邵廼瑩は軽くうなずいてから「いいですよ、キャップ。本当に人違いをしたようだから」と云って俺の放免を許諾してくれる。「ちっ、気をつけろよ、お前。警察に通報してやってもいいんだぞ」本当はナンパしてたんじゃないのか?となおも疑い、相田は凄むが後悔と委縮をよそおった俺の無言を確認すると「よし、もういいよ。行けよ」とこちらも俺を放免してくれた。面目なかったがこれもミキとの約束を果たすためと自分を慰め俺は地下鉄内幸町の駅へとトボトボと歩いて行った。心中では『キャップか…なるほどな、彼女は確かに新聞記者のようだ。しかしだったら高級ホステスのようなあの格好はいったい何なのだろう?』などと、また『それにしてもいい女ぶりだったなあ。あれを抱いたんだなあ…なんて改めて思うよ』とも思いをめぐらす。内幸町の信号まで来てから俺は通りを渡ってしまう。駅とは反対だったがいつものように生理的欲求(すなわち喫煙)を覚えたからだ。信号を渡るとそこは日比谷公園でその角には交番がある。『警察を呼ぶってか。ちぇっ、目の前が交番だったんだな。くわばらくわばら』立哨する警官の目と視線を合わせないようにして俺は日比谷公園の奥へと入って行った。人のまばらな一角を見つけてベンチに腰をおろしわかばに火を点ける。考えてみれば午前中に家を出てから1本もタバコを吸っていない。深々と煙を吸って吐いた。今日は金曜日でいい天気である。この日和で広々とした公園内にいれば何を毎日あせくせと…などと思ってしまう。まったく昨日一日の体験と昨晩の夢で俺の人生への捉え方が180度ひっくり返ってしまったような気がする。あの天上界のイブや地獄の洞窟内で会った人々、獣人、そして何より自分が死んだことさえ自覚できずに、暗い霊界で悶々とし、そこからの束の間の解放を餌に死後もなお利用され翻弄され続けるミキこと、✕✕✕✕✕✕✕さんの霊…良きにつけ悪しきにつけ(光の世界につけ闇の世界につけ)彼らに嘘はなかった。地が出ていた。それに比べて何と云うかおのれの立場や見栄、世間体を常に慮って、恰も鶴見のイブのごとくにオブラートに包まれて、盲のように生きているわれわれ…ではないだろうか?
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