バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第五章 田村VSマッドサイエンティスト

着替え室にて

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ハッタリとは思えなかった。映画のヒーローでも何でもない俺のこと、少なからず気圧され萎縮したが、予想される脅迫と暴行をも素早く覚悟の内に呑み込んで「ああ、そう。若い者ね」と言い残しそのままミキと着替え室へと入って行った。唇を噛んだママが表へと飛び出すのが後ろ目に見えたが最早後の祭りだ。なるようになるだろうさ。
「田村さん、手帳を出して」着替え室に入って内側から鍵を掛けたミキがいきなり俺に要求する。「手帳…?よし来た」ミキの意図は未だ知れなかったが俺は素早く手帳とペンを出すと筆記の体制を取った。ミキはハンガーに掛けたコートの内ポケットからカードケースを取り出すと素早くめくって身分証明書と保険証を俺に提示して見せた。合点した俺はそこに記載されている名前・住所、および会社名とその住所電話番号を一気に手帳に書きつける。今しも若い者が怒鳴り込んで来ないか気が焦るが間違いのないように正確に書き写し、さらに今一度確認し終えた。ドアの外から荒々しく迫りくるだろう足音はまだしない。それを危惧しながらも俺はミキに意図を確認する。
「ミキ、これは、この身分証の人は、君への身体の提供者だね?」
「当然、そうよ。わたし此処に来る前に路上でこの身分証を、無意識の内にポケットから探って確認してたの。(自分の身体を指差しながら)たぶんこの身体を持つ女性がとても気にしてるものなんじゃないかしら?」
「そうか…。しかしミキ、これはいったいどういうことなの?この、えーっと、ショ、ショウ…ダイエイ(邵廼瑩)?って読むのかな?この人物を俺に探れっていうことかい?」
「ええ、そう。だってこれしかわたしには方法がないのよ。あなたのお陰で今は自分を取り戻しているけど、(自分を指差して)いつまたこのミキに、あいつに与えられたパーソナリティに戻ってしまうかわからない。だから…」と早口で云って一旦ミキはドアの外に聞き耳を立てた。いや、というかアイツの気配…いや、意向を感じ取っているのだろう。
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