バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第八章 天国と地獄のサスペンス(1)

え?サマンサ・クリニック?!

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しかし数秒間俺を凝視するうちに『この得体の知れないナンパ男め。気安く私に声をかけるんじゃないよ』だった初めの表情がどこか探るようなそれに変わってくる。俺の顔に何某か見覚えを感じたのだろう。ここぞとばかり俺は言葉をつなぐ「ああ、失礼。人違いをしたようです。あんまり知人に似ていたもんだから。ははは。サマンサ・クリニックで知り合ったミキと勘違いして…」「え?サマンサ・クリニック?!」邵廼瑩がいささかでも声を高めた。「ど、どうしてそんなことを…あなたは、あなたはいったい誰ですか?!」と逆に質問をしてくる邵廼瑩のその声にはバー・アンバーで聞いた中国訛りがまったくない。実に綺麗な日本語のイントネーションである。もっともミキの感情が安定した時には(ミキに云わせれば俺の心と同通した時には…だったが)やはり綺麗な日本語を話していたから蓋し邵廼瑩も…なのだが、しかしそれならば未だ同通していない時のミキのあの訛りはいったい何だったのだろう?いささかでも気になるが今はそんなことを慮っている時ではない。語気を強めた邵廼瑩の口調に気づいた連れの相田なる男がこちらに戻って来るし、異変に気づいた運転手も表へと出て来た。俺はイチかバチか俺の名刺を取り出して邵廼瑩に渡そうとする。「これを。しまって!」小声で鋭く云うのに一瞬躊躇したあと『いいわ。受け取ってやるわよ。その代わりあとで…(詰問なりするからね)』とでも云いたげに邵廼瑩が名刺をバックにしまってくれる。安堵してあとはどうとでもなれと覚悟する俺に「おい、何をやっている?お前、誰だ?」「警察に通報しましょうか?」相田と運転手がそれぞれ云う。俺は「いや、こちらの人を知り合いと間違えて…どうも失礼しました。人違いでした」と云いわけするが「なにぃ?人違いだあ?…」と凄みながら相田は邵廼瑩に『こいつ、行かせていいのか?何もされなかったか?』と目で聞くようだ。

【再び邵廼瑩のあで姿を。確かにアンバーのママの云った「上玉中の上玉」は本当だ。これに美人局などをやられたら恐らく誰も抗えないだろう。写真はpinterestより拝借】
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